異世界人こと俺氏の憂鬱   作:魚乃眼

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Anothoer Chapter 1

 

 

開始する。

実行――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺が何をどう判断した所で関係なかった。

何故ならば確実に俺を取り巻く環境はじわじわと変化していったのだ。

袋の鼠とはよくぞ言ったもので、俺は呑気する間もなく袋をかぶせられた。

にも関わらず自分がそんな取り囲まれた、追い詰められた状況なのだと自覚するのにはここから半年近くを必要とする。

いくらでもチャンスはあったはずだ。

頼れる相手が居なかったと言えば嘘になる。

ただし二人ぐらいしか居ない。

そしてそのどちらにも俺は頼ろうとしなかった。

片方は信用出来ないし、もう片方は信頼出来そうにない。

自発的に俺が朝倉涼子について彼らに相談しなかったのも当然の結果と言えよう。

それで正解だった。

 

――どんな魔法を使ったのか?

気がつけば母さん親父は朝倉涼子を居候として受け入れていた。

家事もしっかり手伝う――料理の実力は確かだった――し、何より三人暮らしをするにはアンバランスだった。

そこを書斎として利用してた俺が個人的に言わせてもらえるのであれば、あんな部屋大枚はたいてでも取り壊しておくべきだったのだ。

朝倉涼子がつけ入る隙になったかどうかではない。

信用できない人物である兄貴。

彼の存在を思い出すだけでいい迷惑でしかなかったのだから。

そんな話よりも最初に俺が話したい事。

"昨日の今日"で俺を何かに巻き込むなという話だ。

いや、巻き込まれたのは俺だけじゃなくて世界中の人々だった。

ざまあないぜ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

朝倉涼子が俺の家に押し入ってから二日が経過した。

いつの間にか母さんと朝倉涼子によって親父は有無を言う前にあちら側に回ってしまった。

あらかじめ言っておくが彼を責めてやらないでやってほしい。

自分が決めたわけでもないのに朝倉涼子を俺の許嫁か何かだと勘違いしているのだろう。

無理矢理能力をつかって両親をこちらにつける作戦も選択肢にはあった。

しかしながら朝倉涼子の秘めた能力は未知数。

俺の能力がどういう事か通用しない以上は迂闊な行動が出来そうにない。

だって宇宙人なんだろ? 俺はUFOの中で解剖されたくないぞ。

 

 

「……なあ、朝倉さんよ」

 

昨日一日のうちに彼女のベッドは用意された。

本人に選んでもらうのが一番だったのだろうが自分の存在を秘匿しておきたい彼女にとってそれは困難らしい。

故に何の変哲もないシングルベッドがこの部屋に運ばれる事となった。

配達サービスの男性スタッフ諸君には労いとして缶コーヒーを渡してあげたさ。

だが、排除されたくないからと言ってもいい歳した女子が家に引きこもりはいくら何でもまずいだろう。

そういった旨の話を木曜日の学校終わりに何ら寄り道せず帰宅した俺は、ベッドの上でくつろぎながら読書している朝倉さんに苦言を呈する形で発した。

言うまでもなく、彼女が読んでいる本はずらずらと並べられた本棚に入れられている中の一冊。

俺が既に読み終えた代物だった。

 

 

「外出が不可能とは言わないけどやっぱり極力避けたいわよ。自分の姿を隠す方法はあるけど、外で動き回ってたんじゃ見つからないわけがないのよ」

 

「ここに居て見つからないとでも言うのか?」

 

「拠点は大事よ」

 

「長旅の片道でよければ付き合ってあげるから自衛隊の基地でも占領しに行きなよ」

 

日本国的には大打撃だが、このまま行くと我が家の明日がわからない。

兄貴より朝倉涼子が居てくれる方がマシなのは認めたくなかった。

この時点で俺は明日の事を考えちゃいなかったんだからな。

 

 

「大丈夫。こっちの世界でのあなたはただの一般人。少なくとも私の方はそう認識していた」

 

