魔法のお城で幸せを 作:劇団員A
お泊まりと黒犬
俺とハーマイオニーは父親の車に乗ってある家の前に来ていた。
「ねぇ、アイクこの服変じゃないかしら?」
「全くもって変じゃないとも!!いつだってハーミーは最高にキュートだよ!」
「もう!そういうことじゃないの!パパ、大丈夫?私、変じゃない?きちんとした人に見えるかしら?」
「もちろん大丈夫だよ」
いつもの膨らんだ髪の毛はサラサラと流れるような茶髪になっており、服装にもそこまで頓着していないハーマイオニーの服を俺プロデュースでいつものキュートな感じを封印して知的なイメージを前面に出している。流石俺の可愛い可愛い妹である。可愛い(語彙力皆無)。
俺たちは今ハリーの家に向かっており、一緒にお泊まり会をすることを提案しに行ってる。なんでもハリーはあんまりいい扱いを家で受けていないらしく、去年はウィーズリー家に行ったりしていたらしい。どうやら魔法世界の英雄様はマグルの実家でのヒエラルキーの最下層らしかった。不憫に思ったハーマイオニーは今年は彼女と遊ぼうとすでに手紙は出していた。
厳格であるが一応礼節をわきまえて行けば、マグル出身であることも含めて俺たちにそこまで酷い対応をされないだろう。そんなハーマイオニーの考えに乗っかり俺たちはいつもよりも圧倒的にちゃんとした服装にしたのだった。
「アイク、ハーマイオニー。多分着いたよ」
「ありがとう、パパ」
「行こうか、ハーミー」
「ええ」
二人で車から降りて一般的な住宅街にある一軒の家の前に歩く。それから顔を見合わせて深呼吸し呼び鈴を鳴らした。しばらく待っているとほっそりとした女性がドアを開けてやってくる。
「この辺りでは見かけないようですけど、どなたですか?」
「えっと、こんにちは。突然お邪魔して申し訳ありません。私、ハリー・ポッター君の友達でハーマイオニー・グレンジャーと言います」
「俺はその兄のアイク・グレンジャーです」
「あの子の友達……?」
女性は俺たちに対して険しい表情を浮かべる。やはり魔法関連の人間には厳しいようだった。どこか忌々しそうに俺たちを見つめる。そんな女性の様子にハーマイオニーは少し怯えていた。
「そんな子は我が家には居ませんよ。おそらく家を間違えたのでしょうね」
む、やはり予想通りガードが固い。だがここで諦めるわけには兄としていけない。可愛い妹とその友達である後輩のためだ。ここは簡単に引き下がれない。さて、どうしようと考えていると運良くドタドタと階段からハリーが降りて来た。ハリーは俺たちを視界に入れた瞬間目を輝かせて玄関に足早にやってくる。
「ハーマイオニー!!アイク!!」
喜色満面の笑みを浮かべるハリーとは対照的に苦々しい顔をハリーの叔母はしていた。それだけでなんだかハリーがどんな印象をこの家で受けていたかわかる気がする。よくもこんなに露骨に疎まれている環境の中で歪んだ性格に成長しなかったものだ。
「こんにちは、ハリー」
「やぁ、久しぶりだね、ハリー」
「久しぶり二人とも!!」
俺たちが再開を喜んでいると、叔母さんが腹立たしげにしていた。そんな様子に俺は思い出したように紙袋を叔母さんに手渡す。
「あの、ダーズリーさん、こちらをどうぞ」
「……あら。……どうも」
叔母さんは俺が手渡した紙袋と中身を見て、眉間のシワが少し取れた。ふふん、どうだ。可愛い可愛いハーマイオニーとハリーのために貯金をはたいて美味しいと有名な銘柄のお菓子を買ったのだ。ちなみにハーマイオニーには言ってなかったので隣で目を見張ってる。
「玄関で立ち話を何でしょう。特にお構いはできませんが中へどうぞ」
「ありがとうございます」
「お邪魔します」
俺とハーマイオニーは頭を下げて女性の案内で家に上がる。中に入るとこちらをおずおずと伺う太った男の子が目に入った。彼がダードリー君だろう。 階段を上がり、ハリーの部屋に入る。なかなかに手狭である。
「それでハリー手紙でも伝えたんだけど、良かったら私たちとお泊まり会しないかしら?」
「少なくともこんな狭い部屋にいるよりも退屈はしないと思うよ」
「もちろん、いいよ!喜んでいくよ!!」
「叔父さんと叔母さんには話したの?」
「………」
そういうとハリーは俺たちの提案には喜んで賛成していた口を途端に閉ざす。
「ダメじゃないハリー。きっちりと保護者の方には説明しないと」
「だってあの人たちが僕のお願いを聞いてくれると思うかい?絶対無理だよ、ロンが変な電話したせいでホグワーツには頭のおかしい人しかいないって思ってるから」
「ロン……」
ハリーの言い訳を聞いてハーマイオニーが頭を抑えた。まぁあそこの家の人たちは完全に魔法族の人たちだけだからなぁ。仕方ないここはお兄様が人肌脱ごうじゃないか!!
