いつかどこかの、誰かの記憶。
「おとーさん、お出かけ?」
「あぁ、昔の知人に呼ばれて、中央までな。話が終わればすぐ帰ってくるが、ちゃんと留守番できるな?」
「馬鹿にしないでほしいな!!」
「こちとら昨日トマトをこくふくしたんだぞ!こわいものなんてない!!」
「ピーマンはどうなんだ?」
「ぶぇ、あれは無理……」
「食べなくても生きていけるし……」
「……そうだな、ピーマンも食べられるようになったら、本格的に錬金術を教えようか」
「ほんと!?ならイケる、ピーマン!」
「ピーマンくらい楽勝!!」
「はは、現金な奴らめ……」
「早く帰ってきてよね、お父さん!」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
地下の廊下の半ば。マスタング大佐とホークアイ中尉を除いた一行へ、障害が襲い来る。
「ヒャアァァァァ!!バケモノー!!」
「なっんだこいつらー!!」
服を着ておらず体は白くてガリガリ、目は一つ。そんな化け物が、百や二百で足りないほどにうじゃうじゃと湧いて廊下の奥から湧き出ているのだ。
襲いかかってきた一体に、スカーが咄嗟に生体破壊を行う。
しかし化け物はそれを全く気にせずに噛みつきにかかる。
反動で頭が首から離れかけようが、御構い無しに。
「やろー、人形に魂いれやがったな……!」
「アルフォンスみたいなもんか!?」
「一緒にされるのはちょっと嫌だな……」
武器や特殊な能力こそ持たないものの、これだけの数の不死の人形が一斉に噛みついてくるのは、どんな人間でも「死」を予感することだろう。
「どりゃあ!!」
「ふんぬ!」
「げひゃはははは!!切り放題だぁ!!」
しかしここにいるのはこの国の中でもトップクラスの錬金術師たちと、キメラ、そして殺人鬼だ。
数など物ともしない。
襲いくる人形を、文字通りにちぎっては投げ、斬っては捨て、叩きつけては捕らえた。
「足と顎を狙え!」
「キリがねぇ!」
それでもやはり、数が多すぎる。倒しても倒しても無尽蔵に廊下の奥から人形が溢れ出てくる。
エドワードが舌打ちをしたその時、ホーエンハイムが足を動かした。
「よし、俺がやろう」
一言。それを聞いたエドワードがまた目尻を吊り上げて何かを言う前に、それは発動した。
廊下の地面の真ん中が天井に届きそうなほどに盛り上がる。人形たちが出てきている奥のほうまで。そして盛り上がった地面は今度は真っ二つに分かれ、それぞれ左右の壁へと向かった。必然、人形たちは廊下の壁と、真ん中の壁に挟まれる形になり。「ぎっ」という声を上げて姿が見えなくなった。
そしてエドワードたちの眼前は、真っさらな、何もいない廊下だけとなった。
「……すげー」
「……規格外だな」
「ま、まぁ、実力が?すこーし、すこーしだけ凄いのは認めてやるよ!!」
「兄さんホント素直じゃないなぁ」
左右の壁の裏から人形たちの不気味なうめき声が聞こえる廊下を歩くと、分かれ道へと到達した。
メイが一方を指差す。
「こっちから大きな気を感じまス……!」
スカーがメイの指したほうと逆の道のほうを向き、呟く。
「……もしかすると、外へ出ようとしている奴もいるかもしれん」
一瞬間を置いてからスカーの言葉を理解し、ザンパノとジェルソが大きく頭を振る。
「……たしかに。クソッ、あんな奴ら外に出すわけにはいかねぇな」
「俺たちが駆除してくるから、あんたらは先に行け!」
二人の言葉に、ダリウスとハインケルも頭を掻きながら続く。
