西行寺さんちのフランドール   作:cascades

9 / 12
閻魔(かみ)を一柱失っても、得られるものからすれば蚊の涙。
ささやかなりと野心が嘯く。
冥王『西行寺幽々子』、戦慄の『ルビコン計画』発案!


18/01/14 挿絵がちょっと怖いかも
18/01/22 白玉楼の面積修正 2倍→4倍




1_10_監査 #

監査

 

 

 拝啓お母さま。

 小子鳴鼓而攻之可也

 ついに暴力の出番ですか?

 私、フランドールは覚悟を決めるか迷っています。

 

――1980年代 白玉楼 地下大金庫室

 

 

 私はあまりの緊張で筋肉が震え、口の中がカラカラに乾いた。

 今、お母さまは何と言った?

 どちらが早く四季映姫様を()れるか競争だって?

 お母さまは閻魔様(かみ)殺しを提案されている。

 

「最初にあった質問の回答だけど、四季様一人にする理由は暗殺するときの目撃者をなくすためよ。白玉楼で蒸発した、とする為ね。長くなれば、小町は居眠りをするはずだから、先に帰ったと起きた時に言えるわけ」

「そこまでお考えだったのですか……」

「四季様が脅しに屈しようが屈しまいが、我々の目的は達成されるのです」

「……脅迫や暗殺ではなく、なんとか穏便に……平和的解決で済ませられないものですかね?」

「無理ね。穏便に済ませたら、あなたの封印処分は間違いないでしょう」

 

 バッサリと切り捨てられてしまった。

 平和的解決は無理なのか。

 穏便に済ませたら、封印処分は確実か……。

 小町さんの情報から封印処分の話を聞いたが、いまいちピンとこない。

 四季映姫様は一体何を考えられて私達の仲を引き裂きたいのか。

 

「そもそも私達親子の仲を引き裂こうとする、四季映姫様の理由って何なのでしょうか?」

「どうせ大した理由ではない筈よ。地獄と冥界の戦力バランスが~、とかでしょ。中途採用組の生真面目な閻魔様だし」

「私は……お母さまと離れ離れになるのは嫌です」

「私も同じ気持ちよ」

 

 お母さまは私の対面に置いてある、座布団に正座で座られた。

 そして私の瞳を見つめた。

 

「フランドール、私の思いを……決意をあなたに伝えます」

 

 お母さまは落ち着いた、若干低い調子の声になった。

 

「あなたを拾う前……遠い昔だけど、私の心は満たされていなかったの。まるで完成目前のパズルのピースが見つからないような、出来上がるはずのものが、自分のせいで出来上がらない歯がゆさのような、そんな虚しさを私は抱えていたの」

「虚しさですか?」

「そうなの。最初は自分の能力で何とかなるんじゃないかと思って、『500年前の真実』にあった大掃除に参加して殺しまくったんだけど、結局虚しさは残り、私の心は満たされなかった」

「その後、どうされたんですか?」

「それから数年後ぐらいだったと思う。あなたが私の前にあらわれたのは。手のかかる赤子だったわ。それでもすぐに愛着が湧いたの。その頃からだったかしら。私の心が満たされる様になったのは」

 

 お母さまはその場で天を見上げられた。

 今見上げてもコンクリートの天井しか見えないだろう。

 

「だから、私はあなたを手放さない。もう昔の様な満たされない日々なんて考えたくない。それが閻魔様(かみ)の命令であっても、私はフランドールを差し出す様な真似はしない」

 

 

「『たとえ神にだって、私は従わない』」

 

 

 お母さまは閻魔様(かみ)に従わないという、壮絶な決意をしている。

 私も……覚悟を決める時が来たのかもしれない。

 

「フランドールは無理に閻魔様(かみ)殺しに参加しなくても良いわよ。浄玻璃の鏡を『壊す』ところまでやってくれれば、あとは私がやるわ」

「いいえ、参加します」

「あら、どうしたの?」

「お母さまの決意に負けました。これでは自分の手を汚さず、汚い物には目をつぶり、そして『平和的解決』を叫んでいる事はまったく滑稽じゃないですか」

 

 私は胸を突き出し、深く深呼吸をした。

 

