泥の錬金術師   作:ゆまる

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爆発

いつかどこかの、誰かの記憶。

 

「なんでお父さんって、ホントはすごい錬金術師なのに隠してるんだろうね?」

 

「わかんない。国家錬金術師?になればお金いっぱい貰えるのにねー。今よりもーっと良い生活できるよ」

 

「でも、お父さんには多分なれない理由があるんだよ。だからさ、私たちが国家錬金術師になって、お父さんにお金あげよ?」

 

「うぇへ、おっきな家とかドーンとプレゼントしたら、お父さん喜ぶかなぁ!」

 

「喜ぶ喜ぶ!じゃ、約束ね。私たちは、『国家錬金術師になる』!」

 

「うん、約束!」

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

『フー!大丈夫か!?』

 

『申し訳、ありません、若……。とんだ無様』

 

『いい、それより止血だ!』

 

体半分地面に沈んだフーを引っ張り上げ、応急処置を始めるリン。

 

「……感謝すル、マーシュとやラ」

 

「おー、命拾いしてよかったな、爺さん」

 

横で、ラストへ目を向けつつ答えるマーシュ。

グラトニーのように奥の手を隠しているともわからない。

もしかするといきなり全身から針が飛び出すかもしれない、なんて思いながらいつでも対応できるように警戒しているのだ。

 

「……くやしいけど、完敗ね。出来るなら殺してくれる方がありがたいのだけど」

 

「そいつぁ無理な相談だなぁ。せっかく苦労して捕まえたんだ、最大限協力してもらうぜ」

 

とはいっても、ラストは自分たちの不利になる情報はいっさい吐かないだろう。

尋問などもおそらく意味はない。

 

「情報はあのおデブのほうに聞くか……っと、そういやランファンも呼んでやらないとな」

 

仲間の一人が重傷なのだ、知らせてやらねばとマーシュがグラトニーがいた位置に歩を進めようとした瞬間。

 

爆発音が何度か響いた。

 

「!?……ランファンの爆弾カ?」

 

「何か、あった、のやもしれませン」

 

マーシュに様子を見てきてもらおうと声をかけようとしたリンだが、そこでマーシュの様子がおかしいことに気づく。

 

「マーシュ?」

 

「ハ、ハハ……このタイミングでかよ……」

 

そこへ、上からランファンが降りてきた。

降りる、というより落ちるという表現が正しく、受け身すらまともに出来ずにゴロゴロとマーシュの近くへと転がってくる。

体の何箇所かに酷い火傷をして、仮面が外れて素顔が明らかになっている。

 

「リ、ン様……申し訳、あ、りませン……」

 

満身創痍。喋るのもやっとのようだ。

 

「ランファン!?どうした、何があっタ!?」

 

「何があったかは聞かなくてもわかる。ああ、最悪だ。よりによって、()()()か……。リン、フーじい背負ってやれ。全力で逃げるぞ」

 

言いながら、マーシュがランファンを抱きかかえる。

ランファンはすでに気を失っているようだ。

 

「な、何を、言ってル。ここまでバケモノ、たちを追いつめ、たのに、みすみす、逃げろと、いうのカ」

 

「早く処置してやらんとじいさんがヤバイ。リンもわかってんだろ」

 

「……あァ」

 

息を切らしながらマーシュを睨むフーを、リンが背負った。

しかしフーはリンの背中の上で暴れる。

 

「若!こんな爺など、捨て置い、てくださレ!自分の、せいで不老不死を、逃したとなれば、これ以上の、恥はありませヌ!!」

 

「そういうこっちゃねぇんだ。あいつが来た時点で、人造人間を捕えとくっていう選択肢はもう無い。あいつの()()()次第じゃ、逃げることすら難しい」

 

「マーシュが、そこまで言うのカ……!」

 

「だからといって、目の前の、不老不死を見逃せというのカ!」

 

「うっさいフーじい。早く行くぞ。医者には心当たりがある。なんなら腕もくっつけてもらえる。

…………ああ、もう来やがったか、クソ」

 

