泥の錬金術師   作:ゆまる

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見舞

いつかどこかの、だれかの記憶。

 

「約束?」

 

「ああ、約束は守らなきゃいけないものだ。絶対に守りなさい。できないと思った約束はしないこと」

 

「わかった!」

 

「じゃあ最初の約束だ。『約束は守ること』」

 

「約束は、守ること!約束!」

 

それは、誓いか。それとも、呪いか。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「ぃよお、色々あったそうだな」

 

ここはセントラルの病院。マーシュが、エドワードは二日ほど入院すると聞いたので、お見舞いにきたところ、受付でヒューズ中佐が声をかけてきた。半分はエドワードのお見舞い、半分は研究所の件の事情聴取だろう。二人とも目的地は同じため、並んで歩き出す。

 

「ん、マースか。まぁ、俺の方はちょっと女に刺されかけただけだ」

 

「おいおい、付き合う女はちゃんと選べよ。俺の嫁さんを見習え!グレイシアなら何が起きても俺を刺したりしない!いや、だがグレイシアになら殺されてもいいな……。いやいや、エリシアちゃんを置いて死ぬわけには……!あぁっ!泣くなエリシアァ〜〜〜!!」

 

「丁度よかった、ここは病院だ。頭診てもらえ」

 

「ハッ、家族への愛の熱を!生涯治療する気は無いぜ!?」

 

自慢気に笑うヒューズ中佐の言葉を、マーシュは呆れた顔で流す。

ふとヒューズ中佐が真面目な顔になる。

 

「それで、エドの怪我は大丈夫なのか?第五研究所の爆発に巻き込まれた、としか聞いてないんだが」

 

「んー、骨とかを少しやられたぐらいだと思うぞ。多分目が覚めたらピンピンして……」

 

『そんな牛から分泌された液体なんぞ飲めるかー!』

 

『飲まなきゃ大きくならないよ兄さん!』

 

『だからあんたチビなのよ!』

 

『だぁれがミジンコドチビかぁーーー!!!』

 

エドワードの病室の中で、期待通りぎゃいぎゃいと騒いでいるのを聞いて、二人は顔を見合わせて笑う。

 

「よぉエドワード!病室に女連れ込んでるって!?」

 

「不純異性交友はお父さん認めませんよ!!」

 

扉を開け放つやいなやヒューズ中佐とマーシュがエドワードを全力でからかいにいく。

それを聞いてエドワードがベッドから転げ落ちた。

ちなみにベッドの隣にはウィンリィとアルフォンス、ブロッシュ軍曹、ロス少尉が立っている。

アルフォンスはエドワードが目を覚ましてからすぐに直したようだ。

 

「機 械 鎧 整 備 士!!あと誰がお父さんか!!」

 

「そうか整備士をたらしこんだか」

 

「避妊はちゃんとしろよ」

 

「〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!」

 

「傷口開くよ兄さん」

 

マーシュとヒューズ中佐の同時攻撃に、エドワードが言葉にならない呻き声をあげながら頭を抱えて悶絶。

これ以上は傷に障ると思ったのか、ヒューズ中佐とマーシュも追い討ちは自重した。

 

「あー……ウィンリィ、このおっさんはヒューズ中佐」

 

「ウィンリィ・ロックベルです」

 

「マース・ヒューズだ、よろしくな」

 

ウィンリィとヒューズ中佐は初対面のため、軽く自己紹介をしてから握手を交わした。

 

「仕事はいいのかよ」

 

「心配御無用!!シェスカに残業置いてきた」

 

「鬼か」

 

「こんな上司だけは持ちたくねぇな」

 

グッと親指を立てるヒューズ中佐を見て、この部屋にいる全員がシェスカへ同情した。

 

「今日来たのはお前さんの見舞いともうひとつ。もうじき警戒が解除されそうだ。護衛も解けるぜ」

 

「本当!?やーっと解放されるよ!」

 

「もう無茶はダメだからね」

 

「全く、結局一人になっちゃ少佐がついていった意味がないでしょうに……」

 

