異世界人こと俺氏の憂鬱   作:魚乃眼

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Anothoer Chapter 2

 

 

介入する。

実行――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、金曜日。

世の中の大半の人は、世界崩壊だとかその辺の事情を知らずに今日を迎えたのだろう。

実際のところは俺も半信半疑だ。

睡眠時間を割いてまで行動したはいいが……。

 

 

「とりあえず報告するか……」

 

昨日の今日で再び電話する事になるとは。

まあ、朝も早々ではあるが気にしないだろう。

許してくれるさ。

昨日とは違い一瞬で応答してくれた。

早いな、と思いながら。

 

 

「もしも――」

 

『待ちくたびれたぞ、黎くん! さすがの私もそろそろ寝てしまうところだったぞ!』

 

彼は耳をつんざかんとする大声であった。

老人でもあるまいし、夜更かしや一夜寝ない程度大丈夫でしょうよ。

いつの間にそこまで歳を重ねていたんですか。

学生ですよねあなた。

 

 

「だいたいそっちからかけて来ても良かったじゃないですか。夜明けが来る頃には何て事はなかったって気づいてたでしょうに」

 

『黎くん。キミから電話してもらう事に私は意義を見出しておるのだよ』

 

「……今後オレからかける事はなかなか無いと思いますよ」

 

『構わんさ。必要な時はいつでも私に頼るといい。相談ぐらいならいくらでも乗ってあげよう』

 

逆に言うと相談しか出来ない事になってしまう。

だが俺は知っている。

この男が持つ、得体の知れない可能性を。

 

 

「オレの方のロクでもない事後報告より先に、先輩の話を聞かせて下さい」

 

『今更言うまでもないと思うがそれもよかろう。私は太陽系で最も優れた魔術師になる運命を――』

 

「それはいいですから。先輩だって昨日の夜……何だかんだで外の世界へ近づこうとしていたんじゃないですか?」

 

『……だからこそだ。だからこそ、私はほんの少しだけ悔やんでいる。せっかくのチャンスを台無しにしてしまったからだ』

 

「あなたは既に上位の領域へと片足を踏み入れているはずです。だからこそ先輩は未だに学園に居るのだと思ってましたよ」

 

彼は本気で神に……いや、そんな一言で表現できる単純な存在ではない。

とにかく、頂点だけを目指し続けている。

悪魔のような能力に飽き足らず全てを手に入れようと言うのだ。

 

 

 

――電話の彼と俺が知り合ったのは今から約三年ほど前の話になる。

そこに至るまでの詳しい経緯もこれまた割愛させて頂く。

この男、宮野秀策――習作もいいところの残念な頭のお方――はEMP能力者を集めた学園とは名ばかりの監獄で生活を送っている。

"EMP能力"というのは"超能力"とほぼほぼ同義だが、実態は俺にもよくわからない。

宮野先輩に聞いたところで『キミならそれが何か、真実に到達できるはずだ!』とはぐらかされるばかり。

彼の持つ本来の能力だって、涼宮ハルヒとかいう女のそれに匹敵する能力なのだ。

超能力とたった一言で片付けられる世界ではない。

まして、この世界の外側に存在する世界……上位世界も能力に関係しているとかしていないとか。

つまりその上位世界に住む連中は俺たちより高次元な存在らしい。

こっちの話もたいがいだ。

だからこそ俺は朝倉涼子の話をそれなりに信じているのだ。

あり得ない、と切り捨てるのは後でいいさ。

 

 

「かつてあなたはこう言ってました。もし人類が滅亡する運命にあるとすれば、それを回避するギミックなど存在しない。そんなものは人類が考えた言い訳でしかない、と」

 

『……懐かしいではないか。"吸血鬼"事件の時、茉衣子くんにも同じようなことを言われた。物覚えのいい弟子に育ってくれているようで何よりだ』

 

