昼下がり、雨が降る町で2人の男が走り回っていた。
1人は褐色銀髪、サングラスをかけた男。額にバツ印のような傷がついている。
もう1人は、白シャツの上から薄緑のジャケットを着た、黒髪の若い男だ。名を、マーシュ・ドワームス。
「大人しく裁かれろ!泥の錬金術師!!」
そんな言葉とともに、褐色の男が右手を振るう。
「裁かれるわけないだろアホか!!」
そう返しながら、マーシュが横っ飛びでかわす。
傍から見ると、ただ褐色の男がマーシュを捕まえようとしているだけのように見えるが、実際はマーシュの命がかかっているのである。
褐色の男の右手は触れたものを問答無用で破壊するらしく、掠ることすら許されない。
「なーんでこんなことになっちゃったかなー……」
マーシュが、全力で走りながら呟いた。
ーー
話は数十分ほど前に遡る。
マーシュは町の通りを、ホットドッグをかじりながら歩いていた。
目的は特になく、ブラブラと町を散歩していたのだ。
(あ、雨降ってきた……。どっかで雨宿りすっかなー)
適当な珈琲屋にでも入って、今日ものんびりと時間を過ごそうか。
そんなことを考えながら、良さげな場所を探していると、
突如近くから悲鳴があがった。
反射的にそちらを見ると、褐色銀髪の男が軍人の頭を掴んでいる。
軍人からは一目で致死量とわかる血が顔中から溢れており、どう見ても下手人はあの褐色の男だった。
(白昼堂々殺人……。関わらないのが吉だな、うん)
即座にそう判断したマーシュは来た道を引き返そうと踵を返す。
ここで宿屋に帰れたのなら、今日の彼の残りの予定はベッドでゴロゴロするだけになるはずだったのだ。
背中を向けたマーシュに後ろからぶつかったのは、小柄で赤いマントを纏った金髪の少年。
そして、それを追いかけてくる大きな鎧、続いて褐色の男。
「わりぃ、大丈夫かアンタ!?にゃろう、こんな街中でおっ始めるかフツー!?」
おそらく褐色男から逃れるために走っていたのだろう。小柄とはいえ、不意打ち、そしてかなりのスピードでぶつかられたためマーシュは前のめってべしゃりと転んでいた。
「あー、いや、大丈夫だ。それより早く逃げたほうがいいんじゃないか?」
くるりと仰向けになり、顔を向けてマーシュが言う。あの殺人鬼のターゲットはおそらくこの少年。気の毒ではあるが、早くどっかに行ってくれという気持ちでいっぱいだった。
「ほんとにわりぃ!!」
「兄さんがすみませんでした!!」
そう言い残して少年と鎧が猛スピードで駆けていく。
続いて褐色の男もそれを追いかける……はずだった。
褐色の男が、道の真ん中であぐらをかいているマーシュの前でピタリと止まる。その目は、マーシュの顔を凝視していた。
ちなみに雨の中なので、マーシュはパンツまでビショビショである。
「貴様……まさかマーシュ・ドワームスか?」
「……いやぁ人違いだろう。俺はアックァ・ウォルター、しがない配管工さ」
「いや、貴様の顔を見紛うはずもない。貴様は、国家錬金術師、マーシュ・ドワームスだな!?」
咄嗟に適当な名前と職業を言ったマーシュだったが、通じなかったらしい。嫌な予感がビンビンしつつマーシュはゆっくりと、あぐらを解き、すぐに走り出せる体勢へと変える。
「ハッ、ハハハッ!!今日はなんと良き日か……!あの、泥の錬金術師を神の御元へと送ることが出来るとは!!」
言い終わるや否や、褐色の男がマーシュに右手を伸ばす。
しかし逃走体勢を整えていたマーシュには届かず、右手は空を切る。
「大人しく裁かれろ!泥の錬金術師!!」
「裁かれるわけないだろアホか!!」
かくして、彼の今日の予定は命がけの鬼ごっこに変更されたのだった。