泥の錬金術師   作:ゆまる

31 / 36
火蓋

「んー!んぐむんんっ!!」

 

「ハクロ将軍、お静かに願います。貴方で最後ですので、騒いでも助けは来ません」

 

ジタバタと足を動かすハクロ将軍を柱に縛りつけながら、マイルズ少佐が淡々と言う。

周りには同じように猿轡(さるぐつわ)をされ、手足を拘束されて柱に縛りつけられている中央の将校が何人もいる。

 

マイルズ少佐がハクロ将軍を縛り終え、部屋から出るとそこには壁にもたれたグラマン中将がいた。

グラマン中将は、マスタング大佐が東部にいた頃に懇意にしていた上司だ。今回のこのクーデターにも一枚噛んでいる。

 

「さーて、これでワシら全員逆賊だねぇ。負けたら全員打ち首だ、くわばらくわばら」

 

グラマン中将が大げさに震えて、顔を扇子で仰ぐ。

マイルズ少佐は「何をいまさら」と嘆息した。

 

「負ければ国民全員が打ち首のようなものです。勝つ以外に道はないですよ」

 

「ほっほ、そんじゃまぁ……東北合同軍と中央軍の実弾演習といこうかの」

 

グラマン中将は扇子をパチンと畳み、にやりと笑った。

 

ーーーー

 

「マスタングたちが大総統夫人を人質にしたそうです」

 

「ふん、アレに人質の価値はないというのに、わざわざご苦労なことだな」

 

本部の会議室で、将校たちが卓を囲んでいる。そこにはアームストロング少将の姿もあった。

ふと、将校の一人が周りを見渡す。

 

「……む?閣下はどこに行った?」

 

「先程出ていかれましたよ。おそらく外に」

 

アームストロング少将が腕を組みながら答えると、周りの将校たちがざわつく。

 

「何っ!?どこに行こうというのだ!いかん、いかんぞ!!キング・ブラッドレイがいなくなれば誰がここを守るというのだ!」

 

「マスタングは兵たちに任せておけばいい!向こうに殺す気がないなら物量で押しつぶせばいいのだ!」

 

「……さて、それでどうにかなればいいですが」

 

アームストロング少将が瞑目しながら呟くように言う。不思議と、騒がしい会議室の中でその言葉はよく響いた。じろりと、将校たちがアームストロング少将を睨む。

 

「……少将、どういう意味かね?」

 

「なりふり構わない人間というのは恐いものです。焔の錬金術師だけならまだしも、人造人間も一人あちらについているのでしょう?半端な戦力では返り討ちに遭うだけかと」

 

「黙っていろアームストロング!!貴様はここに捕らわれているだけだ。意見が出来る立場だと思うなよ……!?」

 

「……失礼しました」

 

それきりアームストロング少将は口を噤む。将校へ怒鳴った将校は、フンと鼻を鳴らすと会議室を出ていった。他の将校たちも、指揮のためかそれに続く。残ったのは、アームストロング少将と、将校二人。

 

 

腰に剣を携えて、正門を開けようとするブラッドレイ。

その後ろから、声がかけられた。

 

「どこへ行くのですか、ラース?」

 

ピタリと手が止まり、ブラッドレイが振り向かずに声を発する。

 

「……マスタング大佐を捕らえてくる」

 

まるで子供が家から抜け出すのを親に見つかった時のようだ。

ブラッドレイの声色はいつもと変わりこそしなかったが、出た言い訳はお粗末なものだった。それは、ブラッドレイの動揺の表れ。

マスタング大佐を捕まえるという言葉に嘘はなけれど、一番の目的は別にあった。

 

「必要ありません。時が来れば向こうから勝手にくるでしょう。そこで待機していなさい」

 

「………承知した」

 

ブラッドレイは門から離れ、近くにあった椅子に腰掛ける。

そして沈黙したまま天井を見上げた。

その胸中は、誰もわからない。

 

 

「おーっ、マイルズー!おひさ!」

 

「ああ。言われた通り北方軍と東方軍を連れてきたぞ」

 

「マジ?俺の人望か?嬉しくて涙が出そう」

 

「北方軍はアームストロング少将のため、という者が9割だな。東方軍はマスタング大佐とグラマン中将で一人一人話して味方に加えていったらしい」

 

「真面目に返すのやめてくれない?……そいやそのグラマン爺さんはどうしたんだ」

 

「腰が痛いからパス、だそうだ。大方、マスタング大佐が失敗した時に責任を押し付けるつもりなのだろうな」

 

