魔法のお城で幸せを 作:劇団員A
花言葉は「スポーツ」「ゲーム」「遊び」「悲しみを超えた愛」
FOC大会の予選のために集めた紙は想定よりも大幅に多かった。部室に紙を整理していてフローラがてんてこまいになっている。
「うわぁぁん、めちゃめちゃ多いよぉ〜」
「……泣き言言わない。私も手伝っている。トーナメント作成まで終わらせたセドリックを見習いなさい」
部室のソファに横になり、毛布にくるまるフローラとそんな彼女を呆れたように見ているフレデリカ。
「……元々言い出しっぺなのはフローラ。頑張って」
「私はただ暗い学校の雰囲気を明るくしようと思っただけで、ここまで忙しくなるなんて聞いてないよぉ」
うう、とフローラは嘘泣きをした。実際彼女の提案は良い案だと僕も思った。最近盛り上がることと言えばクィディッチぐらいだし、元々楽しかったロックハート先生の授業はアイクがいなくなってから彼の自慢話が延々と続くだけのものになって、みんなの好きな授業から嫌いな授業へとあっさり転落してしまったし。そもそも他の学年ではあんまり好かれていないようだった。
「まぁまぁお茶でも飲んで頑張りなさいよ」
「ナタリアァ〜」
「はいはい、よしよし」
そっとお茶を運んできたナタリアにフローラはがばりと起き上がって抱きしめた。ナタリアはフローラの頭を優しく撫でている。
「すっかり調子戻ったね、ナタリア」
「ええ、なんとかね。心配かけて悪かったわ、セドリック」
「何が原因だったの?」
「さぁ?それがよくわからないのよ。一応保健室にも行ってマダム・ポンフリーにも相談したんだけど原因がわからなくて、なのに最近になって急に楽になったの。不思議よね」
原因がわからないと言うと少し不気味だが完治してもう元通りの調子に戻ったナタリアの様子に少しホッとした。部室の雰囲気もアイクとステフがいないせいで暗いままだったが、最近は安定してきており、いつものようにはしゃいでいる人たちもいる。
「マーカス、勉強教えて」
「いいですよ、リアム。科目は何ですか?」
「変身術。俺あれがすごい苦手でさ」
「「やぁ、ターニャ」」
「これ中にお菓子入ってるんだ」
「良かったらいるかい?」
「本当?ありがとう。フレッド、ジョージ」
「きゃああ?!ちょっと箱が爆発したわよ?!フレッド、ジョージまた貴方たちね」
「シアンが怒ったぞ!」
「逃げるぞ兄弟!」
勉強を教えあっていたり、フレッドとジョージが悪戯仕掛けてそれから追いかけ回されたり、みんなでゆっくりお茶飲んだりお菓子を食べたり至って普段どおりである。みんながそうしようと務めているというのもあるかも知れないが。
そんな部室の様子を見て僕は1つの違和感を覚える。スリザリンの男子生徒を捕まえて質問してみた。
「ねぇ、デューク、エリス知らない?」
「なに?」
そう僕が尋ねるとあたりを見渡すスリザリンの男子生徒。僕も同じように周りを見るがどこにもエリスの姿はない。
「ふむ。確かにおかしいな、エリスがいないのは」
「うん。だいたいいつも来てるでしょ」
「ああ。だけど最近は来ていない気がする、特にここ何日かは」
「え、そうなの」
「忙しかったから気づかなかったのだろう、セドリックは。ここ数日来ていないぞ、エリスは」
そうなのか、列車の中で絶対に参加すると言っていたエリスは予選のエントリー用紙すら出していない。その上最近エリスは部室にも来ていないのか。具合でも悪いんだろうか。
「たまに個人行動をとりたいと言っていた、エリスは。おそらく今はただの気まぐれだろう」
うーん、そうなのかな。いまいち納得がいかなかったが、キャパオーバーしたフローラが頭から煙を出しているのを幻視して僕は彼女の手助けにいった。
* * * * *
