夢を見ていた。
今にして思えばあっちが現実だったのかもしれない。
だが、俺にとってそんなことはどうでもいい。
『君にもう一つだけ話しておかなくっちゃあならないことがあるんだ』
俺が好きになったのは元の世界の、宇宙人の朝倉涼子だということ。
いつの間にか彼女がいる日常が俺にとっての普通となっていた。高々半年程度の仲だが、濃さでいったら相当なものだと思うしね。
でも俺は別にごっこ遊びなんてどうでもいいんだ。同じ世界で確かに朝倉さんが生きている。学校にいる。それだけで俺はこの世界にいて良かったと思えたんだ。
なあ、君はどうだったんだい?
悪くなかったなんて言葉で濁さずに、はっきり言ってくれよ。他人の心なんてわかるわけないんだからさ。
――シャリ、シャリシャリ
俺の意識を呼び戻したのは乾いた音だった。
うっすらと覚醒させて再び目を開く。
眼に映るのは白い天井、こんな時に言う定型文を俺は持ち合わせているがあえて口に出さないでおこう。とりあえず俺は寝ていたらしい。
「……ようやくお目覚めか」
そんな声が横の方から聞こえたので首を捻る。
椅子に腰かけて怠そうにしているキョンと、椅子に座りながら果物ナイフでリンゴの皮むきをしている古泉がそこにいた。
俺が起きたことに気づいた古泉はにかっと営業スマイルを浮かべて。
「おはようございます明智さん。まあ、今は夕方になりますが」
「こいつ、寝起きに見たのが男で残念だって顔してるぞ」
「おやおや、それなら失礼致しました。とにかく無事で何よりですよ……本当にね」
「おい、俺たちが誰だかわかるか? 明智」
問題ないさ。
ああ。
ここは病室で、どういうわけか知らないけど俺は寝かしつけられていたみたいだね。
俺が着ているのも病衣だし、布団も身体にかかっている。オンザベッドだ。
日付を訊ねると古泉が答えてくれた。
「今日は十二月二十一日、ちょうど午後五時を回ったところですね」
二十一日か。
と、なるとやはり俺は原作のキョンと同じような感じになっているにだろうか。
「見事な転がりっぷりでしたよ。寒気がするほどに」
目立った外傷はなかったそうだが俺は何故か酷く衰弱していたらしい。だから三日も寝ていたそうな。
原因はなんとなくだがわかる、無理なオーラの運用と身体の酷使によるものだ。
俺が使用した"堅"という技術はまともな訓練なしで実用に耐えうるようなものではなく、負担や消耗が激しい。今の俺は何分あの状態を維持できるのやらといったところだ。
「ところでさ、朝倉さんは……」
「ん? どうした明智? 朝倉、ってお前、まだ寝ぼけてんのかよ」
キョンの反応で俺はだいたいを察した。
聞けば、彼女は五月に親の仕事の都合でカナダへ転校したことになっているらしい。表向きは。
裏の事情を知っているのは、きっと俺だけだろう。何故俺が覚えているのかは知らないが。
「いや、何でもない。何でもないんだ。ただの、気のせいさ」
そこからは詳細に語るまでもない。
俺の眼覚めを聞いたSOS団の女子がやってきて、涼宮さんは小言を言いつつも嬉しそうに、朝比奈さんは俺なんかのためにわんわん泣いてくれて、長門さんは無言だった。
しかし起きたとはいえ、病院の食事などまともに喉を通らず、俺は抜け殻のように残りの入院期間を過ごしていた。
夜になって、長門さんが俺の病室までやってきたけど話したいことはないし。
「わたしにも責任はある」
君には君の立場があるだけだろ。
気に食わないのは情報統合思念体の方さ。
「朝倉涼子の処分は――」
「いいよ」
べつに、聞きたくもない。
ひとりにさせてくれ。
俺は君を恨んでいないが、君の親玉のことは心底憎いと思っている。
だから暫くは君の顔も見たくはない。悪いけど。
「そう」
病室から立ち去る前の長門さんが申し訳なさそうな表情をしたように見えたのは気のせいだっただろうか。
