西行寺さんちのフランドール   作:cascades

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幽々子はフランドールの養育と冥界に留まる許可を是非曲直庁の四季映姫・ヤマザナドゥに求めるが……

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思惑

 

 夜、フランドールを寝かしつける。

 3時間後……「ギャオー!」

 さらに3時間後……「ギャオー!」

 夜泣きの到来である。

 

 私、西行寺幽々子は子育てを舐めていた。

 

――赤子は24時間営業だった。

 

 

 幻想郷担当閻魔、四季映姫(しきえいき)・ヤマザナドゥ様宛てに手紙をしたためた。

 フランドールを養育する許可が得られる様にやや誇張した理由と面談のお願いを記載した。

 これで四季様もフランドールに興味を持つだろうし、面談に応じてくれる筈である。

 

 手紙を妖忌に持たせ、面談の約束日時を知らせに使いの死神、小野塚小町(おのづかこまち)が翌日には現れた。

 面談の日時は2週間後だったのだが、驚いたことに場所は白玉楼で行われることとなった。

 正直、今のフランドールをあまり動かしたくなかったので、ありがたいご配慮だった。

 

 ただ、面談までの2週間が地獄だった。

 最初はおしめの取り換え方すら知らなかったのだが、紫が1から教えてくれた。

 

「ねえ紫、おしめはこう巻く、でいいのかしら?」

「違う、そうじゃない」

 

 紫が血液を革袋で提供をしてくれるのだが、血液を飲ませた後、適度にゲップを吐かさなければならず、四苦八苦した。

 

「えーと、縦抱きにして、フランドールの顎を私の肩にかけるようにして、軽くトントンと背中をたたくと」

「げぷぅ」

「上出来よ、幽々子」

 

 紫は私が心配らしく、毎日会いに来てくれて、優しく励ましてくれたり、子育てを手伝ってくれたりした。

 部下の家事手伝いの幽霊に、おしめの洗濯や必要になる手ぬぐいの洗濯などの雑務を任せていたので、私にはある程度の精神的余裕ができた。

 紫や部下の支えがあるからこそ、この子育てがうまくいっていると思う。

 親友の紫には感謝してもしきれない。

 

 しかし、こんなにも赤子とは手がかかるものなのか。

 私の交友関係と部下をフル活用して、ようやく子育てができている状態である。

 2度目になるが、私、西行寺幽々子は子育てを舐めていた。

 でも後悔はない。

 地獄の様だが、この充実した日々を、手に入れられたのである。

 私の欠けたパズルのピースは、やはりフランドールだったのかもしれない。

 

 

 2週間はあっという間に経過し、四季様との面談日は、すぐにやってきた。

 約束の時間が迫ったので、フランドールを抱っこして玄関で待っていると、2人の人影がうつった。

 1人は背が低めの四季映姫・ヤマザナドゥ様で、もう1人は背が高めの小野塚小町だった。

 四季様はこの幻想郷の担当閻魔で、『白黒はっきり付ける程度の能力』を有し、この力で裁判を行い、死者をどこへ送るか決めている。

 小町は四季様の部下で、三途の河の船頭をしている死神であり、『距離を操る程度の能力』を持っている。

 私は笑顔でお二方をお迎えした。

 

「お久しぶりです、四季様。ようこそいらっしゃいました、それに小町も」

「お久しぶりです、幽々子。私が幻想郷の担当閻魔になったときの挨拶以来ですか」

「ちわー、西行寺様」

 

 挨拶もそこそこに、小町がフランドールに反応し、私に近寄ってきた。

 

「かわいいねー。あたいも抱っこしたいんだけど、いいかい?」

「どうぞ~」

 

 私は快く引き受けた。

 フランドールを抱えて、小町が抱っこしやすくする。

 小町は笑顔でフランドールを受け取った。

 