「う、は、反省、してます」

 

ジト目で睨むブロッシュ軍曹とロス少尉にたじたじするエドワード。先ほども軽く説教されたようだ。

 

「護衛!?あんたどんな危ない目にあってるのよ!」

 

「い、いやまぁなんだ!気にするな!」

 

「……そうね。どうせあんたら兄弟は訊いたって言わないもんね」

 

ウィンリィがエドワードに詰め寄るが、エドワードは目をあらぬ方向に逸らす。わかっていたかのように、ウィンリィがひとつため息をついた。

 

「じゃあまた明日ね。あたしは今日の宿を探しにいくわ」

 

「そうだ!なんならうちに泊まってけよ!」

 

「えっ?でも初対面の人に迷惑かける訳には……」

 

「気にすんなって!うちの家族も喜ぶ!よしそうしようそれでいこう」

 

「ちょっとーーーーー…………」

 

瞬く間にウィンリィはヒューズ中佐に引きずられて病室を出ていった。

 

「人さらいかあのおっさんは…」

 

アルフォンスが何かを思い出したかのように手を叩く。

 

「あ、そうだマーシュさん!聞きそびれちゃってたんですけど、マーシュさんももしかして錬成陣なしで錬成できるんですか?」

 

「なに!?マーシュもアレを見たのか!?」

 

「ん?アレってなんだ?錬成陣なしの錬成なんてできねーぞ俺は」

 

「え、でもノーモーションで錬成してましたよね?」

 

「んー、まぁ、見たほうが早いな。ほれ」

 

そう言ってマーシュが靴の裏側をエドワードたちに向ける。

その靴の裏には模様がビッシリと書かれていた。

 

「これは……錬成陣か」

 

「なるほど、靴の裏に……。つまり足がついていればそれで錬金術を発動できるのか」

 

「そういうこった。俺の錬金術との相性も良いし、あと楽だ」

 

「マーシュの錬金術って?」

 

エドワードが聞くと、

マーシュが何も言わずエドワードの前に置かれたトレーから牛乳を掴み、ゴクゴクと一気飲みする。

 

「あ、ダメだよマーシュ、兄さんに飲ませないと!」

 

「いやいや気にすんな!あーだけどマーシュが全部飲んじまったら俺もう飲めねぇなぁ!」

 

嬉しそうなエドワードを傍目にマーシュが牛乳の空き瓶を手から離し、瓶が床へと落下していく。

 

「!?何やって…」

 

エドワードとアルフォンスは頭の中で、数瞬後に床とぶつかり粉々に砕け散るガラス片を想像する。

しかし瓶はまるで池にでも落ちたかのように、チャポンと音を立てて床に沈んでいった。

 

「こういう錬金術だ」

 

マーシュが床に手を突っ込み、瓶を引きずり出す。そしてトントンと床を足でならした。

アルフォンスがさっきまで瓶が沈んでいたあたりの床を手で叩くが、床からは固いものの感触と音しか返ってこなかった。

 

「地面の液体化……いや、地質の変化か?一度分解して成分を変えた?水分……」

 

マーシュの錬金術の構成を、エドワードがぶつぶつと呟きながら考察し始める。

 

「さて、あんまり病室に居座るのも何だしそろそろお暇するか。アレックスがそのうち来るみたいだから、その時にまた情報を整理しようぜ」

 

うんうんと唸っているエドワードを背に、マーシュが病室を出て行く。

そして、すぐに戻ってきた。

 

「忘れてたエド、ほれ、お見舞い品」

 

そう言ってマーシュは、先程飲み切った瓶の倍の大きさの牛乳をエドワードの目の前にドンと置いた。

 

「え"」

 

「牛乳飲んだら背が大きくなる、とは言えないが体に良いのは確かだ。飲め」

 

「うん、飲もうね兄さん」

 

「イヤじゃーーーーー!!!!」

 

「先程からうるさいですよエルリックさん!!」

 

堪忍袋の緒を切らした看護婦さんによって、エドワードはお説教と牛乳を食らうことになるのだった。

 

 

