マーシュがエドワードとアルフォンスに何か耳打ちすると、エドワードが地面に手をつき、スカーとの間に大きな石壁を作った。
現在、袋小路でスカーが入り口側、マーシュたちが行き止まり側にいるので、逃げる時間稼ぎにはならない。
あるいは、先ほどのマーシュのように壁を登って逃げようというのか。
それを阻止しようと、スカーはすぐに石壁を破壊して突っ込んだ。
しかし破壊した石壁の先にいたのはマーシュとアルフォンスのみ。
マーシュは行き止まりの壁に手をかけ、アルフォンスは地面に錬成陣を描いている最中だ。
鋼の錬金術師を逃したか、と歯噛みしかけたスカーの頭に突然衝撃が降ってくる。スカーがぐらつく視界で捉えたのは、華麗に着地するエドワードの姿だった。
壁の横には先ほどまではなかったはずの階段が出来ており、おそらくそこを登ってスカーの頭上から急襲したのだと予測できた。
「おのれっ……!」
スカーはフラフラとよろめき、壁に手をつく。
それを好機と見たエドワードが畳み掛けようとスカーに向かっていった。
「待てエド!」
それを制止するマーシュ。だが、それは少し遅かった。
スカーがついている手は右手だ。
壁に対して破壊が発動され、まるで雪崩のように瓦礫がエドワードの頭上に降り注いだ。
「う、おおおおおお!?」
完全に意識の外だった頭上からの攻撃に、エドワードの錬金術の発動は間に合わない。
右手を頭上にかざし、防御するしかない。
瓦礫が降り終わってそこにいたのは、ベッコリと凹んだ右腕の機械鎧をかざし、さすがに防ぎきれなかったのか頰や左腕から血を流すエドワードだった。
そして今の間に回復したスカーが右手をエドワードに振るう。
「させるかよ!」
しかしマーシュがそのスカーの右手を自分の左手で受け、スカーに蹴りを放つ。
生体破壊を発動しているスカーの右手に触れたはずなのにマーシュの左手は欠損した様子はない。
その理由は、
「石の、グローブか……!」
先ほどアルフォンスが錬成した、肘のあたりまで覆う石のグローブだ。
仮に掴まれてもまずは物質破壊をしなければ生身の腕は露出しない。
更にかなり硬いので攻撃力アップも見込める。攻防一体の装備だ。
「いーい着け心地だ。グローブ職人とか向いてると思うぜアルフォンス」
「検討しておきます!兄さん、一度下がって!」
マーシュがスカーを牽制している隙に、アルフォンスがエドワードを引き連れ後方に下がる。
「さぁ、第……何ラウンドだ?とにかくほら、こいよスカーとやら!ゴングはとっくに鳴ってるぜ!」
グローブのおかげでボクサー気分なのか、シュッシュッとシャドーボクシングをするマーシュ。
それにまた苛立ったのか、スカーが右手を振りかぶり……
突如響いた銃声にその試合は中断された。
「やぁマーシュ・ドワームス。元気にしているようで何よりだ」
東方軍、ロイ・マスタング大佐が小路の入り口に立って拳銃を上へ向けていた。