西行寺さんちのフランドール   作:cascades

7 / 12
誕生日を迎えたフランドールの前に名前の無い死神が訪れる……。

17/12/27 クリスマスネタなのに3日遅れで申し訳ありませんでした。
17/12/28 オリキャラである死神の青年に名前を与えました。


1_8_誕生日

誕生日

 

 

「あたいは反対です」

「なんですって?」

 

 私、四季映姫はまた声を荒げてしまった。

 

――1980年代 地獄

 

 

 本日も自分の勤務時間を終え、帰り支度をしている所に、同じ勤務時間だった部下の小野塚小町が質問をしてきた。

 フランドールの件はどうなっていますか、と。

 あれから8ヶ月過ぎ、業務報告書受領業務を別の閻魔の死神にやらせている関係で、小町は白玉楼の状況を把握できなくなっていた。

 今まで1ヶ月に一度のペースで業務報告書を取りに行っていたので、西行寺親子とも親密になっていたはずだ。

 白玉楼のある冥界が転生待ちの幽霊で一杯になる期限である6ヶ月を過ぎ、小町は心配になったのだろう。

 業務報告書を読む限り、顕界の人が寄り付かなそうな場所を選んで幽霊を送り、空きスペースを作っている様だった。

 顕界で特に目立つような様子もなく、幽々子はよくやっていると思っていた。

 今のところ進展がない旨を回答すると、小町はほっとした表情をしていた。

 だが小町には悪いと思ったが、幽々子がフランドールの能力を隠していた場合の処遇も話した。

 親子の関係を引き裂き、フランドールを鬼神長たちに引き渡すと。

 その話を聞いた途端に愕然とし、その後、歯を食いしばって私を睨みつけてきた。

 私と小町の関係は500年程度だが、初めて私に歯向かう言葉を使ってきた。

 反対です、と。

 今まで少々砕けた口調で話す事や自由を求める性格(さぼり癖)以外、特に問題がなかった小町ではあるが、歯向かわれたのは初めてだったので、私は少なからずショックを受けていた。

 

「わかって下さい、小町。我々は秩序を保つ必要があるのです」

「それでも、です」

「一時の情に流されてはいけません」

「わかっています」

 

 小町は後ろに向くと肩を震わせていた。

 

「小町、泣いているのですか?」

 

 涙を流しているのか、足元に水滴が垂れていた。

 小町はぽつりぽつりとフランドールとの思い出を語り始めた。

 

「母親の後ろに隠れて、こちらを覗き込んでいた時代のフランちゃん。そしていつの間にか成長して業務報告書を自分で提出する様になった時代のフランちゃん。この約500年の歳月の間に色んな事がありました。あたいにとって、フランちゃんは妹みたいなものでした」

「そんな今生の別れではありません。地獄にいる鬼神長たちに引き渡すだけなので、今よりも会える機会は多くなると思います」

「そんなわけないじゃないですか!」

 

 小町は大声で叫んでいた。

 

「フランちゃんが噂通りの『性能』だったら、あまりに危険な為、封印されてしまうでしょう」

 

 確かに封印される可能性も高いだろう。

 だがこのまま幽々子達を野放しにしておく訳にはいかない。

 小町はその後何も言わず、出口へ向かった。

 

「小町、出て行くのは構いませんが、私に浄玻璃の鏡を使わせる様な真似だけはしないで下さいね」

「大丈夫です。あたいの武器はガッツと信用! それを汚す事はしません」

「それならば問題ありません」

 

 小町は出ていったが、考えてみると確かにフランドールの罪と言えば、能力の虚偽報告だけである。

 それだけで封印処分とは処遇があまりにも苛烈すぎる気がします。

 可愛い部下の為に、鬼神長宛ての嘆願書でも書きますかね。

 

 

 

 

 

 拝啓お母さま。

 計画は九分通りうまくいきましたが、肝心の計画の本質をまだ理解できていません。

 私、フランドールにはまだまだ足りないことばかりです。

 

――1980年代 白玉楼

 

 

 幽霊移民計画の開始から予定の1週間遅れの6週間後、ついに移民作業が始まった。

 紫さまと事前打ち合わせを綿密に行ったので、移民作業はスムーズに行えた。

 普段自由に動き回っている幽霊たちが、素直に動いてくれたのも要因の一つといえる。

 私の演説が効いたのだろうか?