「強かだねぇ。まぁ構わないけど」

 

「しかし東方軍の指揮が出来る者がいなくなってしまった。私はこちらの北方軍だけで手一杯だ」

 

「ああ、そのへんは大丈夫だ。気にしないでいい。

 

よーし、野郎共……」

 

マーシュが、遠方に見える軍の本部へと親指を立てて、ビッと勢いよく下へ向けた。

 

 

 

「一丁派手に、ぶちかまそうぜ」

 

「「「うおおおおぉぉぉぉおぉぉぉぉ!!!」」」

 

 

 

兵たちの咆哮と爆発音と共に、最後の戦いの火蓋が切られた。

 

 

「ほ、報告ッ!!中央軍の支部のあちこちで爆発が……!」

「こちらからもです!おそらく通信設備も壊されて……」

「ま、また爆発が!!」

 

マスタング大佐たちの鎮圧を任されていたクレミン准将のもとに、伝令兵たちが何人も駆け込んでくる。

 

「東区に、新勢力!!」

「あ、あれはおそらく東方軍と、北方軍!東で演習をしていた兵のようです!」

「おそらく一個大隊並みかと!」

 

「なん、そんなバカな話があるか!!東と北が丸々クーデターを起こしたというのか!?」

 

「いえ、おそらく……中央兵の一部も、反乱している可能性が……」

 

中央兵の装備や火薬は、何故か一部が使いものにならなくなっていた。敵兵の仕業ではありえないことである。それはつまり、中央兵の中にもクーデターに加担する者がいるということだ。それも一人や二人ではなく。

 

クレミン准将が葉巻を握りつぶし、歯を軋ませる。

 

「ぐ、ぎぎぎ……支部はこの際放置でいい!混乱に乗じてここにやってくるであろう兵どもを迎撃せよ!!」

 

「相手兵の数が多すぎます!!」

 

「ディミドリ隊とキム隊、ジェス隊もまわせ!!ここは、ここだけは死守しろ!……あのお方の邪魔をさせるな……!!」

 

 

遠くで鳴り始めた銃声と爆発音を聞き、マスタング大佐が笑みを浮かべる。

 

「始まったようだな」

 

「いやぁ、とんでもないスね。よくもまぁあんだけの人数を味方に……」

 

「何、末端から順に片っ端に声をかけただけさ。口説くのは得意なものでな」

 

ブレダ少尉にドヤ顔をかますマスタング大佐へ、ホークアイ中尉が氷のような冷たい視線を送る。

 

「へぇ、そうなんですか」

 

「あっ、違う中尉、今のは言葉の綾でだな!?」

 

話が長くなりそうなのを見越したフュリー曹長が、マスタング大佐の背中を押す。

 

「とにかく大佐、早く合流場所に向かってください!夫人は僕らがお守りするので……」

 

ここで、先程中央兵たちに銃を向けられた大総統夫人が口を開いた。

 

「……私は……もしくは主人は国に捨てられたのですか?それとも……主人が私を捨てたのですか……?」

 

震える体と声からは、撃たれる寸前だったという恐怖と、別の恐怖が含まれていた。

 

「……わかりません。わかりませんが、貴女の命は必ず我々がお守りします。すべて事が済んだときに我々が間違っていなかった事を証明していただくために」

 

 

大総統夫人を隠れ家へ連れていくよう部下に言い、事前に用意していた地下道のルートから合流場所へと向かう。

 

「でも、一体誰が指揮を……」

 

「遠目から見ただけでも、隊の動きが良すぎたな。グラマン中将か……?」

 

グラマン中将がわざわざ中央までやってくるとは考えづらいが……。

まぁ、すぐにわかることか。

そしてやがて指定の場所へとつく。

 

マーシュから指示されていた合流場所。そこは、国全体を巻き込んだ騒動の始まりの場所だった。

ここで驚愕の事実を知らされ、ここで夜通し作戦を練り、ここで()()()を突き離した。

『自分を理解してくれる味方を一人でも多く作れ』と言ってきたのもあいつだったか。

 

「まったく、なぜわざわざここを集合場所なんぞに……」

 

確かにこの場所は軍の研究所に近く、誰か人がいる心配をする必要もない。戦線から離れすぎてもいないので、作戦指揮を執る場所としても問題ないだろう。悪いのは自分の気持ちの問題だけだ。

文句を言っても仕方がない。家の扉を開け、そこにいるであろう鋼の達と合流を……

 

 

 

 

 

「よう、久しぶりだな、未来の大総統サマ」

 

