「おいおいお前ら、せっかく殺人鬼から逃げられたってのにまた戻ってきたわけ?自殺志願者か?」
信じられないものを見たという顔で、マーシュが金髪少年に問う。
「生憎と無関係の人間に殺人鬼なすりつけて平気な顔していられるほど図太くないんでね!」
「いつまで経ってもスカーが追いかけてこないんで、不思議に思って引き返したんです。そうしたら、さっき兄さんがぶつかった人が襲われてて、助けなきゃ、って……」
なんということだろう。マーシュはまた目を見開く。つまり、彼らは何のメリットもなしに殺人鬼のもとへ舞い戻ってきたのだ。ただぶつかっただけの人間が心配だ、という理由のみで。先ほどの地面からの手を見るに錬金術師ではあるのだろうが、それでもこの殺人鬼と戦うのはリスクが高過ぎるはずだ。
マーシュは素直に感じたことを口に出した。
「バッカだなー!」
「なにおう!?」
「だけどまぁ……ありがとう、助かった」
ニカッと笑うマーシュに、金髪の少年も毒気を抜かれたかのように苦笑する。
「鋼の錬金術師……。貴様もいずれ破壊するが、この男が先だ。邪魔をするなら排除する」
「殺されるってわかってて黙って待つかよバーカ!テメーを先に牢屋にぶち込んでやる!」
スカーと呼ばれた男が少年をギロリと睨みつけるが、少年は意にも介さず中指をビッと立てた。
「……いい度胸だ」
金髪少年が両手を合わせ、地面に手をつくとそこからまた土の手が出現し、スカーへと殴りかかる。
しかしスカーは右手の一振りだけでそれを破壊すると、金髪少年へと突っ込んだ。
「いぃっ!?」
「俺もいるってのをお忘れなく!」
その声とともにスカーの背後から何かが飛んでくる。スカーは素早く反応し、その何かを破壊した。が、その瞬間悪臭が周囲に広がる。
路地裏の隅に置いてあったゴミ袋をマーシュは投げつけたのだ。
何が入っていてどれくらいの時間が過ぎていたのかは神のみぞ知る。
ただ、スカーの様子を見るにあのゴミ袋はかなりの
「ぐっ……!」
あまりの悪臭にスカーが左手で鼻を押さえながら後ずさる。
そしてそれは、明確すぎる隙だった。
「ナイス!!」
ニヤリと笑った金髪少年が、鎧と一緒にスカーに蹴りを入れる。
さらに畳み掛けるように、金髪少年がまた両手を合わせ、スカーの足元の地面から土の手を出し、捕まえようとする。
スカーはよろめきながらもそれを右手で破壊し、マーシュと金髪少年、鎧が視界に入るように陣取った。
「……今一番厄介なのは鋼の錬金術師、貴様のようだな」
「そりゃドーモ」
「両手を合わせて輪を作り循環させた力で錬成しているのか……。ならば、まずはその腕……」
スカーが右手を地面につくと、一気に土煙があがる。おそらく地面の破壊の応用だろう。
そして、金髪少年の視界に突然スカーが現れる。
「や、べっ…!」
「貰い受ける!!」
咄嗟に突き出した金髪少年の右腕と、スカーの右腕とが衝突し、お互いに弾かれた。
「何!?」
金髪少年の右腕は無事だった。赤いマントがはだけた下から見えた彼の右腕はどうやら鋼の腕、いわゆる機械鎧であり、そのおかげで難を逃れたようだ。
「鋼の義肢か……」
呟いたスカーの背後から、また何かが飛んでくる。今度はゴミ袋ではない。マーシュの蹴りだ。
「ぐお!」
金髪少年の右腕に気をとられていたスカーはもろにそれを喰らい、吹っ飛ぶ。
「おいおい結構ビビったじゃねーか!お前らが死んだら死んだで俺の寝覚め悪くなるだろ!」
すれ違った程度の人間が殺されても特に何とも思わないが、自分をわざわざ助けに来た人間が殺されたら流石に心が痛む、とマーシュはぶつぶつと呟く。
「兄さん大丈夫!?」
「あ、ああ、大丈夫だ。どうやらアイツ、生体破壊と物質破壊を使い分けてるみたいだ」
「ほーう、要は人体と物を一緒に攻撃できないってことかね……。お前ら、名前は?」
「え?ああ、エドワード・エルリックだ」
金髪少年は、鋼の錬金術師、エドワード・エルリック。
「弟のアルフォンスです」
大鎧は、アルフォンス・エルリック。弟さんデカいな、とマーシュは思いながら拳を2人に向かって突き出した。
「エドに、アルな。俺はマーシュ・ドワームス。んじゃあいっちょ、一緒にあの殺人鬼に一発かましてやろうぜ」
「……おう!」「はい!」
2人の拳がマーシュの拳と合わさる。
ここに、殺人鬼被害者共同戦線が張られたのだった。