「ま、そういうことなら俺らも行くか」
「いいのか?」
「俺の野生の勘がな、そっちに行くなっつってんだ」
「足引っ張るのもゴメンだしな。雑魚処理はまかせとけ」
「サンキュ、ゴリライオンブタカエル!」
「雑にまとめんな!!」
「よっし、俺も行くかァ。切り心地はイマイチだったが久しぶりに山ほど切れるんだ、文句は言わねェ」
キメラ組とバリーが人形討伐へと向かい、エドワード・アルフォンス・ホーエンハイム・メイ・スカーが地下の最深部を引き続き目指す。
いや、目指そうとした瞬間。
エドワード、アルフォンス、ホーエンハイムの足元に、
ー
マスタング大佐が、ホークアイ中尉と共に辺りを警戒しながらエンヴィーを探していると、前方からマーシュが駆けてきた。マーシュは二人に気づくとブンブンと手を振る。
「お、ロイー」
「動くな」
マスタング大佐が駆け寄ってくるマーシュに発火布をつけている手を向け、冷たく言い放つ。
マーシュは立ち止まり、両腕を上に上げた。
「貴様がドワームスだと証明できるか?」
「お、おいおい、信じてくれよロイ。俺が偽物だっていうのか?」
「いいから早く証明しろ」
マスタング大佐が指に力を入れる。
ホークアイ中尉もライフルを構え、引き金に指をかけた。
マーシュは少し沈黙した後、その口角を歪め、邪悪に笑った。
「実は教官の妻だけじゃなくてその娘と妹にも手を出してて教官が一度自殺しかけたこ」
「わかった!!!貴様はドワームスだな!!もういい!!もういいから黙ってくれ頼む!!」
もはや呆れや哀れみを通り越して虚無になった瞳のホークアイ中尉。その漆黒の瞳を覗いたマスタング大佐は後に、「真理の一端を見た気がする」と述べた。
「……で、でだな。エンヴィーは見なかったか?変身能力があるというのは厄介だ、今のうちに仕留めておきたいんだが……」
「あー、見てないな。俺が来た方にはいなかったから、もうどこかに逃げたんじゃないか?」
「……そうか。仕方ない、先に進むか」
「それで、道はわかるか?」
「………………」
ーー
「ぬ、がっ……!!」
ブラッドレイがランファンを蹴り飛ばし、左目を押さえながらふらつく。押さえた箇所からは止め処なく血が溢れ出ている。
残った右目は、元の姿へと戻ったエンヴィーに向けられていた。
「……まさかお前も裏切るとはな、エンヴィー。マーシュ・ドワームスに絆されでもしたか」
「ハァー?違うし。お前のが気に食わなかっただけだし。末っ子の癖に偉そうなのが」
「そうかね。あぁしかし、やはり奴は病院で最初に会った時に無理にでも殺しておくべきだったかな。これほどの障害になろうとは……本当に『人間』というのは、思い通りにいかなくて腹が立つ」
そう言って、ブラッドレイは
言葉では怒りを表しながら、その顔は楽しげで。
「どうした貴様ら、まだ『キング・ブラッドレイ』は顕在だぞ。しっかり仕留めてみせろ」
しかしその表情は一瞬で消え、次の瞬間には憤怒の形相でグリードへと剣を構え突っ込んでいた。
今のやり取りの間にフーがグリードに刺さった剣は抜いていたものの、まだ四肢の再生は完全に終わっていない。イズミもまだその手に剣が刺さっている。どちらも今は余りにも無防備な存在だ。
フーがすんでのところでブラッドレイの剣を刀で受け止める。
鍔迫り合いのような形になったが、ブラッドレイのほうが明らかに有利な体勢だ。
腹と片目に穴を開けられて尚、この速さと力か……!