「じゃあ別世界のオレの話を持ち出そうってのか? オレにそんなとんでもパワーを期待しないでくれ」

 

あの人じゃないんだからさ。

過大評価以前に評価する要素が紙に書かれていない状態。

それが俺だった。

 

 

「異世界人の明智黎ほど期待してはいないけど、あなたがただの一般人だとは言い切れないじゃない?」

 

「……何の話さ」

 

「その世界の私は、あろうことか涼宮ハルヒをはじめとする集団の一員として存在していた」

 

「SOS団とかいう部活動かな」

 

「そうよ。あなたも所属していたのよ?」

 

嘘だろ。

あんな脳内麻薬ダダ漏れどころかそのままいけないクスリでも服用してそうな涼宮ハルヒの近くに俺が居たって?

ついこの前なんてバニーガールのコスプレをしながらそのSOS団とかいう意味不明な集まりを宣伝していた。

あいつらの精神状態が危険だって意味合いのSOSなんだろうなとは思う。

何故SOS団と名乗っているのかさえ俺には不明だ。

 

 

「涼宮ハルヒは宇宙人未来人異世界人超能力者と時間を共有する事を望んだ。その結果よ」

 

「異世界人だったオレと、宇宙人だった君がってか。共有じゃあなくて強要の間違いだろ」

 

「おかげさまで、あっちの私は進化出来たから彼女にとっては良かったのかもしれないわ」

 

「……で、君もそれに便乗しようとした末に異世界人との戦闘で敗北したと」

 

「下手に人間の感情を真似たのは下策だった。ただのつまらないハッタリの前にあっさり敗北したのよ」

 

今は違う、と言いたげな冷酷な表情。

思わず俺が殺されるんじゃないかと思ったが、そこまではしないらしい。

何なんだよ。

 

 

「住まわせて頂く以上、家賃は払うわよ。月にいくらがいいかしら?」

 

「いいよ、そんなの別に……母さんも親父も君の居候を許したわけだし」

 

「言い値なら常識の範囲内までは出せるけど」

 

「君の常識とオレの常識は違うんだろ。本当に遠慮するよ。女の子一人の食費ぐらい増えてもわけないさ。嬉しくないけどカネならある」

 

「私を女の子扱いだなんて、大した人ね」

 

見た目で言えばそうでしょうよ。

カネに関して言えば、何とも言えない。

兄貴は罪滅ぼしのつもりなのかも知れないけどな……。迷惑だ。

俺が本ばかり買い続けられるのも、そのおかげではある。

誰が頼んだわけでもなしに無駄な事を兄貴はしやがる。

勘当してやってもいいのに、親父も甘いな。

ふーん、と朝倉涼子は呟き、俺も読書の邪魔をして悪いと思ったので自分の部屋に戻ろうと思った。

シュチュエ―ションだけで言えばオイシイのかもしれない。

なけなしの常識で考えてみてくれ。

あり得ないだろ。

 

 

「マジで……」

 

どんな話をされようが俺には想像さえ出来ない世界の住人。

を、自称して中二病の女子が転がり込んできた。

母さんも親父もきっとその程度の認識なのだ。

俺に彼女の一人でも居ればよかったのだが、まず作る努力をしていない。

クラスの愚民どもの不毛な会話によると北高の女子レベルは平均して高いらしい。

流石にお嬢様ばかりを集めた私立光陽園女子大学附属高等学校にはかなわないだろう。

しかしながら全国的な統計で言えば充分北高はマシと言えるはずだ。

とんだイカレ女だったけど、涼宮ハルヒも朝倉涼子も同じクラス。

二年三年にはアイドル的マドンナ的女子生徒もおられるそうな。

 

 

「人間ってのはそこにあるものを見落とすものなのさ。だから自分は満足出来ない、だとか平気で言っちゃうんだ」

 

俺がそうだからな。

そんな事を吐き捨てるかのように言った後、ようやく部屋から出ようとした時。

 

 

「一つ言い忘れてた事があったわ」

 