復讐を考えたところでいざ実行に移すような気力も俺にはない。だいたい情報統合思念体のところに行く方法なんてのも知らないわけだし。
今の俺に言えるのは、俺は全てを失っちまったということだ。
十八日から二十一日までの三日間、及び土曜である二十二日が丸々検査日として使われ、実際に退院できたのは二十三日の日曜日、その昼頃であった。
いいとこの私立病院らしいが古泉の根回しのおかげで安く確保できたということになっているんだと。その裏では『機関』と関わりがあるような病院なのは容易に想像がつく。
入院中、団員のみんなは土曜日も来てくれたし、親父や母さんはもちろん、あの兄貴までも駆けつけてくれたのは驚きだった。まあ、兄貴は俺の顔を見たら「達者でな」と一言だけ言ってすぐに仕事に戻っていったが。
ご丁寧なことに、我が家に帰ると俺の部屋にナイフ一式はしっかり置いてあった。長門さんの仕業だろうか。こんなのを出したまんまにしておくのは物騒なので全部押し入れに入れることにしたけど。
朝比奈さん(大)に化したブレザーもちゃんとあった。胸のポケットにはファンシーなキャラクターがプリントされたメモ用紙が入っており、丸っこい文字で『お疲れ様でした』とだけ書かれていた。労いの言葉、俺には耳が痛いものだ。
そうこうしているうちに十二月二十四日。月曜日であり、終業式の日であり、世間的には、
「待ちに待ったクリスマスイブだぜ」
登校中、誰にも会いたくなかったのに坂道に差し掛かるなり遭遇してしまった谷口の一言がこれだ。
お前にしてみれば今日はお嬢様学校の女子生徒とデートできる素晴らしい日なのかもしれないが、そいつの正体は宇宙人なんだからな、原作ではさっくりフられていたように記憶してるぞ。
こいつは知る由もないがな。
「聖なる日に何死んだ魚みたいな眼してんだ明智。まだ入院し足りねえのか?」
「かもな……」
「とんだ重症だな。ひょっとして誰かにフられたか、そいつはご愁傷様だ」
俺にこいつを一発殴る権利があってもおかしくないと思う。
今なら余裕でジャジャン拳を再現できそうな気がするからな。
「そのうちいいことが舞い込んでくんだろ。ヘラヘラ笑うのがいいとは限らねえが、笑わないとやってられないことだってあんだよ」
お前はテストの点数で笑いを取りに来てるとしか思えないんだが。
まあ、いいさ、こいつに当たったところで無意味だ。クラピカだって誰でもいい気分なんだって言っても殺さなかったわけだし、俺だって似たような気分さ。
俺は通学路をなぞる道中、道を逸れて某分譲マンションのエントランスに向かって505号室の住人をインターホンで呼び出そうとした。結論としては誰もいなかった。朝倉さんなら、とっくに対応してくれる時間だったのに。
女々しい野郎だと自覚してるが治しようがないんだからしょうがないだろ。いいから誰か教えてくれ、俺がやってきたことは間違っていたのかどうか。俺にはもうわからないんだ。
「オレはさ、運命だとか宿命だとか、そういうレールみたいなもんが大嫌いでね。自分はそういうから外れた生き方をしてやるって思ってたんだ」
「何の話だ?」
「本の話さ」
少なくともこれで世界は原作に近くなった、朝倉さんがいるという相違点が無くなったのだ。いずれは俺も消えてしまうのだろうか。
そもそも俺は何のためにここに呼ばれたんだ? 涼宮さんの遊び相手としてか? 古泉みたいに己の使命がわかればどれだけ楽なことか、朝比奈さんが味わってるのも俺と似たような感覚なのかな。
異世界から呼ばれようと、俺は人間であって人形ではない。そして俺は彼女も人形ではなかったと信じている。信じたいんだ。
「……ははっ」
何が『オレが死んでも気にするな』だよ。
先にいなくなったのは君の方じゃないか。