とフーが内心で悪態をつく。刀はカタカタと震え、すでに限界が近かった。
『爺様!』
『来るな!!』
ランファンが加勢しようと走り寄るのを、フーが諌める。
ランファンに、気がそれた。ブラッドレイは刀を弾き、そのままフーの腕を切り裂いた。
「ガッ……」
ブラッドレイは追撃しようとしたが、いきなりぐるんと振り返る。
「チッ……!」
そこにはエンヴィーの腕から伸びた蛇が目前に迫っていた。
それを縦に切り裂くと、剣をエンヴィーの方へと投擲。
剣は吸い込まれるようにエンヴィーの額へと刺さり、その体は倒れる。
そしてフーの刀を拾いあげ、近くにいたランファンへと矢のように迫った。
「あ……」
ランファンは全く反応出来ていない。
フーが斬られたことで一瞬思考停止してしまい、今ようやく頭が追いついたところだった。
刀が、ランファンの首へと迫り。
「あなた!!」
寸前で止まった。
直後、ブラッドレイの体が地面から隆起した石に飲まれた。
そんな芸当が出来るのはこの場には一人しかいない。イズミだ。
手から血を流しながらも、しっかりと錬成していた。
横には今やっと再生を終えたグリードが倒れている。
その口には剣が咥えられており、口だけでイズミの手に刺さった剣を抜いたであろうことが推測できた。
石の塊の中に、頭だけを出してブラッドレイは捕らわれた。いつぞやの泥の中に囚われたときのようだ。あの時と違うのは、もうブラッドレイを助け出せるものはこの場にいないこと。
つまりは、キング・ブラッドレイとの戦いの、決着である。
「……あ、爺様!!」
何が起こったか理解できず呆けていたランファンが気を取り戻し、フーの元へと駆け寄る。フーは腕こそ切られたものの致命傷には至っていないようだった。
ブラッドレイの目は、先ほどの声の主、兵に囲まれ凛と立っているブラッドレイ夫人へと向けられていた。
「……何故ここに」
「ヒューズ中佐たちに連れてきていただきました」
「家族の元に連れて行ってくれないなら舌を噛み切ります、だなんて言うもんだからよぉ……」
「この辺りの制圧は完了したしな。それでも危険なことには変わりないが……ま、弱いんだよ俺、家族愛にな」
イズミとグリードの後ろに、ブレダ少尉とフュリー曹長、ファルマン少尉とヒューズ中佐が、何十人もの兵と共に現れる。
夫人はツカツカとブラッドレイの元へと歩いていくと、その頰を平手で思い切り叩いた。
目からは、大粒の涙が溢れている。
「……全部、聞きました」
夫人はくるりと振り返ると、ヒューズ中佐やイズミたちのほうへと深々と頭を下げた。
「皆さん、夫がしてきたことは、取り返しのつかないものなのだと思います。それでも、どうか、命だけは見逃していただけないでしょうか。私も、精一杯償わせていただきます」
「何を、している」
ブラッドレイが目を見開き、掠れた声を零す。
「夫が間違ったことをしたのなら、それを正して尻拭いをするのも妻の仕事です」
それに対して、頭を下げたまま、涙を流し続けたまま夫人は言葉を紡ぐ。
「きっとあなたはここで、最後まで戦って、死ぬつもりだったんでしょう。でも、ここで死ぬなんて、許さない。結婚する時に、言いましたね。『王の隣に立つに相応しい妻でいてくれ』と。私は、今までも、これからも、あなたに相応しい妻でいます。私は、あなたの隣に最後までいます。だから貴方も、最後まで生き抜いてから、私の隣で死になさい!」
ブラッドレイを見る瞳には、張り上げた声には、強い意思が込められて。
「……ここまで、強い女性だったとはな」
「成長しますわ。あなたが選んだ女ですもの」
「…………世話を、かけるな」
「……本当に、口が下手な人」
ブラッドレイ夫人は涙を浮かべながら、笑う。ブラッドレイも目を伏せ……困ったように、笑った。