 いや、お母さまの幽霊を操る能力のおかげだろう。

 まさか、たった数時間で終わってしまうとは思いもしなかった。

 私としては数ヶ月単位で時間がかかると思っていたのだが、そうでもなかった。

 紫さまのスキマに凄まじい勢いで幽霊が吸われていく様は私を圧倒させた。

 お母さまはあまり急いでなかったのも、こうなる結果が見えていたからかもしれない。

 早く終わった事は喜ぶべき事だ。

 あまり紫さまに負担をかけては幻想郷の危機を招きかねない。

 とりあえず、これで冥界に10年分の空きスペースはできた。

 この後、何が起こるかは私には予想もつかないが、何とかなるだろうと思っていた。

 幽霊移民計画を行ったのが4月・5月で、今は私の誕生日である12月になろうとしていた。

 それまでは特に問題なく過ごしていた。

 変わった事といえば、業務報告書を取りに来る死神が、いつもの小町さんではなく、別の閻魔様の死神になった事だろう。

 しかも毎月違う死神が来ているので、私は少し不審に思っていたが、特に何もしないでいた。

 あの死神の青年が来るまでは。

 

「ごめんください」

「はーい」

 

 私は12畳ある居間でお母さまから頂いたクリスマスツリーに飾り付けをしていた。

 今日開かれるクリスマスパーティと私の誕生日パーティの為だ。

 なぜかお母さまは私の誕生日を12月25日と定められていた。

 私を拾った時期が春で、生後4・5ヶ月ぐらいだったから、適当に聖人の誕生日と合わせたとか。

 意趣返しがどうのと言っていた気もするけど忘れた。

 7色の羽根から私の事を万年クリスマスツリーというのはやめい。

 ……話がそれた。

 そろそろ豪華で楽しみな夕食なのだが、こんな時間に誰だろうか。

 最初に思いついたのは小町さんだった。

 去年まで12月25日になると決まって現れ、ただ飯・ただ酒を呑んで帰るのが例年の彼女だった。

 でもさっきの声は男性の声だった。

 お師匠様の妖忌が居ないので、外に出て客人の素性確認と武装解除をしてくれていると思うので、安全だとは思うのだが。

 私は玄関に出る事にした。

 

「どうも、こんばんは。金髪に虹色の羽根、あなたがフランドール様ですか?」

「そうですが、どのようなご用件で?」

「12月分の業務報告書受領の為、是非曲直庁から来ました死神です。小野塚さんの代理で来ました」

 

 死神は若い男性であった。

 歳は人間の見た目で18・19歳程度だろう。

 身長は高く180cmはあるだろうか。

 短めの金髪で夜なのにサングラスをかけていて、ズボンはジーンズ、革のジャケットを着ていた。

 革のジャケットには鳥か竜を模ったと思われるワッペンと、『ARMY』と書かれたワッペンを付けていた。

 12月の寒い時期なのにちょっとそこまでという感じの服装に、この人も距離を扱う能力を持っているのかと思った。

 

「わかりました。少々お待ちください」

「あら、フランドール。どちら様?」

 

 ちょうどお母さまが通りがかり、死神の青年を凝視した。

 死神の青年はお母さまを見ると、すかさず会釈をした。

 

「小町さんの代理だそうです」

「あらそうなの。せっかくだし、一緒に夕食でもどうかしら?」

「いえ、俺は……失礼、自分は任務中なので」

「お酒を飲まなければいいでしょ、1時間だけよ1時間。どうかしら?」

「しかし……」

「今日はパーティなの。一人でも多い方が良いのよ」

「わかりました。それでは1時間だけ失礼させて頂きます」

 

 お母さまは半ば強引に死神の青年を招き入れた。

 招き入れるのには、私は反対だった。

 初対面の、しかも是非曲直庁の使いである死神を家の中に入れる事は危険な事かもしれない。

 私はそう考えていた。

 

 

 パーティはお母さま、私、妖夢、お師匠様の妖忌、さきほどの死神の青年を含めた5名で開始した。

 2つのテーブルには豪華な食事が並んだ。

 マグロなどの刺身に伊勢海老、ローストチキンなど和洋折衷の料理だった。

 海産物は冷凍で、冬眠前に紫さまから頂いたものだ。

 私は早速ローストチキンを切り分け、まずは妖夢に食べさせた。

 