「私は覚悟を決めました」

「決心してくれてありがとう。手を汚すという事が私の後継者としての第一歩です」

「お母さまのコレクションをもう一度、見せて頂いても? 生物ではありませんが、幽霊で練習しようと思います」

「わかったわ」

 

 お母さまは再度、5×8の仕切り木箱を取り出した。

 私は試しに1個目の幽霊を選定し、破壊の『目』を手のひらに持ってきた。

 

「?」

「どうしたの?」

「『壊す』相手の歴史が見える……」

「それは大発見ね。もしかすると、あなたは『壊す』対象の構造や歴史を理解できるのかもね。モノを『壊す』には構造が無意識に理解できないと壊せないからわかるけど、歴史が見られるのは何なのでしょうね。無防備な状態の幽霊という状態だから見られるだけなのかもしれないわ」

 

 お母さまのいう事は最もだが、疑問が残る。

 

「それでも、白玉楼にいる幽霊の歴史は見えませんよ?」

「それは転生待ちの幽霊だからじゃないかしら。歴史というか、記憶をリセットされた状態というのかしら」

「なるほど、理解できました。近日中に肉体を持った閻魔様(かみ)を標的にするので、その時に試せばいいかもしれませんね」

「そうね。あなたの能力で簡易的な浄玻璃の鏡みたいな使い方が出来れば面白いかもしれないわ。私なんて、一度能力で殺して幽霊の状態で操らないと記憶とか引き出せないから、使い勝手が悪いのよね」

 

 私はとりあえず、選定した幽霊の歴史を読み取っていった。

 

「昔は鬼神長クラスの鬼が結構居たんですね」

「ええ、この仕切り木箱の数と、今の真面目な鬼神長と合わせて結構な数が居たのよ」

「各鬼神長には配下として複数の鬼と死神がついていたんですね。計100名近く居たのか……。なになに毎日罪人と飲めや歌えのどんちゃん騒ぎしていたと。腐敗していますね~」

「罪人と癒着していた40名の鬼神長は、それを見かねた十王様たちにお叱りを受けたの」

「その結果、面白くない彼らは十王様たちを追い出すクーデターを画策した、と」

「ええ、数では勝っていましたからね。真面目な鬼神長は少数派だったのよ」

「でも十王様たちは切り札を持っていた。お母さまという死神より恐ろしいワイルドカードを」

「『即応任務』の指令自体は簡単なものだったわ。クーデターに加担したものは全て抹殺せよ、ですもの。真面目な鬼神長が露払いをしてくれたから、結構簡単に終わったけど」

「この幽霊の最後の記録は恐怖一色で塗りつぶされています」

「そいつが逃げ惑う姿は滑稽だったわ。身から出た錆だというのに」

 

 そういうと、お母さまは笑われた。

 その笑みを見て、私は背筋が凍った。

 私は少し震えながら、お母さまに聞いた。

 

「一体、何名始末されたんですか?」

「100名から先はおぼえていないわ」

「……」

「私が始末した結果、十王様配下の者の総数は1/10近くまで減った」

 

 つまりお母さまは9/10始末した、と。

 さらっと恐ろしい事を仰る。

 

「その後は歴史通り、このままじゃダメだという事で、真面目な鬼神長たちは『是非曲直庁』を作って統制を図った。是非曲直庁は鬼が作った組織と言われる由縁はこれね。また過労気味だった十王様たちに代わって、各地から地蔵を募集して閻魔様の代行としたの」

「その時採用されたのが、幻想郷担当閻魔の四季映姫・ヤマザナドゥ様という事ですね」

「ええ。中途採用とか色々やったけど、それでも地獄はスカスカになってしまったの。だから表向きは経費削減の為、地獄のスリム化と称して旧地獄を切り離した」

「それで旧地獄は地上のルールに従わない荒くれ者達が移り住んだ、と紫さまが仰っていました」

「その通り。そして今に至る、と」

 

 まさか幽霊の歴史を読む事で『500年前の真実』の詳細がわかるとは。

 まてよ。少しおかしい所がある。

 なぜクーデターは失敗したのか。

 クーデターが始まったら、お母さまを呼ぶ事も出来なかっただろう。

 ギリギリ事前に知る事が出来たからこそ、お母さまという切り札を十王様たちが使えたのだ。

 

