異世界人こと俺氏の憂鬱   作:魚乃眼

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第九十話

 

月曜日の放課後の話からしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

授業が終るや否や涼宮さんが教室を出て行くのは今更な光景だった。

だったものの、キョンがそのタイミングで俺の座席の方へとやって来る事に関しては珍しい光景だった。

 

 

「何だよ。オレ今日は掃除当番だから遅くなるけど」

 

「だからあらかじめ伝えておこうと思ってな。今日はSOS団が臨時休業だそうだ」

 

「ふーん」

 

特に朝倉さんはそれを耳にして何かを感じてはいないようだ。

そしてお察しいただけたと思うが、未だに俺の後ろの座席は朝倉涼子が占領している。

これで俺が一番後ろの席でも引き当てればアリーヴェデルチ(さよならだ)なのだが、そうはいかない。

真面目に何か細工しているんじゃあないのか。

情報操作を悪用しているのか。くれぐれも悪用するんじゃないぞ。

 

 

「お前らも今日一日ぐらいは休んでもバチは当たらないんじゃないか。本当に色々あったからな」

 

土曜に充分朝倉さんとはいちゃいちゃ出来たからこの一週間は戦えるんだけどね。

長門さんは部室に居るかもしれないけど、さて俺はどうしたものか。

決まっている。

 

 

「わかったよ」

 

手早くクリーンに掃除なんて片付けるさ。

家に、帰ろう。

 

 

 

――そうして、火曜日。

慣れた慣れたと大口を叩いておきながら坂道にうんざりとした表情のキョン。

こいつは昨日あれから何があったのかは知らないが声をかけた時は神妙な面持ちをしていた。

そうか。

もう、殆ど思い出せないけど、きっとそうなんだな。

 

 

「俺は俺、あいつはあいつさ」

 

彼が言うあいつが誰を指しているのか。

考えなくてもわかる事だ。

確かにそうだ。

俺たちは別々の物語が存在している。

そこに登場するヒーローもヒロインも他人でしかない。

同じ物語を共有する、なんてのは本当に稀有なんだ。

彼女だけが弾かれたわけではない。

SOS団シアターが貸切になっていただけなのだ。

だから君も、こんな馬鹿野郎の事はさっさと忘れちまったほうがいいさ。

過去を清算出来たんだろ? 涼宮さんにキョンの事は任せるといい。

それでいいのさ。

 

 

「こんな騒がしい日々も悪くないだろ。波風立てずに、なんて生活よりはいいんじゃあないか」

 

「そうかもな……。なあ明智」

 

「何だ」

 

「もし俺があの時――」

 

そこまで彼は口にしかけて。

途端に苦笑してから。

 

 

「――いや、何でもない。気にしないでくれ」

 

「あいよ」

 

心配するなよ。

お前が選んだんだ。

後悔するのは最後になってからでいいだろ。

どうせ死んでゼロにされるんだから、マイナスのまま生きる意味なんて何処にあるんだ。

必要なのは決して絶対数ではない。

クオンティティーより、クオリティーなのさ。

 

 

「やっほー! キョロ助くんとキンカンくん」

 

そんな声がしたかと思えば俺とキョロ助――キョンらしい――の背中はバシバシ叩かれた。

珍しい人と朝から遭遇したものだ。

古泉も彼女を見習ってほしいくらいに眩しさ1000%な先輩。

 

 

「鶴屋さん、どもっス」

 

「おはようございます」

 

「二人とも元気してるー?」

 

色々あったけど一周して何とか元気になれましたとも。

万物は流転するのであれば、感情のサイクルというのも存在するのかもしれない。

案外人間は適応力が高いらしい……と、タカをくくると結局低い事実に自分が追い詰められてしまう。

深く考えないのが一番なのさ。

因みに鶴屋さんが俺の事を"キンカン"と呼んだのは、あれだ。

明智光秀が織田信長に呼ばれていたあだ名だ。

俺の髪の毛は未だにフサフサだからこそ、縁起が悪いと思っちゃうね。

キンカン頭とはハゲって意味なんだよ。

 

 

「やっぱり清々しいのは天気もそうだけど……キミたちぃ」

 

鶴屋さんはまるで社長が部下にありがたい言葉をかけるかのように。

 

 

「キミたちの方がこう、見てて晴れやかじゃないか! めがっさ爽やかな気分に見えるよっ」

 

「オレたちも一人立ちしないといけませんから。……なあ?」

 

「こいつの言う通りですよ。春ですからね」

 