ーーーーー

「それで、こいつに蹴られた後は覚えてない」

 

「賢者の石の錬成陣、ウロボロスのタトゥーを入れた少年と女性とデブ、鎧に魂を定着させられた囚人……。ただの石の実験にしては謎が多いですな」

 

「今や研究所はガレキの山だしなぁ」

 

エドワードの病室に集まったマーシュ、アルフォンス、ヒューズ中佐、アームストロング少佐は、先日の研究所での情報を共有した。

女と太っちょの情報は、アームストロング少佐の代々伝わりし似顔絵術で写真と見紛うほどの絵画付きだ。

 

「女の方は多分図書館燃やした犯人だ。名前はラスト。偽名かはわからん。それとそいつら、多分かなり人を殺してる。殺そうとすることに抵抗がまるでなかった」

 

「すごい切れ味の爪が自在に伸びて襲ってきました。太い奴は、すごい力で、執拗に少佐やマーシュを食べようとしてました」

 

マーシュとアルフォンスがそれぞれの情報も伝える。

どちらも、死の危険を充分過ぎるほどに感じたことも。

 

「軍法会議所で犯罪リストでも漁るか?」

 

「我輩はマルコー氏の下で石の研究に携わっていたと思われる者たちを調べてみましょう」

 

ヒューズ中佐とアームストロング少佐がこれからの方針を決めようとしていると、病室にノックの音が響いた。

そして、病室に入って来たのは眼帯をつけ軍刀を携えた初老の男性だ。この国で、この男を知らないものはいないだろう。

 

「キング・ブラッドレイ大総統!!!???」

 

「ああ静かに。そのままでよろしい」

 

「何でここに!?」

 

「何ってお見舞いだよ。ほれメロン」

 

「あ、ども……じゃなくて!!」

 

「君がマーシュ・ドワームス君か。会うのは初めてだな。イシュヴァールの活躍は私の耳まで届いておったよ」

 

「……どうも」

 

マーシュが軽く会釈する。だがその目はブラッドレイ大総統から離さない。

 

「……軍上層部を色々調べているようだなアームストロング少佐。私の情報網を甘く見るな。そしてエドワード・エルリック君。『賢者の石』だね?」

 

ブラッドレイ大総統の言葉にエドワードが体を震わせる。

アームストロング少佐も冷や汗をかいているようだ。

 

「どこまで知った?場合によっては……」

 

場に静寂が訪れる。誰も言葉を発することもできないプレッシャーが大総統から放たれる。そして数瞬の後、

 

「冗談だ!そうかまえずともよい!」

 

大総統の笑い声によってその静寂が破られた。皆一様に呆けている。

 

「軍内部で不穏な動きがあることは知っている。どうにかしたいとも思っている。だが……」

 

大総統が、アームストロング少佐が調べてきた、賢者の石の研究者の名簿を手に取りパラパラとめくる。

 

「この者達全員行方不明になっているぞ。第五研究所が崩壊する数日前にな。敵は常に我々の先を行っておる。そして私の情報網をもってしてもその大きさも目的もどこまで敵の手が入り込んでいるかも掴めていないのが現状だ」

 

「つまり、探りを入れるのはかなり危険である……と?」

 

「うむ」

 

大総統がエドワードたちのほうに向き直り、一人ずつ順に顔を見ていく。

 

「ヒューズ中佐。アームストロング少佐。エルリック兄弟。マーシュ・ドワームス君。君たちは信用に足る人物だと判断した。そして君たちの身の安全のために命令する。

これ以上この件に首を突っ込むこともこれを口外することも許さん!!」

 

また大総統からプレッシャーが放たれる。有無を言わせない迫力が、大総統の言葉にはあった。

 

「誰が敵か味方かもわからぬこの状況で何人も信用してはならん!軍内部すべて敵と思いつつしんで行動せよ!

