異世界人こと俺氏の憂鬱   作:魚乃眼

158 / 182
異世界人という名の世界

 

 

俺は実体なのか精神体なのか。

とにかく落ちていく感覚だけは俺に存在している。

大気圏突入を楽しむ余裕なんてあるわけない。

動きたくないどころか動けない。

仰向けで宙をただ見つめる事しか俺には出来なかった。

やばいって。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

気が付けば次の瞬間には地面に到着していた。

地球だろうさ。

ああ、間違いなく地球だろうさ。

 

 

「さ、寒……ど」

 

上体を起こす。

何処だよここ。

辺り一面は銀世界。

どう見ても雪です本当にありがとうございました。

空の明るさから昼間らしいが、夜だったら更に寒いだろう。

いや、既に身動き取れないレベルで寒い。

上は半袖にジレで下はズボンだけだぞ。

防寒が成り立つわけがない。

"異次元マンション"は使えるのか?

とにかくここから動かないと。

 

 

「は、話が……違うじゃねえか……」

 

かちかちと歯を鳴らす俺を情けなく思わないでくれ。

ともすればここで人生終了になってしまう。

雪こそ降っていないが、かなりの積雪らしく動けばずぼっずぼっと足に不快な感覚。

周囲に自生している細長い樹が俺に更なる絶望を与える。

民家とか、見えないし期待出来ない。

心が一瞬で折られようとしているその時。

 

 

「――既定通りだ」

 

少しやさぐれた感じの野郎の声がした。

身体を必死に声のする方に向けると。

 

 

「ふ、藤原……」

 

「明智黎。あんたに借りを返しに来た」

 

随分と暖かそうな防寒着を着込んだ未来人野郎。

その上着をこっちに寄こせ。

指先さえかじかんでいるんだよこっちは。

吐く息の白さに驚かされるね。

 

 

「話は後で聞いてやる。僕の助けが欲しいか、欲しくないのか。二つに一つだけだ」

 

お言葉に甘えさせてくれ。

どうにか数メートル先の藤原の所まで歩いて行くと。

 

 

「目を閉じていろ。直ぐに終わる」

 

不意の暗転って奴だ。

立ちくらみか、そうでなければ俺の脳がやられたのか。

視界がぐわんぐわんと歪んでいき、やがて完全にブラックアウトしていく。

 

 

「これで借りは返した」

 

もう少し他にやりようはなかったのかよ――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――その後の事を話そう。

俺が地球に戻された時は既に七月七日なんかではなかった。

真冬のアラスカに叩き落とされていたらしい。

いや、死んでしまうって。

とにかく藤原の助けを得た俺は時間とともに場所さえ転移して、俺の家の前まで戻って来た。

間違いなく日本であり暖かさが存在している。

時刻は早朝らしい。

携帯電話のカレンダーは七月八日となっていた。

日曜日だ。

そして自宅の前で対峙する俺と藤原。

彼は忌々しそうに。

 

 

「感謝なら朝比奈みくるにするんだな。本当は僕が出向かずに彼女が迎えに行くはずだった」

 

「ならどうしてお前さんが来てくれたんだ」

 

「くだらん配慮だ。君が最初に見る女性の顔は朝倉涼子の方がいいとか言われたのさ」

 

「ありがたいね」

 

すぐに彼は立ち去ろうと踵を返した。

俺が行くべき分譲マンションとは逆方向だ。

 

 

「ありがとう。また頼るかも知れないけど」

 

「……今回だけだ」

 

歩き出す彼の様子を見て、俺も逆方向に歩き出す。

背中合わせで彼とはどんどん距離が離れていくのだろう。

彼が帰るのかどうかは知らない。

俺は帰る前に、寄り道しなきゃならんのさ。

 

 

 

