魔法のお城で幸せを   作:劇団員A

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アイクとハリー視点


殺人鬼と料理

第三弾の公演も終わり、最近の劇団の活動はひと段落していた。そのため、みんなが割と自由に行動したり、もしくは何らかの企画を立てて大勢で遊ぶ機会が多くなっている。例えばお化け屋敷を作って遊んだり、今までの脚本ランキングをつけて大討論したり、休日にみんなで外でご飯を食べたりと和気藹々と過ごしていた。仲が良いことは良いことである。みんながそれぞれ寮を問わずに遊べることがこんなに楽しいとは思ってもいなかったことだ。

 

そうして企画した遊びを日々過ごしていたのだが、ある日エリスに呼び出されてしまった。何でも二人っきりで会いたいのだとか。巻物にて集合時刻が告げられて一人で部室に向かう。

 

喋っていたセドリックとキースはクィディッチの練習に向かってしまい、ケビンとフローラはフレデリカ、ジョージ、フレッドの実験に手伝うと言って去ってしまった。ステフにも「すみません、今日は先約がありまして」と言われてしまい、ギルデロイ先生との打ち合わせもこの前済ましてしまったので俺は暇になってしまった。

 

手持ち無沙汰になった俺は時間よりは早いが部室に向かうことにした。最近、部室にはお菓子だけでなく料理がおいてあるので小腹が空いた今にちょうど良いだろう。談話室を出てから階段を登っていき部室へと向かう。ノワールが部室にいるはずだしアニマルセラピーしてもらおう。といっても今年はそこまでストレスが無いけど。どうせならエリスにも変身してもらおう。

 

るんるんとした足取りで階段を上っていく。各寮のシンボルである動物たちが描かれた扉の前に立ち、この扉が作られてからもうかなり経つなぁと今更ながら感慨深くなる。それから巻物を見せてからドアを開ける。ノワールと戯れつつ何かつまもう。

 

「ん?」

 

ドアを開けて中を見渡すがどこにもノワールが見当たらない。おかしいな。この前のシリウス・ブラックが太った婦人を襲撃した事件から安全のために、ノワールが勝手に部室から出て城内をうろつかないためにも、団員が同行していないと部室から出れないように首輪をつけたので一人で出れるはずがないのである。ちなみにエリスとフレデリカたち3人による合作である。前々から思っていたがエリスは何というかステフを大事にしている傾向が強い。

 

がさがさとどこからか音が聞こえる。お菓子の包装紙でもノワールが破ろうとしているのだろうか。最近は保管している戸棚に近づこうとしているので、勝手に食べれないように料理やお菓子を入れてる位置を上げたのでノワールには届かないはずである。まさか諦めきれずに暴れて上からお菓子を落としたのだろうか。まったく、やんちゃな犬である。

 

悪戯っ子なノワールを逆に驚かしてやろうと俺は足音を消してそぉっと戸棚へと向かう。ふふふ、リアクションが楽しみだ。

 

粉が入ってこないように仕切られた食器や食料が置いてあるスペースへと向かい、入ると同時に声を上げる。

 

「わぁっ!!」

「うぉ?!」

「うえ?!」

 

ステフの愛犬、ノワールを驚かそうとした俺の視界に入ったのはボロボロの服を着た長髪の男性であった。男は戸棚から食料を取って食べていたのだろうか、腕を棚に向けて固まっている。対して俺もフリーズしていた。

 

え?どういこと?誰だこのおっさん?何勝手に部室の物食べてんの?しかもそれこの前俺が残しといたやつやん。あれ、そういえばノワールが見当たらないな。どこいったんだろ。つかこのおっさん誰だ?何か見たことがある気がする。どこだっけ?てかホグワーツにこんなおっさんいたか?そもそも部室になんで入れたんだろ。あれ、もう時間だよな、エリスまだ来ないのか。あっ、このおっさんの顔どこかで見たことがあるか思い出した。新聞だ。

 

ぐるぐると高速回転する脳みそがようやく答えを出す。

 

