魔法のお城で幸せを 作:劇団員A
ハリーは困っていた。ルーピン先生に吸魂鬼対策に魔法を教えてもらって少しずつ前進して僕には心配事が1つ減っていたのだが、別の面で心配事ができてしまった。ロンとハーマイオニーである。
スキャバーズがいなくなったことや、ファイアボルトを分解されたことのせいでハーマイオニーとロンの友情は最悪といっていいほどの状況となっていたのだ。そんな胸中でもルーピン先生との吸魂鬼対策は続いていく。
「それじゃ、準備はいいかい?」
「はい、大丈夫です」
僕が返事をすると、ルーピン先生が箪笥を開ける。するとボガードが箪笥から出てきて、吸魂鬼へと姿を変えた。ぐらりと体から力が、幸福感、生命力が吸い取られるのを感じながら意識が遠のいていつもの悲鳴が聞こえる。僕は必死にこらえながら考えうる限り幸せな記憶を呼び起こして呪文を唱えた。
「エクスペクト・パトローナム!!……エクスペクト・パトローナム!!……エクスペクト・パトローナム!!」
何度も呪文を唱えるが今日も何もできずに意識が遠のいていった。女性の悲鳴と、初めて聞いた男性の叫び声。おそらく両親のものと思われる声を聞きながら僕は倒れた。
「……リー、ハリー!!」
自身の名前が呼ばれることを聞きながら僕の意識は浮上した。どうやらまた気絶してしまったようだった。どうして僕はこんなに吸魂鬼に弱いのだろうか。
「ハリー、大丈夫かい?」
差し伸ばされた手を掴み、引っ張りながら立ち上がらせてもらった。すぐさまチョコレートが差し出されてそれを口に含む。食べながら、無意識に出ていた涙を拭った。
「父さんの声を初めて聞こえました……。多分ヴォルデモートから母さんと僕を逃がそうとしたときの……」
「ジェームズの?」
「? ルーピン先生は父を知ってるんですか?」
「ん、あぁ。それでハリー今日はまだ続けるかい?この呪文は13歳の魔法使いには荷が重いものだ。無理に習得しようとしなくてもいいんだよ」
「やります!!やらせてください!!僕、これ以上みんなの前で倒れたくないです!!それにクィディッチの試合もある!!」
「そうか。じゃあその前に少し休憩しようか、今日はもう一人特別講師として呼んでいる人がいるんだ」
特別講師?先生だろうか?ならば一体誰だろう、スネイプではないことを祈るばかりである。すると、コンコンとドアがノックされた。
「ちょうどいいタイミングだね。開いてるよ、どうぞ」
ドアが開いて入ってきたのは最悪なことにスネイプであった。おそらく僕の表情は今まさに蒼白となっているだろう。
「おや、セブルスどうしたのかね?」
「私は伝言をしにきただけだ。明後日だろう。例の薬は机に置いておいた」
「そうかい。ありがとう」
「フン。それでミス・グリーングラス、案内は済んだ。私はもう行かせてもらおう」
「ええ、ありがとうございます」
去っていったスネイプの背中からひょっこりとエリスが姿を見せる。ノワールも一緒だ。パタンとドアが閉じて一人と一匹は入ってきた。
「こんにちは、ハリー、ルーピン先生」
「やぁエリス」
「こんにちは、エリス。不躾ですまないんだがなぜ君がここに?アイクを呼んだつもりだったんだが」
「アイクはどうやらバックビーグ、もといヒッポグリフの審問会対策と劇団の準備で忙しいようだったので私が代理として来ました。ノワールはついて来たがっていたので」
そう言ってエリスは微笑む。とことことノワールは僕に近づいて来て足元をウロウロしている。尻尾は元気よく振られていた。
「そうかい。確か君も守護霊の呪文を使えるんだよね?」
「ええ、ステフやアイクたちと練習しましたので、エクスペクト・パトローナム」
言いながら杖を振るい呪文を唱えると銀色のカラスが現れてぐるりと教室を一周して空に溶けるように消えた。こうも簡単にやられると少し自尊心が傷つく。
「それじゃ練習を始めましょうか」
エリスはそう言いながら杖を振りながら丸いテーブルとイス、ティーポットとカップを用意し始める。なんでお茶会の準備をし始めたのだろうか。守護霊の練習は?
