真・恋姫†無双 転生伝   作:ノブやん

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十話

「……というわけです。」

 

「そう……。やはり、黄色い布が。」

 

その日の朝議も、暴徒たちの鎮圧から戻ってきた春蘭の報告で始まった。

 

「こちらの暴徒たちも同じ布を持っておりました。」

 

ここ最近増えてきた、謎の暴徒たち。各々黄色い布を身に着けた彼らは、何の予兆もなく現れては暴れ、春蘭たちにあっさりと鎮圧されていく。

 

「桂花。そちらはどうだった?」

 

「は。面識のある諸侯に連絡を取ってみましたが…どこも陳留と同じく、黄色い布を身に着けた暴徒の対応に手を焼いているようです。」

 

「具体的には?」

 

「ここと…ここ、それからこちらも。」

 

広げた地図の上に磨かれた丸石を置いていく。文字を書き込んだり、ピンを使わないのは、この世界では地図がものすごい貴重だからだ。

 

「それと、一団の首魁の名前は張角というらしいのですが……正体はまったくの不明だそうです。」

 

「正体不明?」

 

「捕えた賊を尋問しても、誰一人として話さなかったとか。」

 

一刀「黄巾党…」

 

「知っているのか北郷。」

 

一刀「名前だけはな。一応…。」

 

「なら、それ以上は言わなくていいわ。」

 

一刀「……ん?」

 

「天の国の技術や考えは確かに興味深いし、それを説明させるために貴方達を飼っているわけだけど…。歴史そのものは、こちらの世界で完全に再現されているわけではないのでしょう?」

 

一刀「んー、多分な。」

 

俺や一刀の知っている歴史とは、事件の見かけは同じでも、根っこや詳細が変わっている可能性は高いだろう。

 

「なら、明確な根拠のない情報は判断を鈍らせるわ。そんなもの、占い師の預言と変わらない。国の問題を占いで解決させる気はないわよ。」

 

一刀「そういうことか、分かった。」

 

「まぁ、敵を呼ぶにも名前は必要だわ。黄巾党という名前はもらっておきましょう。それで皆、他に新しい情報はないの?」

 

「はい。これ以上は何も……」

 

「こちらもありません。」

 

「ならば、まずは情報収集ね。その張角という輩の正体も確かめないと…。」

 

その時、一人の兵士が慌てて入ってきて、南西の村で黄巾党が暴れているとの報告が入った。

 

「休む暇もないわね。…さて、情報源がさっそく現れてくれたわけだけど。今度は誰が行ってくれるかしら?」

 

「はいっ!ボクが行きます!」

 

「…季衣。お前は最近、働きすぎだぞ。ここしばらくろくに休んでおらんだろ。華琳様。この件、わたしが。」

 

「どうしてですか、春蘭様っ!ボク、全然疲れてなんかないのに…。」

 

「そうね。今回の出撃、季衣は外しましょう。確かに最近季衣の出撃回数は多すぎるわ。」

 

「華琳様っ!」

 

如月「季衣。その心は立派だが、無茶をして体を壊したら、元も子もないぞ。」

 

「無茶なんかじゃないよ。如月兄ちゃん。」

 

「いいえ、無茶よ。」

 

「華琳様。…でも、みんな困ってるのに…。」

 

「そうね。その一つの無茶で、季衣の目の前にいる百の民は救えるかもしれない。けれど、その先救えるはずの何万という民を見殺しにすることにつながる事もある。…分かるかしら?」

 

「だったらその百の民は見殺しにするんですか!」

 

「するわけ無いでしょう!」

 

「……っ!」

 

「季衣。お前が休んでいる時は、私が代わりにその百の民を救ってやる。だから、今は休め。」

 

「今日の百人も助けるし、明日の万人も助けて見せるわ。そのために必要と判断すれば、無理でも何でも遠慮なく使ってあげる。…けれど今はまだ、その時ではないの。」

 

「……。」

 

けれど季衣は下を向いたまま。季衣の気持ちも分かるけど、春蘭と華琳の気持ちももっと分かるからな。

 

「では秋蘭。今回の件、あなたが行ってちょうだい。」

 

「なにっ!この流れだと、どう考えてもわたしだろう!どうして秋蘭が出てくる!」

 

「今回の出動は、戦闘よりも情報収集が大切なのよ。出来る?あなたに。」

 

「ぐ……。」

 

「決まりね。秋蘭。くれぐれも情報収集は念入りにしなさい。」

 

「は。ではすぐに兵を集め、出立いたします。」

 

「秋蘭様。あの…ボクの分まで、宜しくお願いしますっ!」

 

「うむ。お主の思い、しかと受け取った。任せておけ。」

 

「……。」

 

一刀と一緒に秋蘭たちの出発を見送ろうと城壁の上へ上がったら、すでに先客がいた。

 

一刀「ここ、いいか?」

 