「妖夢、美味しい?」

「おいしいですー」

「死神の方もどうですか?」

「頂きます」

 

 私は本日のお客様である死神の青年に、一番大きい骨付きのもも肉の部分を切り分けてあげた。

 彼は手で骨の部分を持つと、もも肉にかぶりついた。

 豪快だが、一番美味しい食べ方だ。

 せっかくなので美味しいうちに刺身も取り皿に取ってあげた。

 お箸の文化圏の方ではないようで、フォークで刺身を食べている姿は新鮮だった。

 

「私もいただくわね~」

 

 そういうと、お母さまが伊勢海老を両手でつかんで頭からバリバリと食べていた。

 毎年の事なので、私にショックはないが、初参加の妖夢と死神の青年はびっくりしたのか目を丸くしていた。

 

「お母さま、お客様がいる前ではしたない」

「伊勢海老で一番美味しい場所は殻なんだから、食べないともったいないわ~」

 

 お母さまのよくわからない理論が飛び出して場は和んだが、無作法をたしなめた私の話は有耶無耶にされてしまった。

 伊勢海老の腕部分は残るが、それも後で酒のツマミにされてしまうので、毎年お母さま以外の者が伊勢海老にありつける事は無い。

 西行寺家の家長権限である。仕方ない事だ。

 

 

 食事も一段落して、男同士で話しやすいのか、死神の青年はお師匠様の妖忌と会話を始めた。

 聞き耳を立てると、武士を初めてみただの、自分の武器の場所を瞬時に言い当てられていた事が驚いたなどであった。

 是非曲直庁の使いである彼がいつ不審な行動に出るのか気になっていたのだが、取り越し苦労だった様だ。

 

「さあ、『メインディッシュ』のケーキよ~」

 

 お母さまは台所から、イチゴショートケーキを1ホール持ってきた。

 家長自ら直々に台所に出向いたのではなく、ただ単に自分が食べたいだけだと思う。

 お母さま自らロウソクを差し込み、マッチで火をつけ始めた。

 

「誕生日おめでとう、フランドール。今年で何歳になったの?」

「ありがとうございます。今年で479歳になりました」

「この瞬間(とき)をあなたと迎えられた事を嬉しく思います」

「育てて頂き、ありがとうございます」

 

 その後、皆から「おめでとう」という声と拍手が続いた。

 皆から祝福されると、ちょっとくすぐったい。

 毎年のやり取りだが、嬉しく思う。

 私は一気にロウソクの炎を吹き消した。

 

「妖忌、この包丁できれいに6等分にして、切り分けなさい」

「かしこまりました」

 

 手慣れた手つきで難しい6等分にチャレンジする妖忌。

 去年は私達3名と小町さんの4等分で簡単だったのだが、今年は小町さんが居ない代わりに妖夢とお客様がいるから6等分……。

 私はハッとした。

 6個のケーキを5人で分けるとあまりが1個になる。

 その最後の1個はもちろん家長であるお母さまが食べる事になるので、結局お母さまはケーキの2/6改め『1/3』を食べる事になる。

 去年は『1/4』だった。

 お母さまはきっと去年よりも多く食べようと、死神の青年を無理やり誘ったに違いない!

 是非曲直庁の内情を腹の探り合いで確認するとかではなく、多分そういう事なのだろう。

 私は確信した。

 

 

 『メインディッシュ』のケーキを食べ終わり、皆飲み物を飲みながらくつろいでいた。

 妖夢は寝てしまったので、私の寝室に移しておいた。

 私はというと、自分の許容量を超えてお酒を呑んだので、よくわからない感じになっていた。

 ……無性にお母さまに甘えたくなった。

 今年は幽霊移民計画とかで頑張ったし、いいよね?