「シリウス・ブラック!?」

 

俺が大声を出すとようやくお互いの硬直が解けて俺も相手も動き出始める。とりあえず俺は部室から出るためドアに向かってダッシュし始める。なんでシリウス・ブラックがここにいる?!伝えなきゃ!!いや、でも誰に?ダンブルドア校長?吸魂鬼?てか吸魂鬼ってあんな見た目で喋れるの?思考を続けながらも俺は足を動かす。

 

シリウス・ブラックも一瞬遅れて俺を追いかけようと後ろからかけてくる。元囚人とは思えないような運動能力だ。普通もう少し筋力とか衰えてたりするんじゃないの?!

 

「待て!!アイク!!」

 

なんで俺の名前知ってんの?!驚きながらも走ることを止めない。捕まったら殺される。そんな一心で駆け抜けた。何とかドアの手前に着いてドアノブに手をかけようとする。がしかし、俺の手がドアノブを掴むことはなかった。俺の手は空を切り、バランスを崩す。と同時に誰かが部室に入って来ようとドアを開けたようで、俺は不自然な体勢のまま転がるようにして部室から出た。

 

飛び込むような姿勢のまま、入って来た誰かに衝突する。

 

「あだ?!」

「きゃ?!」

「ぐっ」

 

俺は入って来ようとした人物、エリスを押し倒す形で止まった。

 

「アイク、何やってるのかしら?」

「エリス!!どうしよう!伝えなきゃ!あと吸魂鬼も呼ぼう!ここは封鎖しないと、あと巻物でみんなにも連絡を!!あれ?巻物がない!部室に置いてきたかも!?」

「とりあえず落ち着きなさいよ。何が言いたいの?というか何があったの?」

「居たんだ!!」

「誰が?」

「シリウス・ブラック!!」

「ああ。それって彼のことかしら?」

 

そうエリスが指差す方にはシリウス・ブラックが何故か吹き飛んだようにして部室に横たわっていた。

 

 

 

 

* * * * *

 

 

 

 

僕は今日、ステフに連れられて厨房設備のある部屋にいた。何でも料理の練習をするにあたって味見役を僕にしてほしいんだとか。ステフと僕はシンプルな灰色のエプロンを身につけている。

 

何故劇団の人たちじゃないかと尋ねたところ、「劇団の子たちにバレたら全員食べたいってうるさいんですよ。流石に全員分作るのは大変ですし、練習の段階で大勢来られても困りますので。ですから私とあなたとの秘密ですよ」と温かく微笑まれた。

 

「それでステフ、何作るんだい?」

「えっとたしか名前は『チャワンムシ』だったと思います。東洋の料理だそうですよ。前にアイクが美味しい、食べたいと言ってたので興味を持ちまして」

 

そう言いながら普段のゆったりとした所作からは想像できないほどテキパキと素早く準備を始めていた。図書館からレシピを見つけたらしいが、東洋の料理のレシピまであるとは凄まじい蔵書である。

 

「チャワンムシって面白い名前だね」

「何となく可愛い響きですよね」

「どんな料理なんだい?」

「作り方は少しプリンに似てますかね。味はレシピを見る限り大きく異なると思いますが。それでは作っていきますね」

 

そう言ってステフは杖を取り出して、材料を出していく。まずはじめに乾燥した昆布を鍋に入れて火にかける。続いて鍋が煮立つまでの間に他の材料、しいたけ、しめじ、鶏肉を切ったり、エビやカニの身を取り出していた。

 

「本当は『かまぼこ』と『銀杏』という具材も入れるらしいのですが、入手できませんでしたので今回は省略します」

 

それから卵を二個取り出してコンと軽快な音で軽く叩き、割ってとろんと落ちてきた卵をしゃかしゃかとリズムよくステフはかき混ぜる。そして僕にはよく分からないが、様々な調味料を計測して卵をといたボウルに入れていく。調味料だけでとてもいい匂いである。

 