そこにいたのは、先ほどまでの戦鬼のような大総統ではなく、ただの一人の、夫であった。
「……ま、そんなわけでだ。キング・ブラッドレイに手を出すのはダメだ。一連の主犯として、後で何らかの形で裁がれるだろうが……ズッ」
「ヒューズ中佐、ほい」
「あぁ、わりぃ。ズビーッ」
夫人の介入により、ブラッドレイとの戦いも決着。
ホッと一息つき、グリードたちや兵の間にも少し弛緩した空気が漂う。
しかし。
「な…なんっ……!?」
突如、イズミの足元が黒く染まり、中心で目が開かれる。それは、グラトニーの腹の中のようであり。プライドの影のようであり。そして、イズミが忘れたくても忘れられない、あの記憶。
「この、感覚はっ……!」
「な、おいっ!」
黒い空間から黒い手が伸び、イズミの体へとまとわりつく。
イズミが、黒い手に飲まれた。
ー
一方、マーシュとマスタング大佐、ホークアイ中尉。
マーシュの勘で進んでいた三人の前に、白衣を着た老人が現れた。
老人は、三人の姿を見ると金歯の入った歯を見せてにんまりと笑う。
「ああ、ちょうど良いところに。人柱を今
「おい、届けたっていうのはどういう意味だ……?」
金歯の男はマーシュを見やり、その虚ろな目をパチパチと瞬かせた。
「……ん、ああ、ドワームスくんか。会いたかったよ。君のお父上は素晴らしい錬金術師だった」
「お父さんを知ってんのか?」
マーシュの父。
金歯の男の予想外の言葉に、マーシュの語気も強くなる。
それに対して金歯の男は悪意を持った笑顔で応えた。
「私たちの計画に参加させてやると言ったのに、拒否したどころか「今すぐ中止しろ」だなんて言い出すものだから……。つい、カッとなって殺してしまったよ」
「………………は?」
「本当に勿体無いというか愚かというか……。昔からあいつはそうだったよ。錬金術が出来ることと頭の良さは比例しないものだね」
心底不思議そうな顔で紡がれる言葉は、純粋な悪意によって出来上がっていた。
「ああ、安心してくれ。きちんと賢者の石の材料にしたから。お父上の死は無駄にはなっていないよ」
そこでようやく、マーシュの頭がその現実を受け入れる。
「……お前か」
拳を握りしめ。
「お前のせいで、全部狂ったのか」
歯を食いしばり。
「お前がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
金歯の男を睨め付け、吠えた。マーシュが。
これほどまでに感情を爆発させたマーシュを、マスタング大佐もホークアイ中尉も見たことがなかった。
「おお、喧しいな。もっと年寄りの鼓膜をいたわってくれ。お前たち。やれ」
金歯の男が右手を上げると、上から男が何人も落ちてきた。
皆目の焦点は合っておらず、正気を感じさせない顔だ。
「そいつらは、キング・ブラッドレイのなりそこないだ。キング・ブラッドレイほどではないが、強いぞ」
男たちが剣を構え、こちらへと突撃する姿勢を見せる。
そこでバキン、という音が唐突に響いた。マーシュからだ。
「えっ……」
ホークアイ中尉が声をあげる。
マーシュが徐ろにポケットから出した手には、真っ二つに割れた真紅の物体。
それは無情にも、マーシュの手の中でサラサラと灰に変わり、こぼれ落ちていった。
「使用限界かね。ちょうどいいタイミングだ。無駄な抵抗もこれでできんな」
金歯の男がにんまりと笑う。
同時に、男たちが矢のようにこちらへと迫ってきた。
「くっ……!」
マスタング大佐が発火布をこすり、爆炎を放つ。しかし一人が盾になりその炎を全身で受け、その陰からもう一人が飛び出す。そしてマスタング大佐の手袋を切り裂いた。
そこから二人がかりで腕をつかまれ、地に伏せさせられる。
ホークアイ中尉も応戦するが、同じように一人を盾に突撃され、あっという間に組み付かれた。
一瞬で二人が捕まり、そこにいる者たちの視線が必然、マーシュへと集まる。