 そんな事を考えていたら、お母さまが死神の青年に声をかけた。

 

「ねえ、死神さん」

「はい」

「あなた、訛りがありますけど、どちらのご出身かしら?」

「オーストラリアの地獄です」

「オーストラリアなのね。どの辺りをご担当されていたのかしら?」

「シドニーです」

 

 外国生まれの死神かと思っていたが、どうやらその様だ。

 オーストラリアのシドニーとは一体どこなのだろうか。

 私の知識では残念ながらまったくピンとこない。

 初対面のお客様に向かってちょっと失礼な話を始めたお母さまだったが、ついに腹の探り合いを始めたかとおもって私はわくわくした。

 

「シドニーね、いいところなのかしら?」

「最高だね! 今頃街は雪で真っ白だろうな」

「雪……ねぇ」

 

 会話が途切れてしまった。

 一体どの辺が腹の探り合いなのかさっぱりわからなかった。

 とりあえず、お母さまが空いた様だし、私は抱き着く事にした。

 

「お母さま~」

「あらあら、フランドールは甘えん坊さんね」

「抱っこして」

「フランドール、あなた酔っているわね」

「酔ってないよ~」

「もう、しょうがないわね。よいしょっと」

 

 お母さまは私を抱っこしてくれた。

 

「相変らず羽根の様に軽いわね。ちゃんと食べているの?」

「食べているよ~」

「本当かしら?」

「そんな事より、今年は幽霊移民計画で頑張ったんだから、もっと褒めてよ~」

「しょうがないわね。いいこいいこ~」

 

 お母さまは優しく撫でてくれた。

 

「うふふ~」

 

 私はそのままお母さまに抱き着いた。

 眠いし、このまま寝てしまおうかな……。

 

「ほら、眠るなら自分の寝室に行きなさい」

「はーい」

 

 私は返事をすると、お母さまから離れ、自分の寝室に向かう為、障子戸を開けた。

 そこで私は死神の青年に呼び止められた。

 

「フランドール様、『気の抜けたビールは置いていませんか?』」

 

 その瞬間、私は眠気も酔いも吹き飛んでしまった。

 小町にしか教えていない秘密の合言葉……。

 何か問題が起きた時に誰にも知られず私の書斎に行くための合図だ。

 皆が居るここではバレバレだがしょうがない。

 顔の向きが廊下側でよかった。

 きっと今なら愕然とした顔になっていただろう。

 私は秘密の合言葉のハンドシェイクを続ける事にした。

 

「『大した注文ね』」

「『お茶の出がらしよりマシなら文句はありません』」

「『私の書斎にならあるかもね』」

「『そいつはありがたい』」

 

 死神の青年は私の後をついてきた。

 書斎は防犯上、一度私の寝室に入らないと、入れない様になっている。

 今、寝室では妖夢が寝ている。

 あまり大きな声では話せないだろうが仕方がない。

 書斎では私が上座に座り、死神の青年は下座に座った。

 

「小野塚さんからの伝言があります」

 

 その時、初めて死神の青年はサングラスを外した。

 童顔で瞳の色が綺麗な緑色なのが印象的だった。

 

「まって、小町さんはどうしているの?」

「訳あって、業務報告書受領業務から外されています」

「小町さんが外されている?」

「ええ、ですから小野塚さんから習ってきた秘密の合言葉を使わせてもらいました」

 

 なぜ小町さんにしか教えた秘密の合言葉を知っているのかは分かった。

 しかし、秘密の合言葉を使うほどの重要な話があるのだろうか?

 

「フランドール様、今あなたの本当の能力が四季映姫様の知るところとなっています」

「情報が漏れた……?」

「ええ、しかももう処分まで考えているとの事です」

「どんな処分なの?」

「フランドール様を西行寺様との親子関係を引き裂き、地獄の鬼神長たちに引き渡すそうです」

「そんな……」

「引き渡されたら最後……きっと封印処分となるでしょう」

「……」

「どうか、対策をお考え下さい」

「……わかったわ。検討します」

「自分からは以上です」

「あなたは、私にこんな情報を流して自分の立場が危うくならないの?」

「俺だって悩んださ!」

 

 死神の青年は叫んでいた。

 これが彼の素のままの感情なのかもしれない。

 

「すみません、でも仲睦まじい親子の様子を見ていたら……言わなくっちゃって思って。言わなかったら、自分が自分でなくなるような……そんな気がして」

「危険を顧みず、情報を提供してくれた事を感謝します」

「そう言ってもらえると助かります」

 

 私は戸棚の中をあさり、あるものを探していた。

 あったあった。

 

「はい、『気の抜けてないビール』よ。入荷したばかりだから、まだ美味しいはずよ」

「あ、ありがとうございます」

「ごめんなさい、今はこれが精一杯の感謝なの」

「大丈夫です。危険な事をしたのは自分の判断です。自分で自分の責任を取ります」

 

 この死神の青年もそうだが、小町さんもそうだ。

 情報漏洩が閻魔様にバレたらどうなるか、考えていないじゃないか?

