西行寺さんちのフランドール   作:cascades

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フランドールの前に水鬼鬼神長が現れる。


18/02/22 遅くなって申し訳ありません。
18/02/22 水鬼鬼神長に姿を与えてみました。挿絵をご参照の事。
18/02/22 誤字報告有難う御座いました。(同じミス2度目)


1_13_水鬼鬼神長 #

水鬼鬼神長

 

 

 拝啓お母さま。

 私、フランドールは能力を公開してしまいましたが、この後どうしたら宜しいでしょうか?

 

――1980年代 冬 白玉楼

 

 

 死神の青年である、ベルンハルトさんが地獄に帰ってから翌日、私はお母さまに呼び出しを受けていた。

 お母さまの書斎まで行くと、地下室に入るよう指示された。

 きっと、白玉楼の地下大金庫室に行くのだろう。

 あそこであれば、入ってこられるのは紫さまぐらいなので、気兼ねなく秘密のお話が出来る。

 地下室から垂直の通路を通って、さらに2重の金庫扉を通って6畳の小さな部屋に出た。

 ここには『500年前の真実』などが記録された業務報告書の写本など、表に出せないものが沢山ある。

 写本が置いてあるステンレス製の棚の奥に、小さなテーブルに座布団が2つ。

 私が下座に座り、お母さまが上座に座った。

 

「ここまで来れば大丈夫ね」

「はい、紫さま以外は入ってこられないでしょう」

「紫以外は無理でしょうね」

「もしも、紫さま以外の人妖が入ってきたらどうしましょうか?」

「そうね……。仲間に引き入れるか、殺してしまうかはあなたの判断に任せます」

 

 最近知った事というか、真実を聞かされてからというか。

 お母さまは以外と容赦ない。

 

「お母さまだったら、どうされます?」

「私? 白玉楼の秘密を知られたら、生かして帰す訳ないじゃない」

 

 そんな回答だと思っていましたとも。

 さて今日はどんなお話があるのだろうか。

 

「前回、水鬼鬼神長が私の思い描いている通りの人物だったら、こちら側に来てくれると言いましたね?」

「はい」

「水鬼鬼神長が巷ではなんて呼ばれているか、フランドールは知っているかしら?」

「えーと、最弱の鬼神長と揶揄されたりしていますね」

「そうです。そのせいか、鬼神長直属の特務部隊の窓口役を押し付けられたり、お迎えの任務を押し付けられたり、雑務全般を押し付けられたりと、虐げられている……ところまではいきませんが、現状に不満を持っているのは確かです」

「不満を持っている事が重要だと?」

「ええ、虐げられたり、現状に不満を持ったりしている事が重要です。いつかはこうしてやろう、と野心を持つものです。その野心に火をつけてあげればいいのです」

「野心に火をつけるといっても、我々は『ありとあらゆるものを破壊する程度の能力』を公開しただけに過ぎませんが?」

 

 そうだ、情報を公開しただけで、どうして野心に火がつくというのだろうか?

 

「水鬼鬼神長はこう考えるはずです。『ありとあらゆるものを破壊する程度の能力』という強力な能力を持ったフランドールを『鬼神長』として擁立したら、自分の地位も向上するのではないのだろうかと」

「私が『鬼神長』に?」

「ええ、それだけの能力があれば、是非曲直庁の『鬼神長』として十分通用するでしょう」

「私を『鬼神長』として擁立するのは良いとして、水鬼鬼神長の地位は向上するのでしょうか?」

「きっと後輩として育ててくれるでしょう。今みたいに色々な雑務をやってもらって。強力な能力をもつ後輩の影をちらつかせれば、他の鬼神長も見方を変えるはずです」

 

 お母さまは私に雑務をさせている自覚はあったのか。

 業務報告書作成などは私にやらせて、ご自分は歌を詠まれている。

 私としてはお師匠様との剣術の稽古に時間を割ければいいので、特に文句はないが。

 

「私に雑務をさせている自覚があったのですね」

「……。とりあえず、今後の水鬼鬼神長への対応策を考えます」

 

 話をそらせた、という事はやはり自覚があったのか。

 まあいい。今は水鬼鬼神長への対応策だ。

 