――懐かしい感覚だった。

同じような感覚を、半年前のあの時味わった。

平行世界に飛ばされた俺がこの世界に戻って来ようとした時の感覚だ。

何がどう変わったのかを確かめるよりも先に、彼女の顔が見たかった。

たった一日だよ。

俺の体感時間にして一日も経過していない。

だけど何年も離れ離れになっていたかのような気分もする。

不思議な気持ちさ。

まるで、初めてのデートに行くかのような高揚感と不安。

長いはずの道のりがあっと言う間だ。

エレベーターのボタンも、間違えて四階を余計に押してしまった。

俺が行きたいのはもう一つ上。

残念な事に長年愛用していた腕時計はもうない。

こっちに戻されてからケガとかは無かったけど右腕を一度持ってかれた影響か付けていた時計も持ってかれたらしい。

 

 

「いいさ。つけにしといてやるよ」

 

あの二人が帰って来てくれればそれでチャラだ。

死ぬまで待っててやるさ。

でも、出来れば早く帰って来いよ。

 

 

――ピンポーン

 

と505号室のドアホンをプッシュする。

出てくれなかったら時間を改めよう。

なんて思っていると存外早くドアが開かれた。

彼女は昨日と同じ格好のまま。

もしかして寝ていなかったのか?

顔色も悪い。

でも、不謹慎だけど嬉しくなったよ。

 

 

「えーと、その、七夕終わっちゃったね」

 

「……他に言う事があるでしょ」

 

「今週からテスト期間だ」

 

「……違う」

 

わかってるさ。

男ってのはちょっと意地悪したくなるもんだよ。

好きな人にはね。

 

 

「ただいま。朝倉さん」

 

「遅いよ」

 

そこはお帰りが欲しかったけど。

とにかく、必要な事はやり終えた。

ほら、よく言うじゃないか。

行って帰って来るまでが遠足なのだと。

寝不足らしい朝倉さんを廊下で抱きしめるのは、必要な事だったのさ。

約束は継続する事に意味がある。

ま、一種の呪いだよね。

 

 

「親に言い訳したいから一旦帰りたいんだけど」

 

「馬鹿」

 

「許してくれないのかな」

 

「うん」

 

結果から言うと七夕が土曜日で良かったという訳だ。

どういうわけか日帰りツアーにはならなかった以上日曜が翌日なのはありがたいね。

いつぞやみたいに学校を遅刻するなんて事がなかったんだから。

とにかく、後は本当にしょうがない話になってしまう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

テスト期間中の部活については言うまでもない。

考査の是非など些末な問題でしかないのだ。

約一名、クラス内で言えば二名ほど馬鹿が苦しんでいるようだが自己責任だ。

ことキョンに関して言えば涼宮さんが勉強を教えているが……どうだろうね。

今は火曜。涼宮さんを除く全員が部室に集合している。

午前でテストは終わるにも関わらずこのたむろ。

去年もそうだったから気にしていないさ。

あえて気にするならキョンの成績ぐらいかな。

 

 

「オレは期待してないから自分のベストだけを尽くしなよ」

 

「うるせえ」

 

と今年こそは英語のテキストにかじりついているキョンを相手にアツいエールを送る。

放課後の文芸部室を有効に使おうと言うのだ。

変な依頼が飛び込んでくるよりはもっともらしいテスト期間の在り方だと思うけど。

 

 

「そういう明智は何だ」

 

「何って?」

 

「朝倉と手を繋いで肩を寄せて読書。ハルヒが見たら何を言い出すかわからんな」

 

「私と明智君の共同作業よ。涼宮さんでも邪魔できないわね」

 

長テーブルの上にコンビニ本を見開きで置くとは言え、そんな読み方で読みやすいかどうか。

これも些末な問題だったのさ。

それに勉強していないのは他のみんなもそうだろ。

メイド服の朝比奈さんは笑顔で佇んでいるし、今年も暑そうには見えない古泉はポケットバージョンの人生ゲームを一人でプレイ。

長門さんも何もなかったかのように静かに読書している。

 