 彼らは浄玻璃の鏡を持っている。

 

「後、業務報告書。これを取りに来たんでしょう?」

「そうですね、すっかり忘れていました」

「玄関まで送りますね」

「ありがとうございます」

 

 彼はそういうと、懐にしまっていたサングラスをかけた。

 

 

 玄関まで行くと、お母さまとお師匠様の妖忌が待っていた。

 お母さまは少し大きめの包みを持っていた。

 

「白玉楼の主、西行寺幽々子の名において、情報の提供を感謝致します」

 

 お母さまは死神の青年に深々と頭を下げた。

 というか、しっかり聞かれていたのね。

 

「そんな、畏れ多いです」

「それとこんなものしか用意できなかったけど……。今日の残り物を詰め合わせておいたわ」

「ありがとうございます」

 

 お母さまが他の人に食事を分けてあげるなんて……。

 私は少し驚いた。

 

「武器をお返しします」

 

 お師匠様の妖忌は取り上げていた武器を返却した。

 見た事も無いオートマチックの拳銃だった。

 それを懐にしまうと、靴を履いて立ち上がった。

 

「それでは、失礼します」

 

 そういうと、死神の青年は私達に敬礼をした。

 私も見よう見まねで返礼した。

 その後、彼はゆっくりと歩いて屋敷を出ていった。

 

「ねえー! 名前ぐらい教えてよー!」

 

 私は彼に向かって叫んでいた。

 でもビール瓶を持った手を高く掲げ、サムズアップサインをすると、姿が掻き消えた。

 距離を操った様だった。

 結局、彼の事はオーストラリアのシドニー担当という事しかわからなかった。

 

「結局何者か全く教えてくれなかったわね」

 

 お母さまが困った表情で一言喋ったが、私は反論した。

 

「いえ、素顔は見ました。あとはオーストラリアのシドニー担当という情報から調べがつくと思います」

「それがダメなのよ」

「なぜ?」

「オーストラリアのシドニーは南半球にあるのよ」

「?」

「南半球は夏と冬が逆転するのよ。シドニーって今は夏なのよ。雪なんて降ってないわ」

「じゃあ全部嘘だったと!?」

「それは無いと思うわ。小町からの伝言は本当じゃないかしら」

「なぜ、そう思われるんですか?」

「さっきの嘘は彼なりの保身じゃないかしら? 誰が情報漏洩したか、わからなくするための」

「なるほど」

「だから、私は問い詰める事もしなかった。私達は知らない『誰か』から情報をもらった」

 

 私はうんうんと頷いたが、忘れた事を思い出していた。

 

「そういえばお母さま。私達の話を立ち聞きしたんですね?」

「未婚の娘が寝室に男を連れ込んだって思ったから、心配で心配で」

 

 お母さまは『よよよ』とウソ泣きをした。

 ふざけていてもしょうがないので、本題に移る事にした。

 

「それよりも小町さんからの情報、どうしましょう」

「来るべき時が来たって感じね。隠し通せるとは私も思わなかったけど」

 

 お母さまはいつになく真剣な表情で私を見た。

 

「フランドール、もしも私と是非曲直庁が対立したら、どちら側につくかしら?」

 

 いきなり最終決断を求めてきた。

 

「私は……是非曲直庁配下の妖怪です。ですが、お母さまとの関係が引き裂かれ、封印されるとわかっていたら……。私はお母さまの側につきます」

「それを聞いて安心したわ。私は、西行寺幽々子は母親として、フランドールを手放す気はありません。たとえ、是非曲直庁が敵になろうとも、あなたを守って見せます」

「お願いします。お母さま」

「覚悟は良いわね?」

 

 私が相槌を打つと、お母さまはいきなり準備運動を始めた。

 

「さーて、正月返上で私も計画書を書きますか~」

「私は何か手伝う事はありますか?」

「うーん、特にないわね。能力の練習を忘れず行って欲しいぐらいかしら」

「わかりました」

「他に質問は?」

「計画名称はどのようにものにしますか?」

「そうね……ユリウス・カエサルの故事から取りますか」

「ユリウス・カエサルの?」

「ええ、古代ローマ時代、軍隊をつれてルビコン川を渡ってはいけないというルールがあったんだけど、ユリウス・カエサルは大軍を率いてこの川を渡ったの。その時カエサルは『賽は投げられた』と叫んだそうよ」