ねえ、朝倉さん。
そんなダウナーすぎる朝を迎えてやってきた学校。
坂道を上る過程でキョンには遭遇しなかったあたりむしろ谷口が普段より早く登校していると言えよう。要するに浮足立っているのだ、この馬鹿は。
もはや吐くため息も尽き果てたと思いながら下駄箱を開けた俺は、奇妙なものを目にした。
「ん……?」
上履きの上に置いてあったのは四つ折りにされた紙切れ。ルーズリーフだろうか。
手に取って開いてみる。そこには、
『放課後、屋上にて待つ』
といった風に書かれており、これを男が書いたにしては気色悪いと思えるぐらいには女子の筆跡と見受けられる。
俺は先に行こうとしていた谷口を呼び止め。
「おい谷口、これはお前が書いたのか?」
「あん? んだよ……知らねえな。イタズラか?」
「さあ。オレが聞きたいぐらいだよ」
「なんつーか果たし状みてえな文面だな」
谷口はアホみたいなことを言う奴だが基本的に嘘はつかない。
と、なるとこれは彼が仕組んだものではないということか。まあいい、気が向いたら行くさ。罠だろうがなんだろうが、今の俺には何も残ってないんだ。最後に残った命が欲しけりゃくれてやるさ。
教室に到着した俺はクラスを見渡す。窓際の席には涼宮さんがちゃんといる、キョンはもうじき来るだろう。
俺の後ろの席にはもう朝倉さんがいなかった。代わり、といってはなんだが阪中さんが座っていた。
「おはようなのね、明智くん」
「……ああ、おはよう」
一切の苦痛なしに死ねるボタンがあるのなら俺は今すぐにでも押す自信がある。
時間が傷を癒してくれることに期待したいが、ならば長門さんに俺の記憶を消してもらう方が確実だ。
だが、そんな覚悟を決められるはずもなかった。当たり前だ。ここまでが自己責任なんだからな。
どう言い訳しようと無意味なのさ。しょせん俺に出来ることは他の奴にも出来ることだったというだけだ。
「ざまあないぜ」
誰にも聞こえないように、自分だけに聞こえるようにそう呟いた。
だけど、もし。
「よう明智、もう大丈夫か」
「おはようキョン。なんとかって感じだけど」
「無理すんなよ。またすっころんで、次はアウトってのは冗談きついぜ」
「善処するさ」
もし、奇跡ってのがあるとすれば。
年に一度の今日という日ぐらいはそれを信じてもいいというわけだ。
チャイムギリギリにキョンがやってきて、ホームルームを終えるとすぐさま終業式。
それが今日の段取り。このクラスの誰もがそう思っていた。俺も。
「あー、すまないがみんな。体育館に移動する前にお知らせがある」
チャイムが鳴ってからちょうどよく教室に入ってきた岡部先生によるホームルームが終わろうかという時、彼はおっほんと咳払いをしてからそんなことを言った。
俺は別に気にも留めていなかったし、なんなら終業式そのものを保健室にでも行ってフけちようかとさえ考えていた。
「今日は授業がないからわざわざ来てもらう必要はなかったんだが、本人たっての希望でな、どうしても今日顔を出しておきたいそうだ」
今のうちに目でも休めておこうかと思い、目を閉じる。
岡部先生が「入ってこい」と言うとガラッと教室のドアが開けられたような音。
そんな音が聞こえたと思えば急激にクラスの中が騒がしくなった。ええっ、だとか、嘘、だとかよくわからないけどガヤガヤしだしたぞ。ええい、うるさいな。いったい何があったってんだよ。いい加減に俺を何も考えなくていいようにさせてくれ――
「静かに。みんなも驚いていると思うが、私も驚いている」
おい。
「父親の職場が国内に変わったらしい。まあ、改めて紹介する必要はないのかもしれないが」
俺の眼は狂っちまったのか。
そうなのか。
そうなんだろ。
「"転校生"の」
「朝倉涼子です」
ぺこり、と一礼する女子高校生。
制服の上に羽織っているのは真紅のコート、ハーフアップの青髪。
