西行寺さんちのフランドール   作:cascades

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初投稿です。よろしくお願いします。

10/5 外来語を修正しました
ハーフ → 混血
クリア → 達成

パズルのピースだけは御免なさい。


1_1_出会い#

出会い

 

 殺しても殺しても、満たされない。

 いつも、なにかが足りないと思っていた。

 まるで完成目前のパズルのピースが見つからないような、出来上がるはずのものが、自分のせいで出来上がらない歯がゆさのような、そんな虚しさを私は抱えている。

 

 私の能力、『死を操る程度の能力』では、この欠けたパズルのピースは見つけられないのだろうか?

 では何が必要なのだろうか?

 

 そんな満たされない毎日を送っていた私、西行寺幽々子(さいぎょうじゆゆこ)とフランドールの出会いは唐突だった。

 

――今から495年前の春

 

 

 白玉楼の寝所で寝ていると、不思議な夢を見た。

 真っ暗で何も見えなかったけれど、声だけは聞こえた。

 

「お願いです……あの子の事、宜しくお願いします……」

 

 

 ひとつ、腹に響くような音ともに少し揺れた気がして目を覚ました。

 

 私の寝所は12畳あり、布団は中央に敷かれている。

 昔から、広い部屋でないと寝られない、という妙なところが私にはあった。

 誰かはそんな私を変わった娘だと笑っていた。

 その誰かとは父だったのだろうか?

 もうよく覚えていない。

 

 月明かりで床の間の掛け軸を見てみると、かすかに揺れていた。

 幽霊の絵の書いてある掛け軸が、まるで本物の霊のようにゆらゆらと。

 どうやら、屋敷が揺れた様だ。

 

 「地震かしら」

 

 しかし、地震、にしては妙な感覚だった。

 まるで、この世界の魔法使いと呼ばれる者たちが使う魔法、その大規模なものに似ていた。

 魔法は使えないが感覚としての理解はある、魔力の残滓の様なものが漂っている事を私は知覚する。

 なんだろう、と考えてみる。

 例えばこの白玉楼への何者かの襲撃、というものが一番ありそうな気がした。

 この世界の乙女達は、とかく、抗争が好きだ。

 己がその標的となっても不思議ではない。

 

 廊下から誰かの足音が聞こえてきた、誰かというのはわかってはいるのだが。

 

「幽々子様、失礼致します」

 

 障子越しに声をかけてきたのは、最近になってこの白玉楼に住み込みで働いてもらっている中年、護衛として迎え入れた魂魄妖忌(こんぱくようき)の声だった。

 彼は是非曲直庁(ぜひきょくちょくちょう)からの派遣ではなく、私が個人的に雇ったのだ。

 剣術の腕を買われて護衛役にした半人半霊である。

 半人半霊というのは人間と幽霊の混血で、寿命が人間よりもはるかに永く、私が知る限り500年は生きている。

 だが見た目が人間でいうところの50代ぐらいだった。

 見た目に関しては自分も人のことは言えないけれど。

 彼の人外としての特徴的な外見は、人間と大きめの白玉の様な幽霊がいつもそのそばに浮いているところ。

 

「今しがた、地震の様なものがあり、屋敷が揺れました。お怪我等はなさっておりませんでしょうか?」

「私は大丈夫よ。まず屋敷の状態を確認してちょうだい」

「承知しました」

 

 彼が下がっていくのを見届け、私は妖忌の気配が消えるのを待つ。

 なぜならば、これから探索するなどと言ったら、朝までお説教コースは確実だから。

 妖忌は腕も立つし、普段はいたって温厚なのだが、口うるさいところが、少しだけ苦手である。

 とりあえず、白玉楼に無断で侵入してくる輩だ、まずは主が出迎えないといけない。

 

 気になっていた魔力の残滓を探していざ、と気合をいれ白玉楼の庭へと降り立つ。

 音もなく、亡霊としての嗜みは忘れずに。 

 すぐさま探索を始めましょう。

 

 魔力の残滓をたどっていくと、桜並木の方に強く感じるものがある。

 それを追いかけていくと、奇妙なことに赤子の泣き声の様なものが聞こえてきた。

 

「この方向は……」

 

 

――終点は西行妖(さいぎょうあやかし)の根本だった。

 

 魔力の残滓を大きく感じ取れた。

 ここまで大規模なものは転移魔法でも使ったのだろうか?