 

 

 

 

聞き覚えのある声が、耳に響いた。見覚えのある顔が、そこにあった。

 

「な、ん……」

 

声が出ない。今の自分はたいそう間抜けな顔をしていることだろう。仲良くしている女の子たちに見られたら幻滅されそうだ。違う、そんなことはどうでもいい。

 

「なんだ?俺の家に俺がいることがそんなにおかしいか?」

 

口調も顔も声も自分の知っているものであったが、しかしこの男がここにいるはずがない。

 

「ほ、本物か!?まさかエンヴィー……!」

 

「……聞かせてやろうか?俺が……俺がどんな気持ちで、『行かないで』と泣くエリシアを宥めてきたか……!!」

 

そう言って血の涙を流す。さすがにエンヴィーはここまでの演技は出来ないだろう。話が長くなりそうなので本物かの確認は切り上げる。

 

「いやいい、本物だな。……しかし、なぜ……」

 

「逃げっ放しでいられるわけねぇだろ。全部終わった後にノコノコ帰ってきて、それでお前らと同じように喜べるかよ。

 

……俺はな、お前の横で胸張って、生きていきたいんだよ。

 

こっちの指揮は任せろ。お前はとっととこの騒動を終わらせて、大総統の椅子をぶんどってこい、ロイ!!」

 

……ああ、そうだ。この男は、大人しく外国に逃げたままでいるような器ではなかった。臆病なようでいてその実、誰よりもこの国を憂い、想っている。そんな奴だからこそ、自分の隣に立っていてほしいと、そう思ったんだ。

 

「…………そうか。では任せたッ、ヒューズ!!」

 

「おう!!」

 

パチィンと、二人の手の合わさる音が、響いた。

 

 

 

 

「A隊、そのまま本部方面へ。B隊、東側に注意しろ、待ち伏せされている可能性が高い。CD隊、回り込んでB隊の援護。E隊は退避、敵を引きつけつつB隊と合流」

 

指示が速く、そして正確。まるで戦場を空から見ているかのようだ。

マイルズ少佐はヒューズ中佐を横目で見ながら、そう評価した。

それだけではない。先程から、敵兵のいる場所や出るタイミングまで読んで当てているのだ。逆にこちらの兵は裏道などを巧みに使い、敵兵の裏を取ることに何度も成功していた。勘だとかそういうものの次元を超えている。

 

「そりゃな。中央勤務だぞ俺は。あいや、元か。中央まで攻め込まれた場合の市街地戦を想定した訓練だって覚えてるぜ。ついでに言えば、多分向こうの指揮をしてるのはクレミン准将。どういう指揮をするかはある程度読める」

 

マイルズ少佐が疑問をぶつけると、ヒューズ中佐は飄々とそんなことをぬかした。

 

「……貴方もなかなかとんでもない人だ」

 

訓練と敵の指揮官の名前だけで、敵軍の動きを読み切ることが出来る人間は、そうそういないだろう。さらに言えば中央まで攻め込まれるというほぼほぼありえないケースの訓練内容までわかってるのか、とマイルズ少佐はげんなりしながらブリッグズ兵の指揮へと戻った。

 

マスタング大佐を捕らえようと動いていた中央兵たちはすでに、ほぼ制圧されようとしていた。

 

ーー

 

 

 

「……なにかおかしい。あれだけの兵がいるなら、物量で押し通せるはずだ。なのに何故、わざわざ囲むように広がっているんだ?まるで、兵を散らしたいような……」

 

双眼鏡を覗く、正門前にいる兵士。彼は、優秀ではあった。彼の立場がもう少し上で、誰かに命令出来る立場であったなら、結果も少し変わっただろうか。

 

バカァンと正門への階段の前のマンホールが空へと吹き飛ぶ。そこからまるで源泉を掘り当てたかのように水が吹き出た。

まさしく湯水の如く。吹き出た水は散ることなく、まとまりながら一点を目指して進み始めた。大蛇のように階段を駆け上り、本部へと近づいていく。

そしてその水に乗っているのは。

 

「だ〜っはっはっはっはぁ!!滝登りじゃ〜い!!」

 

双眼鏡に映ったその顔は、軍全体に知らされていた手配書の顔と一致していた。兵士が叫ぶ。

 

「ど、泥の錬金術師です!!泥の錬金術師が凄い勢いで登ってきます!!」」

 

「なにぃっ!?う、撃て撃て撃てーッ!!」

 

「むっ!グリードガード!」

 