「あ、兄ちゃん達…」

 

如月「いつも元気な季衣が落ち込んでるなんて、らしくないぞ。」

 

「ボクだって、落ち込むときくらいあるよぅ…。」

 

一刀「さっきのことか?」

 

「うん…。ボク、全然疲れてないのに…。そりゃ、ご飯はいつもの倍は食べてるけどさ。」

 

如月「倍食べてるのか。疲れてはなさそうだが。華琳たちが言うように、今が無理をするときじゃないのは、ホントだ。」

 

「如月兄ちゃんまでそんなこと言うー!」

 

如月「みんな季衣のことが心配なんだよ。俺も一刀もな。今は、黄巾党と張角の正体を突き止めるための、情報を集める時だ。だから、しっかり休んで力を溜めておけ。」

 

「…分かったよ!」

 

季衣は元気良く答えると、ひょいっと城壁の上に飛び乗り、歌を歌い始めた。大声で、決して上手くはないけど、季衣の元気をそのまま分けてもらってるような歌声だ。門を出ていく秋蘭隊の兵士たちが、こちらを見上げて手を振ってくれる。

 

一刀「いい歌だな。なんていう歌?」

 

「さあ?ちょっと前に、街で歌ってた旅芸人の歌なんだけど…。確か名前は張角…。」

 

如月「一刀!俺は秋蘭に、お前は華琳に報告だ。」

 

言うが早いか、トベルーラで秋蘭の所へ飛んでいく。

 

如月「秋蘭!」

 

「如月。お前、空も飛べたんだな。兵たちがビックリしているぞ。」

 

如月「んなことどうでもいい。秋蘭、多分張角は旅芸人だ。」

 

「分かった。その辺りを中心に情報収集をしてこよう。」

 

如月「頼む。」

 

 

秋蘭たちが討伐から戻ったのは、その日の晩遅くだった。すぐに主要なメンバーが集められ、すぐに報告会が始まった。

 

「…間違いないのね。」

 

「確かに今日行った街でも、三人組の女の旅芸人が立ち寄ったという情報がありました。恐らく、季衣の見た張角と同一人物でしょう。」

 

「正体が分かっただけでも前進ではあるけれど…。可能ならば、張角の目的が知りたいわね。」

 

一刀「目的ねぇ…。本人たちはただ楽しく歌ってるだけで、まわりが暴走してるだけだったりして。」

 

如月「何かの拍子に『わたし、大陸が欲しいのー!』とか言っちゃったものだから、鵜呑みにした奴らが暴れだしたってとこか。」

 

「だとしたら、余計タチが悪いわ。大陸制覇の野望でも持ってくれていた方が、遠慮なく叩き潰せるのだけれど。」

 

一刀「叩き潰すことが前提かよ。」

 

「夕方、都から軍令が届いたのよ。早急に黄巾の賊徒を平定せよ、とね。」

 

如月「遲っ!それが今の朝廷の実力か。」

 

「まぁ、これで大手を振って大規模な戦力も動かせるわけだけど…。」

 

「華琳様っ!」

 

「どうしたの、春蘭?兵の準備は終わった?」

 

「いえ、それが…今までにない規模の黄巾の連中が現れたと。」

 

「…そう。一歩遅かったと言う事か。」

 

一刀「向こうが?」

 

「こちらがよ。春蘭、兵の準備は終わっているの?」

 

「申し訳ありません。すでに兵たちに休息をとらせています。」

 

「間が悪かったわね…。恐らく連中は、いくつかの暴徒が寄り集まっているでしょう。今までのようにはいかないわよ。」

 

如月「集まるという事は、集まろうという意思か集めようとする意志が働いていると見るべきか。一つ二つの集団なら偶然だが、数十の集団が集まれば偶然ではないということか。」

 

「万全の状態で当たりたくはあるけれど、時間もないわね。さて、どうするか…。」

 

「華琳様!ボクが行きます!」

 

手を挙げたのは季衣だった。

 

如月「なら、俺も行こう。」

 

「そうね、春蘭。すぐに出せる部隊はある?」

 

「は。当直の隊と、最終確認をさせている隊はまだ残っているはずですが…。」

 

「季衣、如月。それらを率いて、先発隊としてすぐに出発なさい。それから、補佐として秋蘭を付けるわ。秋蘭にはここ数日無理をさせているから、指揮官は任せたくないの。ただし撤退の判断は秋蘭に任せるから、季衣と如月は必ず従うように。すぐに本隊も追い付くわ。」

 

「御意。」

 

「分かりました。」

 

如月「了解。本隊が来るまでに出来るだけ減らしておくよ。全滅させてもいいんだろ?」

 

「ええ、出来るのならね。本隊は私が率いるから、すぐに追いつくけどね。以上、解散。」

 

こうして俺は、秋蘭と季衣と一緒に報告のあった街へと先発隊として出発した。

 

 


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