「そういえば、なぜクーデターは事前にバレたんでしょうか」

「罪人と癒着していた鬼神長の下についていた死神が垂れ込んだのよ」

「一体誰なんでしょう?」

「あなたも知っている、小野塚小町よ」

「え」

 

 以外と身近な人物。

 

「この『500年前の真実』はシークレットA級の情報です。誰にも知られてはいけません。私の後継者なら、これぐらいの事は出来るわよね? 紫から教わった守秘義務、忘れてはいないわよね?」

「はい、忘れていません」

「宜しい」

「でも気がかりな事があります。閻魔様の持っている浄玻璃の鏡はどうなるのです?」

「十王様たち以外の閻魔様が持つ、浄玻璃の鏡ではシークレットA級の情報は全て黒塗りとなります」

「それを聞いて安心しました」

「それじゃあ、そろそろ始める?」

「はい。それでは、能力の練習を行います」

 

 私は5×8の仕切り木箱を凝視した。

 40個全ての『目』を手のひらに移動させた。

 やった事が無い多さだ。

 

「40個全て破壊します」

「十王様たちからも処分命令は来ています。なんの気兼ねもなく破壊しなさい。いえ……白玉楼の主、西行寺幽々子が命令します。今すぐ40名分の幽霊を破壊しなさい」

 

 私は40個全ての『目』を握った。

 その瞬間、仕切り木箱は軽い音を立てて破裂し、バラバラになった。

 

「お母さま、私の意志で40名分の幽霊の処分、完了しました」

「それでこそ私の後継者ね。どうだった? 自分の意志で幽霊を破壊した感想は」

「いとも簡単に『引き金(トリッガー)』は引けました。ですが、背負ったものは……重いです。殺した相手の人生をしょい込むのは」

「大丈夫。その重さも、いずれ慣れるわ。いい子いい子~」

 

 お母さまは優しく撫でてくれた。

 今はその優しさすら怖い。

 

 

 

 

 

 お母さまはバラバラになった仕切り木箱を見てうーん、と唸っている。

 なんだろう?

 

「この金庫室の不具合を1つ見つけたわ」

「何ですか?」

「消火設備とかは忘れず入れたというのに、掃除用具を忘れていたわ」

「今日は拾えるだけ拾って帰りましょう……」

「そうしましょうね」

 

 黙々と拾うのもよかったのだが、お母さまにいくつか質問があったので、話しかける事にした。

 

「お母さま、2点質問がございます」

「何かしら?」

「1点は『ルビコン計画』の後段計画と、もう1点はお母さまが出撃される『即応任務』と通常の『お迎え』の違いについてです」

「わかったわ。それじゃあまず『即応任務』と通常の『お迎え』の違いについて説明するわね」

 

 お母さまは木くずがついた座布団を叩きながら説明を開始した。

 

「さっき『即応任務』は輪廻転生のシステムを弄った不届き者を即座に抹殺すると言ったわよね」

「ええ、仰ってました」

「具体的にどう弄るかなんだけど、大体は自分の自我や記憶を残したまま、転生しようとするのよ。つまり自分のコピー製造を輪廻転生のシステムでやろうとする事なの」

「それはいけないことなんですか?」

「ええ、生命体として不自然なのよ。子孫を残して死を得るという、生命としての基本プロセスから外れてしまっているの。コピーは所詮コピーだし、個性や多様性が生じないのよ」

 

 お母さまは叩き終わった座布団を敷くと、正座して座られた。

 

「一番の問題が輪廻転生のシステムに割り込みをかける事なの。割り込みをかける権限を持っているのは十王様たちだけで、割り込みをかける例外としては歴史の編纂をしている御阿礼の子ぐらいよ」

「御阿礼の子? 幻想郷の妖怪についてまとめた『幻想郷縁起』を編纂している?」

「ええ、そうよ。御阿礼の子だって、継承されるのは能力だけで、それによって一部の記憶は残るけど、多様性が生じる様、自我や他の記憶は破棄されてしまう」

 

