魔法のお城で幸せを   作:劇団員A

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セドリックとハリー視点です。
花言葉は「悲しんでいるあなたを愛する」「正義」「誠実」


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時刻は少し前に遡る。

 

事件が起こってからケビン、フレデリカたち運営側は説明役として残されたが、僕は他の生徒と同様に寮に返されてしまった。寮の談話室は静まり返っている、僕は談話室ではなくて自室へと戻ってベッドによこになった。でも目は瞑れずにいた。もし目を閉じたらさっき見たみんなの石像が頭に浮かんできそうだった。

 

それからスプラウト先生がやってきて生徒みんなに寮から出ないことを伝えて、先生は事故現場へと向かっていった。僕の胸にはぐるぐると感情が巡っており、吐き気がこみ上げてくる感覚がずっと支配していた。

 

どれだけそうしていたかわからないが、しばらくすると実況をやっていたケビンが戻ってきた。彼も僕同様に顔色が悪い。

 

「なぁ、何が起こったんだろうな……。俺たちただみんなに楽しんでもらおうとしただけなのに……」

 

苦しそうに呟くケビンに何も言えずに僕はずっとうつむいていた。

2人でずっと無言になっていると『お喋りな巻物』が揺れ動いた。誰かが何かを書き込んだのだろう。目の前に見た惨劇や悲鳴についてだろうか。億劫になりながらも開いた。

 

《秘密の部屋発見!!今こそバジリスクを討伐せよ!》

《時は満ちた、ここに決戦の開幕を告げる!!》

 

 

「ケビン!!これ!!」

 

僕はすぐさまケビンに見せると彼も驚いたような顔する。僕たちが驚いていても文字はすぐさまどんどん書き込まれていく。

 

《マジかよ》

《団員の敵討ちじゃあ!!》

《バジリスクってどう倒すの》

《私に考えがある》

《爆発だー》

《取り敢えず1回集まろう》

《場所は?》

《秘密の部屋があるとこってどこー?》

《三階の女子トイレ》

《そこ集合?》

《いや、1回部室に集まろう》

《ラジャー》

《張り切っていこう》

《フレッドとジョージは急いで来て》

《了解》

《了解》

《あ、先生たちの監視はどうするの?》

《今はみんな大広間》

《オッケー、じゃあ今の内だね》

 

僕たち顔を見合わせてから、体に漲るやる気とともに駆け足で部室へと向かい走った。

 

 

* * * * *

 

 

僕とケビンが部室に着くと、部員たちは僕らを除いてみんな揃っていた。

 

「……遅い」

「ごめんって」

 

ポカリとフレデリカに殴られてるケビンを尻目に僕は部員みんなの中心に出る。……あらためてこう見るとこの劇団は随分と減ってしまった。団長のアイクと副団長のステフは石化しちゃったし、副団長のエリスは表向きは家の都合、本当は行方不明、その上今回各寮の代表者となったのはほとんどが劇団員だったこともあり石化。

 

「遅いぞセドリック」

「何やってたんだよ」

「ごめん、ごめん。ちょっと落ち込んでてさ。それで状況は?」

「作戦はもうフレデリカが大まかに作った。あとはそのための準備だけ」

「……いぇい」

 

黒板にはイラストと文字が描かれている。黒板に書かれたものに目を通していく。……なんというか、結構命がけである。だがそれは必要なリスクだろう。とくに一人が囮役となることなど。

 

「……セドリック」

「うん、わかってる。この囮役は僕がやるよ」

「……いいの?」

「大丈夫、自惚れじゃないけど僕は今残ってる団員の中で一番強いから」

 

心配そうに見つめるフレデリカに笑いかける。自分の立案であるくせに不安そうにしていた。そんな不安を紛らわすように別の話題を提供した。ローブの中から持ってくるように頼まれた魔法道具を手渡す。

 

