魔法のお城で幸せを 作:劇団員A
花言葉は「恋」「呪い」
目を覚ましたらなぜか朝だった。ぼんやりとした頭で霞みがかった思考回路を働かせる。確かフレッドとジョージに深夜限定ででる怪獣がいるとか言われて、寮出ようとしたら眠れなかったステフと会ってそっから……あれどうしたんだっけ?いまいち覚醒しない意識に光が沁みる。
「やぁ久しぶり、アイク」
「んぁ?セド?」
セドリックがここにいるということは、自室なのだろうか?いや、ここまで天井は高くないし、こんなに明るい日差しは部屋に入ってこない。ホグワーツ城にある保健室かな?というかよくよく考えると城に学校ってなかなかすごい気がする。どうでもいいことに思考がそれて、再度意識が遠くなっていく。
「いやいや、寝ないでよ」
「ねむたい……」
「全く、今まで散々寝てたのにリアクションがそれかい」
笑い混じりのセドリックの声に目をうっすらと開ける。その笑い声がいつもと少し違ったようなので不審に思いセドリックへと目を向ける。
「セド?なんで泣いてんの?」
「嬉し涙だよ、君たちが元に戻ってきてくれてよかったよ、本当に」
流れていく涙を指で拭ってやり、ようやく体をベッドから起こすと隣のベッドにはステフが寝ていた。反対側には見知らぬ生徒がいる。赤と金のネクタイだからグリフィンドールだろう。喜びながら笑い泣きするセドリックを相手に俺は困惑していた。
ベッドサイドを見ると俺とステフの間の机に大量の花が置いてあり、所狭しと果物やお菓子、それに心配したという手紙が大量に置いてあった。周りを見ていると誰かが花瓶の水を入れ替えていた。
「あらアイク。ようやく目を覚ましたの?」
「おはよう、エリス。ん?あれ?なんか雰囲気変わった?」
「ちょっと色々あってね。今度話すわ。セドリック、ステフが起きる前に顔を洗ってきなさい。びっくりするわよ」
「あ、うん。そうだね」
セドリックは立ち上がり、保健室を去っていった。
* * * * *
それから俺たち石になってしまった人たちは今回の事件について教えられた。バジリスクによる石化だったことや若きヴォルデモートが犯人であったことなどを教えてもらった。そんなことを教えてもらい、石化が解けて初めて迎えた日曜日俺は頭を抱えていた。
「なぜ休日である土日にも勉強しなくてはいけないのか」
「仕方ないですよ、私たち半年以上の石化してて勉強遅れてたのですから」
「今ちゃんとやらないと来年大変だよ」
ぼやく俺をたしなめるようにステフとセドリックが声をかける。俺たちはようやく1日の勉強が終わり談話室で喋っていた。俺やステフなどの石化していた生徒には今年の勉強の遅れを出さないように放課後と休日にみっちりと補習が組み込まれていた。
「せっかくテストがなくなってハッフルパフが優勝したというのになんたる仕打ち……」
「テストがなくなったのは正直僕たちも助かったよ」
「セドリックたちやハリーが頑張ったおかげですからね。本当に感謝ですよ」
劇団やハリーたちの活躍に褒美として、一連の事件が幕を閉じようやく安心できたとして、今年の学期末のテストはなくなった。そして生徒一人につき50点を各寮に与え、その結果ハッフルパフに所属している劇団生徒が多かったためハッフルパフが今年はこのまま行けば優勝。しかし、そうなったとしても俺やステフたちの勉強の遅れは無くならない。ここのことろほぼ毎日勉強しており、劇団に顔を出すこともできないでいた。しかも……
「なんで俺がいないうちにFOCの大会やっちゃったの?!めっちゃ面白そうなのに!!!俺めちゃめちゃ楽しみにしてたのに!!」
「……それに関しては私も同意ですね……やりたかったです……」
「まぁ雰囲気が暗かったからね、フローラの案だったけどなかなか良かったと思うよ。最後の石化さえなければ」
石化しているうちに開催された大会はかなり大好評で、なおかつかなり賭けなどで儲かったらしい。各寮毎のトーナメントは大盛り上がりをして、雰囲気払拭にかなり貢献したんだとか。だがしかし最後に起きた石化のせいでトラウマとなった生徒もいるかもしれないということで今後は先生の許可が下りるまでFOC自体が禁止されてしまったのだ。
「まぁまぁそんな落ち込まないでよ、アイク。そのうちできるようになるから」
「前向きに捉えた方がまだマシですよね。それに一応顧問はできましたので」
「んー、そうなんだけどさぁ……」