 いくら閻魔様に転生が認められていても、生命体としてはあくまでも自然に、という事か。

 

「割り込みをかけるタイミングを誤ると、輪廻転生のシステム自体が止まりかねないのよ。そうなったらもう大変。死んだ人の魂は三途の河に到着できなくなるし、転生待ちの幽霊が転生できなくなってしまう」

「それは不味い事態ですね」

「そうなのよ。でも不正な割り込みは検出できるようになっているから、発見次第『即応任務』となって私が出向くわけ」

「『即応任務』の概要は理解できました。でもなぜお母さまは『お迎え』の任務も行わないのですか?」

「それは天人や仙人がそれほど悪い事をしていないからよ。悪い事といっても寿命を延ばす事ぐらいだし」

「寿命を延ばす事はそれほど悪い事ではない、と」

「ええ、生命体として永く生きたいと願うのは自然です。それに重罪である輪廻転生のシステムを弄る訳でもないので」

「なるほど」

「あと、是非曲直庁内のナワバリというものがあるのよ。『お迎え』の任務全般は鬼神長の管轄だから、私がおいそれとしゃしゃり出る訳にはいかないのよ」

「なんというか、しょうもない理由を聞いてしまった気がする……」

「組織が出来ればナワバリも出来るものなのよ。気をつけなさい、フランドール。変な所を突いて藪蛇になる事は多い事なのよ。今回の『ルビコン計画』だって、私達のナワバリに四季様が土足で入ってきそうだから立てた計画なのだから」

「わかりました。肝に銘じます」

 

 お母さまは私の回答に満足したのか、笑顔になった。

 

「あと『お迎え』の任務があまり積極的でないのは人手不足という問題もあるからです。以前白玉楼に来た死神の青年の様に、やっと新世代の死神が育ちつつありますが、まだ『500年前の真実』の傷跡が是非曲直庁内には残ってしまっています」

「これ以上、死神を消耗させる訳にはいかないので、本気で戦うわけにはいかないと?」

「ええ、そうね。天人や仙人は強い奴ばかりだから、本気でやったらただの捨て駒になってしまうわけ」

「そうなると、『お迎え』の任務自体、形骸化してしまうのでは?」

「最近ではとりあえず挨拶して、狙わている旨を伝えるだけっぽいわね」

「それでは、今は天人や仙人にとって良い時代なんですね」

「もしも増長したりしたら、意外と『即応任務』になってしまうかもね」

 

 お母さまはニヤリと笑われた。

 こ、怖い。

 

 

「それじゃあ、次に『ルビコン計画』の後段計画を説明するわね」

 

 私もゴミ拾いが終わったので、座布団に座る事にした。

 これは良く聞いておかねばならない。

 

「私が予想するに、前段計画で四季様は我々の脅しに屈すると思っています。特に閻魔様である四季様は円滑に裁判を行う義務があります。ここで欠員を出してはダメだという感じに『白黒はっきりつける程度の能力』は使わないで帰ると思います」

「そうすると、後日の逆襲が怖いですね」

「その後日の逆襲に備えるのが、後段計画となるわけです」

「どんな計画なんでしょう?」

「四季様は暗殺されない様、用意周到に公聴会の様な多人数がいる場所に我々を引きずり出すでしょう。それこそ、我々を捕縛して」

「公聴会、ですか?」

「そうです、公聴会を開けるだけのネタを四季様が手にした時、後段計画のスタートとなります。多分ですが、新聞の号外などで大々的にフランドールの能力が暴かれるなどです」

「新聞には要注意と」

「ええ。公聴会で最初に尋問を受けるのは私だと思います。私の記憶にはシークレットA級の情報が沢山あります。だから四季様の浄玻璃の鏡では黒塗りの部分が目立つはずです。なんだこれはとなって、上司の十王様が持っている最上位の浄玻璃の鏡を借りに行くはずです」

「そうなると良い事があるのでしょうか?」

「ええ、あるわ。十王様たちに私達が尋問されている事に気付くはずです。そこで十王様たちは公聴会を辞めさせるはずなので、一旦控室に連れていかれるはずです。その時、プランBを発動させます」