「『賽は投げられた』……。もう後戻りできないという事ですか」

「だから今回の計画名称は『ルビコン計画』とします。あなたのいう通り、もう後戻り出来ないしね。さあ、私達も賽を投げるわよ~」

 

 私達の運命は、神が遊ぶ双六だとしても、上がりまでは一天地六の賽の目次第。

 (映姫)と出るか、(幽々子)と出るか。

 西行寺幽々子、戦慄の『ルビコン計画』発案!

 

 

 

 

 

 あたいは面倒ごとが嫌いである。

 だが今回の事は見過ごせないものだった。

 妹の様に可愛がっていた、フランちゃんが封印処分される可能性があるのだ。

 あたい、小野塚小町は知り合いの死神連中から嘆願書の署名を貰って回っていた。

 

――1980年代 地獄

 

 

 今日1日で10年分の能力を使ったんじゃないかと思うぐらい能力を使った。

 100ちょっとの嘆願書だが、これを見て四季映姫様の気持ちが少しでも変わればと思っていた。

 そんなことを考えながら是非曲直庁の廊下を歩いていたら、今日代理で白玉楼まで行っていた青年が歩いていた。

 

「おーい、青年!」

「ああ、小野塚さん。これからどちらに?」

「あたいは四季映姫様の私室に行くところだよ」

「俺もちょうど帰ってきた所で、業務報告書を提出しに行くところさ」

 

 青年を見ると、片手にはビール瓶、もう片手には何やら料理のいい匂いがする大きな包みを持っていた。

 食事もせずに駆けずり回っていたので、お腹がすいてくる~。

 

「いい匂いだね~。白玉楼でもらってきたのかい?」

「ええ、西行寺様から頂きました」

「え、フランちゃんではなく、あの西行寺様から?」

「ええ」

 

 あの食い意地が張っている西行寺様が? 何故?

 青年は理由をこっそり耳打ちしてきた。

 

「例の情報、流しておきました」

 

 え……、相談した時、そんなことを言われてもみたいな反応を最初はしていたじゃないか。

 何が彼の心を変えたのか……。

 

「小野塚さん、俺はあの二人を引き離す事に反対です。あんなに仲がいいのに、秩序の為、と言って引き離す事にどんな正義があるのでしょう?」

「あんたもそう思うかい? そうかそうか」

 

 こんなに遅くなったという事は、きっとパーティに参加してあの親子の事を観察したのだろう。

 

「子供の誕生日の為に、西行寺様自らケーキを持ってきて、ロウソクまで立てたんですよ。あの仲を引き裂く事なんてできません」

 

 いや、それはきっと西行寺様の食い意地が張っていただけだと思うぞ。

 気を変えられても困るので、この言葉は飲み込んでおこう。

 

「西行寺様にフランドール様が酒に酔って甘える所はぐっときましたね。だから心変わりをした次第です」

「ありがとう……。後は西行寺様次第ってところか。何とか穏便に済ませとくれよ~」

 

 

 話しながら歩いていたら、四季映姫様の私室の前に到着した。

 まだ『在室』の札になっているのは幸運だった。

 あたいはノックをした。

 

「誰ですか?」

「小野塚小町です。四季映姫様に少しお話があってまいりました」

「もう帰る所です。手短にお願いしたいのですが」

「それでも構いません」

「では、入室を許可します」

 

 鍵が開く重々しい音が聞こえた。

 

「失礼します」

 

 あたいは重厚なドアを開けた。

 四季映姫様の私室は12畳ぐらいのスペースで、上半分の6畳ぐらいのスペースには大きくて装飾の施された閻魔様用の机に、これまた装飾の施された閻魔様用の椅子にちょこんと四季映姫様が座っていた。

 そしてその机の前には来客用スペースとして、ガラス製のテーブル1卓に、ソファがテーブルの両脇に2脚ずつ計4脚配置されている。

 あとは小さな台所が設置されていて、その上に小さな食器棚がついている。

 さらに個人用ロッカーや飲み物を入れておく冷凍庫付きの冷蔵庫なども設置されている。

 