キョン。お前まで春の陽気のせいにするのか。

古泉の涼宮さんはいい傾向だからとか無意識だから並みによろしくない免罪符だ。

期間限定だから許されるだけであろう。

ともすればこの男は。

 

 

「鶴屋さん。俺ってどう見えます?」

 

「少年よ、それってあたしを口説いているつもりなのかなあ?」

 

「とんでもない。ただ、俺がどう他人に見えているのかが気になっただけですよ。こいつや他の連中に訊いても抽象的概念的哲学的な反応しかないんで」

 

「お前は失礼な奴だな」

 

事実だろと言わんばかりの沈黙だった。

こんな奴でも主人公を張れるんだから昨今のラノベ業界は如何なものか。

いや、【涼宮ハルヒの憂鬱】など古株の部類だ。

俺としては【魔術師オーフェン】ぐらいキョンには捻くれてもらった方が面白いとは思う。

しかしながら眼つきの悪さをどうこう言われているのは彼ではなく俺の方だった。

これで平行世界の俺の眼つきが普通だったら俺は泣くぞ。

 

 

「そうさねえ……キョンくんはマイナー好かれタイプかなぁ? ついでに黎くんは……涼子ちゃんは幸せもんだねっ。こんなイイ男がゲットできるなんて」

 

「……オレが?」

 

何を言っているんだ先輩は。

こっちがありがたく思う方だと言うのに。

モテる要素さえ俺にはないんですよ。

 

 

「黎くんは素材が良いけど中身でちょいっと損してるのさ」

 

「こいつはちょいっとどころかぐびぐびっと損してるみたいですがね」

 

「ジュースを飲むような感覚でオレについて語らないでくれよ」

 

「ひひーっ。だったらあたしはキミのジュースにテキーラでも混ぜたいかな……なんて、おかしーっ」

 

一人で爆笑してしまう鶴屋さん。

俺を馬鹿にしているようではないらしいがそうとしか思えなかった。

古泉に似たような事を言われた日にはベンズナイフでちくりだ。

神経毒でお地蔵さんになってもらおう。

 

 

「キョンくんもさあ、それなりだし」

 

「それなりって、俺はどれくらいなんですか」

 

「はっはは。それなりの出来のトナカイ芸をやってくれるくらいかな」

 

「古傷を抉らないで下さい……」

 

いいぞいいぞ、もっとやってやれ。

つい最近に女子一人切り捨てたばかりの畜生なんだからなこいつは。

でもねぇ、と前置きしてから鶴屋さんは。

 

 

「キミたちなら大丈夫かなっ。変な事はしない。自分の進むべき道を理解している。あたしは信頼してるよ」

 

変な事については耳が痛い。

絶賛北高をお騒がせ中の連中なのだ。

先週だって下手したら世界が崩壊していたかも。

 

 

「んふっ。困ったものです」

 

「どうした急に気色悪い。古泉の真似か?」

 

「ほうほう。……うーん、二割ぐらい似てたかなぁ?」

 

ただの独り言だ。

鶴屋さんが二割も点数を付けてくれるとはありがたい。

この前の朝倉さんなんか割合2%ぐらいだった気がする。

減点方式はちょっとした恐怖だ。

 

 

「にゃはははは。朝から笑かしてもらったよっ! キミたち、月末にある花見大会の事は忘れてないにょろ?」

 

「桜ですよね」

 

「ただの桜じゃあないぜ。ヤエザクラ大会……ですよね?」

 

「さっすが黎くん。キョンくんもしっかり勉強しておくんだよー。そっちが来なかったらこっちから桜持って行くからねっ!」

 

本当にやりかねない事を冗談なのか解り辛く発言した後、鶴屋さんは駆け足で消えてしまった。

笑えたかはさておき元気を貰ったのはこっちの方ですよ、鶴屋さん。

 

 

「……だな」

 

「中河氏の方はどうだって?」

 

「どうもこうもねえよ。何事もなく終わった事を教えといてやったさ。ギリギリのラインでこっちには来てほしくないからな」

 

「やれやれ、だよ」

 

彼の持つ能力……。

俺は誰かを利用する気はないが、協力する必要はあるかもしれない。

中河氏だけではない。

周防をはじめとする宇宙人未来人超能力者。

俺たちSOS団。

共同戦線になるだろうよ。

 

 

「いよっ。朝から羨ましいぜ、お前らはよ」

 

そう言って後ろから登場したのは谷口とその横に立つ国木田。

鶴屋さんの事を言っているんだろうけどさ。

 