「なんだか『多分』とか、『思います』とか、『はずです』とか今回の後段計画には不明瞭な部分が多いですね」

 

 お母さまは痛い所を突かれたと言わんばかりに肩をすくめられた。

 

「しょうがないじゃない、プランBなんてこんなものよ。プランBは……白玉楼まで無事に逃げる事よ!」

「捕縛されているのにどうやって!?」

「拘束を破壊して白玉楼まで一直線です。ポイントはどれだけ早く是非曲直庁の庁舎から逃げられるかです。庁舎の図面を頭に叩き込む必要があるわね」

「でも逃げれば、さらに立場が悪くなるのでは?」

「十王様たちに私達の事が知れればそれでOKなのよ。後は白玉楼まで閻魔王様辺りが来てくれれば万事解決。それまで襲い掛かってくる死神や鬼たちを殺してやります。襲い掛かってくれば、の話ですが」

「解決してるようには思えませんが」

「いえ、私は閻魔王様に要求が出来ます。『ありとあらゆるものを破壊する程度の能力』を持ったフランドールの養育する権利を要求します」

「素直に要求に応じてくれるでしょうか?」

「是非曲直庁の機能を麻痺させるぐらい大々的に逃げる事が要求されます。白玉楼に逃げ込むのはこの為です。是非曲直庁の機能が麻痺しているなら、騒動をさっさと収束させたいという気持ちにさせるのです」

「事前に閻魔王様と相談するとかはできないのでしょうか?」

 

 私は気になっていた。

 ここまでする必要があるのかと。

 

「いえ、ダメね。閻魔王様はその管轄の閻魔様の意見を重視されるお方だから。そうなると相談した時点でフランドールの能力がバレて一巻のお終い」

 

 事前に相談案は既に考えられていた様だ。

 

「良いですかフランドール。『ルビコン計画』の真の目的はあなたの養育する権利を勝ち取る事。私の野望達成の礎とする事なのです」

「お母さまの野望とは一体何なのですか?」

「私の野望は……大きくなったフランドールが別の冥界の主になってもらう事」

 

 私はてっきりお母さまの領地を割譲してもらうのかと思っていたのだが、どうやら違う様だ。

 もしも私のささやかな願いが叶うのなら、お母さまの領地の近くにしたいな。

 

 

 

 

――1980年代 白玉楼

 

 

 お母さまから色々聞かされた地下金庫室での出来事から、まる2週間が経過した。

 あれから変わった事といえば、『ルビコン計画』の前段計画に向け、深夜に行う能力の練習内容を少し変更した。

 それは至近距離での早撃ち(ファストドロー)の練習であった。

 四季映姫様が浄玻璃の鏡を出した瞬間を狙う為である。

 たった2週間の練習であったが、少しは早くなったと思う。

 これでいつ四季映姫様がいらっしゃっても大丈夫……だと思う。

 正直、まだ自信はない。だが、やらねばならない。

 

「ごめん下さい」

 

 この声は……。ついに『ルビコン計画』の決行日が来た様だ。

 アポイントメント無しで四季映姫様がいらっしゃった。

 

「はーい」

 

 返事はお母さまがされた様だ。

 玄関に向かうと、お母さまの読み通り、四季映姫様と部下の小町さんの2名でいらっしゃった。

 

「お久しぶりです、四季様。ようこそいらっしゃいました、それに小町も。今日は急にいらっしゃいましたが、何かあったのですか?」

「お久しぶりです、幽々子。あなたとフランドールに話がありますので、少し時間を頂ければと」

「全く構いませんよ~。それでは、客間にご案内させて頂きますね、小町は別室にてお待ちください」

「それでは上がらせて頂きますね」

「お邪魔します、西行寺様」

 

 二人は靴を脱ぎ始めた。

 挨拶が無いのは不敬なので、靴を脱いでいる途中だが私も挨拶をする事にした。

 

「お久しぶりです、四季様。入庁承諾書を提出した時以来でしょうか」

「お久しぶりです、フランドール。そうですね、約200年ぶりという所でしょうか」

 

 私は小町さんにも挨拶することにした。

 

