魔法のお城で幸せを 作:劇団員A
豪雨が振り続ける中、俺はロッカールームにいた。
「セド、断ればよかったのにどうしてこんな悪天候の試合受けちゃったのさ……」
「いや、スリザリンのシーカーが怪我してるらしいから」
「絶対嘘だよ、完全に。こんな天気だと勝ち目が薄いから駄々こねただけだよ」
「だけど僕、今いるキャプテンの中で一番年下だし、力関係的に弱いんだよね」
「ぐぬぬぬ……」
俺が歯噛みしてると、セドリックは諦めたように笑う。優しさにつけ込みやがってスリザリンのキャプテンめ……!!
「それに天気が悪いのは相手も僕らも同じだからね。問題ないよ。ハリーたちも苦労することになるだろうしさ」
「セドらしいけどさ……」
「大丈夫だよ、アイク、応援しててね」
「もちろんするさ!!負けんなよ!!あと怪我すんな!!それと……」
ロッカールームにいるみんなに向けて魔法を放つ。
「インパービアス!……ほい、これで防水できたよ。服とか濡れたら重くなるだろ」
「ありがとうーアイクー」
「どういたしまして、キース、ゴールきちんと守れよ」
「もちろーん」
「んじゃがんばれ!!」
「ありがとうね、アイク」
「がんばるわ!」
「ありがとうございます」
クィディッチのチームの生徒たちから感謝の言葉を受けながら俺はロッカールームを後にした。それから観客席へと向かう。席にはステフやフローラたちが席をとっていてくれていた。
「おぉーい、こっちだよぉ、アイク」
「ありがとう。みんな」
「おかえりぃ」
「セドたちは緊張してました?」
「いつも通りだったよ」
「にしてもすごい雨だね」
「ほんとそれな」
ハッフルパフの上級生何人かが客席に先ほど魔法をかけたようで、俺たちの上には水のベールがはってあり、雨は防いでいるが風が凄まじい。自身だけではなく全体を気遣って魔法をかけるのが我々の寮らしい。すると、ステフの隣に黒い毛むくじゃらが目に入った。ほう……。
「ステフ、ノワールも連れてきたんだ」
「ええ。どうやらクィディッチに興味があるんですかね。私が観戦に行くと知るとついていこうとしたので」
「へぇー、そうなんだ」
そう言いながら俺はノワールとステフの間を入るようにして座る。ロリコン犬には誰も触らせん。きょとんとした顔をするステフとニヤニヤした顔をする周りの人。違う。別に「犬にまで嫉妬してるんだ」とかそんな微笑ましい理由じゃない。犬に見えるがおっさんなのだ!!そんな俺の考えは露知らずステフはカバンから段幕を取り出した。
「アイク、防水魔法を段幕にかけてくれませんか?」
「ラジャー。インパービアス!!……ほい、オッケー。にしても凄いな。これステフが作ったの?」
黄色と黒で絵が描かれた段幕に『頑張れハッフルパフ』と書かれており、その上先ほどから定期的に文字が変わっていたり、デフォルメされた穴熊のイラストが歩いている。可愛い。
「ええ。フローラにもお手伝いしてもらいましたが。あと各選手がゴールした際には文字が変わるようになってますよ。ナイスプレイの時などにも」
「いやぁ、大変だったなぁ」
「相変わらず凝ってるね」
「器用だな、本当に」
「あ、始まるわよ」
激しい雨の中では見づらいが、セドリックとグリフィドールのキャプテンが握手を交わしているのが視界に入った。さぁ試合が始まった!
試合は苛烈を極めた。視界が良好とは言えない中で両選手は健闘し、お互いにゴールを決めて、点数が変動し続けていた。試合はグリフィンドールがわずかにハッフルパフを上回っている。
雨にも負けないように叫ぶ歓声がひときわ大きく湧き上がり、ハッフルパフの観客席からセドリックの名前をコールする声で盛り上がる。スニッチをセドリックが見つけたのだ!