「話のわかる鬼神長だった場合、我々の要求も聞いてくれるはずです。フランドールが元服するまで『鬼神長』として迎え入れるのは待って欲しいという要求です」

「話のわからない鬼神長だったら?」

「大量の死神や鬼を差し向けてくるでしょう。ルビコン計画の後段計画の始まりです。でもそんな事はないと思います」

「なぜそう思われるのですか?」

「私の勘と、動くなら事実を知った当日中に動く事でしょう。いまだに死神や鬼が来ていないので、話の分かる鬼神長だと私は踏んでいます」

「面談の時に要求を突っぱねる可能性は?」

「その可能性も低いわね。水鬼鬼神長は私の『怖さ』を知っているもの」

 

 そうか、『500年前の真実』でお母さまの露払いをした鬼神長の一人なのか。

 だったらお母さまの『怖さ』を近くで感じたはずだ。

 

「だから水鬼鬼神長が私の思い描いている通りの人物だったら、こちら側に来てくれるわけです」

「でも私が『鬼神長』になるとか想像ができません」

「フランドール、この機会に今後の進路とか考えてみてはどうかしら?」

「今後の進路ですか……」

「私もまだあなたを手放す気はありませんが、あなたが元服して十分大人となった時、一つの進路として考えていても良いかもしれません。私としては別の冥界の主となって欲しいんだけどね。でも進路を決めるのはあなた自身です」

「私ですか?」

「そうです、フランドール。あなたは最良の未来を思い、進路を自由に選択するのです。ほかの誰でもない、あなた自身の選択です。あなたの選択に、誰も口を挟みません。私でさえもです」

 

 そう言われても、今は実感がわかない。

 私は席を立つとお母さまに抱き着いた。

 

「今は、あなたの娘でいさせて下さい」

「本当にフランドールは甘えん坊さんね~。いいこいいこ~」

 

 お母さまは私を優しく撫でられた。

 どうか、この時間が永く続きますように。

 

 

 

 

 

 金鬼鬼神長め、雑務ばかり私に押し付けて。

 やっとの思いで仕上げた書類を持って行ったというのに、仕事を押し付けた本人が先に帰っているというこの仕打ちはなんなんだ?

 私、水鬼鬼神長は不満を募らせている。

 

――1980年代 地獄

 

 

 私は私室の席に戻ると冷めてしまったコーヒーを一口飲んだ。

 金鬼鬼神長は次に寿命を迎える天人と仙人のリスト作成を私に頼まれた。

 しかも今日中という日程である。

 すぐにでも欲しいとの事だったのだが、本人は私の仕事を待たずに帰宅してしまった。

 これではフラストレーションがたまる一方だ。

 私としては金鬼鬼神長と対等の立場であると考えている。

 だが、この扱いはなんだ?

 これではまるで上司と部下ではないか。

 そんな事を考えていたら、ノックの音が聞こえた。

 こんな時間に誰だろうか?

 

「特務部隊のベルンハルトです。ご相談があってまいりました」

 

 ノックをしてきたのはベルンハルト捜査官だ。

 『500年前の真実』の後に生まれた、新しい世代の死神である。

 特務部隊の補充要員を欲する旨の書類を書いた所、彼が送り込まれてきた。

 熟練の死神や鬼を欲していたのだが、まさか駆け出しの死神を送り込まれるとは思わなかった。

 これも私に対する何かの当てつけだったのだろうか?

 確かに是非曲直庁は慢性的な人手不足だ。

 だがこの扱いはひどいと思う。

 まだまだつらい任務に耐えられないと思ったので、比較的楽な任務を与えておいた。

 彼には白玉楼に住む吸血鬼、フランドールの能力を確かめる任務を与えていたはずなのだが。

 何か問題でもあったのだろうか?

 

「どうぞ入ってちょうだい。鍵は開いているわ」

「失礼します」

 

 革のジャンパーにジーンズをはいている、いつものスタイルのベルンハルトだ。

 だが、彼はひっきりなしに左右を確認したり、誰かいないか確認したり不審な行動をとっている。

 本当に何かあったのだろうか?