と、こちらの方も向かずに朝倉涼子は言い出した。

どうせ妄言か何かだろうとタカをくくっている俺の理解が追い付かないほどには無茶苦茶な設定の妄言だった。

 

 

「もしかすると、今日世界終わるかもしれないから」

 

「……は?」

 

とにかく、お互いに望まぬ形での出会いだった。

 

――訂正。

お互いに変化を望んだ形での出会いだった。

俺は期待出来ない世界、日常からの脱却。

朝倉さんも似たような話だ。

ジリ貧だとか、自律進化だとかよくわからないけど、結局は同じ。

どうしようもないまでに憧れていたのさ。

"そこにあるもの"を見落としている事にさえ気づいていない。

俺に関して言うならば、実の所日常から今すぐにでも抜け出す選択肢は存在していた。

だけど敢えて平穏を選択したのだ。

EMP能力も普段は封印して生きていく事を選択した。

全ては"結果"だと思っていたのさ、

俺も、彼女も。

 

 

「その時は運が悪かったと思いましょ。現場に介入どころか、ロクに外へ出られない私にはどうする事も出来ないんだから」

 

俺が彼女を失いたくない、だとか。

あるいは守ってやりたいといった熱血主人公的思想に目覚めるかと言えば、これが案外そうでもなかった。

気がつけばそうなっていたのだから変化も何も無かったのさ。

いつの間にか俺も彼女も拾う事が出来たんだ。

頼れるのは自分一人、そんな奴が奇しくも出会ってしまったんだ。

これが同性なら潰し合って終わっていただろう。

 

――けど、そうじゃなかった。

潰し合う事なんかより残酷な事を強いられる異性だった。

どうしようもないまでに俺は男の子で、朝倉涼子も女の子でしかない。

涼宮ハルヒが望んだわけではない。

むしろ、朝倉涼子は涼宮ハルヒによって殺されたのだ。

宇宙人なんてただの一人だけで良かったのさ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……さて」

 

頼りたくない人の一人に頼る以外の方法で他に何があるか。

彼女のかいつまんだ説明を受けた俺だが、このまま死ぬのはどうなのだろうか。

ほら、よく言うじゃないか。

やって後悔するよりやらないで後悔する方が精神ダメージが大きいと。

つい二日前まで無気力だったヘタレ超能力者もどきが久々にやる気を出そうと言うのだ。

何のアテも無しに市内を散策する程度しか出来そうになかったけど。

 

 

「誰かに出会えりゃいいんだがな」

 

その世界崩壊の序章とやらは、夜遅くに実行されるのだと言う。

今はまだ午後六時だ。窓を睨み付けながら部屋で一人椅子に座る。

……本当に嫌々電話をかける事にした。

信頼できない人の方に、だよ。

自称、今世紀最大の魔術師になる予定の男。

そのお方は三回目のコール音が鳴り終わる前に応じてくれた。

 

 

「もしもし、オレです」

 

『……ほう、キミから電話など珍しい。むしろ初めてではないか?』

 

携帯電話から聴こえてきたのは嫌味ったらしい青年の声だった。

この人相手に近況を話そうなど、俺の交友関係の狭さが悔やまれるばかりだ。

 

 

「気のせいですよ」

 

『キミがそう言うのか。ならばそういう事にしておこう。しかし携帯電話だからこそ相手を直ぐに把握できたのであって、キミの名乗りはオレですの一言のみ。社会的通話マナーのそれとして相応しくないな。むしろこの私にこそふさわしい』

 

知るか。というか何を言っているんだ

まさか自分が社会に適応出来ているとでも思っているのだろうかこの人は。

俺の胸中などいざ知らず。

 

 

『それで、キミが私に初めて電話をかけたのだ。よもや世間話だけではあるまい?』

 

当り前ですよ。

あなたと世間話なんて血迷ってもしたくありません。

 

 

『なるほど。積もる話ならば構わんというわけだな』

 

