泥の錬金術師   作:ゆまる

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虎視

いつかどこかの、誰かの記憶。

 

 

 

父が死んで、三年が過ぎた。死を受け入れるには時間がかかったが、たった一人の家族の存在が互いに救いになった。……救いになったと、思っていた。

 

自分たちはいっそう錬金術にのめり込み、その実力を伸ばしていった。二人で協力して、新しい錬金術を作ることにも成功した。二人なら、この先も生きていける。父が死んだ悲しみも、癒え始めている。……癒えていると、そう思っていたのに。

 

時折一人でどこかに消える家族のことを、不思議に思いながらも目を逸らしていた。頭のどこかで気づいていながらも、気づかない振りをした。だって、約束したのだから。何よりも、大切な、約束。

 

その日もいつもと同じように、どこかに消えた家族。いや、消える前に確か何か言っていた。何だったか。

とにかく、その日いつもと違ったのは、夕食の時間になっても家族が帰ってこなかったことだ。不思議に思って、家の中を探した。

家族の部屋、自分の部屋、物置、地下倉庫、資料部屋。探して回って、最後に残ったのが、父の研究室。なんとなく、あの日から一度も入れないでいる。でも、探さないわけにはいかない。たった一人の家族だ。

ノブに手をかける。

 

『やめろ』

 

ゆっくりと回すと、音を立てて扉が開く。

昔はよく入り浸っていた、この部屋。まだ、タバコの匂いはするだろうか。

 

『開けるな、やめてくれ』

 

扉が開き、タバコではない匂いがふわりと広がる。

 

『止まれ、見るな、頼む、やめろ!!』

 

そして、中の様子が目に入る。

 

 

赤だ。

 

 

床が、赤色に染まっている。紙に書かれた何かの錬成陣も、真っ赤だ。真ん中には、人体模型のようなものが倒れている。

錬成陣の横にあるのは……これも人体模型だろうか?頭だけなくなっている。

こちらは自分の家族が着ていたものにそっくりな服を着ている。

あぁ、自分の家族は、人形を作ろうとして失敗したのか。ついでに何か薬品を零したか。それが後ろめたくて、自分のもとに顔を出さないのだ。まったく。

 

 

 

 

そんなわけが、ないのに。

 

一目見て、わかってしまった。

床に溢れているのが血だということも。人体錬成の錬成陣も。それに失敗したであろうことも。

それでも、現実から目を逸らさないと、どうにかなりそうだった。

 

「ねぇ、ちゃっ、約束、って、いったっじゃんかぁっ……!!」

 

膝をつき、嘔吐。涙も嗚咽も止まらない。

たった一人の家族は、頭を無くして死んだ。

何故?それは、父の言うことを守らなかったから。

 

『「約束は、まもる、ぜったい」』

 

 

 

 

 

「……あ"ー、最高の朝だな」

 

 

ーーー

 

 

エドワード、アルフォンス、グリードの三人はリオールへとやって来ていた。エドワードの「錬成陣があるとすれば地下」という推測に基づいて、地下への道がありそうなコーネロ教主の教会に行くためだ。

 

あちこちで修繕作業が行われているリオールの様子を見て、エドワードとアルフォンスが顔を少し俯かせる。

そんなエドワードの頭上から声がかかる。

 

「暗い顔してどうした、お二人さん」

 

聞き覚えのある声に二人がパッと顔を向ける。

 

「「マーシュ!?」」

 

「おおエド、しばらく見ない間に縮んだか?」

 

「だぁぁぁれぇぇぇがぁぁぁ縮がるるるぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

「人間の言語忘れてるよ兄さん」

 

「よし、本物だな」

 

アルフォンスにどうどうと宥められながらもフシューと威嚇するエドワードを見て、マーシュは腕を組みながらうんうんと頷く。

 

「うえ"、てめぇは……」

 

「ん?……リン!リンかー!?」

 

「ちげーよグリードだっての」

 

グリードを見て顔を綻ばせるマーシュと、マーシュを見て顔を(しか)めるグリード。

 

「あー、あーそうか。んで、なんでそのグリードがエドたちと一緒にいるんだ?」

 

「話せば長いことながら……」

 

「んー、とりあえず俺の仕事がひと段落するまでそこらへんで待っててくれ」

 

「え、ちょっ」

 

そう言うとマーシュは近くにあった丸太を抱えるとスタスタとどこかへ行ってしまった。

入れ替わるように一人の女性がエドワードたちに声をかける。

 

「エド!!アル!」

 