三月下旬に入って、ようやく劇団で集計と会場準備が終わった。というのも集計自体はそこまで時間もかからず、なおかつトーナメント作成までも一悶着はあったもののスムーズに終わった。ではなにに時間がかかったのかというと会場準備である。当初、舞台で使っている特設用ステージを設置して行う予定だったが、そこでまず躓いた。特設用ステージや照明など舞台装置関連は倉庫にまとめてあるのだが、その鍵を開けるには部長と副部長二人の三人の中から二人の許可がおりないといけないのだ。だがしかしアイクとステフが石化しており、残る副部長はエリス一人のみ。この倉庫は悪戯に使われるのを防止するためステフが一人で作ったもののため強制解除が誰もできない。結果、僕たちは特設リングを一から作ることになったのだった。
それ以外にもルールの明文化、チョークや核の準備、不正防止の魔法をかけるなど様々な苦労を経てようやく予選の開始ができたのだった。
『レディースアンドジェントルメン!!お待たせしました。本日、今この時よりFOC大会、予選の開幕を宣言します!!まずは初日、グリフィンドールの代表者決定戦です!!!!張り切ってどうぞ!実況は私、ケビン・カウリー。そして解説は』
『……フレデリカ・ファーガス。ケビンのさっきまでのテンションの差に引いてる。さっきあんなに緊張してたのに』
『バッカ!そういうのバラすなよ!』
2人のやりとりに会場が笑いに包まれる。
『ごほん。えー、では気を取り直して、第一試合、我らが劇団の一人、リアム・リッジウェルVSコレット・ファランドール!!』
わぁぁっと歓声がおきて、男子生徒と女子生徒が入場してくる。二人の頭上にはチョークの粉できらびやかに名前が描かれた。二人がそれぞれ周りに手を振ったりしてから緑の球体、核を投げる。すると粉が集まっていき二人の人形が形成された。リアムの方は一般的な騎士。青い盾と赤い片手剣を持っている。コレットは青い鎧に身を包み、赤い鞭を装備している。
『それでは両者準備はよろしいですか?』
『……レディ、ファイッ!!』
二人が操る人型が激突して、会場は歓声をあげた。
* * * * *
戦い始めた二つの人型たちの様子が会場の前のスクリーンに拡大して投影されているらしく派手に写っていた。その熱い戦闘を僕たちは興奮しながら見ている。すると見知った顔が僕たちの方に近づいて来た。
「やぁ、ハリー、ハーマイオニー、ロン。君たちも見に来たのかい」
「セドリック」
「今日これを見にこない人の方が少ないよ」
「セドリックは運営じゃないの?」
去年以来何かと話したり、クィディッチの練習を一緒にしてくれたりしてくれるセドリックだ。いつもと違って珍しく一人である。
「うん、一応僕もトーナメントに参加するからね、ケビンとフレデリカは参加しないからずっと解説と実況だけどね」
「そういえばフレッドとジョージも参加しないって言ってた気がするけど運営側ってことか?」
「あはは、いや二人は今回は全く劇団に関係ないよ。ほら」
セドリックが指をさす方にフレッドとジョージがいた。二人は派手な格好をして看板を掲げている。どうやら賭けをやっているらしく、どちらが勝つのか、誰が代表者になるのか集めていた。
「あれいいの?」
「うーん、フレデリカが積極的に協力してくれた理由の一つが賭けによる利益だからね」
困ったようにセドリックは笑っていた。そんな中、僕は一人会場のどこにも見かけない人物には気づく。
「あれ、セドリック、エリスは?」
「あー。なんか最近見かけなくてさ、三人は知らない?」
そう言われても僕たちは首を横に振るだけである。一方で試合は決着がついたようで男子生徒の人型が女子生徒の人型の首を切り飛ばして勝利していた。
『おおっと?!とうとう決着がつきました!!リアム・リッジウェルの勝利です!!』
『……劇団員には初戦敗退は許されない』
『フレデリカ、怖いこと言うなよ……』
「やっぱり劇団員はみんなよりも強いのね」
「そうだね、普段から粉を操ってるから他よりも操作が上手いからね。まぁ、ともかく楽しんでね。じゃあまた」
そう言ってセドリックは笑って去っていった。会場はまだ初戦を終えたばかりで未だに熱気が渦巻いている。