「ハリー、ルーピン先生、どうぞ」
「ええっとエリス、僕たち練習するんだよね」
「ええ、もちろん」
「ふむ、なるほど。ハリー席につこうか」
え、と驚いているとルーピン先生がイスに座ったので僕も続いて席に着いた。どういうつもりなのだろうか。ノワールが僕の椅子の近くに大人しく座り込んだ。
「それじゃハリーお話ししましょう」
「え?」
「出来るだけ楽しかった思い出をね。守護霊を作り出すには必要でしょう?はっきりと話したり、言葉に出すことはとっても重要よ」
ここでようやく目的を僕は理解した。僕は早く作ろうと焦っていたが、そのせいで僕の幸福な記憶というのははっきりしていなかったかもしれない。
「分かった。ええっとそうだね、僕が最初に幸せだなって思った記憶はね……」
少しずつだが、語り始めた僕を二人は微笑ましそうに見ていた。
* * * * *
「あ、あと最近だと、ステフと一緒に茶碗蒸しって料理を食べたのが楽しかったよ」
「チャワンムシ?不思議な響きだね」
「あらステフの手料理を食べれたの?良かったわね、彼女の料理は美味しかったでしょう?
「それでどんな料理なんだい?そのチャワンムシってものは」
「えっと、見た目は何だかプリンに似てて……」
二人はとても聞くのが上手で僕はスラスラと楽しかった記憶や幸福だった思い出を話すことができていた。かなり長い間話していたようで、エリスが最初に用意したティーポットもすっかり冷めてしまったようである。僕の話も一区切りつき、今度は実際に試してみることになった。
お茶会のために出していたものを全てしまって、タンスの正面に僕は立った。杖を握る手にじんわりと汗が滲む。
「用意はいいかい?」
「はい、先生」
「いい?集中することが重要よ、頑張って」
「わかったよ、エリス」
「いくよ、3……2……1……0」
開かれたタンスから靄が湧き出してくる。それはやがて僕の恐怖心から一体の吸魂鬼へと姿を変えて襲って来た。僕は体から力が抜けて、精神から幸福が消え去っていくのを感じた。どんどん力が抜けてしまい、再度失敗してしまいそうになるが、僕は先程までの会話を思い出して記憶に集中する。初めて魔法使いと分かったこと、箒に乗ったこと、スニッチをゲットしたこと、鏡に映った両親を見たこと、ステフと料理を一緒に食べたこと、ホグズミードでロンとハーマイオニーとバタービールを飲んだこと。様々な楽しかった記憶や嬉しかった思い出を力に変えて呪文を唱える。
「エクスペクト・パトローナム!!」
叫ぶように唱えると僕の杖先から銀の靄が出て吸魂鬼との間に壁をつくあげ、やがて壁は一体の牡鹿に姿を変えた。吸魂鬼は怯えたように、タンスへと急いで戻っていった。へたりと僕はその場にしゃがみ込んで、体から力を抜くように息を吐く。……できた。僕、出来たんだ!!