「お久しぶりです、小町さん。1年ぶりぐらいですか」

「お久しぶり、フランちゃん。もうそんなに経つのかね~。早いもんだ」

 

 小町さんは靴を脱ぎ終わると、私の頭を少しの間、撫でてくれた。

 子ども扱いされるのは嫌なのだが、小町さんは昔から私と出会うと頭を撫でてくるのであった。

 久しぶりなのでちょっと嬉しい。

 

「さ、お二人ともこちらへどうぞ」

 

 お母さまは私達に手招きした。

 この後、小町さんは別室の客間で待ってもらい、四季様には一緒に離れの客間へいらっしゃって頂いた。

 離れの客間は6畳2間あり、3人で使うには十分な広さがあった。

 真ん中に大きめのテーブルがあり、座布団が6枚並べられていた。

 四季様には客間の上座に座って頂き、私達はその対面に座った。

 お互い正視したところで、お母さまは挨拶を切り出した。

 

「本日は遠いところ、ご足労頂き、ありがとうございます。それで私達にお話とはなんでしょうか?」

「つまらない芝居はやめなさい。今日はフランドールの能力について聞きに来たのです。フランドール、あなたは入庁承諾書記入時に『剣術を扱う程度の能力』と書きました。それは本当ですか?」

 

 私は四季映姫様に聞かれたので、答える事にした。

 もちろん嘘をつくのだが。

 

「ええ、本当です。嘘偽りはありません」

「本当ですね?」

「はい」

 

 四季映姫様は懐から手鏡のようなものを取り出した。

 今だ!!

 私は5msで手鏡の『目』を掴んだ。

 ガラスの割れる音が聞こえた。

 

 

 

 

 浄玻璃の鏡を出した瞬間だった。

 私、四季映姫は西行寺幽々子という女をなめていた事を実感した。

 

――1980年代 白玉楼 離れの客間

 

 

「え?」

 

 私は素っ頓狂な声を上げてしまった。

 今、目の前で起きた事に全く頭がついていかなかった。

 浄玻璃の鏡が破壊されたのだ。

 これではフランドールや幽々子から情報を得る事が出来ない……。

 私はプランBである、自分の『白黒はっきりつける程度の能力』でフランドールの噂話に白黒つけようとし、悔悟棒を振り上げた。

 

「どうされたのですか?」

 

 幽々子が机に両手をつき、こちらを覗き込んできた。

 私は幽々子の目を見て震えあがった。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 完全に狩人の目で私を見つめていた。

 フランドールも目を見開き、私を見つめていた。

 私は二人の殺気がこの部屋中に充満するのを感じていた。

 

「本当にどうされたのですか? いっぱい汗をかかれて」

「ヒッ」

 

 あまりの緊張で冷や汗が止まらない。

 二人とも私を暗殺するつもりなのだ……。

 小町を別室に押し込んだのは目撃者を消すためだったのか。

 私は完全にこの二人の事をなめていた。

 まさか閻魔(かみ)殺しまで決心していたとは思いもしなかった。

 そこまでこの二人を追い詰めたのは……私か?

 ここで悔悟棒を振り下ろしてもいいのだが、その瞬間に私は暗殺されてしまうだろう。

 それに生命の危機を感じているのか、体が強張って振り下ろせない。

 閻魔に欠員を出すわけにはいかないので、ここは……もうこちらが身を引くしかない。

 私の切り札が2枚とも使えなくなってしまった。

 私はゆっくりと悔悟棒を私の口元の定位置に戻した。

 

「なんでも……ありません……。先ほどの話も忘れて下さい」

 

 こうなってはどうしようもない。

 私は別件の冥界拡張の話を始めた。

 

「幽々子、あなたは『幽霊移民計画』で顕界の廃墟などに転生待ちの幽霊を送りましたね?」

「ええ、手狭になったので、そうさせて頂きました」

「今、顕界では幽霊が見世物になっています。これは由々しき事態です。すぐに『幽霊移民計画』を停止し、顕界から幽霊を引き上げなさい。」

「それは無理ですわ。既に飽和状態の冥界に空きスペースなんてありません」

「それでは不本意ながら、冥界の拡張を行いたいと思います。外に出て下さい」

 