 

「どうしたの?」

「いえ、水鬼鬼神長様以外、誰かいないか確認していただけです」

「こんな時間だし、私だけよ」

「それならよかった。白玉楼の主、西行寺様よりお手紙を預かっております」

「幽々子様から?」

「はい」

 

 ベルンハルトは返事をすると、懐から手紙を出してきた。

 私はその手紙を受け取ると、封を切って中身を取り出した。

 何々……。水鬼鬼神長殿、特務部隊所属のベルンハルト捜査官から聞いた内容は真実である事を白玉楼の主、西行寺幽々子が保証します、か。

 それと、面談の日時が記載されている。

 どういう事なのだろうか?

 

「それで、幽々子様から何を聞いてきたのかしら?」

「その前に、私から聞いた内容を他の鬼神長の方々に報告しないと約束してください」

「随分な要求ね。まだ内容も聞いてないというのに」

「それだけ秘匿して欲しい内容なのです」

「それも幽々子様からの要求なのね。わかったわ。他の鬼神長にこれから話す内容は流さないわ」

「ありがとうございます」

 

 ベルンハルトのもったいぶった態度にもそろそろ限界だ。

 一体何を聞かされた?

 

「白玉楼の主、西行寺幽々子様の娘であるフランドール様なのですが、持っている能力が『ありとあらゆるものを破壊する程度の能力』であるという事がわかりました」

 

 私は目を見開き、驚いた。

 あの適当な噂が本当だったなんて……。

 正直、私はそんな能力があるなんて信じていなかった。

 

「それは本当なの?」

「ええ、白玉楼の裏庭でデモンストレーションをしてくれました」

「どんなデモンストレーションだったのかしら?」

「お皿を射的台に乗せて、それを破壊するという内容でした」

「……」

 

 どうする?

 ほかの鬼神長にはこの内容を流さないとしたが、閻魔に流さないとは言っていない。

 四季映姫・ヤマザナドゥにこの内容を流すか?

 いや、幽々子様を敵に回したら命がないだろう。

 ここは幽々子様に協力するか?

 圧倒的な能力である、『ありとあらゆるものを破壊する程度の能力』を持っているのなら、特務部隊の隊員などではなく、新たな『鬼神長』として迎え入れる事も可能だ。

 私の後輩として『鬼神長』に迎え入れたら、私の地位向上もできるかもしれない。

 足繁く白玉楼に通って、『鬼神長』になるようにフランドールを説得するのも良いかもしれない。

 

「面談の日時が書いてあったわね……12月25日12時か」

 

 色々会議などが入っていたと思うが、全部キャンセルしてでも行かねばならないだろう。

 

「ベルンハルト、この内容は他言無用です。ほかの隊員にも漏らしてはいけません。良いわね?」

「はい、わかっております」

「あと、面談の日時である12月25日12時から予定を開けておく事」

「自分も行くんですか?」

「『鬼神長』が護衛なしで出向いてら、ぱりっとしないじゃない」

「わかりました」

 

 ベルンハルトは観念した様だ。

 それでは12月25日は白玉楼に乗り込みますか。

 鬼と出るか、蛇と出るか。

 

 

 

 

 

 拝啓お母さま。

 本日は私の誕生日です。

 水鬼鬼神長との面談日でもあります。

 私、フランドールは緊張しております。

 

――1980年代 冬 白玉楼

 

 

 12月25日の午前中は12畳ある居間でテーブルの準備やクリスマスツリーの準備に追われていた。

 12時ぴったりに水鬼鬼神長がお見えになるので、それまでに誕生日パーティー兼クリスマスパーティーの準備を行わないといけない。

 地下大金庫室でお母さまとお話した後、特に大量の死神や鬼が白玉楼に押し寄せる事もなく、平和に過ごしていた。

 お母さまの読み通り、水鬼鬼神長は話の分かる鬼神長だったのかもしれない。

 

「お母さま、クリスマスツリーの準備ができました」

「どれどれ……。ちょっと飾り付けが偏ってない?」

「そうですか?」

「赤のクーゲルと白のクーゲルがアンバランスよ」

「むう」

「ここと、ここを交換すれば……。ほらこれでバランスが取れたわよ」

「わあ。ありがとうございます、お母さま」

「どういたしまして」

 