――そうだ。

公式に記録されるわけじゃあるまいし、何もなかったんだよ。

 

 

「僕たちが覚えていればいいのです」

 

「……」

 

「渡橋さぁん……」

 

朝比奈さんはとうとう渡橋ヤスミに関する真相を知ってしまった。

彼女が実在する人間ではなかった事。

そして、どこかへ本当に姿を消してしまった事。

二度と会えないだなんて朝比奈さんは思っているのかもしれない。

俺は信じるさ。

 

 

「ヤスミはオレたちを信じてくれたんだろ?」

 

「かもな」

 

キョン、かもじゃないよ。

それが全てらしい。

だから帰って来る事を信じてるさ。

確か早い方で十六年後だったか?

願ってからそれが叶うまでのタイムラグは。

いいや。

 

 

「祈っておくよ」

 

 

 

――平日はだいたいこんな感じで消化されていった。

俺が動きたくないと思ったのは土曜になってからの事だ。

七月十四日の話になる。

俺は今、隣町にあるとかいう市民ホールの壇上の端に立たされている。

観客席を見ると、例外なく女性が座っている。

空席は見受けられない。千人超えのキャパシティらしい。

嘘だろ、と思いながら制服姿の俺に対して近くに立つスーツ姿の優男古泉一樹に声をかけた。

 

 

「……この集まりって必要なのか?」

 

「何か問題でもありましたか?」

 

「拷問だろこれ」

 

何を隠そう観客席に座る女性の方々は全員宇宙人なのだという。

派閥なんて関係ない。

いや、その概念すらぶち壊されたらしい。

情報統合思念体を壊されたのだから。

先週の日曜こと七月八日に朝倉さんの部屋にやって来た喜緑さんが言うには。

 

 

「――情報統合思念体は無くなってしまいました」

 

「えっ……」

 

なにそれこわい。

救ってほしいと言われたのに救ってないよ。

俺は今から彼女にぶちのめされなきゃならんのか。

朝倉さん、どうにかあのワカメを撃退しましょう。

四角いテーブル越しに座る喜緑さんは若干引き攣った顔で。

 

 

「正確には情報統合思念体と呼べなくなってしまいました」

 

「そうみたいね」

 

と喜緑さんの発言に頷く朝倉さん。

正確も何もあるのか。

 

 

「オレにもわかるように説明してほしいんだけど」

 

「明智さんが実行したのでは?」

 

「無我夢中だったからよく覚えてないんですよ」

 

「……そうですか。単純な話です。情報統合思念体から思念が無くなりました」

 

いや、無くなるとか無くならないとかの話なんですかね。

思念が無くなるとはつまり思念が消える訳であって、意思が消えたって事なのか?

朝倉さんはそれに肯定してくれた。

 

 

「つまり今の情報統合思念体はただの目に見えない情報の塊……物言わぬデータベース、いいえビッグデータになったのよ」

 

何て事をしでかしたんだあいつらは。

というか喜緑さんはそれでいいんですか?

情報統合思念体は自律進化を求めていたはずだ。

だからこそ俺に救ってほしいと言った。

要するにあなたも自律進化を目指しているのではないんですか。

 

 

「わたしはわたしの方法で模索していくだけですから」

 

「情報統合思念体中央意思に忠実な穏健派、喜緑江美里の発言とは思えないわね」

 

「過去の話です。以前は与えられた権限を逸脱する行為は許されませんでした。ですが今のわたしは違います」

 

そうかいそうかい。

とにかく好きにして下さいよ。

自律進化もどうぞお好きに。

ある条件を守ってくれる内は俺もあなたの邪魔をしようとは思いません。

絶対しないとは言い切れないのさ。

ところで喜緑さん。

 

 

「オレから一つ、訊きたいことがあるんですけど」

 

「何でしょう?」

 

「……"外の世界"って何なんでしょう」

 

