魔法のお城で幸せを   作:劇団員A

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ハリーとセドリック視点です。
花言葉は「愛国心」「勝利」「困難に打ち克つ」


ナスタチウム

燃えるようなたてがみの真紅の獅子。

 

穢れのない翼を持った紺碧の大鷲。

 

宝石のように美しい新緑の大蛇。

 

陽だまりのような淡い黄色の穴熊。

 

それぞれが儚げに、だが圧倒的な存在感を持って現れた。そんな四体の前に驚いている僕を他所にエリスは力のない足取りでペタペタと一頭ずつに先ほど渡された紙を貼った。

 

「使い方はこれであってるはず。というか本当に大丈夫でしょうね」

 

パンパンと獣を叩くエリス。今貼っていた紙にはよくわからない魔法陣が描かれており、おそらく何らかの魔法道具なのだろう。貼った紙の中心を押すと、獣たちの全身に文字が回っていき、光って消えた。すると突如として目がキラリと光る。

 

『あーあーテスト、テスト』

『おっ、ちゃんと繋がってるな』

『さすが俺たち、試作品としては完璧だな』

『……いいから15分しかないのだからバジリスクを倒すよ』

 

獣たちが一斉に口を開くとそれぞれから聞き覚えのある声が聞こえた。獅子からフレッド、蛇からジョージ、穴熊からは実況の確かケビン、大鷲から解説のフレデリカというか生徒との声が聞こえた。といってノイズが混じっているような声ではあったが。

 

「この作戦立てたのはフレデリカかしら?」

『……エリス?』

『どうしてここにいるだ?』

『家の都合で帰ってたんじゃ』

「なるほど、外ではそうなってるのね。実際は違うわよ、継承者サマに監禁されてたの」

『ヒュー!スリザリンの高嶺の花は継承者サマまで魅了したのか』

『流石エリスだな!!』

『お前ら茶化してないでやるぞ。お前らの妹もそこにいるんだし』

『……来た』

 

鷲からの声で前を向くと目から血を流した大蛇、バジリスクがそこにいた。《殺してやる》なんて物騒なことを喚いている。

 

『……手筈通りに』

『『任せろ!!』』

 

緑の蛇と赤い獅子がバジリスクに向かって襲いかかった。それを尾でなぎ払うように体を動かすが蛇はすれすれを避けて、獅子は飛び越えて回避した。それからそれぞれ牙を剥き出して攻撃を始めた。

 

『……エリス、ハリー。ジニーを連れて3人とも私の背中に乗せて』

 

言われた通り二人でジニーを抱えるようにして大鷲の背中に乗る。乗り上がると柔らかい砂のようであったが、ある程度沈み込むと全く沈まなくなった。僕らが落ちないようになったのを確認すると大鷲は勢いよく飛び上がった。

 

「それでフレデリカさん、僕たちはこれからどうするの?」

『……フレデリカでいい。エリスに渡した目覚まし時計を5分後にセットして。それまでに私たちがバジリスクを止める』

「止めてからはどうするつもりよ?」

『……簡単。丸焼きにする』

「え!?」

『……いいから私たちの指示に従って。捕捉されないように飛ぶからしっかり掴まって』

 

僕が疑問を口開く前に鷲は一層加速して僕たちに圧力がかかった。

 

 

 

* * * * *

 

 

 

トムと呪文の応酬をしながら、自分たちとは少し離れたところで繰り広げられる怪獣大決戦を横目に見る。バジリスクが獅子を噛み付くが噛み付いた部分から霧に変わって移動して少し離れたところで再構築された。剥き出しになった核を壊そうと動くが、それを防ごうと穴熊がかばい、蛇が妨害する。本物の生物であるバジリスクと人が操っている獣たちでは反射神経や速度で大きく劣っていた。しかし、それを補うために四体でお互いにカバーしながら戦っている。

 

そんな風に横見をするほど余裕がある僕が気に入らないのか、トムは獅子に向かって魔法を放つが、それを横から落としていく。

 

「くっ、忌々しいものだな」

「闇の帝王にそんなこと言われるとは光栄だ、ねっ!!」

 

トムに向かって魔法を放ってみるが、本来彼がいるはずの場所を通過して魔法はすり抜けていった。やはり攻撃は効かない。ということはやはり本体はあちらの黒い日記なのか。

 