マーシュが睨む先には、白スーツの男。

 

 

「お久しぶりですね、泥の錬金術師。いえ、マーシュ・ドワームス」

 

 

「キンブリー……!」

 

 

 

紅蓮の錬金術師、ゾルフ・J・キンブリーがニヒルな笑みとともに立っていた。

 

 

 

「保険として一応、ということで遣わされましたが……まさか本当に二人とも捕まってしまうとは、情けない……、いや、この場合は流石泥の錬金術師、というべきなのですかねぇ」

 

「お褒めいただきありがとう、ついでにどっか行ってくれると助かる」

 

ランファンを腕に、いつでも走り出せるような姿勢で、じりじりと後ずさるマーシュ。

 

「おや、つれないことをおっしゃる。こちらはあなたに会えるのをずっとずっと待っていたというのに……!」

 

「俺はずっとずっと会いたくなかった、キンブリー。牢屋にぶち込まれたって聞いたときは小躍りしたくらいだ。人造人間にキチガイっぷりを見込まれて出してもらえたのか?」

 

「ええ、私が力を発揮するための場所と物をくれるというのでね。利害の一致というやつです」

 

「ハ、やっぱ持ってるか………………。走れ!!!リン!!!」

 

リンとマーシュが走り出す。

どちらも人間一人分の重りがあるとは思えないほどの速さだ。

 

だが、キンブリーはわかっていましたとでも言いたげに首をすくめると、地面に手を置いた。

口に、真紅の石を挟んで。

 

 

 

瞬間、起こったのは轟音。

 

 

爆発が、キンブリーの手前の地面からマーシュたちのほうへ、連鎖するように、迫ってくる。

地雷原を誰かが走り抜けたような爆発がマーシュたちを追う。

 

「う、おらぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!」

 

一瞬マーシュが立ち止まり、地面を踏みしめる。

そしてまたすぐ走り出した。

 

ドカンドカンと爆発がマーシュたちを追うが、先ほどマーシュが止まったあたりの地面で、ボシュッと音を立てて、爆発が止んだ。

 

「……!?何をしたのですか」

 

キンブリーが呟くが、すでに声も届かないほどの位置までマーシュたちは走り去っていた。

顎に手を当てていたキンブリーだが、すぐにまた地面に手を置く。

 

「……ふむ、まぁいいでしょう。

 

 

ーーーそれでは、本気でいきますか」

 

次に起こったのは、もはや爆発などと呼べるものではなかった。

先ほどの爆発が可愛く思えるほどの、衝撃。

 

町すら轢き潰しそうなほどの大きな、大きな閃光が、マーシュたちへと向かった。

その光は、マーシュたちのいた場所を通過し、遥か先まで突き進んでいった。どこまで消し飛ばしたのかも、わからない。

後に残ったのは、えぐれた地面だけだった。

 

「ーーーあぁ、良い、良い、良いぃぃぃ!!!!最高ですねぇ、この音!!光!!光景!!!これだからやめられない!!」

 

恍惚の表情を浮かべて仰け反るキンブリー。

その顔は、その姿は、狂気に染まっていた。

しばらく震えていたキンブリーだが、ふと佇まいを戻す。

 

「……ふぅ、しかし、困りましたね。これではマーシュ・ドワームスが死んだか確認出来ない。まぁ、今回の仕事は彼の抹殺ではないですし、構いませんか。生きていたらまたお会いしましょう」

 

それからキンブリーは思い出したかのように、自分の横にいる腕を沈められたままのラストに向き直り、その腕を爆破した。

 

「がっ……!」

 

「向こうの……グラトニー?でしたっけ。彼はもう賢者の石が残っていないようですよ、早く連れて帰ってあげたらどうです?」

 

「…………」

 

ラストは苛立たしげにキンブリーを睨むと、腕を再生しながらグラトニーのほうへと向かう。

 

「ああ、それと。……あまり失望させないでくださいよ、『人造人間』」

 

「……知ったことじゃないわ」

 