「外、ですか」

 

ジェイを名乗っていたのは本当にあの男だったのか。

あいつがどうして俺と同じように情報統合思念体の中に存在出来たのか。

今となっては全部を知る事は出来ない。

しかしながら推論であればいくらでも可能だ。

俺は考える事が出来る。

そして確かな事実。

ジェイも俺と同じ異世界人だ。

真の消失世界からやって来た敗北者。

不可抗力。

全て神の所業。

 

 

「この世界は外側に住む何者かに与えられたオブジェクトによって構成されている。つまり、神によって……。喜緑さんは何か知りませんか」

 

「それが実在して、そこへ到達出来たとして、帰って来れる保証はないと思います」

 

「あなたの望みは本当に自律進化なんですか?」

 

「どうでしょうね。ただ、少なくともわたしにとって今回の一件は得でしかありませんでしたから」

 

そう言って彼女は席を立った。

夕方であり、もう帰るのだろう。

どこに住んでいるのかはわからないけど。

 

 

「また、会いましょう」

 

居間を後にする喜緑さん。

そのまま505室も出て行ったらしい。

溜息を吐いた朝倉さんは呆れた顔で。

 

 

「……あの女、とんだ食わせ物よ」

 

「そりゃ不気味な方だとは思うけど」

 

「さっき喜緑江美里が言ってた事。今の彼女にはかつて存在していた制限がない」

 

「自由って事かな」

 

だとしたら喜緑さんに限らないんじゃないのか。

この地球上にどれくらい宇宙人がやって来てるのかは知らないが、十人単位じゃないだろう。

日本に居ない奴だって居るはずだ。

そいつら全員が野放しってのはちょっとまずくないか。

感情の有無はさておき、急進派が何をするか。

 

 

「その心配は必要ないわね」

 

「どうして」

 

「第一に、情報統合思念体の意思が消えた以上は派閥も何も無くなる。今までと同じように行動はするかもしれないけど、命令してくれる存在がいないのよ。右も左もわからないでしょうね」

 

だとしたら尚更どうにかしてやりたいところだ。

実行犯はさておき俺に責任の大部分がある。

このまま宇宙人が縛られているよりはマシだと思うけど、誰かが道を示してあげるべきだ。

 

 

「第二ね。これが問題なんだけど、喜緑江美里はおそらく情報統合思念体の大元をジャックした」

 

「……は?」

 

「つまり彼女が次の司令塔よ。もっとも全ての端末に機能制限をかける事は出来ない。彼女一人の処理能力ではとてもじゃないけど全端末を操るなんて芸当は不可能」

 

「何だか心配になってきたんだけど」

 

「喜緑江美里が私たちに協力したのはこういう事。いくら明智君に凄い能力があっても情報統合思念体の全部を削除するなんて時間がいくらあっても足りない」

 

なるほどね。

確かに食わせ物だった。

どう転んでもいい。

結局の所は大体の場合に彼女は対応出来たのだろう。

俺が自律進化の近道切符をプレゼントするもよし。

情報統合思念体を黙らせた今回は、自らがその立場を取って代わったからよし。

何が穏健派だよ。

 

 

「えげつねェな……」

 

「もうこの話は終わりにしましょ」

 

遠目に壁にかけられている時計を見た。

午後六時は近い。

流石に今度こそ帰らせてもらおう。

最悪の場合は我が家のドアチェーンをどうにか破る方法を考えなければならなくなってしまう。

何、椅子から立てな、というか身体が動かない。

重い、これはまたあれなのか。

久々じゃないか。

重力負荷だ。

 

 

「もしかして明智君。今、帰ろうとか思わなかったかしら?」

 

「……」

 

「あら、いい時間ね……。そろそろ夜じゃない」

 

「……」

 

「ご飯にする? それとも――」

 

 

 

