魔法のお城で幸せを 作:劇団員A
マクゴナガル先生から叔父さん叔母さんからの署名が無いためホグズミード許可が下りずに一人で城内をうろついていた。ハーマイオニーやアイクが僕をあの家から連れ出してくれたのはとても嬉しかったが、それでも保護者の氏名が手に入る機会を潰してしまったのは失敗だったと思う。
ハーマイオニーたちの両親に書いてくれないかと相談したがアイク曰く魔法的な防御が掛かってるからちゃんとした保護者以外記入できないと言われしぶしぶ諦めることになってしまった。
そんな中でたまたまルーピン先生と出会ってしばらく彼のオフィスで話をしていた。途中スネイプが何かの薬を持って来たことは以外は楽しく和やかに話していたが、ルーピン先生にも仕事はあるため部屋を出て暇になってしまった。
劇もこの前終わってしまい、楽しみにするようなことも、目的もなく、ただぶらぶらと無気力に城の中を彷徨っているとどこからか歌が聞こえる。美しくも力強く、聴いているものを魅了するものような感情が篭った声が豊かに響き渡っている。声の方向に向かっているとどうやら外から聞こえてくるようだった。美しき声に導かれるように、惹かれるように、不思議な引力を持っている歌声の元へと歩んでいく。
たどり着いた先には一本の木が厳かに生えており、その根元には目を閉じて歌声をあげている滑らかな金髪の少女と一匹の黒い犬が静かにそばでひっそりと眠っていた。まるで1つの儚く繊細な絵画のようであった。
歌はやがて終わり金髪の少女、ステフはゆっくりと目を開ける。目を開けたステフは壊れ物を触るかのように優しげな手つきで黒い犬を撫でた。やがて僕の視線に気がついたのかステフと視線があった。
「やぁステフ」
「こんにちは、ハリー。今日は良い天気ですね」
手でこちらへと来るように指示されて、彼女の元へと歩きポンポンと叩かれた横に座る。花のような自然を思わせるような優しい良い香りが隣から漂う。いつものようなにっこりとした笑みを浮かべながら僕の顔を覗き込んできた。
「今日はホグズミード村に行く日だと思いますが、ハリーは行かなかったのですか?楽しいらしいですよ」
「僕は保護者から許可がもらえなくてマクゴナガル先生から行ってはいけないって言われちゃったから」
「そうですか、残念ですね。あ、これ私が作ったサンドイッチですよ、食べますか」
「うん、ありがとう」
ステフから手渡されたサンドイッチを受け取り一口含む。シャキシャキとし瑞々しいレタス、カリカリに焼かれたベーコン、甘酸っぱいトマト、それらの食感と味が見事に調和していた。アイクがステフのお菓子は美味しいと言っていたが、普通の料理もかなり美味しい。
「美味しいよ、ステフ」
「ありがとうございます。そう言っていただけると作った甲斐がありますね。ホグズミードにみんなが行く日はいつも一人でしたから」
「ステフはどうして行けないの?」
諦めたように笑うステフに僕とは違って本当の両親がいるのに許可が下りないのが不思議に思い尋ねてみる。意地悪な両親なのだろうか。
「あのですね、自分で言うのはなんというか恥ずかしいのですが、私の実家、つまりペンテレイシア家はかなり裕福でして。私はそこのお嬢様なのですよ」
「うん」
確かにペンテレイシアという名前は僕でも知ってるくらい有名な服のブランドがあるし、アイクやセドリックからかなりのお金持ちであると小耳に挟んだことがある。恥じらいながらステフは続ける。
「そして同時に親がとても心配症でして、私をあまり外出させたくないのでホグズミード村に行く許可が下りなかったのですよ」
「厳格な家も大変なんだね」
「ええ。まったく困ったものですよ」
しみじみと呟くステフ。叔父と叔母は僕に対する嫌がらせで、ステフの両親はステフに対する愛情でホグズミードに行くことを許してくれなかった。愛憎の結果が同じとは少し皮肉なものである。僕は話題を変えようとステフに別のことを振る。
「それはそうとステフ、さっきの歌声、綺麗だったよ。僕、感動したよ!!」