俺たちには特別顧問として記憶を失ったロックハート先生がつくことになった。というのも俺がノリでお願いして書いてもらった未完成の脚本が先生が記憶を失ってから見つかり、それがかなり面白かったということで劇団全員の署名とロックハート先生自身がその脚本の続きを書くことで記憶を取り戻す刺激になるかもしれないということで特別にホグワーツ雑用係兼劇団エリュシオンの顧問として学校に在籍することとなった。給料は学校から以外はステフが支払っている。両親に写真を見せたところかなり感動したらしく、多少は出費してくれるらしい。残念ながら闇の魔術に対する防衛術の教授ではなくなったが、今までとは違って穏やかな先生は見た目と相まってかなり人気らしい。(主に女子生徒から)
「あーやりたかったなぁー。優勝したチームに向かって五体人形作って強制団体戦とかしてラスボスみたいに振る舞いたかったのになぁー」
「アイクらしい発想ですね。多分そんなことしたら運営側は止めるか乗るかで割れそうですけど」
「多分みんな乗ると思うな、ほらなんだかんだみんな面白いこと好きだし」
ひそかに劇団の人にも相談して衣装等も作る予定だったというのに。残念である。そんな風に話していると微笑ましいというような目つきでセドリックが俺たちを見ていた。
「なんだよ、セド。そんな優しい目をして」
「わかりますよセド。アイクの発想がアホらしいですよね」
「また傷つくようなことを……」
「いや違うよ。また喋れて嬉しいのと、この感じが懐かしくて」
「またか。もういい加減慣れなよセド」
「どれだけ心配したと思ってるのさ」
こんな感じでふとした拍子にセドリックは俺たちがいることを噛みしめるように実感しているようだった。このリアクションをされ続けて流石に罪悪感が湧いてくる。悪いのは例のあの人だけどな!ちらりとステフを見るとどうやら俺と同じように罪悪感を覚えているようだった。
「んー、なら俺とステフで叶えれることならなんでも聞いてあげるよ。それでそんなこと言うのもお終いってことで。いいよね、ステフ」
「ええ、ですのでセドもこれ以上引きずるのはやめてくださいね」
「うん、わかった。何か考えておくよ」
3人でゆったりとした時間を談話室で過ごす。俺たちにとってはついこないだもにもしたことではあるが、セドリックにとっては半年ぶりの出来事であるという。なんだか浦島太郎のような気分だ。
「ねぇアイクー。今日の勉強終わったのぉ?」
「うん。ようやくな。フローラ、褒めて」
「よしよしぃー、えらいぞぉー」
「うんうん。いやー今日も疲れたよ」
談話室にひょっこりと現れたフローラに声をかけられる。後ろからソファを飛び越えるようにして上から座り、頭をよしよしと撫でれた。
「そうだねぇ、これがキースかぁナタリアだったらもっと悲惨だよねぇ。アイクとステフでよかったよぉ」
「あら、そういう安心?」
「もちろん、二人は心配だったよぉ。劇団は暗いし、劇はできなかったしぃ」
「……すまんかった」
「私がセドリックだったらぁ、ストレスで倒れてるかもぉ?本当に大変だったんだよぉ」
「それに関しては後でなんでもいうこと聞くって言った」
「ええ、私たち二人でできることでしたら。ですけどね」
「ふーん。何か決めたのぉ?セドリック?」
「まだだよ。そのうち決めるよ」
のんびりとした会話は続き、時間は過ぎていった。
* * * * *
薄暗い静かな自室でため息を一人つく。私の机の上には真ん中に穴が空き、角が溶けた赤い本が置いてあった。母から渡された本であるのだが、バジリスクとの戦いの途中にどうやら毒牙にあたり壊れてしまった。
「ありがたいことだけど、今後がわからなくなったわね」
元々精神が汚染されてて疑問に思わなかったことなどがあり、今回偶然壊れたことには感謝している。この本に原作の記憶は封じてあったため、ほとんどの記憶を私は失ってしまっている。残った記憶もぼんやりとしか覚えていないし思い出せない。明確に覚えているのはシリウス・ブラックの無実とヴォルデモートの分霊箱について、それとセドリックが死ぬことである。
「全くまさかこの本が分霊箱になってるとは、我が母ながらも原作に対する執着心には引くわ」
この本は私の母、ディスノミア・グリーングラスの分霊箱である。彼女は
「それにしてもどうしたものか……一応破壊手段は入手したけど……」
バジリスクの毒が入った小瓶を見る。何重にも防御魔法や封印魔法をかけているため簡単には開かないように工夫してある。バジリスクの毒であるなら分霊箱は破壊できる。ふうとため息をついて机に飾ってある写真を見る。劇団のみんなで撮った写真だ。撮るまでにみんなが好き勝手に動いていたせいでかなり大変だったな。そんな写真を手にとる。
「絶対に死なせない」
写真に映る人物を指でそっとなぞり、私はそう決意した。
久々のアイク視点大変でした。リアルが多忙なこともあって何度も書き直ししました。難産。
実はエリス転生者ではなかった!