「よし、なら俺が説得しよう」
「え?!」
「そうね」
「え!?」
驚くハリーをよそに俺は下の階に挨拶をしに降りて行った。
*****
いい笑顔で去っていったアイクに僕はぽかんとした表情をしていた。そんな様子にハーマイオニーは苦笑する。
「大丈夫よ、アイク色々と考えて来たみたいだから」
「でも……」
「大丈夫だって、こういう服装とか髪型をちゃんとしようとかもアイクの提案なのよ」
そういってサラサラとした茶髪を揺らしながら笑うハーマイオニー。確かにいつもの彼女とは雰囲気が大きく異なる。あまり容姿に頓着していない彼女の髪は特に手入れをしていないのかボサボサとなっているが、今日はサラサラとした綺麗な髪になっている。服装も休日に見るものとは異なり落ち着いた知的な感じを受けるものとなっている。
「わざわざステフにどこの銘柄がいいか多分聞いてたのよ、あのお菓子も。全くまた勝手にして」
「あはは……」
「そういえばハリー宿題はきちんとやったのかしら?」
「それが……」
なんてしばらく二人で近況について話して過ごしていると階段から音が聞こえた。
「ハリー!」
「アイク、どうだった?」
「許可が下りたよ。俺たちと一緒に行こう!!」
「流石アイクね!」
「むふふ、もっと褒めてくれハーマイオニー!!」
むぎゅーとハグをする二人を視界に入れながら驚いていた。まさか本当にあの二人が僕の外出を許可するとは?!
「アイク……すごいね……。魔法薬とか使ってないよね?」
「もちろん使ったとも!」
「「え?」」
「え?」
「「……え」」
「いや冗談だよ」
「もう!!」
ケタケタと笑うアイクと少し怒った顔をするハーマイオニー。仲睦まじい兄妹を見ていて少し羨ましくなった。
「普通に真摯にお願いしただけだよ。ちゃんと説明すればわかってもらえたから。俺たちがマグル出身ってことが一番効いた気がするな。バーノンさんってマグルの会社の社長だろ。流石に礼節をわきまえてたらそこまで頭ごなしに否定はされなかったよ」
にこにこと話すアイクに僕は再度呆けた顔をしていた。わずかな間にあの頑固な叔父さんから許可を得たりするなんて考えたこともなかった。
「アイクは人と仲良くなるのが得意よね。羨ましいわ」
「ハーマイオニーが褒めてくれることが俺にとっては何よりのご褒美だよ。ありがとう」
「はいはい、それでハリー荷物をまとめたら?アイク、ちゃんとホグワーツに向かうまで泊めていいって許可は得たんでしょう?」
「もちろん。ハリー、荷物を運ぶの手伝うよ。どこにあるんだ?」
「あ、うん、ありがとう」
こうして僕は退屈なダーズリー家を抜け出すことに成功したのだった。
* * * * *
そうしてしばらく俺とハーマイオニー、ハリーの3人で宿題をやったり、ゆっくりテレビを見たり、ゲームしたりと学生の夏休みらしいことをして過ごしていた。俺的にはハリーは魔法世界の遊びや箒に乗ったりすることもないため暇なのでは?と危惧していたが、そんなこともなく自分の好きな番組が見れることや仲良くテレビゲームをできることに感動しており、俺とハーマイオニーはそれが逆に不憫に思えて仕方がなかった。
そしてそれから時間は経ってホグワーツに出発する日を迎えた。
『……脱獄から数日経ちましたが先日放送した大量殺人犯は未だ捕まっておらず……』
テレビから流れるニュースを聞きながら俺たちは母作の朝ごはんを食べていた。
「物騒ね、連日このニュースばっかりだわ」
「早く逮捕してもらいたいね」
両親が耳に入るニュースに対してそうぼやくが、それに対してハーマイオニーがコメントする。
「多分捕まらないわよ」
「どいうことハーマイオニー?」
「だってその人、魔法使いよ。日刊予言者新聞に書いてあったもの。多分魔法省がマグルに警告を出してるのよ」
「魔法世界で犯罪者についてとか初めて聞いたなぁ」