 お母さまの飾り付けは完璧だった。

 伊達に1000年も亡霊をやっていないという事か。

 あとは電気を入れるだけでクリスマスツリーは完成となる。

 電気を入れ、チカチカと色鮮やかに点灯するクリスマスツリー。

 それを見ていたら、少し不安になってきた。

 

「お母さま」

「なーに、フランドール」

「私は心配です」

「水鬼鬼神長の事?」

「はい」

「フランドール、もう『賽は投げられた』のよ。後はなるようになるわ」

「もう後戻りできないのですね」

「そんなに心配?」

「はい。水鬼鬼神長がどのような方かも知らないので」

「大丈夫、水鬼鬼神長は慈悲深くて義理堅い方よ。悪いようにはしないと思うわ」

「そうだと良いのですが……」

 

 お母さまは私の頭を撫でてきた。

 

「大丈夫よ、フランドール。もしもの時は私が守ってあげるから」

「はい」

「実のところ、私も不安で一杯なのよ」

 

 お母さまが不安?

 とてもその様には見えないのだが。

 いつも通り、飄々としていて真意が掴みづらいのだが。

 

「ねえフランドール、あなたも上に立つ者となるはずです。上に立つ者がオロオロしていたら、部下はどう思うかしら?」

「とても不安になると思います」

「その通り。だから私はどっしりと構えています。部下の不安を取り除くのも、上に立つ者の使命だと私は思っています」

「上に立つ者の使命……」

「あなただったら、今は虚勢を張って、大法螺吹きぐらいがちょうどいいかもしれません」

「私は法螺吹きになりたくありません!」

「だったら中身を育てなさい。あなたが成長すれば、吹いている法螺貝がどんどん小さくなって、最後には真実だけが残る。どっしりと構えるぐらいの貫禄が生まれるわ」

 

 お母さまは私にそれとなく成長する様に促している。

 貫禄か……。もうちょっと大きくならないと、ただ虚勢を張っているだけになってしまうだろう。

 まだまだ先が長い。

 

「幽々子様」

 

 お師匠様の妖忌が、お母さまをお呼びだ。

 指定の時間の2時間前で、まだ10時だ。

 水鬼鬼神長が来るにはちょっと早すぎる。

 

「なにかしら、妖忌」

「射命丸文と申す鴉天狗が玄関に来ております」

「なんですって?」

 

 社会派ルポライターの射命丸文さんだ。

 前回お母さまを怒らせてショットガンの的になった方だ。

 今回は何か嗅ぎつけて来たのだろうか?

 

「わかったわ。私が対応するわね」

「私も行きます」

「あら、フランドールも? 心強いわね~」

 

 いざとなれば能力を使う事も辞さない。

 私達はそろって玄関に向かった。

 

「どうも~。清く正しい射命丸です」

「それで、その清く正しい射命丸さんはこの白玉楼に何の御用なのかしら? 四季様に雇われた情報屋として現れたのかしら?」

「いえいえ~。本日は自分の新聞を売り込みに来ただけですよ」

「本当かしら?」

 

 お母さまは訝しんだ。

 射命丸さんは持っていた新聞の束から1部を取り出し、我々に差し出してきた。

 

「私が執筆した『文々。新聞』です。1部差し上げます」

 

 お母さまは受け取る兆しが無かったので、私が受け取った。

 何々、涸れ井戸の中から白骨死体が見つかる? 随分と物騒な内容だ。

 

「どうです? 定期購読してみませんか?」

「私にそんな気はないわ」

「いえ、お母さま。これは定期購読してみてはどうでしょうか?」

「フランドール!?」

「流石フランドールさん、わかっていらっしゃる」

 

 お母さまは私の発言で驚いていた。

 

「この新聞一つで幻想郷の情報が得られます。これは有益なのではないでしょうか?」

「でも天狗の情報って古いのよね~」

「それでも、です」

 

 お母さまはうーんと唸っていたが、観念したのか項垂れた。

 

