泥の錬金術師   作:ゆまる

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捕獲

いつかどこかの、誰かの記憶。

 

「……まさか俺の錬金術を使えるようになってるとはな。研究室に忍び込んだか?」

 

「いや、ほら、たまたま!野ウサギを追ってたらいつの間にか、ね!?」

 

「不思議な穴に落ちたら、本がいっぱいあったから、軽く読んでみただけっていうか、ね!?」

 

「怒っちゃいない。その歳で、二人ともこのレベルの錬金術が使えるんだ。すごいな、お前ら」

 

「うぇ?……え、へへへ……」

 

「だがな、この錬金術は危険なシロモノだ。約束しろ。『人間には絶対に使わない』、と」

 

「「え、なんで?」」

 

「……お前らには錬金術より倫理を教えとくべきだったな」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「っ……!まずイ、気絶していタ!」

 

グラトニーに殴り飛ばされ、壁に叩きつけられて一瞬気絶していたリンが目を覚ました。

バケモノたちはどこかと見回すと、遠くに見えるのはグラトニーに頭を掴まれたマーシュ。

どう見ても殺される一歩手前だった。

 

「ぐ、マーシュ!」

 

友人を助けようと駆け出そうとするリンだったが、体が思うように動かない。

フラフラとした足取りで、前に進む。

早く行かねば、マーシュが殺される。

賢者の石の情報源として、出来たばかりの友人として。

マーシュを殺されるわけにはいかなかった。

 

「マー、シュ?」

 

そのマーシュが、グラトニーに頭を掴まれたまま、ポケットに手を突っ込んでいる。

この状況でカッコつけているのか。いや、何かを取り出す……違う、何かを手にハメたのか。

会話しているのは、時間稼ぎか。

 

血が流れ出る頭をフル回転させて、マーシュが何をするのか推測しようとするリン。

おそらく、マーシュには何か手がある。

なら、自分がすることは、マーシュを助けに行くことではなく。

 

ーー

 

グラトニーの腕を掴むマーシュ。

 

それを意にも介さないグラトニー。グラトニーの意識は、目の前の肉にしか向かっていなかった。だから、マーシュの手に先ほどまでなかった手袋がはめられていることに、気づかない。

 

「…………人造人間は、セーフかな?」

 

「? もう食べていいわよ、グラトニー」

 

「いっただっきまーす」

 

グラトニーの口が大きく開き、

 

そして。

 

ボトリ、とマーシュの体が地へ落ちた。

 

 

 

頭と胴は、繋がっている。欠けている箇所はない。

 

代わりに繋がっていないのは、グラトニーの腕と体だった。

 

「うぎ、ああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

「っつー……あー、頭いてえ」

 

悲痛な叫び声をあげるグラトニーを横目で見つつ、

頭にくっついたままの、グラトニーの腕を引き離し放り投げるマーシュ。

グラトニーの、先がなくなった肘から、ドロリと液体が垂れていた。

端的に言うならば、()()()()()

 

「グラトニー!?何をしたの!!」

 

「地面を泥にするのと同じだ。人間だって、液体になるんだぜ?」

 

「でもあなたの錬成陣は靴の裏のはず!地に触れてもないのに……」

 

「持ってるよ、常に。錬成陣書いた手袋をな」

 

マーシュが、錬成陣が書かれた甲の部分をひらひらとラストに見せる。

 

「そんな物いつの間に……!だけど、それも潰せばいいんでしょう!?」

 

「そうだな」

 

またも伸びてくるラストの爪。

マーシュはグラトニーの残っている腕を掴み、引っ張りよせる。

盾にされたグラトニーに、ラストの爪が突き刺さる。

泣きながら腕を再生途中だったグラトニーの顔面を爪が貫通し、

目をぐるんと回してまた絶命した。

 

「……なかなかひどいことするわね」

 

「外道には外道ってやつ?」

 

損傷範囲が小さかったからか、グラトニーがすぐに傷を塞いで復活し、マーシュへと腕を振るう。

 

マーシュはまるで先ほどのお返しだとでも言わんばかりにグラトニーの頭を掴み、そして、錬金術を発動した。

 

グラトニーの頭がドロリと溢れ落ちて、頭蓋骨が裸になる。

 

すぐに再生を始めようとするグラトニーの頭を、マーシュは掴んだまままた錬金術を発動する。

グラトニーの頭が、再生した端からまた溶ける。

 

「マルコーはさ、賢者の石は限界があるって言ってた。なぁ、こいつは後何回使()()()壊れる?」

 