 青年は持っていた大きな包みとビール瓶をガラス製のテーブルに置き、四季映姫様に業務報告書を差し出した。

 

「四季映姫様、まずは白玉楼の業務報告書をお受け取り下さい。12月分です」

「えーと、名前は……ベルンハルト。受領業務、お疲れ様でした。それで、フランドールの隠された能力について、何か尻尾をつかみましたか?」

 

 この青年の名前はベルンハルトというのか。

 今までのらりくらりと名前を教えてくれなかったし、この死神何か裏があるな……。

 

「いえ、パーティにまで潜入したのですが、それがさっぱりで」

「まあ、そうそう尻尾は出さないという所ですか。仕方がありませんね」

 

 話が終わったのか、四季映姫様があたいの方を向いた。

 

「それで、小町は何の用ですか?」

「フランちゃんの封印処分に対する減刑の嘆願書です。100通以上あります」

「あなたはこれで私が心変わりすると思ったのですか?」

「いえ。あたいは四季映姫様に要求しに来たんです」

「ほう……死神が、閻魔に物申すと」

 

 四季映姫様は悔悟棒を口元に持っていき、表情を読み取れない様にした。

 

「物申す、という割にはあまり勤勉ではない様ですね?」

「……」

「あなたは少し仕事をおろそかにしすぎる」

 

 正論すぎて、あたいは何も言えなかった。

 

「ひとまず、嘆願書を下さい」

「はい、こちらになります」

 

 あたいは持っていた嘆願書を四季映姫様に渡した。

 

「確かにフランドールの罪と言えば、能力の虚偽報告だけ。それだけで封印処分とは処遇があまりにも苛烈すぎる気がします」

 

 え?

 

「私も鬼神長宛ての嘆願書を書きました。それに小町が持ってきた死神の嘆願書。これで鬼神長たちを説得してみようと思います」

 

 ええ!?

 

「本日帰るのが遅くなったのは、嘆願書のフォーマットなんて知らなかったので、納得できるものができるまで書き直していたからです」

「あたいは……あたいはッ! なんて良い上司を持ったんだ……」

 

 あたいは大粒の涙を流していた。

 

「私は元から良い上司のつもりでした」

 

 あたいは四季映姫様やベルンハルトが居る前でむせび泣いた。

 今年最後に泣いたのが、うれし涙でよかった。

 

 

「白玉楼から貰ってきた料理です。お二方とも食事はまだですよね?」

「ほう、酒まで持参して、閻魔の私室で宴会を開こうという事ですか?」

「そのつもりですが、ダメですか?」

「あなたという人は……もう良いわ。あなたはグラスを3つと箸を2膳とフォーク1本、食器棚から出してください。私は冷凍庫から氷を持ってきます。そのビール、冷えていないんでしょう?」

「ええ、常温ですね」

「氷を入れるのは、手っ取り早く常温のビールを美味しく飲む方法です」

 

 てきぱきと宴会の準備をする四季映姫様とベルンハルト。

 

「小町、泣き終わったのなら、包みを開いて料理をテーブルの上に広げなさい」

「は、はい」

 

 あたいも宴会の準備に参加し、数分もたたないうちに宴会の準備が完了した。

 各自氷を入れたグラスにビールを注いでいく。

 

「宴会、というか忘年会ですよね、これ」

「そうですね。では氷が解け始めるとあまり美味しくなくなってしまうので、一言だけ」

 

 四季映姫様が乾杯の音頭をとり始めた。

 

「短いですが、今年も最後まで頑張りましょう。皆さん、来年もよろしくお願いします」

「それでは、乾杯!」「乾杯!」「乾杯(Prosit)!」

 

 




 最後までお読み頂き、ありがとうございます。
 読んで頂いた皆さまに乾杯。

 遅れましたが、クリスマスネタという事で。
 死神の青年(ベルンハルト)は0080のバーナード・ワイズマン伍長(バーニィ)をイメージしました。
 セリフなどを少しオマージュさせて頂いております。

 キャラヘイトに繋がりそうだったので、四季映姫様の性格を原作よりも慈悲を持たせております。
 ご了承下さい。


 16/12/27 ×次回はついに四季映姫様が冥界に乗り込んできます。
      挿絵も入る予定です。
 17/01/08 長くなりすぎたので、一旦区切りました。
      四季映姫様が冥界に乗り込むのは次々回となります。
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