異世界人こと俺氏の憂鬱   作:魚乃眼

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第三十六話・偽

 

 

 何事も順番が大切だ。

 涼宮さんに対して話がしたいのならば、まずは彼女に興味を持ってもらわねばならない。

 普通が嫌いな人間代表である彼女は普通の人間なんぞに構っている時間はない(本人談)というわけだ。

 しかもその"普通じゃない"には下賤さが含まれてはならない上に彼女の機嫌を損ねないやり方でなければ上手くはいかないだろう。

 無い無いばかりで嫌になっちゃうね、まったくさ。

 

 

「やあ涼宮さん」

 

 俺は恐る恐る涼宮さんの前に立ち塞がる。

 北高入学当初のように彼女の髪は長い、基本的に伸ばしっぱなのか。そしてその髪はストレートに下ろしている。いつぞやの彼女は毎日の如く髪形を変化させていたが、この世界においてそれは実施されていないようだ。あるいはもうやめてしまったのかのどちらかかな。

 突然の俺の登場に対して涼宮さんはややたじろいだが、すぐに仏頂面に戻って、

 

 

「何、あたしになんか用? ていうかあんた誰、ジャマなんだけど」

 

初対面の人間相手にきつい当たり感マックスだ。

 そりゃあ俺でもいざ帰ろうとした時に知らない野郎に声をかけられたら怪しむよりもまず不快に思うけど、これでも俺が出せる最上級にフレンドリーな顔を作ったつもりである。

 

 

「もちろんオレは君に用があるよ。ついでにそこの古泉一樹くんにもね」

 

 ふいに名前を呼ばれて目を細める古泉。

 学ラン姿であること以外はいつもと変わらぬように見える。

 

 

「すみません。僕はあなたとお会いした覚えがないのですが、何故僕の名前を?」

 

「その説明も含めて"用"さ。どうせ二人ともこれから帰るんだろ、退屈しのぎにはちょうどいい話を聞かせてあげるよ」

 

「ちょっと」

 

 相も変わらずにむすっとした顔の涼宮さんはずんずかと俺の方に近づき、張り倒さんかというばかりの勢いで俺を横に押しのけて、

 

 

「わけわかんない適当なこと言ってあたしを騙そうってハラ? 悪いんだけどそういうのはもう飽きたのよね」

 

第三者がいたら間違いなく賛同するであろうありがたいお言葉をお見舞いしてくれた。

 そして彼女は納得したかのように続けて。

 

 

「あんた北高生でしょ、ふうん、どうりでアホみたいなツラしてる」

 

 顔の良し悪しでいったら流石にそこの横の野郎に勝つ自信はないからなんとも言えないぞ。

 俺が自分で何か弁明するより先に隣にいた朝倉さんが、

 

 

「彼、伊達や酔狂であなたたちに会いに来たわけじゃないみたいなのよ」

 

必要最低限のフォローを入れてくれたが、

 

 

「あんたはそいつのツレ? 悪いこと言わないからもうちょっとマシな野郎をつかまえた方がいいわよ」

 

涼宮さんお得意の誹謗中傷でフォローも台無しとなってしまう。

 古泉は現状手持無沙汰で苦笑しながら突っ立っているが、いつ彼が「もう行きましょう」とか言うかもわからぬ状態。よろしくはない。

 まったく、会話で上手く丸め込めるなど最初から期待しちゃあいなかったさ。

 俺は降参だといったような感じで手をヒラヒラさせながら切り札を切る。

 そう、本来俺が切るべきものではない札を。

 

 

「涼宮さん、こう言えば君も興味がわくはずだけど」

 

 "ジョン・スミス"

 俺がそいつの名を出した瞬間、彼女の顔色が一変した。

 横にのけてた俺の左腕を掴んでぐいっと手繰り寄せる――朝倉さんといい女の子の細い腕のどこにこんな怪力が宿ってるんだ?――と鋭い眼光で俺に視線を合わせ、

 

 

「……今、あんたなんて言ったの?」

 