ラストの顔が焦りと怒りに染まる。つまりマーシュは、グラトニーの賢者の石の限界まで、頭を溶かし続けると言っているのだ。

正確な数は分からないが、グラトニーの賢者の石に余裕はあまりないだろう。

 

「その前にあなたを殺すわ」

 

勿論、それを黙って見過ごすわけがない。

ラストがまた高所からマーシュを狙って爪を振り下ろそうと

 

したところで、ラストが空中へと飛び出した。

 

「なっ……」

 

「俺もいるってこと、忘れないでほしいナ」

 

いつの間にやら上まで登ってきていたリンが、ラストを後ろから蹴り落としたのだ。

 

「ぐっじょぶリン!」

 

ラストの落下予測地点の地面を、泥に変えるマーシュ。

ここにハマれば、もう人造人間側に勝ち目はない。

 

「っ……まだよ!!」

 

ラストが爪を伸ばし、泥に変えられていない地面へと爪を突き立てる。

泥の地面を囲むように10本の爪を突き刺し、なんとか空中で留まった。

その姿はまるで長い足を携えた蜘蛛のようだ。

そしてギロリと、マーシュをラストが睨みつけた。

 

()()()()()!!グラトニー!」

 

ミチ、ビチ、ミチリ。

 

何かが裂けるような音が、聞こえてくる。

音の出所は……グラトニー。

正確には、グラトニーの、腹。

 

「な、んっ!?」

 

グラトニーの腹が口までパックリと縦に裂け、飛び出た肋骨の奥から暗闇と目のような何かが覗き込んでいた。

 

まだグラトニーの頭は再生し切っていない、が、

無理やりその体をマーシュのほうへと向けてくる。

 

これは、ヤバい。

 

マーシュが直感し、グラトニーから手を離してなりふり構わず横へ跳ぶ。

 

次の瞬間、マーシュがいた辺りの地面が抉れた。

いや、地面だけでない。その先にあった建物が、型で抜いたかのように丸くくり抜かれていた。

数瞬して、忘れていたかのように、建物がガラガラと崩れ始める。

 

「いやいやいやいやいやいや、嘘だろ!?何したこいつ!!」

 

さすがのマーシュも動揺を隠せないのか、冷や汗を流している。

 

「ただ飲み込んだだけよ。あなたの錬金術でどこまで防げるか、見物ね?」

 

爪を器用に動かし、離れた地面に降り立つラスト。

ゆっくりと話す暇もなく、グラトニーがぐるんとマーシュへ向き直り、また腹が開く。

 

「のむー」

 

「飲むなぁ!!」

 

またも横っ飛びでかわすマーシュ。

しかしマーシュが今いた位置の後ろには、リンがいる建物。

 

また建物の下部に丸い穴が開き、音を立てて真ん中から崩れ始めた。

 

「マズイ!リン!飛べ!」

 

「キッチリ受け止めてよ、ネ!!」

 

崩壊に巻き込まれる前にリンが建物の上から飛び降りる。

そしてマーシュがリンの落下地点を液体に変えた。

ドボンと音がして、水柱、いや、泥柱が上がる。

どうやら五体満足で降りることが出来たようだ。

 

「グラトニー、まずあの糸目から飲んでしまいなさい」

 

が、隙だらけだった。固い地面に上がろうとするリンに、グラトニーが狙いを定める。

 

「リン、早く上がれ!」

 

「人の食事を邪魔するものじゃなくてよ?」

 

「うお!」

 

咄嗟に錬金術を発動しようとするマーシュを、ラストの爪が妨害した。

爪をブンブンと振り回されては、錬金術を発動する暇もない。

 

リンは未だに泥の中、マーシュはラストに妨害され、グラトニーの口はこちらを向いている。

 

詰みだ。

このままでは数秒後にグラトニーの腹の中に収まってしまうだろう。

 

リンの額に汗が流れ、困ったように笑みを浮かべる。

 

「リン!!」

 

「悪いけど、まだ死ぬわけにはいかないんだよネ」

 

 

 

「いただきまー」

 

 

 

グラトニーが言い終わる直前、グラトニーの頭が刃物で貫かれた。

ぐらついたグラトニーの口、というか腹は、あらぬ方向を向き虚空を飲み込んだ。

 

「「若!!」」

 

下手人は、黒装束を着て仮面を着けた二人。一人がグラトニーを警戒し、もう一人がリンの元へ駆け寄り、泥から引っ張り上げた。

 

『助かった、ランファン、フー!』

 

『よくぞご無事で……ところであの化け物はいったい?』

 

『殺しても死なないバケモノだ!あっちの女も!不老不死の手がかりだ、絶対に持ち帰りたい!』

 