度々名前が出ている女性、光明寺茉衣子さん。

お嬢様キャラで、宮野先輩の飼い主兼弟子兼彼女――本人は決して認めない――だ。

茉衣子さんの精神攻撃に耐えられている彼はやはり頭が残念なのだろう。

うちの腐れ兄貴はどのようにして宮野先輩のような人種と知り合えてているのか。

基本的にEMP能力者は秘匿される。

能力も、その使い手さえも。

俺がそうなっていない事実に関しても、どうしようもない経緯があった。

結果的には茉衣子さんのように毎日苦しめられずに済んでいるからこっちを選んで正解であった。

なのに、このざまだ。

それに弟子だとか物覚えがいいとか。

 

 

「昨日もそんな事言ってましたね。でもオレは茉衣子さんとは違ってあなたの弟子ではありません」

 

『そうかね? 少なくとも私はキミを保護下に置いているつもりなのだが』

 

「オレに何をしてくれたわけでもないでしょう。オレだって先輩たちに何もしていません。今回も、特別何かをしませんでしたから」

 

『キミの得意分野。取材だな』

 

取材か。

確かにその程度の事しか俺には出来ない。

もしかすると他人の精神に害を与えるまでに強力な力を発揮出来るかもしれない。

けど、今の所はそんな兆候もないし、物理的な攻撃手段は一切持ち合わせていない。

俺が【X-メン】に登場するプロフェッサーXぐらい凄まじい能力者なら別だ。

そんな事はなかったのさ――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――昨日、木曜日。

俺は、晩御飯を食べ終わると直ぐに部屋に引っこんだ朝倉涼子の後を追った。

その様子に気付いた彼女は。

 

 

「あら、何かしら? 私に手を出すつもり?」

 

能力が通用したらそんなゲスな行為も選択肢にあるかもね。

だけど俺はそこまで落ちぶれていない。

もしそうなら俺だって学園に行く以外の選択肢がなかっただろう。

俺が表向きは一般人として生活を送っているのにも事情がある。

下らない話なので今回は割愛させて頂くが。

 

 

「世界崩壊についての詳細を聞かせてほしい」

 

「嫌よ」

 

呆れた顔で朝倉涼子は首を振った。

何故だ。

 

 

「私だってその場に居たわけじゃないから全部は知らないの。それに……」

 

「何だよ」

 

「あなたに話して何の意味があるのかしらね?」

 

……ほんの少しだけだ。

俺の手の内を全てオープンにするつもりはない。

いや、俺が持つカードなど限定的な超能力もどきであるEMP能力。

他に何かあるとすれば宮野先輩とのコネ程度。

宇宙人相手にあの人がどこまで戦えるのかはわからないけど、俺よりは勝つ可能性が高いだろう。

先輩も金縛り的な技は使えるし。

 

 

「続きは部屋で頼むよ。時間が無いから手短に、だが」

 

これはついぞ俺は知らなかった事になる。

彼女――朝倉涼子ではなく異世界の宇宙人――が知っている明智黎が、その世界の朝倉涼子に正体がバレるまでの期間。

約一ヶ月強となる。

対する俺は朝倉涼子との邂逅から二日で正体を明かす訳だ。

ざまあないよ。

そんなこんなで女子の部屋とは程遠いのに女子が生息している部屋に入る。

家具とか小物とか、買い揃えた方がいいと思うんだけど。

 

 

「それはデートのお誘いかしら」

 

「何でそうなるんだ」

 

「そう言えばあなたは知らなかったわね。あっちの世界の朝倉涼子と明智黎は付き合っているのよ?」

 

「……よくわからないけど超人的な奴なんだな、そのオレは」

 

「と、言ってもしょせんごっこ遊び。人間の明智黎が朝倉涼子を幸せに出来るわけがないじゃない。私が消えてからどうなったかは知らないけど、間違いなくそうだわ」

 

何やら脱線していないか。

隙あらば俺は君を一般世間に帰してやりたいと考えている。

他ならぬ俺の平穏のために。

 

――と、この時の俺は言い訳していたのさ。

 

 

「行くアテもない世界の話はどうでもいいだろ。君が言うにはこの世界が今、危機的状況だとかなんとか」

 