本当に俺の眼が狂っていないのならば。教卓の横に立っているのは朝倉さんだった。
それから手短にカナダに行ってた間の話とか、ここにまた来るようになった経緯についての説明があった気がしたが俺の頭には全然入っていない。
何があったのか理解できていない。驚天動地だ。いったい、どういうことなんだ。
「みんな、またよろしくね」
最後に朝倉さんが笑顔でそう言ったのだけは覚えている。
そこからの終業式は拷問のように苦痛な時間で、俺は一刻も早く彼女に問い詰めたかった。
しかし同時に俺は下駄箱に手紙を入れたのが彼女であろうことも確信していた。
だからこそさっさと放課後になってくれと思ったね。通知表の中に書かれているどんな誉れある評価よりも、理由なんかどうでもいいから俺は朝倉さんが戻ってきてくれたことが嬉しかった。世界が変わったようだ。笑えるが、本当にそう思えるんだぜ。それが俺にとってはとてつもなく素晴らしかった。
そして、放課後。
なんというかもどかしさは募る一方で、よもや教室の掃除当番をラストで俺の班が割り当てられているあたり作為的なものすら感じる。
雑にならないように、誰かにおかしいと思われないように、俺はめいいっぱいの普通さでもって掃除の任務を遂行した。
椅子に掛けてあった一張羅を着て、机のフックに引っかけてある鞄を持って、俺は屋上へと向かう。
階段の先にある屋上へと出るためのドアは常時施錠されているはずだが、この時ばかりは開いた。
教職員にバレたらまずいのでさっさと外に出てドアを閉める。
「遅いよ」
屋上には予想通りの人物が立っていた。
風に髪をなびかせる女子生徒、朝倉涼子。
「まるでお化けでも見たって感じの顔ね、明智君」
谷口が言うには今日の朝の俺は死んだ魚らしかったが。
いや、そんなことはどうでもいい。
「説明してくれよ。何がどうなってるんだ?」
「あら、長門さんから聞いてないの?」
「……えっ」
なんでそこで長門さんが出てくるんだろう。
「明智君が起きたら説明しといてって頼んだんだけどな」
あっ。
そういや俺、門前払いしてたっけ。
「ま、いいわ。そんなに複雑な話じゃないし」
朝倉さんから語られた内容というのは自分が受けた処分についてだった。
まずはインターフェースとしての機能の制限、これは攻勢因子とやらの行使量に制限がかかるらしく、単独で今回のようなことをしでかすのはまず不可能になったらしい。戦闘力としてはそこまで低下してないから問題ないとは本人の談だが。
そして情報操作について。朝倉さんはSOS団に所属していたという事実を抹消された、というか自分から涼宮ハルヒに関わるなというのが上の意向なんだと。今後は長門さんのバックアップだけに専念するそうな。
「虫唾が走るね」
「これでも軽く済んだ方だと思うわ」
「というかなんでオレが君の事を覚えているんだ? それが不思議でならないんだけど」
「……さあ。なんでかしらね」
くるっと後ろを向いてしまう朝倉さん。
俺はまだ話がしたいので彼女の横まで行く。
屋上からは市内全体が一望でき、実にいい眺めである。
遠くの海の方向を眺めながら俺は気になっていたことを訊ねる。
「朝倉さん、この前の喧嘩なんだけどさ、勝者の特権で教えてくれよ。君は何故あんなことをしようとしたんだ」
「くだらない理由よ」
「オレはそう思わないかもしれないけど」
「まったく……朴念仁なんだから」
人は皆、奇跡というものを望んでいる。
「私は普通の人間になってみたかったのよ」
つまりは現状に不満を抱いているということか。
なまじ良い環境だからこそ、更に上を求めてしまう。
「普通の人間として、普通の高校生活を送ってみたかった。私には無縁なことだから」
だが、本当に奇跡ってのは望まないといけないものなのか?