「ところで、この子の名前は何だい?」

「幼名でフランドールと名付けましたわ」

「そうか~、あんたの名前はフランちゃんっていうんだ」

 

 小町はフランドールを抱きしめて頬ずりするなどして楽しんだ後、上司の四季様に声をかけた。

 

「四季様も如何ですか?」

「私も抱っこがしたいですね」

 

 小町は上司の態度に驚いた表情をしていた。

 私もてっきり赤子や子供は苦手です、などと理由をつけて抱かないかと思っていた。

 四季様は悔悟棒(かいごぼう)を置き、手慣れた手つきで小町からフランドールを受け取った。

 

「どれどれ…… 白、ですね、赤子に罪はありません」

「うー! うー!」

「あらあら、かわいいわねー」

 

 四季様はフランドールを気に入った様で、数分は抱っこしてあやしていた。

 あやし終わったところで、フランドールを返してもらい、小声でそばに控えていた、妖忌にお願いをする。

 

「妖忌、フランドールを少しの間、預かっても貰えるかしら」

「承知しました」

 

 妖忌はフランドールを抱っこして、別室へ消えていく。

 私はお二方を客間へ案内することにした。

 

「それでは、客間にご案内させて頂きますね、小町は別室にてお待ちください」

 

 

 白玉楼の客間はいくつかあるが、重要人物がいらっしゃった場合、渡り廊下先の離れの客間を使っている。

 小町には屋敷途中の客間で待ってもらい、四季様には一緒に離れの客間へいらっしゃって頂いた。

 離れの客間は6畳2間あり、2人で使うには十分な広さがあった。

 四季様には客間の上座に座って頂き、私はその対面に座った。

 お互い正視したところで、私は挨拶を切り出した。

 

「本日は遠いところ、ご足労頂き、誠にありがとうございます」

「堅苦しい挨拶は抜きです。時間も限られていますし、手紙の内容に対する報告をお願いします」

「はい、ご興味を持って頂いた様で何よりです。それでは、説明させて頂きますね」

 

 いきなり切って捨てられてしまったので、私は説明を開始した。

 時間が押している様なので、説明は多少巻いて質疑応答に時間を割く方法をとる。

 

「今は戦乱の世ですが、いずれ泰平の世が訪れます。そうなると人口が増え、幽霊の数も増えていきます。これにより、冥界を拡張する必要が出てくると考えます」

 

 まずは今後の日ノ本の情勢報告、泰平の世が訪れたら人口増加が容易に予想される。

 

「現在、自分の業務は回せておりますが、冥界が拡張されるなどしたら、一気に業務内容が増え、いずれ破綻してしまうでしょう」

 

 私は現状の業務はこなせているが、これ以上増えたら、さすがに無理がある、なんて……。

 もちろん、これは嘘だ。

 

「私は幽霊の管理のほか、業務報告書作成などの雑務も行っております。今後幽霊の数が増えた場合、自分は幽霊の管理に注力したいと考えております」

 

 私は主たる業務である幽霊の管理に注力したい旨を伝える。

 書をしたためるのは好きだが、業務報告書の作成はまっぴらごめんである。

 

「雑務を行う人材を割いて欲しいのですが、是非曲直庁は現在人材不足です。そこで、今回、何者かによって冥界に送り込まれてきた、吸血鬼の登場となるわけです」

 

 数年前、是非曲直庁設立時に地獄の民である鬼や死神を大量採用したのだが、組織に属さず、自由を愛する地獄の民も多いので、求人はあるが人が来ない状態が続いている。

 私は四季様の目をじっと見ながら提案を開始する。

 

「吸血鬼は、ほぼ不老不死なので、冥界に適応できる事と、”鬼”である事から是非曲直庁の手駒としても適しています」

 

 肩を引き、姿勢を正して、本題であるこちらの要求を四季様に突きつける。

 

「ですが、吸血鬼はまだ赤子ですので、養育及び冥界に留まる許可を得たいと、考えている次第です」

 

