魔法のお城で幸せを   作:劇団員A

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ステフ、ハリー、アイク視点です



地図と露見

私たちはあの試合のあと、ハリーのお見舞いに行きました。彼はひどく落ち込んだ様子でしたので、お菓子や花束を渡し、ハリーに声をかけましたが、返事は希薄でした。

 

ハリーの落ち込みを助長するようにホグズミード行きの日となり、ほとんどの三年生以上の生徒が行ってしまいました。私はせめて退屈しないようにと、ハリーと前回のようにお話したり、料理を作ることを提案しましたが、曖昧な返事でした。どうすれば元気になってくれますかね。

 

空き教室で静かに一人悩んでいると、外からドタバタと走ってくる音が聞こえて、勢いよくドアが開かれる。

 

「ステフ!!」

「こんにちは、ハリー。どうしたのですか?そんなに慌てて」

 

笑顔でハリーが入って来る。おや、どうやら元気になってくれたようですね。何があったのでしょうか?

 

「一緒にホグズミードに行こうよ!!」

「ホグズミードに?いえ、行きたいのは山々なのですが、私は署名が無いですから……。ハリーはおじさんたちからもらえたのですか?」

「ちがうよ。そうじゃないんだけど、ホグズミードに行く抜け道をフレッドとジョージが教えてくれたんだ」

 

ほう、フレッドとジョージがですか。彼らは基本はっちゃけてますが、落ち込んでいる人間を騙すような性根はしてないので、おそらく本当なのでしょう。

 

「お誘いは嬉しいのですが、私は両親が心配して署名をくれなかったのです。なんだかその気持ちを裏切るようで……」

「で、でもホグズミードに行けるんだよ?!ステフは行きたくないの?」

「…………」

 

ホグズミードに行くこと、両親に対する考えが天秤に乗せられる。ふむ、どうしましょうか。……………。

 

黙り込む私に期待したような眼差しでこちらを伺うハリー。……仕方ないですね。可愛い後輩だけでは不安ですしね。もしかして双子が嘘をついて、ハリーに悪戯を何か仕掛けてる可能性もなくはないですしね。

 

「わかりました。私も行きますよ。一緒にホグズミードに行きましょう、ハリー」

 

しょうがないと微笑みながらこう言った私に、ハリーぱぁああと笑顔を見せた。

 

 

 

* * * * *

 

 

 

ジョージとフレッドが忍びの地図というものを渡してくれたので、僕とステフはホグズミードに行ってみることにした。滅入っていた気分も吹き飛ぶような心地である。

 

忍びの地図にはステフはとても驚いていた。なんでもこんな複雑で優れたものは見たことがないとか。

 

二人で透明マントに包まって、抜け道を通って行く。ステフの花のような主張の強くなく、仄かに甘い匂いが僕の鼻腔をくすぐった。

 

抜け道はどうやら相当長いらしく、僕とステフは囁くようにして話していた。

 

「ハリー、そういえば最近ハーマイオニーが人狼についてかなり勉強しているようですが、課題でも出されたのですか?」

「人狼について?」

 

確か、スネイプが宿題を出していたが、結局ルーピン先生の計らいで課題は無くなったはずである。

 

「課題出てたけど結局無かったことになったんだよ」

「そうなのですか。私たちは五年生でOWL対策で最近勉強会を開いているのですが、集中できるといってハーマイオニーもよく勉強会に参加するのですよ」

 

ハーマイオニーが今年はよく勉強しているのは知っているが、まさか上級生の勉強会に参加するほどとは……。

 

「今年は去年より勉強してるんじゃないかな」

「三年生になると科目が増えますからね。ですが多少は息抜きさせた方がいいですよ。詰め過ぎはよくないですから」

「伝えておくよ」

 

暗がりの中を二人で会話しながら進んで行く。

 

「ハリー、あくまで噂なのですが」

「なに?」

 

先ほどよりもやや固い声に変わっている。僕も少し緊張しながら答える。

 

「何でも『殺人鬼シリウス・ブラックが脱獄したのはハリーを狙っているからだ』と聞きましたが、本当ですか」

「そんな噂流れてるの?!」

「当人には意外と流れてこなかったりするものですから。それが悪いものなら尚更。知らないのも無理はないかもしれませんね。それで本当なのですか?」

「……うん。シリウス・ブラックは僕を狙ってるって色んな人から聞いたよ」

「そうですか……」

 

相槌をうってから、しばらく無言に二人ともなり、暗い抜け道の中にただ歩く音だけが響く。それから言いづらそうにしてステフは切り出した。

 