「きっと同じよ。滅んだ時は滅んだ時。それでいいじゃない。どうせ私は今の所姿を隠すしかないんだから」

 

「教えてくれたのは君の方じゃあないか」

 

「知らない方が良かったわね。謝らないけど」

 

露骨な態度だった。

異世界人朝倉涼子はわざと俺に教えたのだ。

つまり、動揺を誘うために世界滅亡だとかを吹き込んだわけだ。

初歩的過ぎてトラップとも呼べないお粗末な出来。

引っかからなくても構わない程度の判断だったろうさ。

ああ、認めてやるさ。

俺は馬鹿だ。

有効なカードを無駄に放り投げてしまおうというのだ、

こんな俺を褒めるのは宮野先輩と……ちっ。

 

 

「オレは何かをしたいわけじゃあない。ただ、黙っているのが、知らないままでいるのが嫌いなんだ」

 

「あなたたち有機生命体の間では、やってから後悔した方がいいってよく言うわよね」

 

「それとは少し違う。為になる事は何もやらないんだから」

 

「ふーん。あなたも異世界人、なのかしらね……?」

 

違うさ。

他の世界に自由に行ったり来たりなんてできるわけがない。

もっと言えば、可能なら平行世界の俺に君を押し付けてやりたい。

間違いなく朝倉涼子は俺の手に余る。何で俺の所に来たんだ。

手に入れようとさえこの時の俺は思っていなかった。

それでいい。

 

 

「違うね。オレはただの超能力者のなり損ないさ」

 

「涼宮ハルヒに関心が無いから"なり損ない"。……というわけではないようね」

 

「とにかくお察しの通り、オレは一般人同然。世界崩壊だとか言われても困る」

 

「あなたにそれを知らないまま死んでほしくなかったのよ。明智黎にお礼がしたかったの」

 

皮肉たっぷりだったさ。

自分の能力の詳細を明らかにせずとも、彼女は察しが付いたのだろう。

今の所は自分が下手に動く必要は無い。

明智黎は自分をどうするつもりが無い。

悔しいが正解だ。

これが美人じゃなかったら違うんだろうよ。

どうぞ、笑えばいいさ――。

 

 

 

『――ははは! やはりキミはお兄さんと同じく面白い人種だ!』

 

「何の話です?」

 

『つい先日彼は水晶ドクロを私のもとへ郵送してくれた。もっとも、残念な事に贋作であったが』

 

「その様子だと、まだ兄貴は遊び歩いているんですか」

 

『そう彼を悪く言ってやるな。キミの胸中をお察しなどはしてやれないが、キミがこの学園に来たがらない本当の理由については察しがつく。億が一にお兄さんと鉢合わせたくないから。……そうだろう?』

 

万が一すら凌駕している。

俺に言わせると絶縁してもらった方がいいんですけどね。

あちらはさておき俺はあの人を家族と認めません。

 

 

『手厳しい。これも黎くんの友愛表現だという事など、私ほどでなければ理解出来ないだろうな』

 

「あなたがオレを理解しようと、オレはあなたを理解出来そうにありませんが」

 

『同性故に踏み込める世界もあるだろう』

 

「なら、茉衣子さん相手にはもっと優しくしてあげて下さい。まさか異性だから踏み込んでないとか言うんですか? 彼女の方だってそろそろオッケーなはずですよ。吸血鬼騒動の後に手を出さなかったのがオレは不思議ですね」

 

『茉衣子くんと私は共犯者ではない。彼女が親玉で、私が手下なのだよ。振り回されるのは男の役目というものだろう』

 

そんな台詞は聞き飽きました。

俺の事を茶化したいのならまずは自分の方をどうにかして下さい。

振り回しているのは自分の方のくせに、いざ話題になると弱い。

 

 

「"ブラック・アーティスト"と恐れられている先輩も、茉衣子さんの前ではかたなしですか」

 

『構わんさ。茉衣子くんの存在と最上位への到達。この二点が今の私の希望なのだよ。黎くん、希望はいいものだぞ? そしていいものは決して滅びない。この理屈で世界が滅ばなかったのは不可解だがな』

