異世界人こと俺氏の憂鬱   作:魚乃眼

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第三話

 

 

 

 

 

 

 

 

俺が文芸部に入部して数日が経過した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

本来ならば俺を含めて2人という現状は部活として最早破綻している状態なのだ。

しかし意外にも教師から特別な反応はなく、無事に俺の入部は受理された。

俺は一瞬、長門さんによる何らかの力が働いたのかとも思った。

実際は伝統ある文芸部を潰したくないという、一部教師の意向があり、入部は歓迎らしい。

長門さんには出来るだけ放課後に残るようにすると言ったが、俺は毎日部室に顔を出していた。

特別何かするのかと問われると、どうもこうもない。

しかしながら創作活動に興味があるのは事実で、部室で執筆こそしなかったものの、短編のプロットを幾つか長門さんに見せて意見を頂戴していた。

長門さんの感想はまさに簡潔で「ユニーク」や「普通」と実にシンプルな評価である。

ただ、言葉数こそ多くないものの具体的な意見もありそこそこの参考になった。

 

 

 

 

そして今日、長門さんと俺が大人しく読書している。

俺が読んでいるのは本屋で適当に買ったSFのハードカバーで、海外のマイナー作家の作品らしい。

SFやミステリーに関して有名どころはこの世界に来る前、既に読んでいる。

正直、読んでいるこの本は映画にすればC級レベルと言える。

登場人物の妙なテンションが、いかにも海外作家と思える所以でなかなか面白い作品だと思う。

すると、何の前触れもなしにドアが勢いよく開かれ、男女の二人組が部室に侵入してきた。

言うまでもなく、涼宮ハルヒとキョンの二人だ。 

涼宮氏は腕を大きく広げ満面の笑みで、今日からここが私たちの部室よ、と高らかに宣言された。

その後暫く二人の漫才が続いたが、どうやら涼宮が俺に気づいたらしく「あんた誰?」と微妙な顔をする。

その言葉でキョンも俺と長門さんの存在に気付く。彼女はさておき、俺も空気扱いとは……。

 

 

「おいハルヒ、こいつは同じクラスの明智だろ。1ヶ月以上過ぎたのに同級生の顔も覚えとらんのか。……それと明智、お前とそこの少女は何してんだ?」

 

明智というのはこの世界での俺の名字だ。

出席番号順の座席で朝倉涼子と席が近いのも納得だろう?

ただ、キョンが席替えをして涼宮ハルヒが後ろの座席に来たように、俺は朝倉良子が後ろの座席になった。

特別、会話はしないものの、後ろから刺されるんじゃあないかと時々恐ろしくなってしまう。

果たしてこの時の俺はまさか彼女と長い付き合いになるとは思っていなかったが。

 

 

 

もしかするとこいつらは俺と長門さんが校内で逢引しているように勘違いしたのかもしれない。

キョンも神妙な面持ちであるし、いかにもやれやれと言いたげだ。

それに対し俺はわざとらしく「やぁ」と会釈をして説明を開始する。

 

 

「ここは文芸部室、オレは部員で彼女が部長。今は見ての通り読書中でね……文章を書くための文芸部なのは確かだけど、一つの作品を掘り下げるのも創作活動になるのさ」

 

「お前が文科系の部活で、それも文芸部なんぞに所属していたとは驚きだよ。だがハルヒが言うにはこの部室を乗っ取って部活を作るつもりらしいぞ。詳細はよくわからんが」

 

「面白そうだね。でも、急に言われても困るよ」

 

「その娘は構わないって言ったわよ」

 

そう言えば原作でも事後承諾みたいな感じだったな。

キョンにとっては被害者であり加害者だが、俺と長門さんの立場からすれば一方的な被害者だ。

だが俺が反対する理由もとくにない。

 

 

「本当かそれ?」

 

「昼休みに会った時にね。部室貸してって言ったら、どうぞって。本さえ読めればいいらしいわ。ちょっと変わってる娘ね」

 

確かに長門さんは少し変わっているどころか、そもそも地球人ですらない宇宙人だが、

それなら涼宮さんは変態的なまでの変わり者である。

俺も前世――ここに来る前の世界――では、女性の変人も何人か見てきたが、涼宮さんは裏表がない純粋な変わり者だ。

だから困るのだが。

しかも一部ではそのルックスや絶対的な能力から、信仰の対象とされているときた。

さながらゲイリー・オールドマンを神と称すブラッド・ピットのような話だ。

 しかしまぁ、そろそろ涼宮さんとキョンが来るころだとは思っていた。

それにしても長門さんや、俺にも何かしらの報告があれば嬉しかったのだが。

変な娘について自分の事を言われていると知った長門さんは、俺にしたように「長門有希」と一言だけ口を開いて自己紹介した。

 

 

「長門さんとやら。こいつはこの部室を何だかわからん部の部室にしようとしてんだぞ、それでもいいのか?」

 