「おや、聞こえなかったのかな」

 

「いいから! あたしの質問にはっきり答えなさいよ」

 

 ぐっ、お次はネクタイを掴まれる。こういうのはキョンの専売特許のはずだぜ。

 彼女はいたって真剣そのものな様子だったが、俺はというともう少しのらりくらりしていたかった。

 が、人がまばらな時間帯とはいえ校門付近でこんなやり取りをしていたらじきに警備員の人がここまで駆けつけるかもしれない。それは至極面倒なのでちゃんと返すことにする。周囲の目線も割かしきついのだ。

 

 

「ならもう一度言うけど……ジョン・スミス。覚えているかな、今から約三年前に君が中学校のグランドに地上絵を描こうとしていた時、それを手伝った通りすがりの男の名前さ」

 

「ジョン・スミス、ですって? まさか……あんたが?」

 

「おっと違う違う、オレは君が知ってるあいつじゃあないよ。オレは彼の親友さ」

 

 とにかく話をしようじゃないか。

 落ち着いてできるとこでね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 論ずるより証拠とはよくぞ言ったもので、自称超能力者が自らの正当性を主張したいのならば異能の力を見せる他ない。

 実際に古泉はそうやったわけだし長門さんや朝比奈さんもキョンに普通じゃないってことを各々証明した、もちろん俺も。

 と、いうわけで俺は人目につかない路地までいくと道端に"入口"を用意し、涼宮さんと古泉ついでに朝倉さんの三人を"臆病者の隠れ家"に招待してあげた。

 今現在俺たちがいる場所は現実の世界などではなく念能力によって構築された異空間、もっともそれと知らなければ普通のマンションの一室だと勘違いするほどに内装は丁寧で、壁には黒を基調とする花柄の壁紙が張られていて、床はベージュとブラウンのタイルカーペット、家具なんかダイニングチェアにテーブルと椅子、部屋の端には冷蔵庫、そしてテレビだ。

 デフォルトは本家"四次元マンション"と同様に一面白の空間なのだが、あまりにも殺風景なのでなるべく俺は部屋をコーディネートしている。

 これらは念やオーラによる産物ではなく現実世界から俺が持ち込んだ――もちろん俺一人がここまで用意できるはずもなく、殆どが兄貴に貰った――ものだ。

 ちなみにどういう原理かは知らないけど電力は通ってるし空気は常に新鮮なもの。

 推測でしかないが、どっかの場所からそれらを"借りて"いるんだろう。俺にも本当によくわからない、異空間を形成する能力について適正があったのは確かなんだけどさ。

 

 

「へぇ、本当にあなたには不思議な力があるのね」

 

 唖然とする涼宮さんと古泉を尻目になんだか感心したような様子の朝倉さん。

 とりあえず来客を座らせるように促そう。

 

 

「適当に座ってくつろいでてくれ。この部屋は冷蔵庫しか置いてないから冷たいものしか出せないけど、室内は年中快適な温度と湿度だと自負してるよ」

 

「トリック、にしては手が込んでますね。だいいち僕たちにこのような演出をする意図が見えてきません」

 

 お手上げ状態なのかハハハと爽やかに笑う古泉。

 いつぞやのキョンも俺の隠れ家に入った時はやれトリックだ何だと言ってたっけな、懐かしい。

 俺は涼宮さんに缶コーラ、朝倉さんと古泉に缶コーヒーを差し出すと、席について語ることにした。

 が、ここが物語の世界だとか、ひょっとするとこの世界は消えてしまうかもしれないなんて部分はカット。世の中には知る必要もないことがあるというわけさ。 

 もちろん異世界人だとか念能力だとかオーラだとか聞いて彼女が喜ばないはずもなく、

 

 

「SOS団……うん、おもしろそうじゃない!」

 

すっかり団員のみんなに対して興味津々である。

 対する古泉は「信じられませんね……」とポツリ。そりゃあそうだわな。

 でもってこんな怒涛の展開だろうと自分の興味が沸くならお構いなしの涼宮さんは椅子から勢いよく立ち上がり、

 