「先生!!エリス!!ぼ、僕、今!!」
「素晴らしい、素晴らしいぞハリー!!」
力が抜けた僕にルーピン先生が近づいて来てバンバンと肩を叩かれた。エリスも微笑んでパチパチと拍手してくれている。ノワールが嬉しそうに吠えながら近づいて来た。
僕は初めて呪文が成功した喜びを胸に抱えて談話室へと戻っていった。
* * * * *
「ハグリッド氏、それでヒッポグリフに対する安全策は充分であったと言えますかね」
「えーと、それはですな、えっとハーマイオニー」
「ハーマイオニーに助けを求めないでください。ダメですよ、ちゃんと覚えなきゃ」
バンバンとステフが机を叩く。その迫力に負けたのかハグリッドは大きな体をしょんばりと曲げている。
「ステフ、少し休憩しましょう。これだけきっちりと調べたんだから最悪資料を審問会で見せれば対応できるはずよ」
「そうだな、俺ぁお茶淹れよう」
「クールダウンして、ステフ」
「ふぅ……。すみません、少し熱くなりすぎました」
机の上に広がっている山のような資料をハーマイオニーと二人でまとめて、飲み物が置けるだけのスペースを作る。これら全てはバックビーグを処刑から回避するために集めた資料である。これらは全て俺たちが協力して集め、それから質問を予想して、ちゃんと反論できるようにまとめたものである。
日程も決まり、俺たちは資料の整合性を確認して、続いてハグリッドがちゃんと裁判で喋れるように練習していた。
「すまねぇ、ステフ。俺が頭悪くてちゃんと覚えられなくて」
「いえ、すみません。こちらもヒートアップしてました。少しずつでもいいのでやっていきましょう」
「大丈夫だよ、ハグリッド。カンペとかも作れるし、それにステフのハードルが高いだけで最初に比べたらかなり進歩してるから」
コポコポと音を鳴らしながらお茶が入れられる。
「そういえばハグリッド、当日はどんな服装なの?魔法世界の正装ってどんなものかしら」
話題を変えようとハーマイオニーが疑問を言う。確かにここにいる3人はみんなマグル出身のため魔法世界については疎い。
「あぁ、これだ」
そう言いながらタンスから引っ張り出したのは毛のもこもこした巨大な茶色の背広とやぼったい黄色と橙色のネクタイだ。となりからプチリと何かが切れた音が聞こえた。
「ハグリッド!!」
バンとイスを倒すような勢いでステフが立ち上がり、ビシッと取り出した洋服に指さす。
「私が新しい背広とネクタイを用意します!人間というのは内面が大事ですが、外見というのは内面の一番外側です!少なくとも軽んじられないような服装にすべきです!!」
またもや迫力に負けたように仰け反るハグリッド。
「ステフってこんな人だったかしら?」
「服と動物には情熱がすごいから」
「二個ある地雷を同時に踏み抜いたのね」
俺たちはそんな様子に疲れたように溜息をついた。
* * * * *
深夜。再び俺たちは集まっていた。パトロールの結果と方針会議である。今日も今日とて見つからなかったのだ。
「ふむ、どうしたものか」
「ハグリッドの小屋も今日調べたけど見なかったよ」
「となるともしかしたら常時移動しているのかもしれないな」
「最悪なことに、噂だけどシリウスに対する『吸魂鬼の接吻』の許可がもうすぐ下りるかもしれないわ。魔法省にいる親戚のコネで聞いたの」
はぁぁと重いため息が静かな部室に満ちる。それから3人でああでもないこうでもないと色々と潜伏地の候補を上げる。
「どうしよ、このまんま見つからなかったら」
「もしや私はこのまま犬の人生を送らなくてはいけないのか……」
「そうなる場合は去勢するわ」
「なに!?」
「それは流石にやめたげようよ」
ノワールにとっては深刻な話をしていると部室のドアが開いて、この場にいなかったルーピン先生とギル先生が入ってくる。
「どうですか?手がかりとか解決策とか思いつきました?」
「いやピーターに対するものは特に見つからなかったよ」
「だが私たちに案があるのだ。いや、正確に言うと私たちではなくギルデロイ先生なのだが」
「いや、あるにはあるのだ。それもかなり前から考えていたものなのだが。しかし本当に良いのかね。これはおそらく君を……」
「構わないさ。今まで助けてくれた友の汚名を晴らすためだ」
二人だけで話が進み、置いてきぼりになる俺たち。えっと前にもあった気がする。
「ルーピン先生がそういうならば良いだろう。軽い決断ではあるまい。みんな、私には案があるのだよ」
「えっと、どんなものですか?ギル先生」
「ことわざがあるだろう。『ペンは剣よりも強し』と」
そう言いながらポンと机にあるものが置かれた。