案外そいつはそこら中に連続して転がってたりする。
気づかないだけで。
「それだけ。……ね? くだらないでしょう? ただの気の迷いよ」
もうこの話は終わり、と言って去ろうとする朝倉さん。
「待ってくれ」
まだ、俺の話が終わってない。
「次はオレがこっちを選んだ理由を話すよ」
もういいだろ。
言い訳はしねえぜ。
当たって砕けるだけさ。
「朝倉さん。オレは、オレは"君が"好きなんだ」
彼女はただただ何も言わずに俺の言葉を聞いていた。
「宇宙人の、いや、君が好きなんだ。理屈じゃない、君にもう一度会いたかったってだけでオレはこっちを選んだ」
「……」
「君がいなくなったと思って、もうどうにもできないと思った。死のうかなとも思ったよ。だけど、君を忘れてしまうことの方がよっぽど辛いじゃあないか」
「……」
「朝倉さん、君は普通の人間になりたいって言ったけど」
彼女の元まで近づいて、抱きしめる。
驚くほど容易かった。
「君は人間だ」
「……」
「だって、君は暖かい。生きている。だから人間だ」
「……そんな」
「君が嫌なら今すぐ大声を上げて抵抗してくれ。じゃなかったら、勘違いしちゃうだろ」
初めて抱きしめた朝倉さんはとてもか弱い存在に感じた。
次はないんだ。それに最初に言ったじゃないか。
「明智君、あなた、どんなことがあっても私を守ってくれるんでしょう?」
「ああ」
「それ、もうやめにしましょ」
朝来さんの方からも俺の腰を抱き返して一言。
「これからは一生私を守ってちょうだい。明智君」
「うん、わかったよ」
「私が事象改変を起こした本当の理由はね」
言わなくてもわかってるさ。
そんな気もなかったのに、俺が君を好きにさせてしまっただけなんだ。
でもさ、朝倉さんが普通の人間だったら俺は君と付き合う、なんてことはごっこ遊びでもできなかったと思うよ。
だからいいんだ。俺が好きになった朝倉涼子は、他でもない宇宙一綺麗な瞳を持つ、君なんだから。
「やっとわかったわ。この感情が"好き"なのね。あなたのことを考えただけで、制御がきかなくなるの。私もあなたが好きよ、明智君」
「朝倉さん、もう一度やり直そう。オレたちの半年間は無くなったけど、オレたちは覚えているんだ」
世界は広い。きっと俺が考えているよりもとてつもなく広い。
この町なんか数字にすれば一桁にもならないはずさ。
が、真に価値あるものは数字の大きさで決まらないのだろう。
「明智君。また、私とつきあってくれる?」
「もちろんだ。君さえよければ、死ぬまでつきあってくれ」
「ふふっ、一生守ってもらうんだもの、当たり前よ。交渉成立ね」
最後の最後に。
今回の一件から俺が得るべき教訓というものは。
「スクープよ! これは一大事よ!!」
パシャリ、という音が聞こえたかと思えば俺が入ってきた屋上ドアは開いていて、涼宮さんがデジタルカメラ片手に突っ立っていた。
いやいやいやいや、涼宮さんだけじゃないぞ。キョンに谷口、国木田。お前らなんでここに。
「あ、お、おい、こりゃどうなってんだ? 俺は夢でも見てんのか?」
「ははは。まさか明智と朝倉さんがこんな仲だったとはね。驚いたなあ」
目をきょろきょろさせる谷口といつも通りの調子でコメントを入れる国木田。
キョンは「すまん」と言ってから涼宮さんの首根っこを掴んで。
「谷口からお前に果たし状が来た、といって気になったから来てみたんだが……余計なお世話だったな。お前ら帰るぞ」
「ちょっと、これからいいシーンでしょうが! 濡れ場はこれからなのよ、放しなさいよ! バカキョン」
「続きは家でやることをお勧めする」
バタリ、とドアが閉められた。
「……見られたのかな」
「写真も撮られたみたいね」
「得意の情報操作でなんとかなんないかな」
「べつに、見られて困るものでもないじゃない」
この後にSOS団主導による軍法会議チックな場によって冬休みも初日から俺は朝倉さんについて質問されまくり、挙句の果てに朝倉さんは再び団員的なポジションにつくことになるのだが、今回の教訓としては、だ。
「口は災いの元だ」
キスをするのなら時と場合をわきまえた方がいい。
脅しの材料として写真にでもとられたら面倒だから。
以上。