 

希望、か。

今の俺には皆目見当がつかない単語さ。

何だかんだでこの人は、俺より強い人間だ。

能力とか腕力とかではない。

人間としての心が俺より強い。

当たり前だろ。

全力を出せない俺と全力を出さない彼との差は大きすぎた。

ともすれば、今まで逃げ続けてきたツケがようやく回って来たのか。

 

 

「ざまあないですよ」

 

『何を悲観しているのか私には解らんが、黎くん、案ずるほどのことではない。キミはようやく扉を開けて部屋を出る日が来たのだ。キミのお兄さんがかつて、そうしたように』

 

「肝に銘じておきます。ついでに朝倉涼子も兄貴の部屋から追い出したいんですがね」

 

『二人で扉を開けるのだ。キミと彼女を直に見なくとも私にはわかる』

 

無茶を言わないでくれませんかね。

俺の能力で、心の扉まで開く事までは出来ないんですから。

自分の心さえも。

 

 

『……それで、取材の成果はいかに』

 

「自律進化の"鍵"らしい男に発破をかけました。後は超能力者の一人にどうにか接触しましたね……どうやら、話を訊いた限りでは嘘じゃあないみたいですよ」

 

神の世界を認めつつも神を否定している先輩には朗報なんですかね。

近いうちに涼宮ハルヒの方も当たるべきではなかろうか。

朝倉良子の話を聞く限りではとてもじゃないが俺は彼女に関わりたいと思えなかった。

それでもヒステリックで世界を滅ぼされてはたまったものではない。

家庭の事情に関して言うなら俺だってそうなのだ。

独り立ちしないとなあ?

 

 

「詳しい話なんて特にありませんよ。内容がないような会話でしたので。それでも構わなければお話ししますが」

 

『いいや結構。それにしてもその二人だが、キミが知っている名前の人物だったのかね?』

 

「鍵の方はクラスメートで、もう一人はどうにかこうにか聞き出せましたから」

 

『優秀ではないか』

 

もう暫くは頼りたくありませんね。

先輩もそうですが、何よりこんな能力ですよ。

俺は一切必要としていません。

 

 

『キミには既に話しておいたはずだぞ。EMP能力とは身体に宿る能力ではない、精神にこそ宿るのだと』

 

「昔の事件を掘り返すのがお好きなんですか? 探偵じみた事をしていたらしいですけど、本職の退魔業務を怠ってはいませんよね」

 

『退魔も対魔も、私にとっての重要性はさほど高くはないのだよ。精々が茉衣子くんをはじめとする班員の世話ぐらいだ。化け物の退治など、私がやらんでも特別苦労しないのだが……か弱き民は、かくも私のような救世主を必要としているらしい』

 

救世主だと。

昨日自分が世界の覇者になるとか息巻いてた人の発言なのか。

さっきはチャンスを無駄にしたと言っていたが、きっと何もしなかったわけではないのだろう。

どこまで"真相"を掴めた事やら。

 

 

「能力者もピンキリですからね。オレのような雑魚だって大勢居るでしょう」

 

『キミの悪い癖だが、今はそう判断しておればよい。私の仕事ではない……今回、それがわかっただけでも大きな収穫と言えよう』

 

「消されないように、お願いしますよ」

 

『当然であろう。私を誰だと思っているのかね。そう、私の伝説は有史以来の人類歴に新たな碑文を刻むことになるだろう――』

 

いいからさっさと寝て下さい。

俺は一方的に通話を切り上げた。

時刻はすっかり六時半を越している。

我が家の朝食はこの時間帯なのだ。

親父に関しても朝早くから出勤だからね。

廊下に出て、わかりきっていた事を呪詛のように呟く。

 

 

「……それ見た事か。オレの活躍なんて期待する人はいない」

 

「そうかしら?」

 

いきなり後ろから声をかけないでくれないか。

俺を待ち伏せしていたみたいだね。

 

 

「私は気になるわね、あなたの活躍が」

 

