17/10/23 誤字報告、有難う御座いました。
管理者
「フランドール、座り心地はどうかしら?」
「うん、最高!」
幽々子はフランドールを膝の上に乗せて、娘の反応を楽しんでいる。
今日は親友の幽々子に会いに来たのに、疎外感を感じる。
なんだこれは。
確かに幽々子とフランドールの親子関係は良好だったとは言え、ここまでべったりという事はなかった。
私、八雲紫は困惑している。
――スキマより
私とフランドールの関係としては、一か月に一度、簡単な算術の四則演算などを教えている師弟関係だ。
冥界の管理を任せられる様にと、幽々子が頼んでの事だった。
算術の他に、妖怪としての在り方や幻想郷の勢力図などを教え込んだ。
フランドールはどちらかというと、私を怖がっている節があり、私が現れると対応は母親の幽々子に任せて、自分は自室に引きこもる事が多かった。
それが今では私が居るのに、母親の膝の上に乗って楽しんでいる。
これは何かあったに違いない。
不可思議な事はまだある。
いつもは居ない、大工の幽霊たちが大勢いる事だ。
現に金槌の叩く音や、鉋をかける音などが聞こえてくるし、新築木造建築特有の木の香りがしている。
雨降って地固まるではないが、二人は大喧嘩をして屋敷に被害を出したのだろうか?
色々考えてみても満足のいく答えが見つからないので、私は幽々子に話しかける事にした。
「ねえ幽々子、今までこんなにフランドールとべったりだったかしら」
「あら、何をいうのかしら紫。私達は昔からこうよ~」
とぼけられてしまった。
「それでも幻想郷の為に、紫には報告しておくべきかもね」
たかが喧嘩だったのなら、ここまで話が大きくはなるまい。
幽々子とはつうかあの仲だと思っていたが、最近どうにも会話が噛み合わない。
「紫、ちょっと私の書斎まで来てくれるかしら。さ、フランドール、降りて頂戴」
「はーい」
フランドールは返事をすると、膝の上から降りて、とてとてと幽々子の後を追った。
書斎に呼ぶという事は、何か重要な話でもあるのだろうか。
私も二人の後を追った。
幽々子の書斎では幽々子とフランドールが上座に座り、私は下座に座った。
何だろうと首をかしげていると、幽々子が話し始めた。
「紫、フランドールの能力が発現したのよ」
「へぇ。どんな能力かしら」
私は素直に驚いた。
きっと私を自分の書斎に呼ぶほどの能力なのだろう。
「それについては、フランドールから話します」
「話しちゃっていいの?」
「良いんです」
「でもぉ……」
「フランドール、紫は幻想郷の管理者なのです。総合的に考えて動いてくれる筈です。もしもの時は私が守るから、安心して頂戴」
「……紫さま、私の能力は『ありとあらゆるものを破壊する程度の能力』です」
私は表情を悟られない様に、扇を広げて口元を隠した。
今何と言った? 『ありとあらゆるものを破壊する程度の能力』?
これまた強力で難儀な能力である。
「扱いきれているのかしら?」
「まだ練習中ってところかしらね」
「練習?」
「そう、裏庭に射的台を置いたの。それで能力の練習をしているのよ」
「是非、練習風景を見学したいのだけど」
「今の時間帯は目立つからあまりやりたくないんだけどね。でもいいわ。紫の頼み事って珍しいし」
幽々子の書斎から、私、幽々子、フランドールの順で裏庭まで3人そろって移動した。
確かに裏庭には目測で約50間(約90m)の位置に射的台が置いてある。
いかにも余った木材で素人が作りました、と言わんばかりの出来である。
「あの射的台、もうちょっとなんとならなかったの?」
「あら、私の力作よ~。でもすぐわかると思うわ」
幽々子は幽霊を操って、射的台の上に皿を5枚並べさせた。
準備が整ったところで、幽々子がフランドールに話しかけた。
「フランドール、破壊に至る過程を説明してあげてね」
「わかりましたお母さま。それでは紫さま、右の端から壊していきますね」
「ええ」
私は頷いた。
「右端のお皿の壊れやすい部分、私は『目』と呼んでいますが、この『目』を手のひらに移動させます」
んん?