もうどちらでもいいさ。

兄貴よりはあなたの方がまだマシだと判断したまでです。

 

 

「よくわからない上に、長ったらしい話になりますよ」

 

『なに、気にする事はない! 内容次第では聞かせてもらったお礼として私の書いた大作――』

 

「要りませんよ。とにかく、一度しか話しませんからね」

 

ざまあないよ。

こんな人に頼るしかないなんて。

 

 

 

――もう晩飯時だと言うのに長電話をしてしまっている。

十分越えをするだけで俺からすれば充分に長電話と言えよう。

俺の一方的な説明に対してその人は『ほう』とか『なるほど』といった適当な相槌のみ。

話の腰を折るのが大得意で大好きな人なのに珍しくそんな事はしてこなかった。

 

 

「……と、言うわけですよ」

 

『興味深い話ではないか』

 

「作り話だ、とは言わないんですね」

 

『キミがその宇宙人の涼子くんとやらから聞いたその話を、キミは信頼したのだろう? 私はキミを信用しているのだ』

 

言葉遊びが好きなのはいつも通りだ。

何やら勘違いされているようだが、俺は朝倉涼子を信頼したわけでも何でもない。

ましてやこの人が俺のどこを信用していると言うのだ。

 

 

『案ずるな。キミには私に信用されるだけの見識と判断力がある。保証もしよう』

 

「あなたに信用されたいとオレは一言も口に出した覚えはありませんよ」

 

『それにしても世界滅亡の日。もしや、それは預言された日ではないか? ……まさかその日が今日だとはな! 今日だ、今日! 突然すぎて笑うしかないではないか!』

 

この人、俺と会話をする気が無いのは確からしい。

突然も何もいつも笑っている気がする。

白衣だし、『フゥーハハハハ』とか言ってたような。

とにかく俺が訊きたいのはこの人の意見だ。

 

 

「涼宮ハルヒについてです」

 

『初耳だ。そんな少女の名など、キミのお兄さんからも聞いたことがないな』

 

むしろ兄貴がそれを知っているならそっちの方が驚きだし、問題だ。

何でも知ってそうな態度しかしないあなただからこそ俺は電話したんですよ。

その辺の期待感を裏切るようなら今すぐあなたの番号を着信拒否に設定しておきましょう。

携帯電話だとそれは有料サービスなので学園宛に請求しておきますからね。

 

 

『それはいかんな黎くん。しかし安心したまえ。今日、世界が滅ぶ事はないだろう』

 

「何故です? 朝倉涼子の精神に共存しているらしい異世界人……そいつが体験したとか言う未来の記憶を朝倉涼子が持ち合わせているからですか?」

 

『何故なのか……単純明快に答えようではないか。世界を混沌の渦に叩き込み文明社会を崩壊させようというのならば、私が自分の手と意思でそれを実行したいからだ。誰一人として私の邪魔をさせるわけがないだろう? 涼宮ハルヒが何であれ、私から世界征服の権利を奪おうなどとは言語道断。こちらは交戦も辞さない構えをとらせていただこう』

 

随分と威勢のいい発言ですね。

全く単純明快でも何でもないですよ。

 

 

「そうは言いますがね。出られるんですか? そこから」

 

『具体的にいつそれが始まるのか。キミにも正確な時刻などわからないのだろう。もっとも、わかったところで私がこの学園から出るのは全身の骨という骨を折ってようやく達成できるというもの。不可能とは言わないが、実行する気は毛頭ない』

 

「だったら偉そうな事言わないで下さいよ」

 

『約束したからな。茉衣子くんと』

 

うわぁ。

始まったよ。

長々とした彼女――実際には彼女ではないが俺からすればほぼほぼ同じだ――語りが。

自分語りの次は決まってこうなのだ。

だから俺は電話なんかしたくなかったんだよ。

どうにか中断させる。

 

 

「はいはいわかりましたから。その気になってここまで来てくれとは言いませんよ」

 

『実に優秀な弟子だ。師匠の言葉を忘れないのは大切だ』

 