 

「オギャー! オギャー!」

 

 籠が置いてあり、かすかに揺れていた。

 中を覗き込むと赤子が泣いていた。

 赤子のような声ではなく、本物の赤子だったのだ。

 私は赤子をそっと抱き上げる。

 首の座り具合からして、生後4~5ヶ月といったところか。

 綺麗な金髪が生え始めている。

 抱き上げて分かった事だが、この子には歪な羽根が生えていた。

 枯れ木にクリスタルをぶら下げた様な奇妙で綺麗な羽根だった。

 

「いいこ~いいこ~」

 

 こんなところに赤子がいるという、奇妙な状況にも関わらず、その愛らしさに思わず抱きしめて、優しくゆっくり揺すってやる。

 

 すると、どうやら満足したのか、泣き止んでくれた様だ。

 

「うー! うー!」

「あら、かわいい~」

 

 とても母性本能をくすぐる、良い笑顔である。

 ああ、自分の娘にしたい……。

 

 揺れの前に見ていた夢を思い出す。

 “この子をお願いします”とは、つまりこの赤子を任せるという事なのだろうか。

 無理難題である。

 白玉楼のある冥界は、半人半霊などの適正が無いと、留まるだけで死んでしまう。

 また、冥界に留まる場合にも、是非曲直庁(ぜひきょくちょくちょう)の許可を取る必要がある。

 問題は山積みだがあの声に応えてあげよう、という気持ちになっていた。

 あの声の為、というわけでなく、この愛らしい赤子のために。

 

「だぁ! だぁ!」

 

 顔をペチペチと叩かれて我に返る。

 とにかくこんなところに居続ける理由もない。

 屋敷へ戻ろうと、籠を拾い上げる。

 

「さ、籠を持って、帰りますよ~って、あら?」

 

 籠の中には紙切れが入っていた。

 不思議な文字で、読むことができなかったが、名を記したものだろうか?

 とりあえず、帰路に就く事にした。

 

 

 頭をかしげながら歩いていると桜並木の影から妖忌が現れた。

 多分、私が部屋に居ない事に気が付いてしまったのだろう。

 屋敷の異常確認をやらせたのにこの速さ。

 

「妖忌? 屋敷の異常確認は終わったの?」

「はい、滞りなく」

 

 よし、業務連絡終わり。

 部屋に戻るべし。

 

「騙されませんぞ! 幽々子様、その赤子は一体どうなされたのですか!?」

 

 折角寝かしつけたのに、大きな声で、喋る妖忌。

 

「せっかく静かになったのだから、大きな声は出さないでちょうだい、妖忌」

 

 私は妖忌を(たしな)めるのと同時に、彼の問いにも答えることにした。

 

「どうした、と言われても……。養育を誰かに頼まれたのよ」

「それはどんな人物なのですか!」

「姿は見えなかったわ」

「私には捨て子を拾ったとしか、聞こえませんぞ!」

 

 妖忌は捲くし立ててきて、赤子が泣き始めてしまった。

 

「ほら、言わんこっちゃない」

 

 私は籠を妖忌に渡すと、両手で赤子をあやし始めた。

 すると、赤子はピタリと泣き止んだ。

 

「さあ、屋敷に戻るわよ、妖忌」

「……仰せのままに、幽々子様」

 

 屋敷に戻ると、客間に誰かがいる事に気が付いた。

 敵意はなく、こんな時間に訪れる客など、十中八九、スキマ妖怪だろう。

 妖忌も気配を感じ取ったらしく、一礼すると彼は土間の方に向かってしまった。

 お茶の準備をしてくれるのだろう。

 口うるさいのは少し苦手だが、妖忌のちょっとした気遣いが私は好きだ。

 従者を見送りつつ、客間に入ると案の定、スキマ妖怪が不法侵入していた。

 

「お邪魔しているわよ、幽々子。あら、子供でも産んだの?」

「なんで紫がいるのよ」

 