「移動させたら、この『目』を握ります」
フランドールが右手で何かを握る仕草をすると、皿が砕ける音が聞こえた。
つまり、フランドールの破壊の能力は全視認範囲で、壊れるものであれば、壊れると。
なんという、強力な能力なのだ。
私はさらに踏み込んだお願いをした。
「今度は順番に残りの4つ、全て壊してくれないかしら」
「最善を尽くします」
フランドールがいつになく気合が入っている。
結果は順調に2皿割れたが、3枚目が壊れる前に射的台が大きな破砕音と共に壊れてしまった。
どうやら、まだ細かな制御ができないのかもしれない。
幽々子の力作が壊されてしまった。
「ごめんなさい、お母さま。やっぱりうまくいかないよ」
「とにかく練習あるのみよ、フランドール。私も普段できない日曜大工ができて嬉しいわ」
二人は固く抱き合っていた。
仲睦まじくしている2人に対して、私は『嫉妬』の感情が沸き起こってきた。
私はここで爆弾を投下してみる事にした。
「是非曲直庁にフランドールの能力の件は報告済みなのかしら?」
ここは幽々子が回答した。
「報告していないわ。報告したら大変な事になるでしょうね」
幽々子は一旦話を区切って、フランドールを撫でながら、私を見つめた。
「特に鬼神長たちが黙っていなさそうですが、その前に手を打ちます」
「わかったわ、適当な能力で誤魔化すつもりでしょ」
「正解。申告する能力を、『剣術を扱う程度の能力』とするのよ」
私は難色を示した。
「なぜ『剣術を扱う程度の能力』なの? フランドールは脆弱な人間が考え出した、云々言ってなかったかしら?」
「言っていたわね、あなたの教育のおかげかしらね」
皮肉を言われてしまった。
「なぜ剣術なのかを話す前に、あなたからの最初の質問。私とフランドールがなぜべったりなのかを、話さないといけないわね」
幽々子は私から顔を背けると、遠い目をした。
「フランドールは能力が発現した時に、能力を暴走させちゃってね。屋敷をあちこち壊したのだけど、亡霊の私は本体が別にあったから、フランドールの能力から外れる事ができたのよ」
「性質もまだよくわからない能力なのに、よく命を投げ捨てる様な真似ができたわね」
「子供の親というものは、強いものなのよ」
幽々子は強いと思う。
私だったら、確実にフランドールを結界の中に縛り付けてしまうと思う。
伊達に200年もフランドールを育てているわけではなかったのだ。
「能力から外れる事がわかって、いつ能力が暴走しても大丈夫な様にできるだけ一緒に居ましょうって事になったのよ」
これでいつもべったりな理由が理解できた。
私はなぜ剣術なのかも、なんとなく理解してきた。
ヒントは先ほどのフランドールからの能力説明。
「フランドールの破壊する能力の過程としては、その物体の一番弱い部分を手のひらに持ってきて破壊する事なの。だから両手のひらが塞がるものを持っていれば、能力も発動しないと考えたの」
幽々子は私の目をじっと見つめてきた。
「だから剣術なのよ。妖忌もいる事だし、条件がぴったりなのよね」
この冥界では好条件がそろっている。
「それに能力を使うには両手が必要だし、守る必要があったから、近接戦闘の技術は遅かれ早かれ教える必要があったのよ」
私は幽々子がそこまで考えていたとは、思いもしなかった。
フランドールの能力の場合、弱点が手のひらに集中してしまっている。
剣術は弱点を守りながら、能力の暴走を止めるという二つの意味があったのか。
「納得のいく説明をありがとう、幽々子」
私は素直にお礼を言った。
「わかっているとは思うけど、フランドールの能力については他言無用よ。部下の藍には教えてもいいけど、他は駄目よ」
「わかっているわ、幽々子」
そう、わかっている事だ。釘を刺さなくても、こんな事は誰にも言えない。
幽々子は隠し通せるだろうか?
いや、大丈夫か。閻魔の前でも平気で嘘をつく女だ。問題はないだろう。
私は話題を変える事にした。
「それにしても、能力の暴走があったなんてとんだ災難だったわね」
「最初は暴走しちゃって、もうどうしようもなかったんだから」
「それじゃ、今屋敷を修理しているのも」
「能力が暴走した時に、屋根が落ちちゃってね。修理するついでに改装もしようかと思って」
「改装を?」
「ええ。フランドールの部屋を改装して、12畳のうち6畳は寝室、残りの6畳は書斎にしようと考えています」
それはついにフランドールが、白玉楼の仕事に従事するという事を意味している。
「書斎が出来上がり次第、フランドールには私の仕事を手伝ってもらう事になります」
「ええ!? じゃあ!」
フランドールは歓喜の声を上げた。
「そうです、フランドール。私達は『親子』という関係の他に、『上司と部下』という関係にもなるのです」
「嬉しい! お母さま~」
「よしよし」
幽々子はフランドールを愛おしそうに髪の毛を撫でてあげた。
やはりなんだか疎外感を感じる。
私は幽々子のところで夕食を摂り、自分の屋敷に帰宅した。
「お帰りなさいませ、紫様」