「行けー!セド!!」
「負けんなぁ!!」
「逆転ですよ!!」
「加速しろ!」
「頑張れ!!」
そんなセドリックの様子に気がついたのか、ハリーも遅れてスニッチのいる方向へと飛び上がる。ぐんぐんと上空へと加速する二人に会場は大きく盛り上がっていた。
しかし、突然ハリーの動きに変化が現れる。ハリーの加速が終わり、何故か下降し始めたのだ。しかもその様子はどう見ても自身の意思とは思えない。完全に重力に従って落下しているように見えた。隣でノワールが大声で吠え始める。
「え?」
「ど、どうしたんですかねハリー!!」
「わかんねぇよ!」
「あ、あれって!!」
そう誰かが指差す方向には黒い靄が見える。あれってもしかして……。
「吸魂鬼じゃないのか!?」
「あいつらなんでクィディッチの会場に?!」
「あのままじゃ怪我するぞ!!」
「バカ!!怪我じゃすまねぇよ!死ぬぞ最悪!!」
落ちていくハリーとは対照的にセドリックがスニッチを掴んだらしい。審判が試合終了のホイッスルを吹いた。そしてセドリックがようやくハリーが吸魂鬼に襲われていることに気がついた。
セドリックが守護霊の呪文を使い、銀色のホッキョクグマが現れて吸魂鬼を蹴散らす。それからセドリックはぐんと下に向かって加速し、落下していくハリーを抱えた。会場が安堵の声に包まれる。
「よかった……」
「グッジョブセド!!」
すると突然怒号が会場に響き渡った。ダンブルドア校長である。雨に邪魔されてはっきりとは聞こえないがどうやら本気で憤っている。こんなに怒っているダンブルドア校長は初めて見た。銀色の不死鳥が空を飛び回り、会場に静かに集まっていた吸魂鬼が逃げ去っていく。
「……あんなに怒ってる校長初めて見たわ」
「私も」
「ていうかハリーは無事なのか?」
「今、保健室に運ばれてるよ。多分マダム・ポンフリーが何とかしてくれるよ」
みんなで安心していると隣から袖を引っ張られる。ノワールがグイグイと引っ張って主張してくる。どうしたんだろうか、知能まで犬に落ちたのだろうか?疑問に思いつつ俺はステフたちに断りをいれて会場を後にした。
そうして歩き始めてからしばらくすると、ノワールは姿を変え、人に戻った。
「人に戻っちゃっていいの?ノワ……シリウス」
「呼びづらいならノワールでもシリウスでもどちらでも構わないぞ」
「オッケー、ノワールで」
「それと今は会場に釘付けだろうから問題はないだろう。吸魂鬼が来たならアイクが追い払えるのだし」
「ナチュラルに俺をこき使う気満々だよね。まぁいいけどさ。それでどこに行くのノワール」
「ハリーの箒を探してるんだ。あっちに会場があるということはこちらの方角に消えたのだろう」
「なるほど」
それからしばらくチラチラと後ろを確認しながら歩いて方角に沿って歩いて行く。
「そういえばアイク。エリスの姓グリーングラスだったな。ということは彼女の母はミアか?」
「確かにエリスの姓はそうだけど、母親の名前は知らないな。そのミアって人だったら知り合いなの」
「遠縁の親戚ではあるな。名前をディスノミア・グリーングラスという女性だ」
ディスノミア・グリーングラス。ふむ、聞いたこともないな。いや待て、エリスが前まで持ってた赤い本の表紙に確かにその名前が書いて合った気がする。
「あー、たしかにエリスのお母さんだった気がする。それでその人がどうしたの?ノワールの初恋の人?」
「違う。確かに美しかったが、彼女のことは苦手だった」
「緊張するから?」
「そうではない。あの人はまるで人形のようだったのだよ。作り込まれたように手足はほっそりとして色白で、顔立ちもはっきりしていて美人だったのだか、彼女のその表情が変わったことを見たことがない。それに私は彼女の目がひどく気味が悪かったよ」
「目?なに紫とか虹色とかだったの?」
「いや色は普通だ。だが周りの映し方が異常だった。風景かのように周りの人間には接しているのに、まるで私たちを一種の絵画か何かのように眺めて来たのだよ。当時いたずらばかりしていた私たちをさも美しい物であるかのようにじっと。他に何をするでもなくただひたすらに見ていた。それがかえって不気味でな。自慢じゃないが私はそれなりにモテていたので視線にはあんまり頓着していなかったのだが、彼女の視線ははっきりわかった。異質だったからな」
「へぇー」
さりげに自慢混ぜたなこの野郎。というセリフを飲み込んで適当に相槌を打つ。エリスのお母さんねぇ。俺は会ったこともないし、ていうか故人だし。そうこう話しつつ俺たちはハリーの箒を探す。
「見当たらんな」
「そうだね。ここで今気がついた残念なお知らせをしたいんだけど、いい?」
「ほう」
「この方角、このまんま行くと暴れ柳なんだよね」
「…………」
「…………」
「……いや、まさかな。そうだ、呼び寄せ呪文だ!アイク、それを使えばさっさと戻せるぞ」
「あー失念してた。そうだね、そうだよ、そうしよう。アクシオ、ハリーのニンバス2000」
杖を取り出して呼び寄せ呪文を使う。ハリーが持っているニンバスを思い浮かべながら呪文を言った。………何も現れない。いや、まさかと思いつつ、イメージを変えて再度杖を振った。
「アクシオ!」
すると暴れ柳からニンバスが飛んで来た。……イメージ通りの粉々になった姿で。
「…………うわ」
「…………」
空中に浮く元ニンバスの粉塵やかけらを挟んで俺とシリウスは見つめ合っていた。