 

 

+++

 

「う、おらぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!」

 

時は少し遡って、マーシュたちが走り出したところ。

 

「何をしたんダ、マーシュ!?」

 

()を切った!」

 

キンブリーの能力は、相手の下をいきなり爆破、などということは出来ない。そこに至るまでの線がいるのだ。普段のキンブリーの錬金術は、両手を合わせることにより触れたものを爆弾、もしくはそれに準ずるものに変えるものだが、賢者の石があることにより、遠方の爆破も可能となった。対象までの地面の成分を爆発性の成分へと作り変え、導火線に火をつけるように自分の手元を爆発させる。あとは爆発が敵へと向かっていくというものだ。

マーシュは、自分の足元の地面の成分を適当に弄って、自分たちへと伸びているであろう地面の中のラインを切ったのであった。

結果、その部分は爆発性の成分が消え、爆発もそこで止まったのだ。

 

「よくわからんが、爆破を止められるなら勝てるんじゃないのカ!?」

 

「今のはお遊びレベルだったから止められたんだ!次、本気のがくるぞ!!」

 

走りながら後ろを確認するマーシュ。

キンブリーが、徐ろに地面に手を置くのが見えた。

 

「リン!お前、泳げるよな!?」

 

「ハ!?何を言ってるんだこんな時ニ!」

 

「今から()()から、限界まで下に潜れ!!」

 

「ハ???」

 

マーシュが、自分の上着を脱ぎランファンの口と鼻のあたりを覆うように結ぶ。

そしてリンの腕を掴み、足を踏みならした。

瞬間、立っている感覚が消え、いきなりドボンと肩まで地に浸かる。

 

「ちょっと我慢してくれ、ランファン!いくぞリン!」

 

「あァァァァーーーもウ!!やればいいんだロ!?息を吸えフー!」

 

「は、ハッ!」

 

決死のダイビング。

下へ、下へと潜る。

その後、大きな地面の震えとともに、自分たちのすぐ上を()()が通り過ぎていった。

 

互いの顔は見えないが、腕の感触からしてお互い無事であることを確認する。

安堵する間もなく、マーシュがリンの腕を引っ張りながら地中を泳ぐ。

10秒ほど泳いだ後、マーシュが地上へと浮上した。

 

浮上した場所は、どこかの建物の中。

おそらく先ほどの爆破の直線ルートをギリギリ逃れた建物だろう。

 

「ぶはァ!!無事か!?無事だな!?」

 

「ゲホッ、ゴボッ、ハァ……ハァ……」

 

「地面の中を泳ぐなんて経験、初めてだヨ……」

 

「ありがとう、ございます、若……」

 

全員が五体満足であることを確認してから、マーシュがランファンの容態を確認する。

上着を巻いたからかあまり水、というか泥は飲んではいないようだ。

 

「全速力で隣の村へ向かうぞ」

 

「ああ、案内してくレ」

 

「申し訳、ありませン、若……。我らが、力及ばぬ、ばかりニ……」

 

「寝てろじーさん。生きてりゃいくらでも挽回のチャンスはあるだろうよ」

 

 

ーーーーー

 

「傷のほうは治ったよ。なくなった体力までは回復できないから、しばらくはここで休むといい」

 

「ありがとウ、恩に着ル……!」

 

ここはドクターマルコーの家。

民間人の車を盗ん、いや貸してもらい最高速で到着した。

マルコーはマーシュを見て少し驚いたが、怪我人を見ると顔を変え、すぐに治療に入ったのだった。

 

「マーシュにも、感謝すル。マーシュが協力してくれていなければ、全員死んでいタ」

 

「ま、俺が巻き込んじまったしな……。それに、友達は見捨てることが出来ないんだ、俺」

 

「……俺は良い友人を持ったナ」

 

フーとランファンを看てくると言って、リンは二人の病室へと向かった。

机の上の菓子をポリポリと食べながら、マーシュがマルコーに座るよう促す。

 