『なんと!承知しました、必ずや捕らえてみせましょう』

 

復活したグラトニーがすんすんと鼻を鳴らし、

自分にクナイを向けている黒装束に対して、にんまりと笑った。

 

「おんなのこ?おんなのこはおいしいから、すきー。あ、でものんだら味がわからんー」

 

その異様な雰囲気に、嫌悪感からか黒装束が少し身じろぎ、クナイを物凄いスピードで投げつけた。

クナイはグラトニーの頭にドスッと刺さり、またぐらつく。

 

「リン、何言ってるかよくわからんがそいつらは味方か!?」

 

ラストの爪をかわしながら、マーシュが呼びかける。

 

「俺の部下ダ!実力は保証すル!フー、ランファン!マーシュは俺の友人ダ!今からマーシュに全面協力してバケモノを捕らえるこト!」

 

「「はっ」」

 

「いや待て待て、なんで俺がこいつらを捕まえる流れになってんだアホか」

 

「うわお!?こっちくるナ!」

 

飛びずさりながらリンの近くへきたマーシュ。

当然ラストの爪攻撃も一緒についてきた。

仮面の一人も合わせて、三人同時に大道芸のように爪をかわしまくる。

 

「どうせ臭いでまた追ってくるんだロ!?じゃ今のうちにどうにかしとくべきじゃないかナ!」

 

「ぐぬっ……」

 

「マーシュはあのバケモノをどうにかしときたい。俺たちはできれば女のほうを持ち帰りたくて、それを邪魔するあのバケモノをどうにかしたイ。ほら、目的同ジ!」

 

「あー、うー、んー………………………

 

しゃーねーなー!!おい、そっちの、えー……」

 

「フー」

 

「フー!リンと一緒にこっちの女の相手頼む!」

 

言いながら、マーシュが大きく跳び、もう一人の仮面の方へと向かった。

 

「了承しタ」

 

「わかっタ!」

 

それを後ろから貫こうとするラストの爪を、リンとフーが刀で弾いた。

続けて襲ってくる攻撃を、まるでお互い何をするかわかっているかのような連携で二人は全て弾く。

 

『フー、奴の腕を切り落としにいくぞ』

 

『はい、若』

 

 

 

 

「んで、ランファンとやらは俺と一緒にあの太っちょの相手だ」

 

「……若のために、協力してやル」

 

「そいつぁ結構。奴に隙を作ってくれたら後は俺がどうにかする」

 

「わかっタ」

 

グラトニーの飲み込みを、回避しながら喋るマーシュ。グラトニーの飲み込みは、言うなれば大きな大砲だ。一撃必殺ではあるものの、砲口にさえ気を付ければ回避は難しくはない。

二人いれば、片方が気を引いているうちにもう片方が接近したり攻撃したりできる。

ランファンとフーの援軍により、2対2が4対2になったのは大きすぎるアドバンテージだった。

 

「閃光弾ダ」

 

ランファンが短く伝え、缶のようなものをグラトニーの眼前に放り投げる。

瞬間、カッと周りに閃光が放たれ、グラトニーの目を焼く。

 

「ぐああああああぁぁぁぁあぁ!!」

 

「ちょ、言ってから投げるの早すぎ!ギリギリだっつーの」

 

目を覆って後ろを向いたマーシュが、すかさず地面を踏み鳴らし、グラトニーの足を地面に埋める。

グラトニーは目を押さえながら辺り構わず飲み込み、足には気づいていない。

飲み込まれないよう注意しながら、ランファンが後ろからグラトニーの頭にクナイを突き立てる。

 

「そのまま仰向けに倒れさせろ!」

 

マーシュの指示に従い、ランファンは突き立てたクナイを掴んだまま後ろへ引き下げた。

膝から下が地面に飲み込まれながらも、グラトニーが仰向けで倒れる。

そこにマーシュがまた錬金術を発動する。

足だけでなく、体全体が地面へと沈んでいくグラトニー。

再生して、すぐ起き上がろうとしたが、もはや背中と腕は飲まれた。

腹についた口は、空を飲み込むことしかできない。

 

「うー、うー、やだ、はなせー!はなべー!」

 

手も足も沈んで、顔も沈んだ。

側からみると、地面から生えた口のような何かが空へ向かってパクパクとしているという、奇妙な絵面になった。

 

「一応捕獲だ。油断はするな。俺はリンを助太刀してくる」

 

「……わかっタ」

 

 

 

 

ラストは、焦っていた。

自分には『最強の矛』がある。どんな物でも貫ける。

そのはずだ。そのはずだった。

そのはずなのに、目の前の人間たちはこの矛の攻撃を全て受け流す。

まともに剣で受ければ剣ごと叩っ斬れるこの爪を。

 