「だだだだだだっ!てめぇ最初からこのつもりかぁ!?」

 

マーシュが後ろからひょいっとグリードを引っ張り盾にする。

咄嗟にグリードが身体の前面を硬化し、銃弾を弾く。

ダメージはないが、なんとなく納得がいかないグリードだった。

 

「何者かに阻まれます!銃弾が効きません!」

 

「と、到達されます!!」

 

到着すると同時に、その水が土砂降りのように辺りに降り注いだ。

範囲内にいた兵たちが皆顔を歪める。

 

「ぐべっ」「うえっ」「なんだこれ、くせぇ!」

 

「そらそうだ下水だし。病気になるかもしれんから後でちゃんとキレイにしろよ!」

 

「ぐあっ!」

 

いつのまにか近づいていたマーシュが兵士の首元を掴み、投げて地面へと叩きつける。

兵たちが慌てて銃を向けるが、どこからか飛んできたクナイがそれを貫いた。

 

「どけどけどけどけーーー!!」

「おら邪魔だガキども!!」

 

「先に行くでないワ!」「早い……」

 

中央兵をちぎっては投げ、ちぎっては投げるマーシュとグリードのもとに、ランファンとフーも降り立って、クナイで援護する。

 

この一瞬で、正門前はマーシュたちによって制圧された。

 

……肝心の正門を除いて。

 

 

「随分とナメられたものだな」

 

 

正門に立つはこの国の象徴、キング・ブラッドレイ大総統。

その眼光はいつもに増して鋭く、彼の感情の高まりを感じさせた。

 

「おおう、おいでなすったぞおヒゲのオジ様が。んじゃ、任せたぞグリード」

 

「おう。お前らも行っていいんだぞ」

 

「若を放っていけるカ!!」

 

マーシュはグリードの肩に手を置くと、地中へと沈んだ。

ピキピキと身体を硬化させていくグリードと、刀を構えるフー、一歩下がってクナイを向けるランファン。

そして両手で剣を抜くブラッドレイ。その姿からピリピリと伝わるプレッシャーは、三人がかりだろうと勝てるヴィジョンを全く見せてはくれない。それでも、退けない。

 

「いくぜラース」

 

グリード()に染みついた()()が、退くことを許してはくれない。

 

 

 

憤怒 対 強欲。

 

 

 

「オラァ!」

 

ギィンと硬いもの同士がぶつかり合う甲高い音が響く。

片方は剣、片方は腕。

硬化により鋼の硬度を得ているグリードの腕は、ブラッドレイの剣をもってしても傷一つつかない。

ならば硬化していないところを狙えばいいと思うだろうが、それは無理だ。

 

グリードは、()()()()()()()()()()()()

ブラッドレイの剣が通る余地はない。

 

それはマーシュの指示だ。「出来るんなら戦う前から全身硬化しとけよ」と。その指示に素直に従った自分にグリード自身が驚いていた。そしてそれは、時折見えるいつかの知らない自分の記憶も指示に従ったほうがいいと告げているからだった。

 

一方的にグリードが攻め立てる。防御は最大の攻撃。攻撃を食らう心配がないからこそ思い切り、いくらでも攻められる。

ブラッドレイもやり辛そうにその目を険しくする。

 

ブラッドレイと鍔迫り合うグリードの背後でカキンと音が鳴った。次の瞬間、辺りを閃光が白く染め、それを視界に入れた者の目を焼く。

 

「ぐっ……」

 

ブラッドレイの右目も例外ではない。その目をつむる。

好機と見たグリードが鋭く尖った爪で、ブラッドレイの心臓を貫かんとする。

 

しかしそれはブラッドレイの剣により阻まれる。

ブラッドレイは、瞳にウロボロスを宿したその目でグリードをしっかりと捉えていた。

 

「この眼帯に感謝したのは初めてだな」

 

「チッ」

 

好機こそ逃したものの、やる事は変わらない。このまま攻撃を続ければいつか隙は出来るはずだ。マーシュといくつかの策も練っている。

 

先程よりもブラッドレイの動きが鋭さを増している。一切の無駄なくこちらの攻撃をかわす、いなす。剣は通らないと見ているのか、攻撃こそしてこないもののその目はグリードを冷たく見抜く。

一瞬出てきた、どれだけ攻撃しても無駄なんじゃないかという考えを頭から追い出すようにグリードが雄叫ぶ。ブラッドレイを狙ってもかわされる。ならば。

 

グリードがブラッドレイの剣を両手で掴む。

 

「ランファン!!」

 