 

「今から北高に行くわよ!」

 

俺がとやかく言うまでもないといった様子だ。

 そう、どう歪もうと基本的には原作通りに進んでしまう。だからこそ俺は抗わなければならない。

 涼宮さんには既にこの部屋から出る方法を説明してあるので彼女はさっさとドアを開けて出て行った。

 古泉はどこかうんざりしたような疲れた顔で、

 

 

「……僕も行かなきゃだめなんですか?」

 

「もちろんさ。涼宮さんをオレたちに任せてしまってもいいのかな? お前さんから見たオレと朝倉さんはすげえうさんくさい連中だと思うんだけど」

 

「それもそうかもしれませんね」

 

 こんな古泉は元の世界の彼からは想像もつかない。

 転入してきてクラスに馴染めなかったとか言ってたあたり存外と繊細な人間なのかもしれない。

 ところで北高まではもちろん徒歩で行くことになるが、マスターキーを使えばこの部屋から直接北高文芸部の部室まで行ける。しかしそんなことをしていきなり床から俺たちが這い出てきたら部室にいるキョンと長門さんにどんな反応をされるのやら。

 何より俺はこれ以上他人に俺の事情について話すつもりはなかった。

 俺の目的は"鍵"を集めたその先にあるのだ、同じような説明を何度もしたくはないってのもあるにはある。

 

 

「行こう。涼宮さんはせっかちだから待たせたら怒られるよ」

 

 かくして北高に向かうことになった俺たちは、放課後から一時間とやや少しが経過してようやっと北高近くまで辿りつけた。

 正面からでは校内に残っている生徒に見られかねないので今は一旦裏手にまわっている。

 そして侵入するための作戦はお馴染みの北高指定ジャージに着替えてもらって運動系の部活の部員を装うというものだ。

 俺の長ジャージ一式を涼宮さんに、シャツと短パンを古泉に渡すと再び俺は地面に"入口"を設置して二人とも別々の"隠れ家"の部屋で着替えてもらうことに。

 涼宮さんより先に部屋から出てきた古泉は寒さからか時たま身体を震わせながら、

 

 

「なんで僕はこんなことをしてるのでしょうか……」

 

俺に言うしかないんだろうけど俺に言わないでくれよ。

 続けて涼宮さんが出てくるとお待たせなども口にせずさっさと校門の方へ回っていった。文芸部の場所を知らないのに。

 その後を追う古泉と朝倉さんと俺、そんな中で歩きながら朝倉さんが何気なく。 

 

 

「ねえ明智君。長門さんやキョンくんは部室にいると思うんだけど、朝比奈みくるさんって先輩の人はもう帰っちゃってるかもしれないわよ?」

 

 たしかにそれもそうではある。

 いくら原作では書道部の活動をして校内に残ってたとはいえこの世界でもそれが同様とは限らない。が。

 

 

「心配は無用さ」

 

 実は北高を抜け出す前、谷口に朝比奈さんを文芸部まで呼んで俺が来るまで残らせるようにと頼んである。

 言われた当の本人は俺を病人か何かだと言わんばかりの様相で。

 

 

「んだそりゃあ? わけわかんねえ注文だな、お前これから朝倉んとこ行くんじゃねえのか。どうしてそこで朝比奈先輩が出てくんだか」

 

 まっとうな反応であったが俺がこれを機会に彼女に顔でも覚えてもらいなよと言うと。

 

 

「ん、それなら後でなんかお礼をよこしてくれよ。タダじゃ人は動かせねえかんな」

 

 なんて感じで引き受けてくれたから大丈夫なはずだ。

 いざという時は鶴屋さんにすがりつけばなんとかしてくれるかもしれないし。望みは薄いけど。

 でもって一分ほどで生徒玄関に堂々とやってきた俺たち。

 涼宮さんは当然の所作で誰かの下駄箱から上履きをぶんどって履き、俺は谷口のやつを古泉に渡してやった。

 たしかにジャージ姿なのに来客用のスリッパという取り合わせもヘンだがこの時期にジャージ姿で校内をうろつく方がヘンだ。しかも俺たち全員がジャージ姿というわけではないという状態だし。