「ロゼ!」

 

「わぁ、久しぶりね!まだ旅してるの?」

 

「まぁ、そんなところだ」

 

「あ、よかったらそこで一緒にご飯でもどう?あまり良いものは出せないけど……」

 

その言葉に、エドワードが申し訳なさそうに目を伏せる。

 

「……悪い。俺たちがコーネロにちょっかい出したから街が……」

 

「……ううん、あなたたちのおかげよ。あのままだったら、私たちは死も恐れない軍団とやらにされていたかもしれない。……暴動が起こったのは、奇跡なんかに頼って自分たちで何も考えようとしなかったツケが回ってきたの。だから今度は、奇跡なんかに頼らずに皆で手を取り合って街を復興させる」

 

くるりと一回転して、踵を鳴らすロゼ。

 

「立って歩いて、前へ進んでるわ。私たちには立派な足がついてるんだもの。……なんてね」

 

楽しそうに笑うロゼを見て、エドワードが照れたように頬を掻く。

 

そして目を逸らした先に、見たことがある顔が視界に入ってきた。

 

「ホーエンハイム!?」「父さん!」

 

「……ん?ああ、エドワードと……俺の鎧コレクションか。久しぶりだなぁ」

 

「軽いッ!!」「アルフォンスだよッ!」

 

「あぁ……ピナコから聞いてる。人体錬成したんだって?」

 

「っ……、てめぇが!!母さんを置いてったから!!最後まで母さんは、てめぇを……!」

 

エドワードの声を聞きながらも、ホーエンハイムのその目線は違うところに向いていた。アルフォンスがその目線を追うと、そこにはホーエンハイムをじっと見つめるマーシュがいるのだった。

 

「……あぁ、わかっているさ」

 

「っなにがわかってるって!?なにもわかって……」

 

「エドワード、アルフォンス。少し長くなるが、聞いてほしいことがある」

 

ーー

 

「ん、おーいエドアルー。待たせたな」

 

マーシュがエドワードとアルフォンスに手を振る。が、二人は少し呆然としているようで反応が薄かった。

 

「あ、あぁいや……」

 

「……大丈夫」

 

「ホーさんは?」

 

「……向こうで泣いてる」

 

「おおう、マジか。……とにかく、ロゼんとこいって飯でも貰ってこい。情報交換タイムはその後にしよう」

 

「おう……そうする。いこう、アル」

 

マーシュに肩を押され、エドワードは街の方へ歩いていく。しかしアルフォンスはその場に立ったままだ。そして、マーシュをその瞳のない目で見つめた。

 

「……マーシュ、ありがとう」

 

「んー?何のことだ?」

 

「父さんのこと。多分だけど、父さんに何か言ったんでしょ?」

 

「家族には誠実にな、って言っただけさ」

 

「……そっか」

 

「おーいアルー!何してんだー!置いてくぞー!」

 

「じゃあまた後で、マーシュ!」

 

遠くで手を振るエドワードのもとへ走っていくアルフォンス。それに手を振るマーシュ。

 

 

 

 

 

 

「……重ねちまうなぁ、どうしても」

 

マーシュが頭を掻いて、地面を足でなぞった。

 

ーー

 

「……おい、アル?」

 

「……………………あっ、うん」

 

アルフォンスがガシャガシャと頭を振る。

飯も食べ終わり、今まで得た情報をマーシュがエドワードたちに伝えている最中。先程まで相槌を打っていたはずのアルフォンスが、何も反応しなくなったのを心配してマーシュが声をかけた。

ちなみにグリードは合成獣組と一緒に談笑している。

 

「どうした?」

 

「……マーシュにも言っておかないとね。この体に、拒絶反応が出てるんだ。魂が、ボクの元の身体に引っ張られてる」

 

「マジか。つまりそのうち魂がポーンと飛び出ちまうのか」

 

「う、うん。その表現はどうかと思うけど。それで、最近意識が遠くなることが頻発してる。その間は記憶もとんでるし。なんとかもたせないと……」

 

「……なぁ、ふと思ったんだが。アルの記憶とかってどこに保存されてるんだ?」

 

「え?」

 

「俺と会った記憶。一緒に戦った経験。そういうの、どこに蓄積されてるのかと思ってさ」

 

ガタンとエドワードが立ち上がる。

 

「そうだ……。確かにおかしい。なんで今まで気付かず……!」

 

「これは?」

 

「それはあくまで魂を定着させるだけの印だ。

 

つまり、アルの肉体はどこかに存在していて、今も活動して脳は働いている!」

 