 

「お前さんは別に女性との出会いを必要としてないだろ?」

 

「それはそれだぜ。オイシイ思いってのは誰でもしたくなるってもんよ」

 

「谷口さあ。自分に素直なのはいいけど、それじゃ周防さんに見捨てられちゃうよ?」

 

国木田の言う通りだ。

ついこの間も俺たち三人に谷口は散々バッシングされただろ。

馬鹿と言うよりは鳥頭なのかもしれない。

ちっちっち、と谷口は得意そうに人指し指を振ってから。

 

 

「お前らは勘違いしてるようだな。いいか、自分で欲しいものは自分で勝ち取るんだぜ」

 

「お前はそれが出来たって言いたいのか」

 

「……今の所は、な」

 

キョンの突っ込みに対してはどこか謙虚だった。

物分りはいいくせに頭は悪い。

馬鹿と言うよりは阿呆なんだろうな。

死ななきゃ治らない馬鹿ってのは、俺とかキョンの方さ。

 

 

「猫を飼ってほしいと頼まれたんだが、俺には猫事情なんざよくわからなくてよ……高いのなんか買えそうにねえぜ」

 

「ピンキリだからね」

 

だったら某分譲マンションの裏手に行くといい。

春や秋といった穏やかな季節ならば野良猫が無数にいるぞ。

シャミセンだってあそこ出身だからな。

 

 

「もっとも、お前さんなら逃げられちまうだろうけど」

 

「学校帰りにホームセンターでちょっくら網でも買ってくるか……」

 

虫じゃないんだから。

呆れた顔でキョンは。

 

 

「あいつもこんな野郎とよく付き合ってられるよな」

 

「キョン。君はわかってないみたいだけど普通同じ感性の人間なんかより、どっちかと言えば真逆の性質の方が相性がいいんだよ。磁石ぐらいはキョンにもわかるよね」

 

「へいへい。国木田は俺と違って頭がいいからな」

 

「涼宮さんだってそうじゃないかな? 君とはどこか似ているけど、その目立った特徴だけで言えば正反対さ」

 

そこから国木田は物理的な話を長々と開始した。

湯川先生がどうとか言ってたが、【ガリレオシリーズ】の話ではない。

でもね、と国木田は引力的な話の説明を終えてから。

 

 

「やっぱり君と涼宮さんは似たもの同士さ……もっと言えば、明智もだね」

 

俺がこの馬鹿と同じだと?

鍵とかの因縁関係抜きにしてもそりゃきついぜ。

笑えないな。

 

 

「朝倉さんとさ。自分を決して目立たせたがらないのに強く心を持っている明智と、みんなの憧れでとても目立つ存在なのにどこか心が不安そうな朝倉さん。正反対だけど、そうじゃないようにも僕には思える。鏡の表裏じゃなくて合わせ鏡みたいだよ」

 

さあな。

俺と彼女の付き合い方なんてどうでもいいさ。

+だろうが-だろうが、差し引きゼロじゃあつまらないだろ?

いっその事倍増させちまえばいいのさ。

 

 

「谷口だけじゃなくてさ、キョンもしっかりしなよ……」

 

その後、国木田の憧れの存在として鶴屋さんの名前が彼から浮上した。

学力的にズバ抜けている彼が北高なんぞに来た理由が鶴屋さんの存在故だという事実が明かされたのだ。

"百式観音"も月までブッ飛ぶこの衝撃。

"零の手"を使ったとしても月までは流石に届かないだろう。

亀仙人じゃあるまいし。

 

 

「――ふっ。やっぱり、春か」

 

登校風景についてはそんな感じだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして放課後となった。

昨日とは違ってSOS団はしっかり集まっている。

掃除当番の涼宮さんを除く、"六人"。

俺を含めてだ。

そうさ。

 

 

「何もなかったんだ」

 

今日も今日とて変てこ読書を楽しんでいる俺の彼女、朝倉さん。

古泉はどうぶつしょうぎでさえキョンに敗北しているらしい。

長門さんも、本当に何事も無さそうにハートカバーのページをめくっている。

朝比奈さんは……。

 

 

「渡橋さぁん……」

 

ヤスミンの不在を嘆いていた。

彼女に随分と入れ込んでいただけあって、ショックが大きいのだろう。

ただただ窓の外をメイド装束さんが眺め続けていた。

 

 

「中学生だったなんて……どうりで放課後しか見かけなかったわけです……」

 