僕がそういうとステフは顔を赤らめて、ひどく恥じたような表情をしてみせた。笑顔以外のステフは珍しい。少なくとも僕が見たことのない表情であった。
「そ、そうですか。あ、ありがとう、ございます。私、歌を歌うのが好きなのですが人前で歌うことは苦手でして」
「劇とかではちゃんと喋ってるのに?この前の劇も素晴らしかったよ。お姫様の侍女役だったよね」
「よくわかりましたね。ありがとうございます。ですが劇は舞台裏から操って声を出してるのに過ぎませんから。私自身が人前に立つのは凄い苦手なのですよ」
「もったいないよ、あんなに綺麗な声をしてるのに」
そういうとステフははにかんで笑ってみせる。
「なんだかアイクと話しているようです。彼もあなたのように素直に褒めてくれますから。それが少しこそばゆいですけどね」
そう言いながらステフは隣で眠っている黒い犬を優しい手つきで撫で回す。柔らかそうな毛並みがほっそりとした女性らしい手によって動く。
「そういえばその犬、ステフの犬なの?去年までは飼ってなかったよね?」
「そうですよ。今年の夏に出会ったのです。名前はノワール、賢い男の子ですよ。あまり吠えないし、性格も穏やかですから」
「ねぇ僕も触ってもいい?」
「もちろん。どうぞ」
おずおずと手を伸ばして柔らかい黒い毛並みな触れる。温かい。そして当たり前だが生きているという感覚がした。僕がゆっくりと撫でているとノワールは目を覚ましたようで、瞼を開ける。それから僕の方を見ると驚いたかのように目を見開いた。そして時が止まったかのようにこちらを向いて微動だにしない。
「?」
「ノワール?」
ステフの呼びかけにも応えず、そのままじっとこちらを見つめてくるノワール。なせか彼の黄色い目から目を離すことができずそのままお互いに見つめ合う。
するといきなりノワールが僕めがけて飛び込んできた。
「うわっ!?」
「ノワール?!」
ノワールはそのままぶんぶんと尻尾を大きく振りながら顔を覗き込んで舐めてくる。ノワールの体は大きく、僕は押し倒されたまま起き上がれなくなっていた。ステフが後ろから引き剥がそうと奮闘するがノワールの力が強いのか全く効果はなかった。
「くすぐったいよ、ノワール」
「ちょっとノワール!!ハリーから離れなさい!!ノワール?!どうしたのですか!?っこの!アレストモメンタム!!」
ステフの杖から呪文が発射されてノワールに当たり、動きが止まる。停止したノワールを重そうにステフが僕の前から動かす。申し訳なさそうな顔をしてステフが頭を下げていた。
「すみません、ハリー。普段はこんなことをしない子なんですが。人からされる行為をそのまま受け入れはしますが自分から積極的に何かをするような子ではないのですよ。本当にすみません」
「別に、大丈夫だよ。ちょっとは驚いたけど」
それからステフがノワールを落ち着かせて、二人で最近の話をした後にみんなが帰ってくる時間だということで僕たちは別れた。
* * * * *
ハロウィンの宴会が幕を開けた。大広間には何百ものかぼちゃ、ジャックオーランタンに蝋燭が灯されており、生きたコウモリが飛んでいた。燃えるようなオレンジ色の奔流がくねくねと動いていた。
「いつも派手で楽しいね、ハロウィンパーティー」
「そうだな。どうせなら俺がもっと派手にハロウィンらしいモンスターを作ってだな……」
「やめてくださいアイク。あなた凝り性なのですから、おそらく下級生が泣いちゃいますよ」
「えー」
アイクは残念そうにふわふわと漂わせていた粉を元の袋に戻していく。ちなみに彼が用意したのは今回宴会なのでチョークではなくて小麦粉である。
「そういえば去年までやってた眼鏡の怪獣捕まえるゲームは無くなったのかい?」
「去年は盛り上がってましたよね、あれで」
「あー。あれなー。あれ、何でも一年限定だったらしくて。今じゃただの魔除け眼鏡だよ。かぼちゃパイおいしい」