ついこの前は言葉はただの道具で意味なんてないとか言ってませんでしたか。

毎日毎日主張を変えて疲れないのだろうか。

とにかく、俺があなたに訊きたいことは涼宮ハルヒについて何ですよ。

 

 

「聴いた話だけで判断してもらうのは酷かもしれませんが……先輩は涼宮ハルヒを、上位世界の住人――」

 

『黎くん』

 

大きな声ではなかった。

たった一言だけ、静かに俺の名前を呼んだだけだ。

表情なんてまるでわからないのに俺は畏縮してしまった。

そこには明確な威圧が込められていた。

 

 

『思ったとして、下手な事は口に出さない方がいいぞ。今日世界が滅ばないにせよ、キミだけ滅ぶなんて事があり得ないとは言い切れない』

 

「……否定ばっかじゃないすか」

 

『黎くん。言葉を信用するでない。誰を信頼するかはキミが判断せよ。たとえば仮に私が涼宮ハルヒの願望によって生み出された虚構だとして、彼女に操られているとして、キミは私の言葉を信頼できるかね?』

 

「わかりませんよ、そんな事」

 

『ほら。キミだって否定しているではないか』

 

舌戦では独壇場ですね。

そんなんだから茉衣子さんにいつもきつく言われるんですよ。

飼い犬だけど駄犬もいいとことか愚痴られましたからね。

 

 

『願望を実現する能力。確かにそれは外の世界へ到達し得る能力だろう』

 

「異世界人ですか」

 

『違うな。キミも察しがついているはずだ。だからこそ"上位"と口にしたのではないかね』

 

「……どうでしょうね。オレはただの出来損ないですから」

 

『不正解だ。キミはタイムアップを待ち続けているだけにすぎない。だからこそ自分の能力に、自分でも気づかぬうちに枷をはめているのだ』

 

言いがかりですよ。

まあ、ストレスは溜まりましたが誰かに話せただけで良しとします。

あなたが学園のどこで俺と通話しているかは知りませんが、茉衣子さんの方にあなたをどうにかする権利がありますから。

俺があなたの拘束時間を確保する気はありません。

 

 

「もう切ります。オレも上位の連中に喧嘩を売りたくはありません。消されるのは先輩だけでいいですよ」

 

『言ったはずだぞ黎くん。私は彼女と約束したのだ。愛すべき後継者にして一番目の弟子である彼女と、その時が来るまではどこにも行かないと。それは、今日ではない』

 

「いい加減にして下さいよ」

 

『キミにもようやく春が訪れたのだろう? 私は心配していたのだ。キミがお兄さんのような立派な人間に育つことを期待している。だからこそ一人ではいけないのだよ』

 

兄貴は立派でもなんでもない。

少なくとも家族を捨てたんだからな。

クズで、ゲスだ。

 

 

「……茉衣子さんによろしくお願いしますよ」

 

『キミもこちらへ来ればいいではないか。お仲間だ。同類は同類同士で仲良くしよう!』

 

「……先輩がたと一緒にしないで下さい。それでは」

 

『前進あるのみだ――』

 

その言葉の続きを待たずして、俺は電話を切った。

何度も聞かされた言葉だからだ。

私の辞書に"後退"の二文字はない。

考えても解らないときは最初に進んでみてから自らの歩みを振り返ればよい。

もしそれが間違った道だと気付いたとしても、ひょいと隣のレーンに飛び移ってしまえばいい。

 

 

「そうしたら、後戻りをする必要もない。後悔をせずに済むから」

 

時刻は午後七時に近づきつつあった。

いつ、世界崩壊が始まるって。

もしかしなくても俺に動けと言いたいのか、あの人は。

 

 

「ざまあみせに、行くとするか……」

 

とりあえずは最後の晩餐を終えるとしよう。

朝倉涼子の手料理も、おかずに出されるようになった。

これを悪くないと思うとしても明日が来ればの話だ。

 

 

 

――終了。

 


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