「わかりました。フランドールがそこまで言うのなら、定期購読します」

「ありがとうございます!」

「これだけあれば、1年分の購読料として足りるでしょ」

 

 袖をゴソゴソとまさぐると、1円紙幣を射命丸さんに渡した。

 

「十分足りますよー! いやー、本当にありがとうございますー!」

 

 射命丸さんは左右を確認すると、小声で話しかけてきた。

 

「そういえば、何か美味しそうな匂いがするのですが、今日は何かあるのですか?」

「フランドールの誕生日パーティーが今日あるのよ」

「それはめでたい。私もご相伴にあずかっても宜しいですか?」

「ええ、どうぞどうぞ。鉛の弾で宜しかったら、たらふく食らっていって下さいな」

「おお、怖い怖い。今回は遠慮しておきます~」

 

 射命丸さんはそう言い残して、玄関を出て飛び立ってしまった。

 お母さまは天狗という種族が嫌いなのだろうか?

 

「フランドール、気をつけなさい。天狗という種族は狡猾です。心を開いて痛い目に遭うのは私達です」

「以前何かトラブルでもあったんですか?」

「ええ、昔々の話よ。でもこの話はあんまりしたくないの」

「それでは聞きません」

「ありがとうフランドール。それじゃあパーティーの準備に戻りましょうね」

「はい、お母さま」

 

 

 何とか12時前には水鬼鬼神長の受け入れ準備は完了した。

 12畳の客間の準備も整った。

 後は水鬼鬼神長がいらっしゃるだけだ。

 

「私は玄関でお待ちするから、フランドールは客間の下座に座って待っていて。水鬼鬼神長を客間にご案内したら、立ち上がって挨拶をするのよ」

「はい、わかりました」

「私より2階級も上の人物です。失礼の無いようにね」

「わかりました」

 

 客間で待つこと十数分、ついに水鬼鬼神長がいらっしゃったのか、玄関があわただしくなった。

 お母さまが客間の障子戸を開けると、妙齢の女性が客間に入ってきた。

 水鬼鬼神長の容姿は、瞳の色が落ち着く緑色で、髪の色は赤色で腰ぐらいまであり、髪型はセンター分けだった。

 そして鬼の象徴である、耳の近くから生える角によって、この方が鬼であるという事を自覚させられる。

 それに少し筋肉質だ。

 

 

【挿絵表示】

 

 

「金髪に虹色の羽根。あなたがフランドールなの?」

「はい。白玉楼の主、西行寺幽々子の娘でフランドールと申します」

「そう、あなたが。私は水鬼鬼神長。よろしくね、フランドール」

「よろしくおねがいします」

 

 水鬼鬼神長は私の頭を撫でてくれた。

 撫で終わったところでお母さまが話しかけてきた。

 

「さあ水鬼鬼神長様もベルンハルトもお座りください」

 

 私達はお母さまに促されるまま、着席した。

 水鬼鬼神長様たちが上座で、我々が下座に座った。

 全員座ったところでお母さまが話を切り出した。

 

「お久しぶりです、水鬼鬼神長様。本日はお忙しいところ、ご足労頂き、誠にありがとうございます」

「本当にお久しぶりです、幽々子様。500年ぶりぐらいでしょうか。あの大規模作戦から随分と月日が経ちましたね」

「ええ、あの時はお世話になりました」

「いえいえ、私は露払いしたにすぎません」

 

 水鬼鬼神長が仰っている大規模作戦とは『500年前の真実』の事だろうか?

 ベルンハルトさんも居る事なので、どうも話をぼかしている。

 とりあえず、水鬼鬼神長はどんな思いでこの白玉楼に来たのか、確認してみる事にした。

 私は水鬼鬼神長の『目』を手のひらに持ってくる。

 

『フランドールの能力を今度は私が確かめてやる!』

 

 特に捕縛などの文字が無かったのが幸いだった。

 どうやら私の能力を確かめに来ただけの様である。

 

「それにしても、この白玉楼はなぜ臨戦態勢なんですか?」

「そんなつもりはありませんが……」

 

 水鬼鬼神長は疑問を呈してきた。

 

「客間に入って少し『匂った』のよ。ガンオイルと硝煙の匂いがね。そして匂いの元を辿ると……あったあった」

 