――なんて回想をしたところで俺の目の前の光景が何一つ変わってくれるわけではない。

この大観衆の中には喜緑さんも長門さんも座っているらしい。

探す気力も俺にはない。

朝倉さんは俺からもう少し離れたステージの影となっている部分に立っている。

彼女も制服だ。

正装でいいならタキシード姿を見たかった。

正直映画の時の彼女はたまらなかった……なんて話も後でいい。

キザ野郎への文句を再開する。

 

 

「古泉。ここはお前さんに全部任せたいんだけど」

 

「遠慮する事はありません。あなたが彼女たちを救ったと言っても過言ではないのですよ」

 

お前さんには全部説明しただろうが。

あの二人、覚えてろよ。

俺は覚えてるんだからな。

 

 

「喜緑さんの協力と『機関』によるささやかな提供によってこの場が実現したのです。いやあ、圧巻ですね。ほら、長門さんはあそこですよ」

 

と指を指すが俺には長門さんの位置はよくわからない。

そもそも言った通り探す気がない。

もう何処にいても同じだ。

俺はこれから彼女たちの前でよくわからないスピーチをする必要があるらしい。

情報統合思念体を殺した張本人。

そんな共通認識があるとかないとか。

 

 

「どうぞ。音量調整はこちらの方でやっておきますので」

 

スポットライトに照らされる形でステージのど真ん中にはスタンドとワイヤレスマイクが置かれている。

言わなくてもわかると思うが、俺が話す台本なんてものは用意していない。

この集まりだって俺は木曜日に聞かされたんだ。

古泉は涼宮さん信者とはいえ、こういう所を見習わないでくれ。

後回しにしちゃいけないのかよ。

いけないんだろうな。

喜緑さんもつくづく人が悪い。

朝倉さん曰く、喜緑さんは全端末を相手に通達するぐらいなら余裕だと言う。

俺がここに出る必要もそこまでないはずだ。

居ないキョンの代わりに言わせてもらえないかな。

 

 

「やれやれってヤツだよ」

 

朝倉さんの方を向く。

期待しているのか何なのか、笑顔だ。

しょうがないのでとぼとぼマイクスタンドに向かって俺は歩いて行く。

聖ペテロの気持ちがわかる。

彼は皇帝の迫害から逃れるためにローマから逃げた。

だが復活したキリストに煽られたおかげでローマに出戻りしてしまったのだ。

磔刑されるためだけに戻ったんだよ。

そんな気分だ。

 

 

『……あー』

 

マイクはバッチリみたいだ。

俺もオーディオ機器弄りの方が好きなんだよ。

放送局員としてアナウンスした事もあったけどさ。

 

 

『どうも、みなさん今日は。えー、異世界人こと明智黎です』

 

よく学校の教師が言うじゃないか。

教壇に立って話すのは案外苦労するぞ、と。

最初の内は数十人単位の人間の前で注目されながら喋るのは慣れないのだと言う。

俺のこの状況。

千人オーバーですよ。

しかも全員女性。

見つめられる俺。

 

 

『詳しい話、だとかは喜緑さんに訊いてください。もう聞いたと思いますけど。とにかくオレはオレのやりたいようにやっただけなんで』

 

それでも言わなければならない。

伝えなければならない。

 

 

『君たちは図らずも今、自由を手に入れた。手に入れてしまった。自由の意味さえわからないと思う』

 

自由ってのは支配されていた奴だけが語っていい代物なんだ。

間違いなしだ……宇宙人は支配されていた。

情報統合思念体だけではない。涼宮ハルヒにも支配されていた。

だけど当面の任務を与えてくれる存在は消えてしまった。

俺が消してしまったという事……でいいよもう。

 

 

『情報統合思念体は涼宮ハルヒの観測を通して自律進化を探求していた。その観測対象は涼宮ハルヒ個人であり、オレたち他の地球人じゃあない』

 

昔の話だ。

今はどうするか。

それは誰かに決められる事ではない。

 

 