「アズカバンから脱獄者が出たのは初めてらしいわよ」
「名前はなんていうんだ?」
「シリウス・ブラック。例のあの人の右腕らしいわ」
そんなことを言いながらお茶を飲むハーマイオニー。
「ハリー、もしかしたら脱獄してきた目的は君かもね」
「え?!」
「冗談だよ、冗談。ハリーがホグワーツに入学したことはもっと前から知ってるんだろう?多分別の理由だよ」
俺の冗談で顔を青くするハリー。まさかここまで怯えるとは済まないことをした。そのあとみんなご飯を食べ終わって駅へと向かった。ホームに着くとハリーとハーマイオニーはロンと合流すると言うので俺は別れてステフやセドリックを探しに歩いていた。
「アイク!やぁ久しぶり!」
「久しぶりセド。また背伸びたか?」
「そうかな?自分じゃわからないからなぁ」
俺に声を掛けてきたのは灰色の瞳のイケメン、セドリックである。この夏休み、連絡は取っていたが遊びに行く回数は多くなかったのでなかなかに久しぶりである。二人でカートを押しながら空いているコンパートメントを探す。
「セド、アイク。こちらにどうぞ」
「あ、ステフ。久しぶり」
「こんにちはステフ」
そこそこ早くきたのでまだ列車の中は空いており空席が目立った。その中で滑らかな金髪を見つけると、我らが友、ステフであった。俺とセドリックはステフのコンパートメントに入る。するとある異変に気づいた。
「ねぇステフその犬どうしたの?」
「え?ああ、ノワールですか?」
「ノワールっていうのその犬の名前」
「かっこいいね」
「はい。フランス語で黒の意味です」
そういって足元に座る大きな黒い犬の頭を優しく撫でる。
「私が夏休み中に拾ったのですよ。雨の中で横たわってるのを見たんです。体も痩せてましたし、可哀想に思えたので両親の許可ももらって育てることにしたんですの」
「ステフ動物好きだもんね」
「にしても大っきいな。ホグワーツに連れていっていいのか?犬って」
「手紙出してありますので、ちゃんと許可も貰ってますよ」
そう言いながら自作のクッキーを取り出して食べるステフ。僕たちにも手渡して来た。パクリと食べると、相変わらず美味しい。そんなクッキーの匂いに惹かれたのか、ノワールは尻尾をパタパタと動かして欲しいとアピールしている。
「ダメですよ、ノワール。あなたは犬なのですから。人間のものを食べては体に悪いのですから」
ステフがはっきりとノーと言うとしょんぼりとノワールはうなだれた。
「賢い犬だね、話してる内容を完璧に理解してるみたいだ」
「ええ、自慢の愛犬ですよ」
「かっこいいなぁ」
「そう思いますよね。でも食い意地が張ってて私が食べてるものも食べようとするんですよ?」
ステフはクスクスと楽しそうに笑う。いーなー犬。まぁ俺にはタラリアがいるもんね。飼っているフクロウに餌を手渡すと甘噛みよりもやや強めに俺の指ごと噛んできた。……こやつめ、飼い主を舐め腐っておる。
「アイク、1つ提案があるのですが」
「ん?」
「よろしければこの子を劇団の部屋で飼ってもいいですか?大人しいと思いますし」
「お、いいね。俺は全然構わないよ?セドは」
「僕もいいと思うよ。ただチョークまみれになりそうだけどね」
「そこはきっちり洗いますよ」
「あとは犬がアレルギーとか苦手な人がいなければな」
「今聞いておきなよ、ステフ」
「そうですね」
ステフは荷物から巻物を取り出して書き込みを始めた。しばらく待っているとみんなからぽつりぽつりとOKの返事が返ってきた。
「多分大丈夫そうだね、これなら」
「ええ、良かったです」
「どうせなら劇団のマスコットにでもするかい?」
「あぁ。でも劇団のイメージカラーって白って感じするからなぁ」
なんてどうでもいい話や宿題についてや、夏休みの出来事などを語って俺たちを乗せたホグワーツ特急は進んでいった。