 客間のテーブルの下に手を入れると、そこに貼り付けてあったショットガンを持ち上げてきた。

 

「スパス12(twelve)。しかも初弾装填済みで引き金(トリッガー)を引くだけで弾が発射されるわ。使用弾薬はっと」

 

 スパス12のハンドガードをポンプアクションさせ、初弾を引き抜き、飛び出してきた弾薬を空中でキャッチする。

 

「12番ゲージのライフルスラッグ弾? 熊でも殺そうとしていたの?」

「臨戦態勢ではないんだけど、最近ウチを嗅ぎまわるカラスが居ましてね。自衛の為ですよ」

「幽々子様も大変ね。娘さんの秘密を守る為とはいえ」

「誰が流したかは知らないんだけど、天狗にまで噂が広がっちゃいまして」

 

 お母さまは肩をすくめ、水鬼鬼神長に説明した。

 水鬼鬼神長はスパス12をテーブルの脇に置くと、真顔でお母さまに話しかけた。

 

「それで幽々子様、例の噂は本当なのでしょうか? ベルンハルト捜査官からデモンストレーションの内容など聞いて把握はしているのですが、どうにも信じられなくて」

「フランドール、水鬼鬼神長様に報告しなさい」

「水鬼鬼神長様、噂は本当です。私の能力は『ありとあらゆるものを破壊する程度の能力』です」

「そう、噂は本当だったの……。スペックはどんなものかしら?」

「スペックですか? 遠距離だと、有効射程が300mで動いているものでも破壊出来ます。近距離での早撃ち(ファストドロー)だったら5msで破壊出来ます」

 

 水鬼鬼神長様は驚かれて目を丸くされていた。

 

「有効射程が300mで、5msの速度で破壊が可能!? とても信じられないわね」

「フランドール、複数追跡(マルチトラッキング)の数も申告しておきなさい」

「対象が幽霊でしたが、40個まで複数追跡可能です」

「幽々子様、もうあなたの能力すら超えているのでは?」

「超えていると思います。私の能力では生きてさえいれば死を与える事は出来ても、無機物は無理ですもの」

「是非デモンストレーションを拝見したいんですが」

「大丈夫よね? フランドール」

「はい」

「それでは裏庭までいらして下さい」

 

 お母さまは立ち上がると、私達に手招きをした。

 私達4名はそろって裏庭に出たところで、お母さまが説明を開始した。

 

「ここからでは見えませんが、300m先に射的台があり、そこにお皿5枚が置かれています。その5枚をこれから破壊します」

「確かにここからでは点にしか見えないわね。ベルンハルト、双眼鏡(ビノキュラー)を」

「はいっ」

 

 ベルンハルトさんは持っていたカバンから双眼鏡を取り出した。

 

「どうぞ、レーザー測距装置付きの双眼鏡です」

「ありがとう」

 

 水鬼鬼神長はベルンハルトさんから双眼鏡を受け取ると早速覗き込んだ。

 

「確かに5枚のお皿が見えるわね。距離312m」

「それでは左からお皿を破壊していきます」

「わかったわ」

 

 私は目を見開き、射的台のお皿に集中する。

 あたかも近くにお皿がある様に見えてきたら、お皿の『目』を手のひらに移動させる。

 そしてそれを握る。

 

「お皿が砕けたわ!」

「残り4つも続けて破壊します」

 

 私は続けて4つの『目』を握っていく。

 水鬼鬼神長は確認し終わったのか、双眼鏡をベルンハルトさんに渡すと私に笑顔を見せた。

 

「素晴らしいわ、フランドール。ところでお皿以外のもので試した事はあるのかしら?」

「そんなには無いです。お皿と幽霊、鏡だけです」

「『岩』なんて破壊した事は無いのかしら?」

「そんな巨大なものは試した事がありませんね」

「それじゃあ『岩』を切り出して来るからちょっと待っててね。幽々子様、裏山の岩を切り出しても宜しいでしょうか?」

「ええ、問題ないですよ」

「さて、『岩』を切り出して運んできますか」

 