「……エド、人体錬成したときのこと詳しく聞かせろ。何か分かるかもしれない」

 

「ああ」

 

ーー

 

「思わぬところで、元の身体に戻れる仮説を得たな」

 

「うん……。ありがとうマーシュ。助けられてばっかりだね」

 

「お互い様ってやつだ。ああそれで、事情はだいたいさっき話したとおりだ。で、おまえらのお師匠さんとやら。多分強いんだろ?力貸してもらえねえかなと」

 

マーシュの言葉に、エドワードが頷く。

 

「師匠なら協力してくれるかもしれない」

 

「電話してくる!」

 

ーーー

 

エドワードとマーシュが復興の手伝いをしていると、見覚えのある仮面の二人組がやってきた。辺りを警戒しているようだ。

 

「ヌ!お主らハ……」

 

「おりょ、フーじいとランファン」

 

「あ、リンのお供か!」

 

「……また会ったナ」

 

「久しぶりだナ。いや、話している場合ではなイ!すぐ近くにとんでもない大きさの気の者がいル!おそらく人造人間の親玉の……」

 

「あー、多分それエドワードの親父さんだから大丈夫だ」

 

仮面の下でもわかるほどにギョッと目を剥くフー。

 

「お、おまえの父親は人でないのカ!?」

 

「あー、説明が難しいんで、まぁ気にしないでくれ」

 

「……では、もう一つの大きい気の持ち主ハ……」

 

二人が目を凝らすまでもなく、その()()()はこちらへと近づいてきた。

 

「おいおまえら、飯まだか。この身体は燃費が悪くていけね……」

 

「「若!!」」

 

「グリードだ」

 

もはや反射のように即答するグリード。面倒そうに仮面二人へと目を向ける。

 

「グリード……!若の身体を乗っ取りよった人造人間カ……!」

 

「……若の身体、返セ……!」

 

「無理だ。諦めろ」

 

ギリギリと睨みつける仮面二人だが、グリードはどこ吹く風で耳の穴をほじっている。

 

「エドワードの話だと、グリードが精神的に弱るとリンが出てくるそうだ。そこが狙い目だぞ」

 

「ちょ、おい、余計なこと言ってんじゃねぇぞ!」

 

「よーし、精神的に弱らせよう。目つき悪!」

 

「老け顔!」「タダ飯食らい!」「ボンボン!」

 

エドワードとマーシュが交互にグリードの悪口を述べていく。

 

「……って、それ全部若の悪口!!」

 

クナイを持ったランファン対エドワード・マーシュの鬼ごっこが始まるのだった。

 

ーーー

 

かなり人数が増えたマーシュ一行。

今この街にいないスカー、メイ、ダリウスとハインケルを除いた面子で作戦会議の時間となった。

エドワードが口火を切る。

 

「それで、なんか作戦は考えてあるのか?」

 

「あぁ。正面突破」

 

マーシュがあっけらかんと言ったその言葉に、他の者たちは皆唖然とする。

 

「……は?」

 

「するのは俺と何人か。残りは地下から突っ込む。入り口は……多分軍の研究所がどれも地下に繋がってる」

 

「いや、いやいや、マーシュが囮ってことか?」

 

「有り体にいうとそうなるな。奴らの今年一番殺したいランキング堂々一位だからな、俺は」

 

「でも中央軍も出てくるでしょ?そこに人造人間まで加わったら、さすがに危ないんじゃ……」

 

「中央軍のほうは味方が抑えてくれる。人造人間の心配だけしときゃいい」

 

「味方?誰だ?」

 

「ナイショ」

 

「はぁー?」

 

ニヤつきながら人差し指を口に当てるマーシュ。エドワードはイラッとして右の拳を握る。それをスルーし、マーシュは話を続けた。

 

「んで、俺を殺そうと多分ブラッドレイが十中八九出てくるが、ブラッドレイと戦いたいって物好きはいるか?」

 

「おう、俺にやらせろ」

 

グリードがスッと手を挙げる。マーシュは一瞬意外そうに眉を上げるが、すぐにそれを戻した。

 

「はいではグリード君はブラッドレイ係です。あと早くリンに身体を返しなさい」

 

「そいつは出来ねえ相談だ」

 

「……では儂らもグリードに随伴すル」

 

「……若の身体、守ル」

 

渋々といった様子で、手を挙げるランファン。未だにグリードをリンとして扱うか人造人間として扱うか悩んでいるようだ。

 

「はいじゃあ二人もブラッドレイ係です。死なないようになー」

 

