魔法のお城で幸せを   作:劇団員A

8 / 43
ハーマイオニー視点です


才学非凡

ホグワーツ特急が停車して、生徒たちが次々と降りていく。

私たち一年生は大男に誘導されてひたすら歩き続け、最後に角を曲がると大きな黒い湖のほとりに出た。

目に入ってきたのは物語の世界でしか見たことがないような、いや、もしくはそれ以上に壮大かもしれない城が、堂々とそびえたっていた。本で読んで知っていたけどやっぱり実物は壮大だわ。

案内に従って大広間に入ると星や月の光を映し出した満点の夜空を彩る天井が目に入った、あまりの景色に思わずため息が零れた。本当に来たんだ、アイクが楽しそうに話していたホグワーツ、お伽話のような魔法の学校に。私の胸にはゆっくりと、実感が湧き上がってくるようだった。

 

 

 

* * * * *

 

 

 

一年生は大広間にて次々と名前を呼ばれ帽子を被される。アイクも教えてくれなかったし、テストでもあって組み分けされると思っていた私はすこし安心した。……予習も散々したのに無駄になった気がしてそれは残念だったけど。あの帽子はおそらく被せられた人間の資質や才能を見抜く魔法道具なのだろう。そう推測をたてる。魔法道具は不思議なものがいっぱいあるし、用途も多種多様だとアイクは言っていた。ドキドキしながら待っていると、私の名前が呼ばれた。

 

「グレンジャー・ハーマイオニー!!」

 

心臓の鼓動がいっそう高まり、ワクワクしながら前へと歩く。用意された椅子にちょこんと座ると帽子が被せられた。思い込みだと思うけど、周りの視線が自身に集中しているような気がする。

 

「ふむふむ、ほう。君は聡明で、知識に対する好奇心も強いな。だが一方で勇敢で挑戦する心も満ち溢れている」

「レイブンクローかグリフィンドールかということかしら?」

「さよう。どうしたものかね。どちらに対しても資質が十分にある」「それで私はどっちになるのかしら」

「少し待ってくれ。うーむ、ほうほう。君は周りと付き合うのがあまり上手くないな。君は良き友人を望むかい?それとも知識の探求を望むかい?」

 

帽子によって出された提案に対して、私は迷った。友をとるか、知恵をとるか……。

今まで私には友達が少なかった。勉強のほうが楽しかったし、そんな私は稀有な存在であったから、あまり関わろうとする子はいなかったのだ。その少ない友達もアイクが仲介してくれた子が多かった。だから

 

「知識も欲しいけど、それよりも私は友達が欲しいわ」

「わかった。ならば君が入るべきは、グリフィンドール!!」

 

わぁっと拍手が起きて寮が発表される。ちらりとハッフルパフの方を見ても当然アイクは見つけられない。私は楽しい気分で赤い人々がいるテーブルへと向かった。席に着くと上級生たちが歓迎してくれる。

 

「おめでとう、ようこそ!私たちのグリフィンドールへ!」

「ありがとう!私、グリフィンドールかレイブンクローに入りたかったの!とっても嬉しいわ!」

 

にこにことした女子生徒が話しかけてくれた。

 

「とっても賑やかな寮よ。退屈しないと思うわ。レイブンクローは真面目な子が多いけど、ちょっと個人主義が強かったり仲間意識が弱いのよね」

「そう、それならグリフィンドールで良かったわ。私、お友達が欲しいもの!」

「そうよね。学校生活は楽しくなきゃ!」

「ええ、とっても楽しみだわ」

「ふふ。……ねぇ、ところであなた苗字ってグレンジャーよね?」

「?はい」

「ハッフルパフのアイザック・グレンジャーってお兄さん?」

「はい、そうですよ」

 

なぜアイクの名前が出てくるのだろう。アイクは有名人なんだろうか。だとしたら良い方向か悪い方向どっちに有名なのだろう。アイクはよくホグワーツについて話してくれたが、よくよく考えたら私が質問したのは授業や魔法、道具や薬についてとかであんまりアイク自身の話は聞いていない。

 

「あなたのお兄さんには毎年楽しませてもらってるわ」

「え?どういうことですか?」

「あら、知らないの、えっとね」

「「なぁ、アンジェリーナ」」

「俺たちの悪戯は楽しくないのかい?」

「いつも賑やかになるだろう」

「うるさいわね、あんたらのそれは私自身が巻き込まれたら腹立たしいからプラマイゼロよ」

「「ちぇっ」」

 

そっくりな二人の赤毛の男子生徒が私たちの会話に割って入ってきて、それから私はアイクについての質問するタイミングを失い、そのまま話は流れてしまった。アイクがどうしたのかしら。聞きたかったわ。

その後、ホグワーツ特急でも会ったハリーポッターがグリフィンドールに入り、大広間が沸いたりして、宴は過ぎていった。

 