『だが、状況は変化した。君たちにその任務を与える存在は消えた。オレが消した。話があるなら後で聞こう。今はオレが話す番だ』

 

出来れば戦闘は無しの方向で頼む。

もっとも、そんな恨みだとかの感情さえないんだ。

本当にどうすればいいのかがわからないんだ。

これも大人の仕事なのさ。

 

 

『君たちがこれから何を目的として生きていくか。わからないと思う。オレだってわからない。ただ、降りかかる火の粉を払い続けただけの日々』

 

しかし今回は例外だった。

そうさ。

最初と同じ、あの時と同じだ。

朝倉涼子を相手にした時と同じ、自分から行動した。

頼まれたってのもあるさ。

それでも遅かれ早かれこうなっていた。

もしかしたら俺じゃなくてキョンがやっていたかもしれない。

涼宮さんでも使って無理矢理、情報統合思念体相手に喧嘩を売っていたかもしれない。

原作のあいつならやりかねない。

俺の親友もそうだ。

 

 

『だから一緒に考えよう。そもそも目的なんて達成させるためにあるんだ。終着点ではない。通過点でしかない』

 

お前の敗因はたった一つだ。

やっぱり、結果だけを求めていたんだよ。

自律進化……そこ、ゴールなのかな。

だったら無敵でも頂点でもなんでもない。

俺たち有機生命体にとっては精神のありようが一番なんだから。

 

 

『自律進化なんてオレにはよくわからないし、人類に進化の余地はないのかもしれない』

 

ない、ない。

否定ばっかの前置きで申し訳ない。

なんてね。

 

 

『それでもオレは、成長は出来た。そうさ、人類は成長出来る。君たちだって出来るのさ。それを証明してくれた人を、オレは知っている』

 

君たちだって知っているはずだ。

ねえ、朝倉さん。

やるかどうかが大事じゃないんだ。

後悔するかどうかでもない。

自分で決めたかどうか。

それだけでいいのさ。

 

 

『君たちの進むべき道が最終的に満足行くものかどうか。それはオレの戯言じゃあなくて、君たち自身にかかっている』

 

納得の行く生き方を決める、だなんて。

百日かかろうが千日かかろうが無理かもしれないさ。

何、受け身でもいいさ。

自分から何かするなんて俺でも全然出来ないんだから。

駄目な人間で、馬鹿な男だ。

 

 

『つまり、オレが何を言いたいかと言うと』

 

簡単な事だよ。

わざわざ遠回りしたのは台本を用意してないからさ。

これに関しての文句は古泉にお願いする。

 

 

『これからは好きにしなよ!』

 

ただし。

 

 

『オレたちに迷惑をかけない。世界を歪ませない。この二つが条件だ! これに文句がある奴、条件を破る奴、いつでもオレたちは君の挑戦を待つ。わからせてあげるよ』

 

これが喜緑さんにもお願いした条件。

何をわからせるかって?

世界の広さを教えてあげるのさ。

俺は異世界人。

どうだろうかな、少しは説得力があるでしょ。

 

 

『あ、当然だけど平日の昼間とか真夜中とかはやめてね』

 

締まらない感じがするけど、許してほしい。

とにかく俺の言いたい事なんてこんな程度だ。

じゃあ。

 

 

『最後に、一つだけ……』

 

これを言い忘れちゃ団長に怒られちゃうな。

折角こんなに大勢の人が居るんだ。

宣伝するには、またとない最高の機会なのさ。

 

 

『何でもいいから、面白い事があったら北高部室棟三階文芸部室にあるSOS団まで報告しに来るように!』

 

俺の名前は明智黎、もうすぐ十七歳

体毛、日本人らしい黒色。

身長、171cmからほんの少し伸びて172cm。

職業、高校二年生/異世界屋/SOS団平団員。

特技、念能力もどきと無駄なおしゃべり。

 

 

『――以上!』

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。