「そうだ。これ、持ってきたけど役に立つの?」

「……保険のようなもの。制限などはある?」

「1日に使えるのは3回まで、今朝使ったからあと今日は二回かな」

「……なら大丈夫」

 

僕が持ってきた魔法道具を点検するように確認したあと、何か作業しているフレッドとジョージの方に声かける。

 

「……頼んでたものは」

「できてるぜ」

「でもいいのか、片方は試験品、もう片方は欠陥品だぞ」

「……劇団のものは今使えない。使えるものはなんでも欲しい」

「そうか」

「……可能稼働時間は?」

「こっちは15分。それ以降は自壊する」

「こっちは20分前後。一回使ったら再起動は無理だ」

「……充分」

 

3人が会話しているとレイブンクローの一個下の下級生、シェルビーとマーガスが部室に入ってきた。それぞれ2個ずつ、計4個大きな袋を持っている。

 

「寮の研究室から持ってきましたよ」

「こっちは厨房から。誰か魔法かけるのよろしくお願いします」

「僕がやるよ」

 

入ってきた二人に近づいて、持ってきた袋に倍加の魔法と色付けの魔法をかける。疲れたのか、座って休んでいる二人に労いの言葉をかけた。

 

「シェルビー、マーガスありがとうね、君たちのおかげ僕たちはこうして反撃に出られるよ」

「い、いえ、そんな」

「ハーマイオニーも手伝ってくれましたから。3人でなんとか」

「ありがとう。本当に感謝してるよ」

 

そう微笑みかけるとシェルビーは顔を赤くして、「お茶もらってきます!!」と言って去って行ってしまった。疲れたのだろうか。見送っていると呆れたような視線でマーガスが僕を見ていた。

 

「えっと、何かな?」

「……いえ別に。団長が言ってたことと被りますけど、そのうち本当にあんた一回刺されるぞ」

 

小声で何か言ったあと、魔法をかけ終わった袋をどこかに運んでいった。

 

それから準備を全て終えて、作戦を確認し、白いローブと白い帽子身につけたみんなに声をかける。

 

「今年は色々大変な年だったし、今も団員がすごく減ってしまった。そんな原因である怪物、バジリスクを僕らは倒しに行く。作戦は立てたけど命の危機があるかもしれない。それでもみんな覚悟はいいかい?」

「「「「おう」」」

 

僕がみんなを見渡すと一息もつかずに肯定の返事が返ってくる。そんなみんなが緊張している中で、僕は安心させるように精一杯笑みを浮かべた。

 

 

 

 

* * * * *

 

 

 

 

そして秘密の部屋、ハリーたちが先に着いていることや天井が崩落してることは完全に予想外だったけど、なんとか人が通れる隙間を見つけて僕だけが通ることができた。僕が通ったあとに隙間は崩れてしまったが、それでも問題はない。重要なのは誰かが秘密の部屋に行くことである。そのあと僕は持って来た魔法道具を確認して走り、なんとか秘密の部屋についた。話し声だけは部屋中に響いていたので把握している。

 

「セドリック!!」

「君は確か劇団の人間か。確かに優秀だったな。だがそれだけだ。下級生と杖をなくした女を庇いながら僕とバジリスクの相手を出来るかな!!」

「くっ」

 

トムの杖から魔法がハリーたちに向かって放たれて、それから守るように盾の呪文を使う。

 

「ハリー!ジニーを背負ってくれ!エリス、君は歩けるかい?」

「わかった」

「肩貸してくれるかしら」

 

ジニーをハリーが背負って、僕がエリスに肩を貸してトムから離れるように動く。飛んでくる呪文に反対呪文をぶつけたり、盾の呪文で防いだりして妨害をさせない。それと並行しながら出口へと向かうがそうはさせまいとトムが叫んだ。

 

「バジリスク、奴らを逃すな!!」

 