 水鬼鬼神長は準備運動を始められた。

 

「自分もお供しましょうか?」と、ベルンハルトさん

「いえ、ここからは『鬼』の仕事よ」

 

 準備運動が終わると、靴を履いて裏山まで飛んで行かれた。

 その後、裏山で大きな水柱が噴出した。

 きっと水圧で『岩』を切り出しているのだろう。

 確か水鬼鬼神長の能力は『如何なる場所でも洪水を起こし、敵を溺れさせる程度の能力』だ。

 『岩』を削るぐらい訳ないのだろう。

 裏山に水柱が噴出してから数分後、ついに水柱の噴出が終わった。

 どうやら『岩』の切り出しが完了したのだろう。

 

「何かしら、この音」

 

 お母さまが呟かれた時から、ズンズンという地響きの様な音が聞こえてきた。

 よく目を凝らすと裏山から水鬼鬼神長が大きな黒い『岩』を運んでいた。

 射的台の近くまで来ると、『岩』を放り投げた。

 まるで地震が起きたかの様に地面が揺れ、重々しい音が遠くから聞こえた。

 目測で高さ10m、幅5m、奥行き5mの綺麗な直方体の『岩』だった。

 『岩』を設置した後、水鬼鬼神長は飛んで裏庭の我々がいる場所まで戻られた。

 

「いやー、玄武岩を切り出して来たんだけど、硬くて時間がかかっちゃって。幽々子様、適当な場所に置きましたけど、良かったかしら?」

「ええ、大丈夫ですよ」

「それなら始めましょうか。ベルンハルト、双眼鏡を」

「はいっ、どうぞ」

「ありがとう。それではフランドール、玄武岩を破壊してみて」

「はい、やってみます」

 

 水鬼鬼神長は双眼鏡を覗き込んだ。

 私は玄武岩の『目』を手のひらに移動させる。

 

「ん??」

 

 何かいつもと違う手応えだ。

 

「それでは、玄武岩を破壊します」

 

 私は玄武岩の『目』を握った。

 次の瞬間、轟音と共に直方体の玄武岩は大爆発し、凄まじい砂煙を上げた。

 300m離れていてもこちら側にまでパラパラと砂粒や小石が降ってきた。

 煙が収まると、玄武岩があった場所には円形に小石の山がいくつもできていて、爆発の衝撃で近くに置いてあった射的台が大破してしまった事がわかった。

 

「あらあら、射的台が壊れてしまったわ。また作り直さないと……」

 

 お母さまは的外れな事を言い出した。

 私の能力がここまで出来るとはショックだったのだろうか?

 正直、私も玄武岩がここまで破壊出来るとは思ってもみなかった。

 

「これは……。す、凄い」

 

 水鬼鬼神長は一言、仰った。

 バキっというガラスの割れる音が水鬼鬼神長の手元から聞こえた。

 双眼鏡を握り潰してしまった様だった。

 

「あらやだ。手が震えてる! ハハハ……」

 

 水鬼鬼神長は空笑いを始めた。

 よほどショックだったのだろう。

 

「……そろそろ客間の方に移動しますか?」

 

 見ていられなくなったのか、お母さまが部屋に移動する様に促した。

 

「……それもそうね。これ以上、ここに留まっていてもしかたないし」

「それでは客間にご案内させて頂きますね」

 

 私達はそろって客間に戻り、元の通り上座に水鬼鬼神長とベルンハルトさん、下座にお母さまと私で席に着いた。

 全員座ったところで水鬼鬼神長がお母さまに話を切り出した。

 

「今後のフランドールの進路について交渉を始めたいんだけど、良いかしら?」

「ええ、お願いします」

「フランドール、能力のデモンストレーション、どうもありがとう。実のところ、こんなに強力な能力だとは信じていなかったの」

「私も玄武岩は初めてだったので、どんな結果になるかは、予想もできませんでした」

「こんなに強力な能力なら、あなたを『鬼神長』として迎え入れる事が可能だと私は考えています」

「『鬼神長』に、ですか?」

「ちょっと待って下さい」

 

 お母さまが口を挟んだ。

 