「……なんか緩いんだけど」

 

「地下組は時を見計らって突入。護衛の人造人間どもをぶっ飛ばした後、お父様をぶっ飛ばす。カンペキな計画だ」

 

「雑すぎるだろ!!」

 

ふんすと鼻を鳴らすマーシュに、エドワードのツッコミが入る。具体的なことは何一つ決められていない作戦なのだから、ツッコみたくもなるだろう。

 

「あんまりガッチガチに固めても仕方あるめえよ。敵の本陣で、イレギュラーが起きないはずがない。大筋は指示するが、後は個々の判断に任せる」

 

マーシュも考えなし、というわけではないらしい。エドワードも「ぐぬっ」と押し黙る。

 

「多分親父殿の近くにはプライドってヤバいのがいる。ラースもバケモンだがありゃそれ以上だ。親父殿のところに行くやつは覚悟したほうがいいぞ」

 

「……セリム・ブラッドレイか」

 

グリードからすでにプライドの正体を聞いたエドワードがギリッと歯を食いしばる。直接会ったことこそないものの、子供の姿をしているということにまだ抵抗があるようだ。

 

「あ、それと、ラストが離反してこっち側にきたらしいから、見つけても攻撃しないようにー」

 

「はぁ!?ラストも寝返ったってのか!?何があったよ……」

 

このことはグリードも知らなかったらしく、その目を丸くした。

ラストが人造人間を裏切ったことは、グリードも予想外なようだ。

 

「あとはロイ達との連携次第だな」

 

「そうだ、大佐たちは作戦知ってるのか?伝えに行かなくてもいいのか?」

 

「ああ、問題ない」

 

マーシュはサラサラとメモに何かを書き、それを指で挟んでニヤリと笑った。

 

「とある家に代々仕える優秀なメッセンジャーたちがいるからな」

 

国家に仇なす反乱者たちは、静かにその牙を研ぐ。

 

ーーー

 

「で、ドワームスのほうはどうなっている?」

 

「ああ、鋼の錬金術師とかと、あとグリードっつー人造人間と合流したそうだ。作戦を始めるタイミングも聞いてる。……ったく、俺を伝言板代わりに扱いやがって……」

 

「ははは、すまない。監視されてる身だからな、メッセンジャーと都合が合いにくいんだ。お前が常にここにいてくれて助かってるよ」

 

「野郎の褒め言葉なんざいらねーから姐さんを連れてきやがれ!」

 

「……褒め言葉の代わりに爆炎をくれてやってもいいんだが?」

 

「おう、ちょっとした冗談じゃねーか義兄さん」

 

「誰が義兄さんか」

 

ーーー

 

「あら、黒眼鏡ソリコミイシュヴァール系とモヒカン巨漢の軍人さん。話に聞いた通りだわ。貴方たちが出てくるのを待ってたのよ」

 

ーーーーーーーーーー

 

「お、スカー。首尾はどうだ?」

 

「……上々だ。作戦に滞りはないだろう」

 

「皆さんとても良い人でス!」

 

「よし。おまえらプリティキャット隊は俺たちが突入した後、市街のポイントに錬成陣を……」

 

「その隊名はやめろ」

 

ーーーー

 

果たしてその牙はこの国の喉笛を貫く力があるだろうか。

 

「さぁ、いよいよだ。まー、各々この戦いに参加する理由とか意気込みとかあるだろうけど。俺から言いたいことはひとーつ!あ、いや、ふたーつ!んー、やっぱみーっつ!」

 

「いいから早よ言え」

 

「誰も死ぬな!あと勝て!!俺も死なないし、あと勝つ!!ここにいる全員、約束だ!!」

 

「「「おおッ!!」」」

 

 

 

「誰も死なずに勝つ、ねぇ。随分と大きく出たもんだ。強欲だねぇ」

 

「安心しろ。俺、約束破ったことないんだ」

 

「へぇ。そいつぁ……俺と気が合いそうだ」

 

ただその牙は、相手の想像よりも遥かに大きく、鋭い。

 

 




「ノブに手をかける」

ううっ……。ノブを、100匹のノッブを手にかけなきゃ……(幻視)


エドワードイベント処理しすぎてエドワードたちの感情の起伏がえらいことになってる。あ、カットしたけどリゼンブールにいってウィンリィとラブコメしてるよちゃんと!

次回から最終決戦、スタート。
構想もある程度あるしモチベもあるので次話は早いと思います。
いや、やっぱり遅いかも(保険)
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