もぐもぐと頬張りながらアイクは応えた。何というか、見た目はすっかりカッコよくなったというのに、こういった動作が幼いというギャップがある。行儀が悪いと指摘するステフの声にも「ふぉーい」と口に入れたまま返事をしてステフにため息をつかせた。その後アイクは他の劇団の子に呼ばれて去っていった。
「アイクらしくてイイんじゃない?」
「セドはアイクに甘いですよ。かぼちゃプリン取ってください」
「はい」
「ありがとうございます」
ぷりぷりと怒った様子でステフはプリンに手をつける。何だか少し珍しいと思ったが、原因ははっきりしている。
「まぁまぁ、落ち着きなよステフ。ホグズミードに行きたいのはわかるけど許可が下りないんだから仕方ないじゃないか」
「べ、別にそれは関係ないですよ?!」
ステフは魔法使いだけの村に大変興味を持っていたが、行けないと判明すると、とても落ち込んでいた。誰かに名前を書いてもらったりするなど色々試したが、結局全てダメであり、大人しく引き下がっていた。それからみんなの前では不満を出さないが毎回みんながその年初めてホグズミード村から帰ってきた日には少し荒れているのだ。
「怒った顔よりいつもの笑顔の方が素敵だよ、ステフ」
「……アイクの言う通り本当にいつか刺されますよ、セド。それと別に怒ってませんから」
「……そんなあなたにとっておきの商品がある」
「うわ!フレデリカ?!」
「こんばんはフレデリカ」
「「俺たちもいるぜ」」
「フレッド、ジョージ」
劇団の縁の下の力持ち(兼トラブルメーカー)が現れる。といってもフレデリカの口ぶりからして商品紹介だろうけど。
「……じゃん」
フレデリカがそう覇気のない声を出しながら取り出しのは一枚の紙である。まぁ彼女たちが来て紹介しているということは普通の紙ではないかとは確かである。
「この紙は俺たちが開発したものでな」
「名前を『指揮紙』っていうんだ」
「なんとこの紙に名前を書いてから何かに貼るだけで」
「自分とその何かの感覚を共有できて遠隔操作できるのだ!」
「例えば人形に貼ればその人形を自在に動かすことができて」
「なおかつその人形から周りを見たり聞いたりもできる優れもの!」
「……お値段たったの25シックル」
「「買うなら今!!」」
確かこの紙はバジリスク退治で使用したものであった気がする。ちゃんと商品化したのかな。制限時間とかあったけど。
「それって確か15分とか20分しか効かないんじゃなかった?改良したの?」
「あっ」
「バカ!セドリック言うなよ」
「……とんだ裏切り」
「いえ、この後言及するつもりでしたから。それより友達からお金を巻き上げようとはどういうことですか、まったく」
「……商売」
「そうそう」
「別にお金を巻き上げようとはしてないって」
「開発費を出しますので3時間は持たせてください」
「……わーい」
「良いんだそれで……」
こんな感じのふざけた会話もしつつ宴は過ぎていった。楽しい時間はあっという間に過ぎて行き宴も終盤となりみんなが散り散りに解散していった。僕たち五年生の監督生は忘れ物などの確認のために最後に残っていた。
「こんばんはセド。今夜は楽しかったわね」
「やぁ、こんばんは。エリスも監督生になったんだね」
「ええ。もう一人はデュークよ。それにしてもステフから聞いたわよ。クィディッチのキャプテンも兼任してるでしょ」
久々にエリスに出会って会話が二人で弾ませていると、大広間の扉が突然開いて一人の生徒が飛び込んでくる。制服を見るとグリフィンドールだった。彼は一目散に教師たちのテーブルへと向かっていく。
「た、大変です!!ふ、婦人が、太った婦人が切り裂かれてたんです!!」
「テンションの上がった生徒ですか?まったく宴会はもう終わったのですよ?」
「違います!やつです!!シリウス・ブラックです!!」
その一言で大広間に残っていた生徒たちが大きくどよめく。傍にいるエリスも頭を抱えていた。
「あの淫行駄犬め……!!」
何かを忌々しそうに呟いていたが、喧騒で僕の耳には入らなかった。
アイクの出番がなかった……。そして気がつく、今回なんもプロット練っていないと。