「フランドールはまだ子供です。『鬼神長』として迎え入れるにも、元服してからにして頂けないでしょうか?」

「それもそうね。まだ焦る話ではないので。フランドール、あなたはまだ保護者がいる子供なので、元服してから改めて意志を確認させてもらいます」

「そう言って頂けると助かります」

「幽々子様も宜しいですね?」

「はい。元服したら、もう私の手を離れます。後はフランドールが自由に選択するだけです」

 

 ほっと一息。

 水鬼鬼神長は私達親子の仲を引き裂こうとする事はしなかったし、お母さまの要求通りに事が運んだ。

 元服、つまり私がしっかり成長して一人前になった時、改めて私の意志を確認するとの事だった。

 水鬼鬼神長はさらに話を進めた。

 

「フランドールの進路について、これとは別件で相談したい事があります。四季映姫・ヤマザナドゥは、是非曲直庁の戦力バランスを均衡化させるため、フランドールを私が窓口役をやっている特務部隊の隊員にさせたい様です」

「それは初耳です。そんな提案を受けたのですか?」

「ええ、以前私とあの閻魔とで交渉を行いました。その時に閻魔から提案を受けたのです」

「封印処分の提案を受けたのではなく、ですか?」

「ええ、そうです。封印処分ではなく、特務部隊の隊員として受け入れて欲しいと提案してきました」

「そこまで話が進んでいたのですか……」

「ですが、特務部隊の隊員として受け入れた場合でも、私は親元である幽々子様の元に一旦返そうと考えています」

「そんな事をしたら、あなたの立場が悪くなるんじゃないかしら?」

「特務部隊の隊員となった場合は、閻魔より私の意志が優先されるので、問題は無いかと。それでも形だけでも隊員としての活動を行わなければならないので、月一で演習には参加してもらう事になると思いますが」

「フランドールが戻ってくるなら、それぐらいの条件は飲めますわ」

「ありがとうございます。是非曲直庁の戦力バランスという、どうでもいい理由で親子の仲を引き裂こうとする事に私は反対なので。こちらの場合も元服するまで幽々子様預かりという事で」

 

 どうやら水鬼鬼神長は今のところ(・・・・・)我々の味方らしい。

 これで『ルビコン計画』の後段計画がどちらに転んでも私達親子は一緒にいられる。

 

「幽々子様、総括に入らせてもらっても良いかしら?」

「ええ、お願いします」

「一つ。フランドールの進路は元服後に確認する。二つ。特務部隊の隊員として受け入れた場合にも元服するまで親元に返す。これで良いわね?」

「はい、問題ありません。口約束だけでは怖いので、文章に起こしても宜しいでしょうか?」

「ええ、かまいませんよ」

 

 水鬼鬼神長は了承し、お母さまは客間に置かれている書道セットを使い、早速硯で墨をすり始めた。

 紙に筆を走らせ、文章を起こしていく。

 ほどなくして出来上がり、水鬼鬼神長に出来上がった文章を確認して頂いた。

 

「問題ないわね」

「ご署名を頂いても宜しいでしょうか?」

「ええ、もちろんです。筆と墨を」

「どうぞ」

「ありがとう」

 

 サラサラと水鬼鬼神長は筆を走らせ署名し、続いてお母さまも署名をした。

 これは所謂、密約文書と呼ばれるものではないだろうか?

 

「水鬼鬼神長様、ここで見たり聞いたりした事は他言無用でお願いします」

「わかっているわ。この情報の取り扱いは慎重に行わないといけないわね。これは地獄の勢力図を一変させかねない情報よ」

 

 水鬼鬼神長は一旦言葉を区切って、お母さまを正面から見据えた。

 

「幽々子様、聞きたい事があります」

「なにかしら?」

「あなたは『破壊神』を育てている自覚がありますか?」

 

 水鬼鬼神長の質問は衝撃的なものだった。

 

 




 最後までお読み頂き、ありがとうございます。
 突然文章が書けなくなって少々焦りましたが、何とか戻ってこられました。
 投稿が遅くなり申し訳ありません。

 水鬼鬼神長の挿絵は月わにさんより頂きました。
 ありがとうございました。
 https://twitter.com/tukiwani
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