 こいつは八雲紫(やくもゆかり)

 あらゆる境界を弄る事ができる、スキマ妖怪である。

 例えば、湖に映った月と本物の月の境界を弄って、月面まで瞬間移動する事ぐらい簡単にできる、危険な奴である。

 自分の住処から白玉楼の移動など朝飯前なのだろう。

 私が亡霊になる前からの友達らしく、一緒にお茶をしたり、歌を詠んだりと、自分としては親友のつもりでいる。

 私は紫が来ている事に少し驚いている。何か用事でもあるのだろうか。

 

「私が数年前に張った結界を覚えているかしら?」

「ええ、覚えているわ。『幻と実体の境界』だったかしら」

 

 確か、今私たちがいる幻想郷の中を幻の世界として、外の世界を実体の世界としたものだった気がする。

 妖怪拡張計画がどうの、とのたまっていた気がする。

 

「そう、その結界の効果は全世界に及んでいるわ。だから海外からも妖怪を招き入れる事が可能なの」

 

 一旦紫が話を切って、赤子の方を見る。なんとなく、今日来た理由を察した。

 

「ちょうど強力な妖怪が、海外から入って来たみたいだから、挨拶しようと思って」

 

 でもこんなに小さいんじゃね~と、赤子の手を指でつついてきた。

 

 

 ひとしきり赤子と戯れた後、紫は私の目を見つめてきた。

 

「ところで幽々子、その赤子、どうする気?」

「育てるつもりだけど」

 

 紫はとたんに難色を示す表情となった。

 

「子供を育てるのは本当に大変よ、ぬか漬けを漬けるのと訳が違うの」

 

 痛い所をついてきた。

 私はよく興味を持っては、すぐに飽きる性格なのだ。

 興味を失ったぬか漬けの壺は、どこに行ってしまったのだろうか。

 

 旗色が悪い、このままでは赤子を取られそうだ。

 紫のことだ。力をつけるため、と理由をつけて本当の意味で食べてしまうかもしれない。

 この愛らしい赤子のために、寝ている時に頼まれた話をする。

 

「頼まれたのよ」

「誰に?」

 

 紫が眉をひそめて聞いてくる。

 

「さあ? 夢の中でこの子を宜しくお願いしますって頼まれちゃって」

「頼まれたって……送り込んだ者に悪意があったらどうするのよ」

「悪意があったら、紫が気付くでしょ」

「確かにさっき戯れた時に調べたけど、悪意ある結界や魔法、呪いの類はかかってなかったわ」

「やっぱり調べていたのね。それを聞いて安心したわ」

「もう幽々子ったら……」

 

 紫は頭が痛いという、額に手を当てるしぐさをしながら言った。

 

「それなら、ちゃんと面倒を見ますって宣誓してくれないかしら?」

 

 宣誓といっても、どうしたら良いものか。

 紫が宣誓を求めるほど、赤子を育てるのは大変なのだろうか。

 とりあえず、右手を挙げて敬礼する事にした。

 

 

【挿絵表示】

 

 

「白玉楼の主、西行寺幽々子の名において、この赤子が元服するまで面倒を見ることを誓います。これでいいわね?」

 

 紫は久しぶりにカリスマある幽々子を見た、なんて漏らす。

 失礼な話だ。

 私にだって、野心はある。

 今後、外の人間はどんどん増えるだろうし、転生待ちとなる幽霊が多くなる筈である。

 それによって、冥界を拡張する必要が出てくるだろうし、人手不足になる事は目に見えている。

 適当な人材を是非曲直庁から宛がわれるより、自分の息のかかった娘が働き手として欲しい。

 厳しいのは妖忌だけで十分である。

 私は楽をして、領土を拡張したいのだ。

 私が考えている冥界の拡張計画に、この赤子を盛り込む形で、何とか養育する権利を是非曲直庁から得たい。

 問題点としては2つある。

 まず、1つ目が是非曲直庁の欲しい人材であるか、2つ目が冥界に適応できるのか。

 この2つを達成する必要がある。

 

 物知りの紫が居るうちに、聞かなければならない事を聞いてしまわなければ。

 まず、この赤子がどの様な種族なのか、わからないのである。

 