 

 

* * * * *

 

 

 

それから私のホグワーツでの学校生活は始まった。色々な授業を受けたけど、予習や理論を叩き込んでいた私には死角はなかった。

色んな授業では先生から褒められたし、たまには加点してもらったこともあった。

このように私は明るく学校生活を送っていた。……学業面は。

 

友達の方はあんまり、というよりも全くできていなかった。同室の女の子ともあんまり喋らなかったし、そもそもその子は別の子たちと仲が良いみたいでよく遅くまで話していたりしていた。それ以外にも私が完璧に答えたり理解している横で、「あの問題難しかったね」「私もわかんなかった」とか話しており彼女たちとの差を感じた。

 

そんな少し心苦しい学校生活を送っていたある日、ホグワーツ全体の色々な廊下や教室に配られていたポスターに突然イラストが現れた。今まで真っ黒なポスターであり、疑問に思っていたがどうやら魔法で書かれているようである。暗い背景に真っ白なホグワーツ城と月が描いてある。全体的に朧げな輪郭であり、たまに流れ星が流れていた。そのポスターには文字が書いてあった。

 

『来週の土曜日、中庭にて今年も儚くも美しい夢の世界へと誘います 劇団エリュシオン

時間はこのポスターにて後日発表します』

なんだろうかこれは。確かエリュシオンとは神話に出てくる理想郷だったはず。劇団ということはホグワーツで劇でもやるんだろうか。私が読んだ本にはどこにもそんなことは書いていなかった。

疑問に思いつつ周りを見ると寮を問わず賑わっていた。

 

「やっぱり今年もやるんだね〜」

「楽しみだわ」

「どんな演目だろうな」

「冒険譚がいいな」

「いやいや、恋物語でしょ。儚い雰囲気にぴったりでしょう」

「そうかな、戦闘で崩れていくのも圧巻だよね」

 

がやがやと口々にみんなが感想を述べていた。そんなに有名なのだろうか、ちらりと他の一年生を見ると同様に疑問符が頭に浮かんでいた。そんな私たちの様子に気がついたの上級生たちが解説をしてくれた。

 

「二年前にあるハッフルパフの生徒がはじめたことでね、チョークの粉を使って背景や人物を描いて、物語を描くものなの。幻想的でとっても感動するわよ」

「しかも始めたのは一年生だしなぁ。そのこと知ったときびっくりしたわ」

「去年のホグワーツ特別功労賞を授与されてたてよね」

「そうだったね」

「だから去年は我らがハッフルパフは二位だったのだ!!」

「結局スリザリンには負けてるじゃないの」

「うるせぇ!」

 

賞を授与?どれだけ素晴らしいものだったのかしら。どうやら私と同じ疑問を持った人が居たらしく、質問する。

 

「賞を授与ってそんなにすごい劇だったんですか?」

「あぁ、それはそれは素晴らしいものだったよ」

「馬鹿ね、劇自体が良かったから贈られたわけじゃないわよ」

「え?」

 

劇に贈られた賞じゃない?じゃあ一体何が原因でその生徒に賞は贈られたのだろうか。

 

「あれ、違ったの?」

「ぶっちゃけその理由でも問題ないような出来だったけどね」

「違うわよ、彼が賞を授与したのはね、ホグワーツでも数少ないことに()()()()()()()()からよ」

 

四寮を結束?そんなにすごいことだろうか。聞いた感じ賞が授与されるほどの偉業には思えない。そんな私の考えが顔に出ていたのか、話していた生徒に目をつけられた。

 

「な、なんでしょうか。私別に何も言ってないですよ」

「いえ、あなたマグル出身かしら?」

「は、はい。そうですけど……」

 

ぐいっと詰め寄られておずおずと頷く。一体どうしたんだろうか。

 

「なら、分からなくても仕方ないわね。これがどれだけ難しいことか。劇という一つの建前があったとしても、掲げている物が異なる四つの寮が協力するなんて滅多にありえないことなの!例えばどことも対立してないハッフルパフがレイブンクローとかグリフィンドールと協力することならあり得ると思うし、個人主義のレイブンクローがグリフィンドールやスリザリンと手を組むことは考えることくらいはできるわ。二つの寮や三つの寮が助け合うことならあり得るでしょう。でもね、犬猿の仲のグリフィンドールとスリザリンまでも巻き込んで四つの寮が一つになるなんて起こりえないもの!!」

 

凄い熱を持って演説するようにレイブンクローの人が話す。それに賛同するように拍手がわき起こった。なんだろうかこの熱意。というか良いように演説のダシに使われただけな気がしてきた。

 

でも実際私は興味を持った。これだけの人々に楽しみにされる物が一体どんなものなんだろうか。是非とも土曜日観に行こう。私はそう決意した。

 

 

 

 

 

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。