さらにお互いがお互いの受け切れない箇所をカバーし合っている。

一人だけならゴリ押しでいつかは殺せたものを、こいつらは受け流しながらもこちらへ向かってくるではないか。

 

このままでは、自分は負ける。

こいつらはこの腕を切り落とし、何らかの方法で自分を捕らえるだろう。

何百年分の経験が、何百年分の智識が、そう言っていた。

 

「……こっちだって、負けるわけにはいかないのよ!」

 

人造人間の誇りか、親への愛か、はたまた別の何かからか。

ラストの攻撃は熾烈さを増す。

なりふり構わず爪を振るう。当たりさえすれば。偶然だろうが何だろうが一撃でも当たりさえすれば、崩せる。

 

だが相対する二人はその偶然すら起こさない。

人間とは思えぬほどの異常な集中力と予測。

まるでラストが次にどう攻撃するのかわかっているかのようだ。

 

汗が、ラストの額をつたう。

一瞬、考えてしまった。自分はこの人間たちをどうやっても倒せないのではないか、と。

最悪の想像は、そのまま隙となる。

 

いつの間にか、剣がラストの目の前に迫っていた。

 

「もらっタ!!」

 

防ごうと出した右腕を、リンの剣が切り落とした。血飛沫をあげながら腕が宙に舞う。

 

「もう一本も、貰い受けるゾ」

 

フーも、続いて残った左腕を攻撃しようとする。が、ふと気づく。

ラストの目が、こちらを見ていない。

宙に飛んだ腕を見ている。

そして、ラストはその蠱惑的な唇を歪め、()()()()()()()()()()()()()

 

「何!?」

 

腕を落とされて気でも狂ったか、と構わず攻撃を続けようとするフー。

 

『フー、上だ!!』

 

その腕を、()()()()()()()ラストの爪が切り落とした。

 

『なっ……!!』

 

「最後の賭けよ。さすがに無機物の軌道までは読めなかったようね」

 

つまり、ラストは空に飛んだ右腕の指の部分だけを切って、叩き落としたのだ。五本の最強の矛が、回転しながら落下。それは即ち、無作為に全てを切り裂く死の刃だ。

 

落ちた右手の爪はすぐに塵となって霧散したが、残った左腕の爪がフーにとどめを刺しに向かう。

フーの刀は、腕と一緒に落とされた。

受け流しは、もう出来ない。

リンのフォローも間に合わない。

 

『フー!!』

 

「ぐ、ヌッ……」

 

心臓へと伸びた爪、しかしそれをフーは回避した。

 

「なっ!?」

 

フーが避けたのではない。

フーは()()()()()

いきなりドボンと。

 

他人が立ってる地面を、いきなり水面のようにすることが出来る者など、この場には一人しかいない。

 

いつの間にかラストの後ろに迫っていたマーシュが、ラストの腕を掴んで足を払い、そのまま地面に叩きつけた。

 

「がっ……!」

 

そして残った左腕と、再生しかけていた右腕を、液体化した地面に埋める。

両腕を地面に囚われたラストに、為す術はない。

 

「見下してばっかいたら、足元すくわれるぞ?」

 

ラストを見下ろしながら、マーシュが告げた。




俺は強欲だからよ
UAが欲しい!お気に入りが欲しい!感想も!☆も!!ランキングも!!ハーメルンの全てが欲しい!!!
あとついでに5000兆円欲しい。


そんなわけで、ツッコミどころが多そうな今話です。

Q.人間って溶けるの?
A.腐敗で溶けることもあるようです。詳しく調べようとしましたが、死体の話や写真でSAN値がゴリゴリ減ったのでとりあえず溶けるってことにしました。

Q.フーリン、強すぎない?
A.戦闘能力でいえば、リンとフーはかなり上位に位置すると私は思ってます。僅かな時間とはいえブラッドレイとも渡り合えるほどの剣術、気を読む力、精神力とか機転とか。加えて、私の中ではラストは、自分の能力への慢心と人間への見くびりから、戦闘能力を磨き上げる努力をあまりしてこなかったのではないか、と見ています。実際どうなんでしょうね、強さランキング。

Q.これからどうなるの?
A.ああ、捕まえてしまった。どうすればいいんだ。
この後どうするか何も考えてないよ……。
そんなわけで次の話は今までで一番遅れそうです。
気長に舞ってください。まだ舞える。

あ、実写版ハガレン見ました。
活動報告のほうに感想書いたので物凄く暇だったらどうぞ。

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