「この子だけど、種族が何かわかる?」

 

 私は赤子を紫に抱かせて確認させる。

 

「吸血鬼ね。既に牙と、歪だけど羽が生えている」

 

 紫は吸血鬼の概要を語り始めた。

 

「吸血鬼は鬼の膂力や天狗の速度に並ぶと言われているわ。だけど弱点が結構多いの。流水が渡れないから、雨の中の移動は不可能だし、日光に弱いから日中は外出できないのよ」

 

 他の弱点として、柊の枝や鰯の頭も駄目、炒った豆をぶつけるのも駄目らしい。

 養育する時には気を付けないといけない。

 一応、広義の意味で鬼ということなので、是非曲直庁の欲しがりそうな人材ではある。

 1つ目の問題は達成ということにする。

 

 まだ情報不足だ。

 

「紫、もう少し種族の情報ってないかしら」

「そうねぇ、吸血鬼はほぼ不老不死ね」

「ほぼ不老不死? ほぼ死なない、という事かしら」

「その通りよ」

 

 ほぼ死なない状態、冥界に適応できる条件に一致しそうだ。

 最後の2つ目の問題も達成。

 あとは是非曲直庁を説得できれば、赤子を養育する舞台が整うだろう。

 

 次は生きることに欠かせない食料が何かを聞く。

 

「食料は何かしら」

「その名の通り、人間の血液ね」

「人間ね……妖忌でもいいのかしら?」

「やめておきなさい、血液はこちらで用意するわ」

 

 どうやら紫に大きな借りを作ってしまう様だ。

 

「ありがとう、紫。お礼は何がいいかしら?」

 

 紫は考える仕草をわざとらしくしながら答えた。

 

「今は特にないわね。1つ貸しって事で」

 

 紫から赤子を返してもらいながら、私は言葉ではなく、微笑みで答えた。

 

 ふと思う事がある。

 私と紫の間に友情はあるのだろうか、と。

 私の能力、『死を操る程度の能力』は暗殺にはもってこいだ。

 生きてさえいれば、どんなに強い敵でも私の前では赤子同然、即座に死をくれてやれる。

 そんな危険な能力を持った奴を親友だと言われれば、頭のいい敵対者なら交渉の席に座るだろう。

 紫はこの幻想郷で、妖怪の賢者というものをやっている。

 その関係で敵対者も多い。

 だから紫は私にとてもよくしてくれているのだろうか……。

 

「うー! うー!」

 

 また顔をペチペチと叩かれて我に返る。

 考え事をすると顔にでてしまうのだろうか? いや、でない自信はある。

 私は話題を変える事にした。

 

「その血液はどうやって手に入れるの?」

「それは……私の仕事(ビジネス)よ、幽々子……あなたは知らない方がいい」

 

 これ以上聞いても答えは返ってこないだろう。

 今度は紫の方から話を振ってきた

 

「ねえ幽々子、いつまでも名が無いのは不便じゃないかしら」

 

 紫から言われて、ふと気がつく。

 不思議な文字で、読むことができなかった紙切れを思い出したのだ。

 

「そういえば、拾った籠の中に紙切れが入っていたのだけれど、読めなくて。多分、名だと思うのだけど。紫、読んでくれないかしら」

 

 私は紫に紙の切れ端を渡す。

 

「Frandre.S」

「フランドール・エス?」

 

 流暢な外国語を聞き返してしまった。

 

「多分、名ね。フランドールが名でエスが姓の頭文字かしら」

 

 姓が付いているという事は、良い所のお嬢様の可能性がある。

 流石に血筋はわからないが、今後の成長に期待が持てそうだ。

 一体どんな能力が発現するのかが、楽しみだ。

 

「それじゃ、この子の幼名はフランドールで決定!」

 

 私は赤子改めフランドールを抱き上げた。

 

「元服するまでしっかり育ててあげるからね」

 

 そのまま頬ずりし、フランドールがウフフと唸っている。とてもかわいい。

 

 

 私は最後のパズルのピースを手に入れた気がした。

 




挿絵は月わにさんから頂きました。
ありがとうございました。
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