彼女は実は中学生という設定だった。

北高に姉が通っていたらしく、高校生活に憧れた彼女は姉の制服を借りてまで忍び込んでいた。

SOS団の奇行その他諸々のうわさ話を聞きつけ、興味がわいてつい。

なんて無茶苦茶な設定でゴリ押された。

それでいいのか? 朝比奈さんは何も知らないが。

俺は言葉を発していないのにも関わらず隣の営業マンは。

 

 

「これで良いのですよ」

 

とだけ呟いた。

本当かよ。

 

 

 

――詳しくは俺も知らないが『機関』にも色々とあったらしい。

主に佐乃秋君に関しての話になる。

彼は北高生ではない。

ここから隣町にあるこれまた普通の高校。

そこに彼は通っていたという事にされたのだ。

 

 

「どういう事だよ」

 

土曜の夜に古泉からかけられた通話。

それに応じた俺の一言である。

 

 

『三年以上もの間の行方不明者が、何事もなく帰ってくる……異常事態でしかありません』

 

「お前さんたちは何をしたんだ?」

 

『我々がした事など一部の人間を黙らせただけに過ぎません。具体的には警察関係者。行方不明になっていたという記録を消させてもらいましたよ』

 

「本人もそうだけど、彼の家族はどうするんだよ。金で誤魔化せられるわけがない」

 

『荒業ですが。頼らせていただきましたよ』

 

おいおい。

それはまさか原作一巻の朝倉さんが殺された後に無理矢理誤魔化されたあの方法か?

カナダ留学にしては無茶だと思うけど。

 

 

『この一件で宇宙人には随分とお手数をおかけしましたよ。暫くはこちらからお願いが出来そうにありませんね。とは言え、長門さんや朝倉さん相手であれば別でしょうが』

 

「周防も入れてやれよ」

 

『彼女に関しては、我々よりもあなたや谷口さんの方が適任ではないでしょうか? 必要と判断されればそちらを通して彼女に依頼するかもしれません』

 

「勝手にそっちでやっててくれ。あいつを利用したくはないね。振り回されるのはオレたち男の役目だろ?」

 

『それもそうですね。心得ておきますよ』

 

彼が何処に心得たのかは不明だ。

ともすれば、橘京子との関係性についてかもしれない。

お前らが恋愛しようが敵対しようが、俺を巻き込まないでくれよ。

倒れる時は共倒れで頼む。

 

 

『さながら、ロミオとジュリエットといった所でしょうか? 僕にはそんな大役など相応しくありませんが』

 

「それも勝手にしてくれ」

 

だが、何だかんだの末に俺は巻き込まれていくことになるのだ。

古泉一樹と橘京子、両勢力の小競り合いに。

上に立つ者ゆえの苦労だろうか。

この時の俺はそんな事など気にもしていなかった。

したくなかったからな。

 

 

 

――佐乃秋は学力、精神共にしっかりと成長していたらしい。

これも異世界人の浅野が憑りついていた影響だろうか?

むしろ勉強などしていないはずなのに頭が悪くないらしいからね。

俺はついぞ勤勉だった覚えはないんだけどね……。

 

――佐倉詩織はこの一週間、SOS団に居ただとか、異世界人だとかの記憶がなかった。

これはαとβ二つの世界統合が関係しているらしい。

わざわざリフォームしたはずの文芸部室は以前のままで、二人分の席はすっかり消えていたんだ。

身に覚えがないんだから、佐倉さんがここに来るはずはない。

もっともこれから彼女とは文芸部的活動で関わる事になっていく。

 

 

「だけど、今日じゃないからさ」

 

俺にとっても、SOS団みんなにとっても明日の話になる。

渡橋ヤスミと佐倉詩織。

この二人の入団は必要とされての事だったのだろうか?

佐倉詩織が"詩織"の記憶を一時的に得たのは、俺にメッセージを残したのは必然だったのか?