「ただいま、藍」
「随分とお疲れのご様子で。何かお飲みになられますか?」
「ウヰスキーを」
「かしこまりました」
私は自室に戻ると、どこか別の宇宙にスキマを開いた。
知らない星々が輝き、とても美しい。
ぼーっと眺めていると、藍の声が響いた。
「紫様、ウヰスキーをお持ちしました」
「どうぞ入って頂戴」
「失礼します」
藍が入室すると、私はウヰスキーを受け取りながら、世間話をすることにした。
「フランドールの能力が発現したの」
「それはめでたいですね、どんな能力なのですか?」
「『ありとあらゆるものを破壊する程度の能力』」
「はい?」
藍は言われた事を処理できない、という顔をしていた。
私はウヰスキーを一口つけると話を続けた。
「だから、『ありとあらゆるものを破壊する程度の能力』なのよ」
「……恐ろしいですね。紫様はどうされるおつもりですか?」
「別にどうもしないわ、今は強力な手札が手に入ったと考えるだけよ」
「それだけ強力な能力ですと、幽々子様は何か策を講じられているのではないですか?」
藍が聡明な従者で私は嬉しい。
「ええ、なんでも剣術を教えて、『剣術を扱う程度の能力』という事にするそうよ」
「無難な判断だと思いますね」
「そうかしら?」
「それに、鬼の膂力と天狗並みの速度を持った、吸血鬼が剣術を修める。これほど楽しそうな事はないでしょうね」
そういえば、藍って結構、戦闘狂だった気がした。
藍は少し考える仕草をして、ある提案を私にしてきた。
「鬼の膂力に耐えられる程の武器を与えてみてはいかがでしょうか?」
「そんなものが作れるものかしら」
「少しお時間を頂くかと思います。今の紫様からの仕事量から換算すると、100年程欲しいですかね」
「それぐらいだったら、別に良いわよ」
「運用試験が楽しみです」
藍は不敵に笑った。
それから100年が経過し、幻想郷担当閻魔の四季映姫との約束であった、300年の月日が流れた。
幽々子はフランドールを立派に育て上げていた。
白玉楼の玄関に四季映姫と小野塚小町が現れた。
私は見つからない様に、スキマに隠れて様子をうかがっていた。
「お久しぶりです、幽々子。300年ぶりですか」
「お久しぶりです、四季様。私にとってはあっという間でしたわ。さ、フランドール、挨拶なさい」
幽々子がフランドールに挨拶するよう促す。
「初めまして、四季様。フランドールと申します」
「初めまして、フランドール。あなたの事は、一度抱っこしたことがあるのですよ」
「ごめんなさい、覚えておりません」
「確かに当時、0歳でしたからね」
挨拶もそこそこに、四季映姫はフランドールに用件を伝えた。
「それではフランドール、業務報告書の提出をお願いします」
「宜しくお願いします」
フランドールは緊張しているせいか、少しぎこちない手つきで、業務報告書を四季映姫に渡した。
四季映姫は巻物を広げ、内容を確認し始めた。
「問題ありませんね。幽々子、よくここまで育て上げました」
幽々子とフランドールはほっと一息ついた。
「あの時、私は悪魔の子供を育て、教育できないと断言していましたね。これは間違いでした。心よりお詫び致します」
「そんなお詫びだなんて……私は宣言通り、教育しただけです」
幽々子はわざとらしく謙遜した。
「それでは小町、書類をここへ」
「はい」
四季映姫はフランドールに1枚の書類を渡した。
「入庁承諾書です。フランドール、今ならまだ後戻りできます。これを書いてしまうと、あなたは是非曲直庁の管理下に置かれることになります。どうしますか? 普通の妖怪として、自由に生きたいと思いませんか?」
「書きます! 私はこの日この時のために母から教育を受けました!」
フランドールははっきりと四季映姫に自分の意向を伝えた。
「わかりました。それでは能力と名前を記入して下さい」
フランドールは少し考える仕草をしてから、入庁承諾書に記入を始めた。
記入が終わると、四季映姫に書類を渡した。
「どれどれ……能力は『剣術を扱う程度の能力』ですか。相違ないですね?」
「ありません」
「名前は……『Frandre.S』?」
幽々子がはっとした顔をした。
私も覚えている、フランドールを拾った時の籠に入っていた、紙切れの綴りと同じだったのだ。
「このSとは一体なんなのですか?」
四季映姫はフランドールに問いただした。
「唯一、自分が『母』と呼んだ女の姓の頭文字です」
幽々子は四季映姫や小野塚小町がいるのにも関わらず、感極まって嗚咽を漏らした。
「お母さま……」
一言漏らすと、フランドールは母親に抱きついた。
その絵があまりにも美しすぎて、私は涙を流していた。
最後までお読み頂き、ありがとうございます。
フィンランドの英雄、シモ・ハユハも仰っていました。「練習だ」
次回は予告通り、妖夢の登場となります。
×17/10/29はマンションオブマッドネス大会があるので、次の投稿は17/11/5になると思います。
病気療養のため、17/11/11に延期させて頂きました。