「だとするとホグズミード行きは少し危険だったかもしれませんね」

「…………あ」

「シリウス・ブラックがいる外は危険ですから。ですが何かあったならすぐに私に知らせてくださいね。私があなたのことを吸魂鬼からもシリウス・ブラックからも守ってみせますよ」

 

ステフはそう楽しそうに、頼もしそうに笑った。やがて抜け道も終わり、僕たちはハニーデュークスに到着した。そして駆けるようにして地下室を抜け出す。ハニーデュークスの中は様々なお菓子で満ち溢れていた。甘い砂糖の匂いが広がっている。感動していると、ステフに袖を引っ張られた。

 

「ハリー、私を連れて来てくれてありがとうございます。私は劇団の人達を見つけたのでそちらに向かいますね。くれぐれも一人になっては行けませんよ」

 

透明マントの中で軽くステフは感謝のハグをして、僕の元を去っていった。僕もロンたちを探そう。

 

 

 

 

* * * * *

 

 

 

俺たちはホグズミードに行かずにどうやってピーターを捕まえるか思案していた。

 

「さて、今後どうやって奴を捕まえるか」

「できれば生け捕りがいいわよね。シリウスを無罪にするためにも」

「だけどどうするの?ロンを部室に呼び出すとか?」

「いや、それは無理だろう。おそらくだが、既にピーターはシリウスがノワールだということに気がついてる」

「でもずっとロンが持ってるからなぁ。部室にロンを誘うとその時だけ逃げ出すし、それ以外ではフレッドとジョージ以外接点あんまりないんだよな」

 

はぁと四人でため息をつく。基本的にずっとロンが連れて歩いてるのはハーマイオニーが愚痴を言ってるから知っているのだが、汽車の中だか校内だかどこで見られたのか知らないがピーターはシリウスがノワールだと見抜いているようだった。

 

「あなたは何か案がありますか?ギル先生」

 

ちらりとここにいる5人目、我らが劇団エリュシオンの顧問であるギルデロイ・ロックハート先生に声をかける。

 

そもそもなぜ彼がここにいるか端的に言うと、彼にノワールがシリウス・ブラックだとバレてしまったのである。

 

先日深夜に部室に集まって今日のように話していたのだ。今後の方針や、ノワール、俺、エリスが動物となり城の中や校外などを探した結果をお互いに話し合っていたのだが、その日たまたま夜遅くまで執筆していたギル先生は資料の一部を部室に忘れたらしく取りに部室まで戻ってきてしまった。そしてノワールがシリウスの姿でいるところを見られてしまい、慌てて失神呪文で気絶させたのだった。

 

どうしようかと俺たちが悩み、結果ルーピン先生に忘却呪文をかけてもらおうとしたのだが、元々ギル先生は忘却呪文の暴発で記憶を失っているので、そこに重ね掛けした結果なにが起きるか分からないというエリスの意見で記憶の消去は行わずに事情を説明することにした。

 

事情を説明し、理解してくれたギル先生は俺たちに協力すると言ってくれた。もしもこれが記憶を失う前のギルデロイ先生ならおそらく騙し討ちでもして自分が捕らえたフリでもしてただろう。

 

エリスがノワールがいない時に教えてくれたのだが、ギル先生の記憶を消さなかったのは別の理由があるという。いわく、「もしも、最悪ピーターが捕まらなかった場合、シリウスはノワールとして生活するか、身を隠す必要があるわ。そうなった場合ステフの元で、犬の姿をしてるとはいえ、自分の親と同い年くらいのおっさんを暮らさせるのは完全に事案よ。それに私がそんなこと絶対に許さない。だから捕まらなかった場合はギル先生にシリウスをノワールとして匿ってもらうわ。ステフは私が説得させるから」とのこと。

 

確かに人間の姿で考えてみたら完全に犯罪である。確かにそこは考えていなかったが、仮に捕まったとしてもステフに何と説明すればいいのだろうか。そこも気がかかりである。ちなみにもしステフが説得に応じなかったら去勢させるらしい。流石に同情である。

 

「ふむ。そうだね、こういう時に一番役立つのは人海戦術なのだろうが、私たちは人数が少ない上に、仮に劇団の生徒たちに事情を伏せてピーターを探してもらったとしてもネズミでは見つけることが難しいだろう」

「ネズミっていうのがまた面倒だわ。小さいし、城に大勢いるもの」

「全く忍びの地図を作ったときには役だったというの……に………あ!?」

「そうだ!!忍びの地図だ!!」

 

急にルーピン先生とノワールが立ち上がり歓喜した。

 

 

 

 

 


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