「コンフリンゴ!!」

「プロテゴ!!」

「アグメンティ!」

「インセンディオ!」

「ステューピファイ!!」

「インぺディメンタ!!」

 

放たれた呪文に丁寧に魔法をぶつけて、流れ弾が周りに向かないように注意しながら戦う。

 

「全く。素晴らしいね。君がここまで出来るとは想定外だよ。だが気づいているだろう、僕に攻撃しても意味がないと」

「そうだね、おそらく君の本体はあそこの日記なのだろう」

「ああ、そうだとも。だが君ではきっと壊せない」

 

鮮やかな光線がトムと僕の間を行き交っていく。徐々に僕の疲労はたまり、トムの力は上がっていく。なぜ?ジニーから遠ざけたはず。

 

「僕とジニーの間に物理的な距離は関係ないよ。魂で繋がっているのだから。さぁどうする?諦めて降参するかい?」

 

からかうような口調で出された提案をすぐに一蹴する。

 

「やだね。後輩と仲間が頑張ってるんだ。僕だけが諦めるわけにはいかないだろう?」

「ふん、その強がりはいつまで続くかな?」

 

一層勢いを増した呪文に対抗するため、強く杖を握りしめて挑んだ。

 

 

 

* * * * *

 

 

 

色鮮やかな霧が広がりそれが再び獣となる。その光景をこの数分間で何度見たのだろうか。今度は穴熊がうねりの加わった一撃を真正面から受け吹き飛んだ。

 

『うっわ、超こぇえ』

『情けないな、ケビン』

『なんとなく慣れてきたぞ』

『じゃあ、お前らだけできっちり押さえ込めよ』

『……喧嘩しない』

『『はーい』』

『ラジャ』

 

一度もこちらは優勢に立てず、どちらかといえば劣勢に立っている気がする。それでも軽口を叩く劇団メンバーに最初は驚いていたが、段々とそれが虚勢に近いものだとわかってきた。先ほどよりも緊迫感が増した声で大鷲が尋ねてくる。

 

『……エリス、時間まではあとどれくらい?』

「あと30秒ってとこ」

『……オーケー。ハリー、インパービアス(防火せよ)は使える?』

「ごめん、まだ習ってない……」

『……そう。ならそれでいい。エリス、5秒からカウントダウンして』

「了解」

 

勢いよく飛ぶ大鷲の背中で大声で僕とエリス、大鷲は会話する。風を切る音が大きく聞こえた。突如大鷲は停止してぐんと慣性が体にかかる。一瞬後に前をバジリスクが大口開けて過ぎ去った。

 

『……あと15秒しっかり抑えて』

『おっと我らがお姫様がお怒りだぞ』

『しっかりしたまえ、ケビン君』

『俺のせいかよ』

『……全員』

 

バジリスクの体を縛り付けるようにして緑の蛇が絡みつくが、お互いにもつれ合って暴れまわる。それを抑えようと上から獅子と穴熊が覆いかぶさる。

 

「5!!!」

 

エリスが大声でカウントダウンが始まったことを宣言をした途端、獅子と蛇が粉に戻った。ふわりと赤と緑の煙が辺りに広がっていく。だがそれは拡散することなく、球状にバジリスクの周りを回っている。

 

「4!!!」

 

急に拘束が解けたバジリスクは空回りしてぐるりとその場で一回転する。

 

「3!!!」

 

バジリスクはその場から離れようと動くが、穴熊も黄色の霧と変化して、それは赤と緑の球体の周りを格子状の檻のように囲って脱出を防いだ。

 

「2!!!」

 

格子状の檻を歪ませながら霧の中でもがくバジリスク。そんな中でセドリックめがけて大鷲は急接近する。こちらに放たれた魔法を回避しながら、セドリックを足で掴み、トムの攻撃範囲から離脱する。

 

「1!!!」

 

それから今度はバジリスクを捕らえた檻に向かって、飛行する。

 

「0!!!」

 

エリスが叫んだと同時に目覚まし時計、セドリックが持ってきた変声目覚ましが大声をあげる。

 

《コケコッコーーー!!!》

 