「実家にお願いして入手したり、ホグワーツにいる屋敷しもべ妖精さんに分けてもらいました」

「ホグワーツにも屋敷しもべ妖精がいるの?」

「ええ、厨房にいますよ。ホグワーツで出される全ての料理はそこで彼らが作っていますよ」

 

へぇ、知らなかった。僕が感心していると先ほど昆布を入れた鍋の中身を卵液にいれる。細かい目の網に卵液を通していき漉して、その工程が終わった後に、2つのマグカップに均等になるように卵液を入れていく。

 

「ハリー、これらの材料の中で苦手なものはありますか?」

「いや、特にないよ」

「良かったです。それじゃあ好きなように具材を入れてください」

「わかった」

 

僕たちはそれぞれが自身の好みに合うように好きなように具材を自分のマグカップにいれる。優しい黄色をした卵液と鮮やかなカニの赤や薄ピンクのエビがとてもおいしそうである。わくわくしながら、僕は具材を入れ終えたマグカップをステフに渡す。

 

「ありがとうございます」

 

受け取ったステフは鍋に水を注いで杖を振り、火を点ける。青い鮮やかな炎が鍋の下でゆらいでいた。

 

「そういえばステフ」

「はい。どうしましたか、ハリー」

「どうして味見役に僕を選んだの?ハーマイオニーとか、あとはセドリックとかでも良かったんじゃない?セドリックは劇団員だけど今年はクィディッチのチームに参加してるし」

「うーん、確かにその二人は考慮したのですが、ハーマイオニーに任せると何処からかアイクが現れそうですし、セドリックは何を食べてもよほど酷くない限りマイナスな点を言ってくれませんから」

 

そう話していると水が沸騰したようで、再度杖を振って火を弱める。それから鍋にマグカップごと入れていく。

 

「なんでも日本という国では容器の一種に『茶碗』というものがあるらしいですよ。おそらくその容器ごと蒸すから『チャワンムシ』というのでしょうね」

 

面白そうに笑ってからステフは鍋に蓋をして、火を強めた。それからステフは時間を計り始めた。その間二人で適当に喋っていると、キッチンタイマーが鳴る。

 

「出来ましたね」

 

ステフはそう言いながらミトンを装着してから、トレイの上にマグカップを載せた。優しい淡い黄色に薄ピンクのエビや綺麗に切られたしいたけが見えた。

 

「何だか可愛いね」

「そうですね。エビやしいたけが甘いものでしたら完全にスイーツに見えそうですね。はい、スプーンです」

「ありがとう」

「お熱いのでお気をつけて」

 

クスクスと笑ってからスプーンを手渡される。スプーンで一口掬うとチャワンムシはぷるぷるとしおり、光を弾いていた。とてもおいしそうである。息を吹きかけて冷まして口に含む。プリンのような食感だが、味は全くもって異なり、ほんのりとした昆布の香りと風味のある卵の味がした。美味しい。

 

「これ、すごく美味しいよ!ステフ」

「ええ、そうですね。予想以上、期待以上です。見た目はプリンのようなのに味は全くもって別。深みのある味ですね」

 

それから僕らは舌鼓をうちつつ、茶碗蒸しを食べすすめていく。プリッとしたエビやほろほろと柔らかく崩れる鶏肉、香りの良いしいたけもとても美味しかった。

 

「美味しかった。ステフ、ありがとう」

「そう言っていただけると良かったです。ふふ、始めて食べましたがとても面白い料理でしたね。意外とレシピも簡単でしたし。……そういえばハリー。先日はすみませんでした」

「え?」

「ノワールの件です。彼は普段自分から誰かに構いに行くことはないのですが、何故かハリーを特に気に入ったようでして。飼い主として謝罪します」

「あぁ。大丈夫だよ別に。ちょっと驚きはしたけど」

「そうですか。なら良かったです。できれば仲良くしてあげてくださいね」

 

部屋には和やかな雰囲気に優しい茶碗蒸しの匂いが漂っていた。

 

 

 

 




茶碗蒸し食べたい

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