「いい」

 

「いや、しかし、多分ものすごく迷惑をかけると思うぞ」

 

「別に」

 

「そのうち明智といっしょに追い出されるかもしれんぞ?」

 

「どうぞ」

 

 

即答する長門さんにキョンは呆れた様子である。

 

 

「明智よ、お前はいいのか?」

 

「どうもこうもないさ。まぁ追い出されるのは心外だけど、ここを使いたいのなら構わないよ。オレと長門さんの二人きりじゃこの部室は広いからね。部長が認めてる以上はそれに従うさ」

 

「やれやれ、お前もお前で変わり者だぜ……」

 

「あんたも変わってるわね。同じクラスの男子なんてまるで気にしてなかったけど。ま、そういうことだから。これから放課後はこの部室に集合ね。絶対来なさいよ。来ないと死刑だから」

 

何やら死刑以外にも俺が「変わってる」だの聞く方は穏やかじゃない台詞を吐いた涼宮氏は、当面は部員の確保が先決らしい。

俺という異分子が紛れてはいるものの、原作通りに残り二人は部員が欲しいと言い、この日は解散となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次の日、涼宮さんは遅れるらしく暫くの間俺とキョンと長門さんの三人の空間が続いた。

 

 

 

ボードゲームでもあればキョンの相手をしてやるけれど、今のところ娯楽としての置物は皆無。

俺と長門さんは昨日同様に読書していた。手持無沙汰なキョンが退屈そうにあくびをして、パイプ椅子に腰かけようとした。

すると蹴飛ばされたようにドアが開いた。

……間違っても壊すなよ?

 

 

「ごめんごめん、遅れちゃった! 捕まえるのに手間取っちゃって」

 

一体涼宮氏は何をキャプチャーしたのだ。少なくとも人間相手に捕獲と言うのは正しいのだろうか、それは確保の間違いじゃあないのか?

栗色のふわっとしたロングヘアの小柄な女子生徒が怯えた表情で涼宮氏の後に続く。

涼宮氏は彼女の腕を掴んでおり半ば引きずった形での入室となった。

女子生徒はかなり戸惑った様子だが、今にも泣きだしそうな彼女を涼宮氏が「黙りなさい」と一喝する。

 

 

「紹介するわ。朝比奈みくるちゃんよ!」

 

「……どこから拉致して来たんだ」

 

「違うわ、任意同行よ。二年の教室でぼんやりとしているところを捕まえたの。あたし、休み時間には校舎をすみずみまで歩くようにしてるから、何回か見かけて覚えていたわけ」

 

「先輩まで勧誘するなんて、流石だね」

 

「はぁ!? 馬鹿かお前は」

 

「何よ、文句あんの?」

 

いや、文句があるとすれば朝比奈さんの方じゃないのか。

キョンと涼宮氏のやりとりを要約すると。

上級生である朝比奈さんは涼宮に、「可愛くて、小柄で、胸が大きかったから」という理由なだけで連れてこられたらしい。

更に犯人は、萌えが重要でマスコットが必要などと意味不明な供述をしており、反省の色は1ミリも窺えない。

そもそも自分の行為に一切の疑問も無いのだろう。

そして拉致までやっておいて涼宮さんは「今所属している書道部を辞めなさい」という無茶な要求を朝比奈さんに叩きつけた。

どうも鬼畜の所業としか思えないが、俺や長門さんは止める気が更々ないし、キョンも諦めている。せめて同情はするけど。

キョンはここが文芸部だと勘違いしている朝比奈さんに事情を説明する。

 

 

「ここの部室は一時的に借りてるだけなんです。あなたが入られようとしているのは、そこの涼宮がこれから作る活動内容未定で名称不明の同好会ですよ」

 

「えっ……?」

 

「ちなみにあっちで座って本読んでいる二人が本当の文芸部員です」

 

「……」

 

「どうも。オレは明智、こっちの彼女が文芸部部長の長門さん。と、言っても涼宮さんは新しい部活を作るみたいだから、元文芸部かな?」

 

「はぁ……」

 

「だいじょうぶ!」

 

何が大丈夫なのかまるでサッパリだが、どうやら涼宮はこの部活の名前を考え付いたらしい。

 

 

「それはSOS団。世界を大いに盛り上げるための涼宮ハルヒの団。略してSOS団よ!」

 

どや顔もここまで来ると胸が清々しくなるものである。

原作では笑えるシーンとまで言われていたが、生で見ると感慨深い。

その後は毎日放課後ここに集合ね、と涼宮さんが全員に言い渡し、この日も特に活動はせず解散だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――てな訳で、こうして『涼宮ハルヒによる恐ろしい侵略連合軍団』

通称"SOS団"がここに発足したわけである。

実に感動的瞬間だった。

 

 

 

 


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