 それにしても部室棟三階までの道のりがやけにもどかしい。朝倉さんは俺に世間話をしてきているようだが俺が返しているのは生返事のみ、涼宮さんはずんずん突き進むし古泉は何がなんだかといった様子。

 未だに元の世界に戻らなかったらどうなるのか、そんなことが思い浮かばないわけではない。

 けれど、それ以上に、俺は、俺は――

 

 

「たのもーっ!」

 

 などと思考を散漫させているうちに部室棟の三階、文芸部の前に到着して涼宮さんはノータイムで勢いよく扉を叩き開けた。

 我が物顔で中に入っていく彼女を見て本能的に俺はあちゃーと思ったが、思ったところでしょうがないので俺たちも続けて入ることにする。

 とっくのとうに予想できた結果ではあるが突然の来訪者の登場に部室内の空気は完全に凍り付いてしまう。キョンはアホみたいなツラして彼なりに驚いてるし、長門さんと朝比奈さんは時たま硬直するハムスターみたいな感じでかわいらしくこちらを見て停止している状態だ。

 涼宮さんはキョロキョロとあたりを見回してからキョンを視界に捉えるとパイプ椅子に腰かけていた彼の方へと突き進んで、

 

 

「ねえ、あんたがジョン・スミスなの?」

 

「あーっと、なんのことでしょうか。…………っていうか明智、この二人はどちらさんだ」

 

 混乱と侮蔑に近いものが入り混じった視線を俺に向けるキョン。

 よくよく考えると彼は自分がジョン・スミスという役割をこなしたことなど世界改変の折にすっかり忘却されているので俺が涼宮さんに彼がジョン・スミスと教えたところで会話がかみ合わないのは当たり前だった。

 俺がそのあたりをフォローするよりも先に彼の態度が気に入らなかったのか涼宮さんは恐ろしく早い速度でお馴染みのネクタイ掴みをキョンに仕掛け、無理やりパイプ椅子から立たせ――スゴい彼が苦しそうなんだけど――ると。

 

 

「舐めた態度ね、よほどユカイな頭してるみたい。質問してんのはあたしの方なんだけど」

 

「んぐ……なこと言われでも……俺は知ら」

 

「あっそ」

 

 ぼとりと解放されて床に尻もちをつくキョン。

 バイオレンスな光景に朝比奈さんは「ひぇっ」と声をあげ、長門さんはすぐさまキョンに寄って彼を労わる。

 おそらくこの中で一番状況的に呑み込めていないであろう朝比奈さんは脳が恐慌状態なのか涙目になりつつ。

 

 

「な、ななな、なんなんですかぁ、みなさん。この人の次はあたしにも暴力を振るうんですかあ!?」

 

 俺が元凶とはいえ気の毒にと思ってしまったではないか。

 古泉は再び乾いた笑いをしているし、朝倉さんからは「話に聞いてた以上の人なのね、涼宮さんって」と呆れた一言。

 このまま放置では間違いなく収拾がつかなくなるので俺は朝比奈さんに申し訳程度の弁解をする。

 

 

「すみません朝比奈先輩。あなたに部室に来てもらうように頼んだのはオレです」

 

「ふぇ? あなたが……?」

 

 やはり俺は営業スマイルが下手なのだろうか、ビビられている。

 ともすればこの世界でも俺が不良だとかあらぬ噂が実は立っているのかもしれないぞ、ちくしょう、事実無根だかんなそれ。

 

 

「ちょいとしたワケありというやつでして、まあオレたちは先輩に何もするつもりはないんで安心してください。ただもうちょっとばかし残ってもらいたいですけど」

 

「は、はぁ……そうなんですか……?」

 

