泥の錬金術師   作:ゆまる

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泥沼

「おい、聞いたか?焔の錬金術師がこの辺まで来てるんだと」

 

とある集落の家の中で、褐色肌の男たちが円になって地に座っている。

 

「焔の……って1人でハロン地区を落としたっつーあのバケモンか!?ど、どうすんだ!ここにはまだ逃げきれていない老人と子供がいるんだぞ!」

 

「ああ、おしまいだ……」

 

赤い目を見開き、頭を抱える男たち。焔の錬金術師とは、爆炎を操る錬金術師。指を鳴らすだけで、離れた場所にいようが関係なく燃やされる。すでに何百人、下手をするともっと、焔の錬金術師はこの男たちの同胞を焼き殺していた。

 

「ヤケになるな!光明はまだある!」

 

しかし1人の男が立ち上がり、拳をぐっと握る。

 

「なんだ?あのバケモンを殺す手立てでもあんのか?」

 

「ああ、なんでもあの錬金術師……雨だと爆発を起こせないらしい」

 

「なんだと!本当か!?」

 

「ああ、実際昨日も今日も爆発を見たという話は聞かない。信憑性は高いだろう」

 

昨日から降り続けている雨のおかげで、軍は火薬をあまり使ってこない。素手での戦いを得意とするこの褐色肌の民族にとって、これは追い風とも言えるだろう。

 

「それが本当なら……」

 

「ああ、これは好機だ」

 

「仕留めれば、軍にとっては大きすぎる痛手になるだろうな」

 

先ほどまで消沈していた男たちの顔は明るくなり、皆次々と立ち上がった。その目に宿るのは、憎しみ。同胞たちを焼いた化け物に、自分たちを追い詰めている軍隊に、血の鉄槌を下してやるという決意。

 

「奴も自陣の奥に引っ込んでるだろうが、だいたいの場所の見当はついている。俺たちで一斉に突っ込めば、充分に可能性はある」

 

「ああ、このままここで死を待つよりは、ずっといい……」

 

「よし、奴らに目に物見せてやる……!!」

 

「「「我らにイシュヴァラ神の加護を!」」」

 

皆が作戦を練るためにもう一度座ろうとして……

そして、男たちが()()()。比喩ではない。

地面に足がズブズブと飲まれているのだ。

硬かったはずの地面がいつの間にか泥のように柔らかくなっていた。

 

「な、な、なんっだこりゃあ!?」

 

「雨のせいか!?」

 

「雨で地面がこうなるわけねぇだろ!」

 

「とにかく引き抜けぇ!!」

 

当然黙って沈むわけにはいかず、足を必死に引き抜こうとする。

しかしぬかるんだ地面はまるで底なし沼のように男たちの足を離さず、既に腿まで飲み込んでいる。

 

「くそ!だめだ!」

 

「どうなってんだぁ!!」

 

「何か、何か掴めるものは……」

 

周りを見渡した男が息を飲む。

地面に沈んでいるのは男たちだけではなかった。

部屋の隅にあったツボ、食器、食料は、もはやそれがあったという形跡もなかった。

そこでようやく気づく。

建物ごと沈んでいるのだと。

 

「この、家全部……沈んでやがる……」

 

「はぁ!?この下の地面全部泥になったってことか!?んなバカなことがあるか!!!」

 

「…………自然現象じゃありえない、ということは人為的なものか」

 

「人為的ってそれこそありえるか!!家の下の地面を丸々作り変えるなんて出来るやつがいるとでも……………おいまさか!!」

 

「……国家、錬金術師……!!」

 

泥はもはや、男たちの顎下にまで達していた。

 

「くそ、くそくそくそ!!バケモンがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

その叫びを最後に、男たちの姿は見えなくなった。

 

 

ーー

 

 

「いやはや、さすがは国家錬金術師殿ですな!!こんなに早く制圧してしまうとは、あの焔の錬金術師にも勝るとも劣らない…」

 

「……なぁ、これで仕事はしただろ?帰っていいか?」

 

「え?ええ、ええ!しばらく本陣で待機せよ、とのことです!」

 

「んじゃ帰るわ。報告はまかせた」

 

そう言い残して去っていく男を尻目に、兵士たちは数分前まで集落が()()()場所を見やる。

 

「いや、しかしマジでとんでもないな。焔のといい、紅蓮のといい、国家錬金術師てのはみんなこんな規格外れなのか?」

 

「さぁな、少なくともこの芸当はあの人しかできんのだろう。なんせあの人の二つ名は

 

 

 

 

『泥の錬金術師』

 

 

 

 

だからな」

 

兵士たちの視線の先には、集落全てを飲み込んだ、巨大な沼が出来ていたのだった。

 

 




初めまして。初めて筆をとらせていただきました。
ハガレンを読み返していたら感情が高ぶってしまい、書き始めてしまいました。
頭に浮かんでるシーンを文字にするのってすごく難しいですね。
連載してる人たち皆尊敬します。
すでに心は折れかけていますが、頑張ります。
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