突っ込んできた男に対してマーシュが拳を振るうが、男はそれを難なくかわす。
そしてヒュ、と音がして、マーシュの手袋が切り裂かれた。
マズい、とマスタング大佐が歯噛みする。
マーシュの錬金術は、賢者の石がなければ速攻性がない。常に動き回る上おそらく口先でのブラフやハッタリも通じないこのブラッドレイもどきたちに対して、効果は薄いだろうことは予想できた。
金歯の男もそれを知ってるのか、眼鏡の奥の瞳が楽しげに歪む。
だがマーシュはそれを気にすることもなく、左手で男の喉を突き、右手で男の頭を掴み捻り上げた。ゴキンという音がして、男の首が折れ、あらぬ方向へと曲がる。
「…………は?」
男の持っていた剣を拾う。別の男がマーシュへと剣を振るった。剣で止める。足で男の足の甲を踏み抜く。そのまま逆の足の膝で金的。下がった男の顔に、空いた手で目潰し。そして剣で喉を貫く。
「……お、おい、何をしている」
次は二人襲いかかってくる。マーシュが足を踏み鳴らすと、男の片方が地面に足を取られて前のめりに倒れる。その後頭部を掴み、もう一人の男が向けていた剣へと頭を串刺しにした。意図せず仲間を殺してしまった方の男の膝を横から蹴り砕き、胸ぐらを掴み一本背負いしてもう一人へ叩きつける。そして二人まとめて上から剣を突き刺した。
「は、早くそいつを殺せ!!」
三人がかり。
一人目の剣を体を逸らして躱し、二人目の剣を右手の剣で弾く。その勢いで回転斬り。三人目が下から潜り込み、マーシュへと刺突を放つ。剣が、マーシュの左の手のひらへと突き刺さる。否、突き刺せられた。貫いた剣を、貫かれた左手で握る。そして右手の剣で伸びきった三人目の腕を切り落とした。左手の剣を引き抜き、背後に迫る一人目と二人目にそれぞれ剣を投げつける。三人目が放ってきた蹴りを掴み、両手で思い切り振り回し、投げ飛ばす。飛ばされた三人目は一人目と二人目を巻き込み倒れ、直後マーシュが錬金術を発動。三人揃って地面へと飲み込まれていった。
瞬く間に大総統候補たちを壊滅させたマーシュは、手から血を流し、肩で息をしながらも、金歯の男をギンと睨む。
金歯の男に先程の余裕はなく、ヒッ、と喉の奥から小さな悲鳴をあげた。
そしてマーシュが金歯へと迫る。
「待て!待て待て!!今ならあのお方に口利きしてお前だけ生き残らせることも出来るぞ!」
「三流以下のセリフだな。最後の言葉はそれでいいか?なぁ、おい!!」
しかしマーシュが金歯の男に手を伸ばした瞬間、その腕が、いや腕も足も、黒い何かに捕らわれた。
「直接会うのは初めてですね、マーシュ・ドワームス」
プライドだ。マーシュは足が地面から浮きながらも今にも噛みつきそうな形相で睨んでいる。
「離せ!!ぶっ殺してやる!!」
「よ、よくやったプライド!!早くそいつをお"がっ」
ドスリと金歯が影に貫かれ、そのまま蜘蛛の糸に捕らわれた獲物のようにぐるぐると影に包み込まれた。
仲間ではないのか、とマスタング大佐たちの目が見開かれるが、プライドはどこ吹く風で顎に手を当てている。
「さて。ちょうどよくマスタング大佐もいますね。では泥の錬金術師のほうは……殺しておきますか」
プライドが笑みとともにその鋭利な影でマーシュを貫こうとしたとき。
マスタング大佐とホークアイ中尉を捕らえていた男たちの腕に、クナイが突き刺さった。
次いで、スカーがその隙をつき男たちの顔を掴み破壊を発動する。
「ご無事ですか大佐さン!中尉さン!」
「メイとスカーか!助かった!」
「後はマーシュさんを!」
ビシッと構えるメイ、銃を腰から引き抜くホークアイ中尉、右手を向けるスカー、予備の手袋をポケットから出すマスタング大佐。
それを見て、プライドが顔を歪める。
「……本当はマスタング大佐にするつもりだったのですが……まぁ、構いませんか。もう時間もありませんし。