 興奮していたようで体中が熱くなっている事に気が付く。

 

「以上で報告を終了させて頂きます。ご質問はありますでしょうか?」

 

 四季様は少し眠そうだった。これで質問が無ければ万々歳なのだが……。

 

「質問を何点かよろしいでしょうか」

 

 やはり四季様からの質問が飛んできた。

 ここからが正念場である。

 

「お願いします」

「人口が増えるとありますが、どの程度を想定していますか?」

 

 以前、八雲紫に聞いていた数字を並べて回答していく。

 

「現在、日ノ本の国では1000万人程度ですが、その3倍の3000万人程度になるかと想定しています」

「その試算は誰が出したものですか?」

「友人の八雲紫です」

 

 四季様の気分を害したのか、眉をひそめられた。

 

「八雲紫ですか……数字は信用できそうですね」

 

 信用できる、という言葉の割に、四季様は納得がいかないご様子だった。

 

「もう1点質問をよろしいでしょうか」

「はい」

「何者かによって送り込まれた、とありましたが、その何者かは、わかっているのでしょうか?」

「いいえ、わかっておりません」

「悪意あるものが、送り込んだ可能性がありませんか?」

 

 これもつい先日聞いたばかりなので、そのまま回答する。

 

「結界や魔術的な呪いの類は発見できなかったと、友人の八雲紫から報告を受けております」

「また八雲ですか……。もう少し交友関係を見直す事はしないのですか? ……失礼、話がそれました。見落としている可能性は?」

 

 四季様は疑念があるのか硬い表情だった。

 私は八雲紫を信じているので、はっきりとした口調で回答した。

 

「ありません」

 

 

 質疑はどうやら終了した様だった。

 四季様は総括に入られた。

 

「それでは、報告は了承しました。確かに、是非曲直庁の人材不足は悩みの種です。ですが……少し感情的なお話をしてもよろしいですか?」

 

 閻魔様の感情的なお話……。本当の正念場はここからか。

 私は恐る恐る回答した。

 

「お願いします」

「あなたは悪魔を育てるつもりなのですか?」

「悪魔かどうかは育ててみなければわかりません」

「吸血鬼は悪魔です」

 

 四季様はフランドールを悪魔と決めつけてきた。

 確かに吸血鬼は悪魔だが、私は教育次第だと思っている。

 教育に関する持論を展開した。

 

「私は教育次第だと考えております。教育とは恐ろしいものです。人間を聖人にも悪魔にもできます」

「それは人間の話であって悪魔は悪魔にしかなりえません。妖怪の子が妖怪にしかならない様に」

「しっかり教養を身につけさせ、秩序を重んじる様に教育すればよろしいかと」

「教養ならまだしも、吸血鬼としての秩序をあなたは教えられるのですか?」

「吸血鬼と限定せず、妖怪としての秩序なら教えられます」

 

 私は四季様相手に一歩も引かなかった。

 こんなところで、かわいいフランドールを取られてたまるか。

 

「あなたは少し強引すぎる」

「……」

 

 正論すぎて、私には何も言えなかった。

 四季様の目と自分の目が合った状態で数分が過ぎる。

 この時間が私には数時間にも感じられた。

 しばらくすると、四季様が口を開いた。

 

「不本意ですが、貴方の意見に賛同し、養育する許可を与えます。但し、仮の許可です」

「仮の、許可ですか」

「はい。私にはあなたが悪魔の子供を育て、教育できるとは、とても思えません。石の上にも3年という言葉があります。300年たっても養育していたら、正式な許可を与えましょう」

「300年……結構な年月ですね」

「それぐらいでないと、あなたが本気であるか測れません」

「承知しました」

「冥界の拡張に関しては、すぐに実行できるので、人口が増えてから再度考えさせて頂きます。まずは時間のかかる、人材育成を行ってください」

 