部屋の奥から何かが蠢き近づいてくるのを感じた。トムが僕には理解できない言葉で何かを言っている。パーセルマウスであるハリーにはわかるのか僕に警告をした。その間にも手を休めず呪文は飛んでくる。だがいくら闇の帝王といっても本調子ではないらしく、僕では充分対応できた。

 

「ハリー、ロリコン変態野郎はなんて言ってるのかしら」

「出口を塞ぐように遠回りしてバジリスクを襲わせるみたい!どうしよう?!」

 

そんな悲鳴をかき消すように歌うような鳴き声が聞こえてくる。燃えるような橙とも赤ともとれるような色の不死鳥が僕らの頭上を飛んでいき、僕の頭上に校長室で見たぼろぼろの組み分け帽子を落とす。

 

「一応連絡したんだ、ダンブルドアに」

「でも帽子を使ってどうしろって!?」

「さぁ、わかんないけどダンブルドアが贈ってきたってことは意味があるはずだよ」

 

そう言ってから僕は帽子をひょいとハリーに被せた。そしてエリスを壁に寄りかからせて杖を構える。そんな僕の様子を不安そうにハリーは見つめた。

 

「多分このままじゃ僕たち誰も逃げ切らない」

「なら私とジニーを置いていきなさい。まだその方が逃げれるわよ」

「まさか?!僕たちは助けに来たし、バジリスクを倒しに来たんだ!」

「ハリーの言う通り、諦めたわけじゃないよ。ハリーはバジリスクをよろしく。僕はトムを足止めしてくる」

「僕だけじゃ無理だよ、セドリック!?それに相手はヴォルデモートだよ!?」

「大丈夫、さっきの撃ち合いで問題ないことはわかった。それと、ここに来れたのは僕だけだけど、援軍は僕だけじゃないよ。君たちならきっとできるから」

 

帽子の上からハリーの頭を撫でて笑いかける。それからエリスにも話しかけた。

 

「エリス、ハリーのサポートお願い」

「杖が折られた魔女に出来ることなんてあるかしらね」

「あるよ、この道具たちを使えば」

 

僕はエリスに持って来た魔法道具、4枚の紙と目覚まし時計を手渡して、トムがいる方へと向かった。

 

 

 

* * * * *

 

 

 

去って行くセドリックを見ながら、僕の心境は不安であふれていた。そんな僕の感情を見抜いたかのようにエリスが声をかける。

 

「ハリー、自信を持ちなさい。あなたが願えば武器は手に入るわ。その帽子はゴドリック・グリフィンドールのもの。二年生で勇敢にもジニーを助けにここまで来たんでしょう。もっと自信を持ちなさい」

 

不安を消すような優しい声だった。ふぅと息を吐いて帽子に意識を集中する。するとごちんと頭に衝撃が走った。たまらず頭を押さえてうずくまる。帽子に手を入れて何かを掴むと装飾のされた剣が出て来た。校長室で見たことがある。

 

「ゴブリン製の剣ね、多分これならバジリスクの鱗も叩っ斬るわよ」

「でもバジリスクの目を見たら死ぬんじゃ……」

 

どこかでフォークスの鳴き声とバジリスクと思われる怪物が暴れたような振動で思わず体が揺れる。

 

「多分これで目は潰れたわよ」

「でも……」

「あなたが心配なのはわかるけど、多分バジリスクを倒すのは1人じゃないわよ、ほら」

 

視線で指示された方へと顔を向けると、秘密の部屋の扉の向こうから赤、青、緑、黄色のあざやかな色の洪水がこちらに流れ込んで来ていた。

 

「随分と大盤振る舞いね」

 

呆れたように、楽しそうにエリスは笑う。さらさらと砂のように、水のように、どこからか流れてきた四色の川はやがて姿を変える。

 

「私たちがサポートするから、あなたはバジリスクを叩っ斬りなさい」

 

そう不敵に宣言するエリス。秘密の部屋に幻のように美しく儚い四体の巨獣たちが顕現した。

 

 


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