さてマーシュ・ドワームス。あなたはどこを持っていかれる?」
マーシュが錬成陣の真ん中へと拘束され、そして
「こ、れはっ……」
「なっ……ドワームス!!」
マーシュは、黒い手に飲み込まれた。
ー
あー……。くそったれ。プライドのやつ、絶対ぶん殴ってやる。
……どこだここは。つーかなんだおまえは。
「俺か?俺はお前たちが世界と呼ぶ存在。
あるいは宇宙。
あるいは神。
あるいは真理。
あるいは全。
あるいは一。
そして、俺はお前だ」
真理……。エドたちが言ってたやつか。
勝手に人体錬成をしたことにされるのか……。
それで?俺は何を取られるんだ?腕か?足か?あ、顔の一部とかはちょっとやめてほしいなぁ。ブサイクになっちまう。
「ハ、言ったろ。オレはお前でもある。お前にとって価値のないものもわかってる。
お前は誰かを、何かを守るための腕などいらない。
何故なら本当に守りたかったものはもうないから。
お前は立ち上がるための足などいらない。
何故ならお前は泥沼の中に捕われたまま、そこを出る気がないから。
お前は未来を見据える目などいらない。
何故ならその目は過去しか見ていないから。
お前は生きるための身体すらいらない。
何故ならお前は終わりたがっているから」
……んで、何が言いたいんだ?
「真理を見るための代価は、お前が一番大切にしていて、取られたくないものだ。
なぁ、お前もわかってるだろ?」
扉が開いて、そこから出てきた黒い手が、俺を飲み込んでいく。
頭の中に何かがどんどん入ってくる。頭が割れるように痛む。
そして代わりに何かが消えていく。
これは……
!! おい、やめろ。
「等価交換さ。泥の錬金術師」
やめろぉぉぉぉぉおぉおぉぉ!!!
ー
場所は中央地下の最深部。ホーエンハイム・エドワード・アルフォンス・イズミが、人の形を成した黒い
そこへバチバチと音を立て、エドワードたちの頭上にマーシュの体が形成され、落ちてくる。
「いっで!」
「人柱が五人……揃った!!」
「人柱って……まさかマーシュ、人体錬成したのか!?無事か!?どこも取られてないか!?腕、セーフ!足、オーケー!頭、ある!」
「いだだだ!!何しやがんだてめぇ!」
エドワードがマーシュの体をベタベタと触り、腕や足を引っ張りその存在を確認する。
「……五体満足?いや、内臓か……?」
「お、おい、なんだよここは……?」
マーシュが辺りを見回し、黒い何かを見て体を震わせる。
そしてその瞳は、
「あ、ああ、どうやらお父様のせいでこの空間に閉じ込められてるらしい……」
問いに答えたエドワードをまたも怯えた瞳で見つめるマーシュ。
そしてその口から、震える声を絞り出すのだった。
「いや……
『約束』に縋り付く者から、真理が奪ったのは––––––––。
うー難産難産!
今良い感じのセリフを求めて悩んでる僕はハーメルンに投稿してるごく一般的な男の子。強いて違うところをあげれば、大総統に興味があるってことかナ。
ふと見るとベンチに一人の男が座ってた。
「くだらぬことを垂れ流すな人間。あれは私が選んだ女だ」
ウホッ、良い夫……!
そんなわけで大総統夫人マジ難産。
納得いってない部分はありますが、これ以上待たせるのもアレなので切り上げました。ごめんなさい。
残り二話。それとエピローグ的なもので多分終わります。
一周年までには終わりたいな。
この作品終わらせてから別作品書こうと思ってましたが、息抜きでつい新しいの書いちゃいました。えへ。
一応こっちをメインで書いてるつもりなので、飽きたとかじゃないですヨ?
次話は大筋だいたい決まってます。多分今回ほど遅くはなりません。
追記:真理のセリフを修正しました。
正しい絶望うんぬんはお父様の論であって、真理くんが言ったものではありませんでした。お詫び申し上げます。