下の名前が全く同じな事といい、昔の詩織にそっくりだった事といい。

 

 

「天が許した偶然さ。全部ね」

 

必然かどうかはどうでもいい。

俺はそんな事の検証がまるで出来ないんだ。

宇宙人未来人超能力者でも、無理なのさ。

異世界人もだ。

 

 

 

 

――だから、今日の話をしよう。

先の話ではない、これからの話をしよう。

話し合いで解決すれば一番なのさ。

 

 

「みんな! お待たせ!」

 

掃除当番を終えた涼宮さんは、今回ばかりは正当な理由でお待たせした。

と言っても平素から彼女を責められる命知らずなど。

 

 

「まったくだな」

 

そこで古泉とのどうぶつしょうぎ対決に飽きて、お茶をすすっているキョンぐらいだ。

俺も俺で普段はイエスマンなのだろう。

だけど、必要ならノーを突きつけるって。

それが友人なんだろ。

 

 

「みくるちゃん。お茶は後でいいわよ」

 

「は、はいっ」

 

「先にやる事があるんだから」

 

とだけ言うと、彼女はホワイトボードに向かって何かを書いていく。

何を書いているんだろう。

描いていると形容されない以上は、文字なのさ。

 

――だから、話し合いをしよう。

俺が持つ未だによくわからない能力。

ハンタ的念能力以外には応用出来ないのか?

出来たのは"次元干渉"だけだった。

だいたい俺の"切る"能力だって物質を切ったり出来るわけではない。

曖昧なものしか切れないんだ。

空間だとか、次元だとか、定義が曖昧だろ?

だから曖昧な異世界人の精神だって切れたんだ。

アナザーワンはまだ帰って来ない。

あの世界に電話が通じた以上は、きっと二人は元の世界へ帰ったはずだ。

記憶など当然残っていない。

残ったのは"心"だけだ。

 

 

「やる気があれば何でも出来るのよ……」

 

でかでかした文字で、ホワイトボードの内容が俺にも察しがついた。

そうさ、これからの話し合いをみんなでするんだ。

誰が俺の邪魔をしようと負けるわけがないさ。

今回俺が勝った、だなんて思ってないけど負けなかったのは事実。

ああ、何度でも言ってやるさ――。

 

 

「――何故ならオレたちは、SOS団だからだ」

 

俺の呟きは少なくとも涼宮さんと朝比奈さん以外には伝わったらしい。

問題ないよ。聞えなくても大丈夫だから。

既に、その二人の心も俺と同じなんだ。

俺たち七人なら、どんなスゴい奴が相手でも負けない。

もっと言えば外部協力者はいくらでも居るんだぜ。

谷口国木田コンピ研部長氏は戦力外だけど。

鶴屋さんのマネーパワーはこんな言い方をしたくはないけど頼もしい。

何より彼女自身が頼もしい。

生徒会はどうだろうな。

佐々木さんの取り巻き連中はもう既に味方さ。

ファミリーみたいなもんだよ。

 

 

 

――なあ? 浅野。

俺が言った通りじゃあないか?

こんなに世界は面白いんだぜ。

安心しなよ、それはこっちだけじゃない。

俺が気付けなかっただけで、幾らでも俺は主人公に成れたんだ。

ヒロインは直ぐ傍に居たんだ。

彼女と二人なら大丈夫さ。俺が保証してやるよ。

 

 

「さ、会議をするわよ! SOS団新年度第二回目の全体ミーティング。議題は見ての通りね」

 

「どこが見ての通りなんだ? 俺の目が正常なら、無駄に大きな字で見辛く『スペシャルイベント』とだけしか書かれてないじゃないか」

 

「はぁ……」

 

涼宮さんは"溜息"をついた。

だが、彼女の表情には"憂鬱"さが一切ない。

"退屈"さも感じられないし、どこかへ"消失"なんかしてしまう訳がないくらいの存在感。

この空間、この世界が本当に楽しいんだ。

世界を"分裂"させる必要も、世界に対して"憤慨"する必要なんてもうない。

彼女がするのは"暴走"であり、"陰謀"であり。

 

 

「鶴屋家主催の花見パーティに決まってるじゃない! あたしたちがみんなを盛り上げるのよ。大人しくタダ飲みタダ食いなんて、列席者の方々に申し訳ないと思わないの? バカキョン!」

 

何よりみんなを"驚愕"させたいのさ。

そこに精神的"動揺"なんて不安材料もあるわけがない。

涼宮さんは太陽かと見紛うまでの笑顔と、熱気でもって高らかに宣言した。

まるで皇帝のようだった。

 

 

「さあ、やるわよ! スペシャルイベントでも、サプライズでも何でもいいの! 世界を大いに盛り上げるための涼宮ハルヒの団。このSOS団がやるって言うんだから――」

 

失敗なんてあるわけないのさ。

最初から、決まっている。

俺が、俺たち全員がそうが決めたんだからな――。

 

 

「――絶ぇぇええっ対に! 成功させるの! これから始めるのは、その為の会議なのよ!」

 

 

 

 

 

――――『真説 異世界人こと俺氏の憂鬱』につづく

 

 


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