 どうやらフランドールの養育許可は条件付きだったが下りた様だった。

 冥界の拡張はお預けとなってしまったが、成果を上げる事はできた。

 私は素直にお礼を言った。

 

「はい、ありがとうございます。四季様」

 

 

 

――スキマより

 

 私、八雲紫は親友に嘘を付いている。

 嘘、とは語弊がある。情報の全てを公開していない、というべきか。

 確かに悪意のある結界や魔術的な呪いの類は発見できなかったと報告したが、悪意がないものに関しては報告をしていない。

 実のところ、”魅了の魔眼”が常時発動中なのである。

 亡霊に”魅了の魔眼”が通じてしまった様で、フランドールを見つけてからというもの、彼女中心の生活となってしまった。

 私としては、赤子を与える事で、親友の心のスキマを埋められれば、それだけでよかったのだ。

 だが、どうやら私はフランドールに親友の幽々子を取られて嫉妬している様なのだ。

 まるで母を妹に取られた姉のような気持ちを味わうとは思ってもみなかった。

 しかし、フランドールは無垢な赤子、罪はない。

 私は今の気持ちを表に出さないよう接して、親友の為に子育てを支えていこうと思っている。

 もちろん、無償のつもりはなく、あとで利子をつけて返してもらうつもりでいる。

 この幻想郷の為、強力な妖怪である吸血鬼を私の手駒として保有するのも悪くはない。

 そう、この幻想郷を愛する”愛郷者”は多ければ多いほどいい。

 子育てを手伝う名目で、そのように教育してしまえばいい。

 

 

 本日は四季映姫が来ているので、姿を現すわけにはいかない。

 万が一、姿を見られれば、口うるさい説教が始まってしまうだろうし、そんなもの聞く筋合いはない。

 スキマに隠れて、別室の小町に出されたお団子をつまみながら、四季映姫と幽々子の対談に聞き耳を立てる。

 以前から気になっていたことが1つある。

 幽々子が雑務をこなしている時に聞いてきた、今後の人口推移である。

 その時は白玉楼の管理者、幽々子ならではの質問だったのだろうと考えていた。

 泰平の世が来たら、外の人間も増えるだろうし、冥界を拡張する必要が出てくると考えたのだろう。

 だからか具体的な数字が欲しいといわれた時は冥界の拡張計画を立てる為だと思っていた。

 実際そうだったのだが、その拡張計画にフランドール養育の件を絡めて四季映姫に要求した時は驚いた。

 拡張計画を四季映姫に説明するにはあまりにも時期尚早だし、フランドール養育の件はごり押しに近いものがあった。

 私は幽々子に焦りのようなものを感じていた。

 今まで綿密に立案した計画が廃案に追い込まれようとも、フランドールの養育権をどうしても欲しいという感情が表に出ている。

 確かに、彼女は場当たり的なところもある。

 だが、あまりに急ぎすぎている。彼女らしくない。

 やはり、フランドールの魔眼の作用なのか。

 

 

 対談が終わった様だ。

 どうやら、冥界拡張計画は廃案にならず、一時保留となったが、幽々子は念願のフランドール養育の許可を受けられた。

 この許可は是非曲直庁の正式な許可となるので、フランドールは吸血鬼でありながら、冥界に住み、是非曲直庁配下の妖怪となった。

 やれやれ、と思いつつ、小町に出されていた最後のお団子に手を伸ばす。

 その瞬間、腕をつかまれ、スキマから引きずり出されてしまった。

 どうやら、私と小町の間の『距離』を弄られてしまったようだ。

 

「お久しぶりです、八雲紫サマ」

「あら、どこかでお会いしたこと、ありましたっけ?」

 

 私はすぐにスキマに潜り込むのであった。

 




最後までお読みいただき、ありがとうございました。

×次回は裏の主人公、小野塚小町のお話となります。(お蔵入りになりました)

次回はフランドールと幽々子のお話となります。
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