「そんでな、マルコー。もともと俺はアンタに会いにこのあたりまできてたんだ。途中で人造人間に襲われたのは想定外だったけどな」

 

「私に会いに……?」

 

「俺たちは国民全員を賢者の石にする計画を知った。そんで今はその計画を阻止するために動いてる」

 

マーシュの言葉に、マルコーが目を見開く。

 

「なっ……!自力でその計画に辿り着いたのか!さすがは泥の錬金術師、だな……」

 

「いや、優秀な友達のおかげでな。そんで、アンタにも協力してほしい。できれば中央まで来てくれると助かるんだが……」

 

マルコーは俯き、体を震わせた。

 

「それは、できない。私が勝手にここから離れた場合、この村を潰すと脅されている」

 

「……もう、手が回ってたか」

 

「すまない、私も自分がしてきた過ちの償いはしなくてはならないと思っている……!だが、この村は、身分も本名も、素性を全く明かさなかった私に良くしてくれたんだ。ここの人たちを、傷つけたくはない……!」

 

顔を覆い声を荒げるマルコーに、マーシュは宥めるような口調で返す。

 

「ああいや、無理には連れてかねえよ。今のアンタにとって、この居場所が何より大事なんだろ?」

 

「……国を救うことよりも、自分の罪を償うことよりも、この村ひとつを選んだ私を、責めないのか?」

 

「自分の大事なものを守ろうとして何が悪いんだ?俺も別に国を救いたいわけじゃない。()()()()を守るために動いてるだけだ。アンタとそう変わらねえよ」

 

マルコーの選択が当然である、何故そうまで悩んでいるのかわからないとでも言いたげに、不思議そうな顔をするマーシュ。マーシュの言葉に、マルコーは少しの間口を開けていたが、やがてフッと肩の力を抜く。

 

「……そうか。はは、そうか。ありがとう、だいぶ、心が楽になった気がする……」

 

「? そりゃよかった。

あ、人造人間の情報をくれないか?アンタなら色々知ってることもあるんじゃないのか?」

 

「ふむ、そうだな……。紙にまとめて書いて、あとで渡す。君も奴らと戦って疲れてるだろう?少し休むといい」

 

「んー、だな、じゃ少し寝るか」

 

ソファで横になり、目を閉じるマーシュ。疲れが溜まっていたのか、すぐに寝息を立て始めた。

 

ーーー

 

「もう行くのか?」

 

「あまり長居して人造人間側に場所がバレても嫌だしな。リンたちはまだ残っててもいいんだぞ?」

 

「マーシュは奴らに狙われてるんだロ?つまり、マーシュについていけばまた奴らと接触できるってわけダ。今度は逃さないヨ」

 

「もう無様な姿はお見せしませン……!」

 

ゴゴゴ、とやる気が満ち溢れている様子のフーとランファン。

ちなみにフーの腕はくっつき、問題なく動作しているようだ。

賢者の石を使った治療のおかげなのだが、リンたちにはそれは知らされていない。ただマルコーの錬金術が凄いという話になっている。

 

「そうか。重ね重ね、ついていけなくてすまない。これが、私が知っている限りの、奴らについての内容だ。役に立てばいいが……」

 

マルコーが、まとめられた紙の束をマーシュに手渡す。

 

「サンキュ。本当に助かった。また会おうぜ、マルコー」

 

「ああ。君たちの勝利を、祈っている……!」

 

四人を乗せて、車が進む。運転手はマーシュ。

目的地は、中央だ。

 

 




何にも縛られず、誰のためでもなくただ書く。
それが心地良い。
ああ……やっと辿りついた……。

てなわけで思ったよりも筆が進んだので早めの更新です。
キンブリー書くのやっぱ難しいですね。
キンブリーの錬金術は調べてもあまり詳しく分からなかったので勝手に解釈しました。詳しく追求したりするのはホント化学とかわかんないので許してください。何が爆発するとか知らん知らん。

次の更新が多分一番遅くなりそうですね、はい。
といってもこの予想も当てにならないことがわかったので、もう適当だと思ってください。

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