間髪入れずに、ランファンが手榴弾のピンを抜き、グリードのほうへと放った。ブラッドレイの目が見開かれる。

 

衝撃が、二人を襲う。

爆発音と振動が響き、煙が辺りに広がる。

 

ランファンが目を凝らすと、少しの間を置き中から服だけボロボロになったグリードが、握った剣を叩き折りながら出てきた。

 

「咄嗟に剣だけ置いて逃げられた。まだその辺にいるぞ、気ィつけろ」

 

道連れ作戦は失敗。次の手へと思考を移そうとした矢先だった。

 

「若、危なイ!」

 

「ごぼっ」

 

ランファンの警告も時遅く、グリードが剣を文字通り()()()()()()

 

口から突っ込んだ剣を、ブラッドレイがくるりと動かすとそのまま喉が内側から切り裂かれる。グリードが血を吐き、苦悶の表情で倒れる。

 

「表面だけ硬かろうが、中身は脆い」

 

ランファンがブラッドレイをキッと睨みつけ、クナイを振り抜いた。

ブラッドレイは歯牙にもかけず、片手間に弾くとそのままグリードへ追撃を加えようと突きを放った。

 

そのブラッドレイの剣を、筒のようなものを咥えたフーの刀が逸らす。フーが息を吹くと、口に咥えた筒から針が飛び出す。ブラッドレイはそれを首を捻って回避。

 

『若を守れ!』

 

グリードは、再生と硬化を同時に出来ない。再生中はどうしても無防備な姿を晒すことになる。ほんの数秒。それは、ブラッドレイがグリードを切り刻むのに十分過ぎる時間であることはわかっていた。だから、時間を稼ぐ。グリードが再生するまでの時間を。

 

周りがスローになっていくのを感じる。ブラッドレイの剣はすでにフーの首筋へと伸びていた。

 

フーは今まで、何度も死線を潜ってきた。勝負の勘も備わっている。その勘が体の内側から大音量で警音を発していた。『五秒ともたない。死ぬぞ』と。

 

刀で剣を、止める。二本目の剣が、すでに自分の心臓に届かんとしている。

 

もう長いこと生きた。今更死ぬ事自体は恐くない。恐いのは、何も出来ぬまま死ぬ事だ。主人のために、何も残せぬことだ。まだ、死ねない。あと少しだけ、死ねない。

 

自分の限界を超えた速さで体を捻る。老体が嫌な音を立てるが、そんなことはもう関係ない。一本目の剣が引かれる。おそらくもう躱せない。だが剣で体を貫かれようが、半身に割かれようが、しがみついてみせる。それで主人が復帰するのにギリギリで間に合うはず。

ブラッドレイを、そしてその剣を睨み、最期の時を待つ。

 

そしてブラッドレイの剣が勢いよくフーの首

ではなく、グリードへと飛ばされた。

 

「なっ……」

 

咄嗟のことにランファンは反応出来ない。剣は、再生途中だったグリードの胸を易々と貫通した。

 

延長戦。ランファンがグリードの剣を引き抜き、グリードが再生し、硬化が使えるようになるまでに、果たして何秒か。

今また自分の心臓を狙っているこの剣を相手に、あと何秒もつか。

 

このままでは死ぬ。何も出来ずに死ぬ。

いや、死んでたまるものか。まだだ。まだ……

 

「死ねるカァッ!!!」

 

折れかけた心を、繫ぎ止める。首だけになっても、噛みついてでも時間を稼ぐ。それが、自分が出来る主人への最期の報いだ。

 

ブラッドレイは少し面倒そうに目を細めるだけだった。

そして、剣を薙いだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いいねぇ、逸る闘争心。いい男じゃない。

 

うちの旦那には劣るけどね」

 

その剣は、壁によって防がれている。

フーとブラッドレイの間には一瞬で石の壁が出来ていた。

 

さすがに驚愕した様子を見せるブラッドレイが、その目を向けた方向にいたのは、1人の女性。

 

 

 

最強の眼、相対するは、最強の盾と最強の主婦。

 

 

 





フーが息を吹く。フー。


Q.グリードは人間ベースの人造人間なのに再生するのですか?
A.原作でも再生する描写がありました。ブラッドレイは魂が一つしか残ってないけど、グリードは魂たくさん残ってるから、っぽい?

ヒューズもっとカッコよくしたかった。ぅちわ……がんばった……でもむり……ぅちのちからじゃまぢむり……。
だれかヒューズがカッコいい話書いて。

次話は遅いんでしょうか?(疑問形)

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。