 私達は靴を履き、白玉楼の中心に立った。

 悔悟棒を高く掲げ、私は叫んだ。

 

「ハァッ!」

 

 悔悟棒を持っている手から、空間が引き延ばされていく感覚が伝わってくる。

 これでだいぶ伸びただろう。

 幽々子が話しかけてきた。

 

「一体どれぐらい大きくなったのでしょうか?」

200由旬(約1400km)程度まで大きくしました。これで手狭になる事はありません」

「今までの4倍以上は大きくなったみたいですね」

「そうです。今の冥界は地獄より大きくなりました」

「ありがとうございます、四季様。これで顕界に送った転生待ちの幽霊を戻せます」

「必ず戻すのですよ」

「近日中に必ず戻します」

 

 幽々子の近日中に戻すという言質を取ったので、私達は帰る事にした。

 

「宜しい。それでは私達はこれにて失礼します」

「お疲れ様でした。道中お気をつけてお帰り下さい」

 

 

 私達は始終無言で帰路に就いていた。

 小町はこの状況にいたたまれなくなったのか、話しかけてきた。

 

「四季様、始終無言ですが、何かあったんですか?」

「ありました。私は脅しに屈してしまった。閻魔失格です……」

「え、あの二人に脅されたんですか? 結構、温厚な方たちですよ?」

「二人の記憶を探ろうと浄玻璃の鏡を出した瞬間でした。多分、フランドールの『ありとあらゆるものを破壊する程度の能力』だと思うのですが、浄玻璃の鏡を破壊されました」

「地獄の至宝を破壊する決心までしていたとは……。四季様の『白黒はっきりつける程度の能力』は試されなかったんですか?」

「それが出来なかったのです! あの毒蛇の幽々子とその娘フランドールは私に殺気をぶつけてきたのです」

 

 小町はなんとも言えない表情をし、顔をポリポリとかきながら発言の許可を取ってきた。

 

「四季様、一言いってもいいですか?」

「……なんですか?」

「そういうの、藪蛇っていうんですよ」

「……」

「西行寺様は痛くもない腹を探られて怒ったんだと思います」

「いいえ、私の浄玻璃の鏡を壊したという事実は残りました。フランドールの真の能力は『ありとあらゆるものを破壊する程度の能力』という事で決まりだと思います」

「また決めつけるんですか?」

「あまり使いたくない手段なのですが……。小町、またこの情報をある機関に流してほしいのです」

「えー、もうやめましょうよ。西行寺様に関わったら、命がいくつあっても足りませんよ」

 

 私は小町の忠告を無視した。

 

「天狗にジャーナリストが居たと思うので、そのジャーナリストに白玉楼に住んでいるフランドールの情報を流してきて欲しいのです」

「まあ、ボスのご命令とあらば、流してきますけども……。知りませんよ? 次西行寺様が怒ったら、どんな事になるか想像もつきませんよ」

「大丈夫です。次回は西行寺親子を捕縛します。手も足も出させないつもりです」

「もう、知りませんからね。それではボス、ご自分の思う限りのことをしてください」

 

 水鬼鬼神長も最後に仰っていた事を小町にも言われるとは……。

 一体なんの事だろうか。

 まあいい、次こそは幽々子の野心を確認してみせる。

 

 

 野心とは、才能の別名と冷たく嘯く。そうかもしれない。

 だが、野心には挫折がひっそりと寄り添う事を知るがいい。

 成程、忠告のつもりか? それとも――

 

「フン」

 

 騙されはしない。

 毒蛇は毒蛇を知る。

 出せ、出してみせろ!! 毒の全てを!!

 

 




 時に、傲慢の別名は何と言うのだろうか?

 最後までお読み頂き、ありがとうございます。
 説明回だったので、キャラクターのセリフが多くなってしまいました。
 後、装甲騎兵ボトムズのオマージュを少々加えました。

 挿絵はハニューさんより頂きました。
 以前作った動画で使用したものをもう一度使わせて頂きました。
 今回の掲載の許可もいただいております。
 ありがとうございました。
 https://twitter.com/hanyw

 17/01/14 次回は裏の主人公、小野塚小町のお話となります。
      挿絵も入る予定です。
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