……だが!時が来たら存分に働いてもらうので覚悟しておくように」

 

大総統がニッコリと笑うと同時にその場の空気が弛緩した。

そしてアームストロング少佐とヒューズ中佐は慌てて敬礼する。

 

「「は…はっ!!」」

 

「閣下ーーーっ!!大総統閣下はいずこーーーっ!」

 

「む、いかん、うるさい部下がきた。仕事を抜け出してきたのでな。それでは、失礼」

 

廊下から響いてきた声から逃げるように、ブラッドレイ大総統は窓から出て行った。

 

「………………嵐が去ったな」

 

「いやほんと、びっくりした……どうした、マーシュ?」

 

マーシュが、いまだブラッドレイ大総統が出ていった窓を険しい顔で見続けている。

 

「いや……なんでもない」

 

「……?」

 

そこで、扉からウィンリィが入ってくる。手には封筒を持っている。

 

「エドー、頼まれた切符買ってきたよー」

 

「おうサンキュー」

 

「む、もう行くのか。まだ怪我も治りきっていないだろうに」

 

「ここにいたら毎日牛乳を飲まされる……。明日には中央をでるよ」

 

エドワードがマーシュを恨めしげに横目で見ながら封筒を開け、切符を確認する。ちなみにマーシュは今日も牛乳を見舞い品に持ってきた。

それをヒューズ中佐が横から覗き込む。

 

「どこいくんだ?ダブリス?」

 

「えっとね、このあたりだね。南部の真ん中」

 

「師匠に会いにいくんだ」

 

アルフォンスが資料の中から地図を持ってきて広げ、指差した。

それを見ていたウィンリィが突然大声をあげる。

 

「あー!!ダブリスの手前!ラッシュバレー!!機械鎧技師の聖地!!ずっと行きたかったの!!私も行く!」

 

「いや、勝手に行けばいいだろ……」

 

「誰が私の旅費払うのよ」

 

「たかる気か!」

 

「つれてってつれてってつれてってつれてけ!」

 

「いいんじゃない?ついでだし」

 

「別に金にも困ってないんだろ?」

 

「しゃーねーなー」

 

アルフォンスとマーシュに言われ、仕方なくといった様子で受け入れるエドワード。

 

「じゃばっちゃんに電話してくる!」

 

「元気だね〜」

 

「いい嫁さんになるぞ。俺の嫁さんほどじゃないけどな」

 

「あーあんな嫁さんを貰えるやつは幸せなんだろうなー。なぁ?」

 

「オレに言うな!!そしてさり気にのろけんな!!」

 

ーー

 

ヒューズ中佐とアームストロング少佐も仕事に戻っていき、病室はマーシュとエルリック兄弟だけとなった。

 

「あ、そういえばマーシュはどうするの?ダブリスに一緒に行く?」

 

「ん?んー、俺は中央に残るわ。お前らのお師匠さんに興味はあるけどな」

 

「そっ、か。じゃ一旦お別れか」

 

「また会えたら協力してやるよ。元の身体に戻ること、諦めてないならな」

 

「ったりめーだ!」

 

「ならよし」

 

ニカリと笑うマーシュを見て、エドワードが少し目を伏せる。

 

「……マーシュはさ、なんで……」

 

「ただいまー、ばっちゃんの許可ももらったよ!」

 

エドワードが何かを言いかけたタイミングで、ウィンリィが電話を終えて戻ってきた。

エドワードが口をつぐむ。

 

「おお、おかえり。んで、なんだエド」

 

エドワードに向き直り、言葉の続きを促すマーシュ。

 

「ん、なんでもない」

 

取り繕ったように笑うエドワードを、マーシュは不思議そうに眺めるのだった。




だいぶ間が空いてしまいました。ごめんなさい。言い訳はしません。
このところリアルが忙しいとか、主人公の過去編を長々と書いていたとか、それが気に入らなくなって全削除したとか、ストック切れたから遅くなるっていったしセーフだよねとか、言い訳はしません。
これは私の技量不足のせいでございます。

そしておそらく次もかなり遅くなると思います。
次の話あたりから、かなり原作から逸脱することになるので、
どないしよかなと思ってる次第です。

楽しみにしてくださっている皆様には申し訳ありませんが、
どうか気を長くしてお待ちください。
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