「それはオレの秘めた実力ってのを期待しているのか? だとしたら残念だけど他を当たった方がいい。わざわざ秘めてやるほどオレの能力値は高くない。君はハズレを引いたのさ」

 

「そうみたいね。……あなたに裏がある以上、油断はしないわ」

 

一度土をつけられたと言う悔しさからだろうか。

そんな感情を理解するとかしないとか、その辺の話などかなり後になるまで俺は知らなかったけど。

すると朝倉涼子は否定した。

 

 

「私が死んだのはただの一度だけ。でも、敗北したのは二回。二度負けた記憶があるのよ、私には」

 

「だけど君は今、生きている。最後に勝つのは生き残った方だ。君にもまだチャンスはあるんじゃあないのか?」

 

何も北高に戻って来いとは言わない。

クラスの男子連中がこの事実を知ったらどうなるんだろう。

俺は袋叩きにされてしまうはずだ。

進化を望んでいると言ったところで俺の家に居て何か進展があるとは思えない。

それに、何時までも、とはいかないだろう。

 

 

「わかってるわ。時が来たら私は復讐する」

 

「別の世界のオレ相手にか?」

 

「それもいいけど、やっぱり情報統合思念体かしら」

 

そいつのせいで身動きが取れないのなら、消してしまえといった理屈か。

君が勝てるかどうかは知らないけど応援ぐらいならしてあげるよ。

 

――応援?

馬鹿言うな。

俺も一緒に戦う事になるのさ。

いいや、これも違うか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『――終了』

 

長い旅――申し訳ない事に帰り道なんだけど――の途中、面白いものを見つけた。

ここの風景としては佐々木が生み出す閉鎖空間のそれに近い。

当然ながら、何もあるわけなかったのに、それはあった。

……いや、居た。

ヒトの形すら保っていない、透明な輪郭。

道路の真ん中で立っているというよりは浮かんでいる。

まるで幽霊じゃないか。

ヤスミは驚いた顔で。

 

 

「あなたがどうしてこんな所に居るんですか?」

 

『  』

 

「ふむふむ……へえ……はいはい、そうなんですか」

 

今の一瞬の間に何を会話したのだろうか。

頼むから日本語あるいは宇宙人の公用語でお願いするよ。

僕はデータベースにアクセスする権限がないんだから。

ヤスミは笑顔で。

 

 

「あたしたちのお仲間さんですよ!」

 

「これがボクの仲間……正気かい? まさかこいつも連れて行こうってか」

 

『  』

 

「お仕事中だから無理みたい」

 

仲間って部分を否定しないのか。

確かにここは、一番外に一番近い部分だ。

ギリギリの綱渡りをしてようやくここまで近づいて来ているのにゴールはまだ先。

疲れ果てたわけでもないのに休みたくもなるさ。

大きな溜息を吐いてから僕は。

 

 

「仕事ね。……任務じゃあないだけありがたいもんさ。ボクはそんな経験ないけど」

 

「どうしますか? 相手する余裕がないみたいなんで、もう行っちゃいましょうか」

 

そうしようか。

いや……。

 

 

「この世界には彼女が居るみたいだ」

 

「あっ。本当だ。だからあなたはそんな事をしているのかぁ」

 

『  』

 

何を言っているのかもわからないが、ヤスミが特に反応しない限りは肯定したのだろう。

とりあえず折角こんな世界まで来たんだ。

それに、他に気になる奴だって居る。

もしかしたら最後に手伝ってもらう事になるかもしれない。

だから。

 

 

「ちょっとぐらい遅れてもいいさ。誤差の範囲内だって」

 

「しょうがないですね」

 

そう言いながらヤスミは笑顔でこちらを見つめる。

はいはい、通訳も立派なお仕事だ。

頭を撫でることにしよう。

他に僕が出来る事は情報操作ぐらいなもんさ。

 

 

「わぁお」

 

ヤスミから発せられたのは嬉しそうな声だった。

ほんと、何で彼女は僕なんかと一緒に居て楽しそうなのだろうか。

 

 

 


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