この緊迫した場面には似つかない間抜けな雄鶏の声が響き渡った。【バジリスクにとって致命的なのは、雄鶏が時をつくる声】そんな魔法生物の本の一節が思い浮かんだ。声を聞いたバジリスクは動きが完全に停止する。

 

『……セドリック!!!』

インパービアス(防火せよ)!!インセンディオ(燃えよ)!!!」

 

何かの膜に包まれたような感覚の後に炎がセドリックの杖から迸り、バジリスクの檻に向かう。檻も霧となり消えているように見えたが、そんなことや着火したことを確認する前に乗っていた大鷲が崩れ僕らを守るように囲う。

 

「え?」

「ちょ、これは流石に想……」

「こらえて!!」

 

飛べなくなった僕たちは重力に従って落下していく。青い壁の向こうから熱が伝わり、轟音が鳴り響いた。

 

 

* * * * *

 

 

凄まじい衝撃と轟音、それと熱が青い壁の向こうから伝わってくる。地面に落下したのか壁にぶつかったのかはわからないが、天地がわからなくなった状況にて衝撃が伝わって、床をゴロゴロと転がった。やがて僕らを覆っていた壁が崩れて明かりが見える。大鷲を形成した粉が口に入った。

 

「げほげほ」

「ゴホッ、うえっ」

「コホコホ、ちょっと粉塵爆発なんてやりすぎじゃないかしら。私てっきり普通に抑えつけて首を飛ばすかと思ったんだけど?」

 

僕らはよく見えない煙の中から立ち上がる。エリスが文句を言うように大鷲に貼ってた紙に怒鳴る。

 

「燃え尽きたからフレデリカに文句を言っても聞こえてないよ」

「ちょっと周り見てみなさいよ、大爆発よ、辺りが煤けてるわよ」

 

セドリック曰く、今回は獣たちを作ったのは大鷲を除いてチョークではないらしい。獅子は石炭、蛇は小麦粉、穴熊は金属粉によって出来たものらしく最初から爆発をさせることを目的にしていたらしい。大鷲には防火魔法を重ね掛けして僕らを守るためだったらしい。

 

辺りに立ち込める煙の中でセドリックがジニーを抱えながら疲れたように笑った。そんなセドリックを見て、つられたように僕もエリスも笑った。3人で疲労感からかこみ上げてくる笑いに身を委ねていると、煙の向こうに何かが揺らめいて動くのが見えた。セドリックやエリスに避難の指示を出すよりも早く、僕は両手でしっかりと剣を握って襲いかかったバジリスクの頭に刃を突き立てた。ぐにゃりと焼けた肉を断ち切る不愉快な感触が僕の手に伝わり、頭を途中まで切り裂かれバジリスクの動きは停止した。

 

「まさかこんなに黒焦げになってでも動くなんて……」

 

エリスとジニーに覆いかぶさるようにしていたセドリックが立ち上がり、バジリスクの様子にびっくりしたのかぽつりと感想を言った。セドリックの言う通り、バジリスクの体はズタボロになっており、鱗は剥がれ落ち、体は焼け爛れ、黒くなっていた。それでも襲いかかるとはなんて生命力だ。

 

「元々馬鹿みたいに長生きですものね」

「これでようやく終わった……よね?」

「いえ、まだね」

 

そういってエリスが指差す方には爆発に巻き込まれたはずなのに無傷で転がっている日記があった。

 

「闇の帝王が死んだふりとはね、滑稽だわ」

「ますます君に興味が湧いたよ、エリス。どうしてわかるんだい?」

 

笑い声と共にトムの体が再度虚空に浮かんだ。

 

「虚勢はいらないわよ。ハリー、日記を切りなさい。バジリスクの毒を吸収した剣ならあの日記を壊せるわ」

「っやめろ!!インペディメンタ!!」

「プロテゴ!!」

 

剣を構えた僕を妨害するかのようにトムは呪文を唱えるが、それをセドリックが防御した。振りかぶった剣を真っ直ぐ振り下ろし日記を叩き斬る。すると、セドリックがどれだけ攻撃しても、爆発に巻き込まれても無傷だった日記はあっさりと切れた。

 

「馬鹿な!!このヴォルデモートが!!闇の帝王が!!ただの学生どもに負けるなど!!……」

 

トムは喚きながらも体が崩れていき、やがて何もなくなった。

 

 

 

 


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