 何の説明にもなってないが言い訳としてはこれでいいんだ、彼女は頼まれたら断れないタイプだろうしね。そこに付け込んでいるから自分で自分が嫌になってくる。

 後はこのままプログラムが勝手に起動してくれるのを待つだけなのだが、

 

 

「ねえレイ、巨乳ちゃんの未来人ってのはアレあれよね?」

 

トントンと指先で背中をつつかれたかと思えば涼宮さんはビシッと朝比奈さんに人差し指を突きつけてそう質問してきた。

 しかし明智君とばかり呼ばれてた涼宮さん相手に下の名前で呼ばれるのは新鮮だなと感じつつも俺が頷くと、次の一瞬にはゴキブリダッシュ顔負けの速度で椅子に座る朝比奈さんの背後に回り込むや否や、これまたいつものようにガシッと彼女のたわわな胸を両手で鷲掴みに。

 朝比奈さんは数秒自分が何をされているのか理解できていなかったが、徐々に彼女の顔は赤らんでいき、

 

 

「ひええぇぇええええっ! な、何をするんですかあっ!?」

 

絶叫である。

 耳に入る朝比奈さんの嬌声などお構いなしに、むしろそれを興奮材料としているのではという勢いで涼宮さんは笑顔になりながらわしわし彼女の双丘をセーラー服越しに揺らしながら、

 

 

「うんうん、これよこれ。あたしこういうのが欲しかったのよね」

 

「や、やめてくださいぃぃぃ」

 

「何言ってんのもったいない。減るもんじゃないからいいでしょ」

 

 いつぞやキョンは朝比奈さんはお前のおもちゃじゃないんだぞと言って怒っていたが、あの時のあいつがここにいたら間違いなく再びグーを飛ばしかねない状況だ。といっても今のキョンは終始状況に呆気にとられていて未だ尻もちをついているままだが。

 

 

「この感触は間違いなくDより大きいわ、Eはカタいんじゃないかしら」

 

「ふぇえええんっ!!」

 

 こんなのがいつまでも続けばやがて教職員が飛んできかねないほどだが、ちゃっかり部室の扉に鍵はかけてあるしよしんば突入されたとしたらオーラで威圧しとこう、うん。

 ようやく立ち上がってこっちに寄ってきたキョンは――見てない間に長門さんといちゃついてた気がする――俺が元凶だと察したようで。

 

 

「おい明智、どういうことなんだ。いいかげん説明しろ」

 

「したいのはオレだってやまやまなんだけどさ、長くなっちゃうし……まあ一言でいうとオレは異世界人なのよ」

 

「はあ? お前何言ってんだ」

 

「詳しい話はまたいつかね。あればだけど」

 

 なんて話をしている傍ら朝倉さんは短パンシャツ野郎と化した古泉相手に質問をかます。

 

 

「涼宮ハルヒさんって、いつもあんな暴漢まがいなことをいているの?」

 

「い、いえ。僕が見ている範囲ではあのようなエキセントリックな真似はありませんでしたよ、ええ、はい、そうです」

 

 古泉は寒いのにまるで滝のような汗でも流しそうな緊張感をもって受け答えしている感じで、ともすれば否定なのか肯定なのかわかりにくい返事だ。

 長門さんは何か口には出そうと思っているようだけどもオロオロして言葉になっていない感じだ。

 ああ、なんというか、カオスな状況だけどこのメンバがここにいる、それだけで俺は胸に込み上げてくるものがある。

 どういう形で決着をつけるにせよ、最悪の場合俺が世界改変を阻止できなかったにせよ、このみんなだけは大切にしたい。改めてそう思えたし、今までの身勝手な自分が恥ずかしくなってきた。

 だからこそ俺は意思を固める。絶対に、"好き"にはさせないと。

 

 

――ピポ

 

 そしてようやくその時が訪れた。

 旧式パソコン特有の、ちゃちなブート音が部室内に行き届くのを確かに俺は聞き漏らさなかったんだ。 

 

 


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