異世界人こと俺氏の憂鬱   作:魚乃眼

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第二十七話

 

 

 

 

 

 

 

――いや、今にして思えば十月も実に平和だったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いつぞやの俺はつい「年中無休」だなんてアホな事を言っていた。

だがSOS団の歴史から見ても高校一年生の九月と十月は休みの期間とも考えられる。

つまり、これから先の出来事はほぼノンストップ状態。

涼宮ハルヒという名の暴走機関車に俺たちは地球の裏側まで引きずられていくのだ。

 

 

その、手始めとして、十一月の文化祭について語ろうじゃあないか。

この時はまだ季節柄もあって空気が穏やかだったからね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

体育祭が終わり、いよいよ文化祭の準備が始まった。

部活やらステージコンサートやらの話もあるが、先ずはクラスの出し物について語ろう。

1年5組は頼れるクラス委員長こと朝倉さんが健在なので原作のようにアンケート発表とかいったふざけた内容になるはずがなかった。

個人的にメイド喫茶とかその辺でいいだろ男子は活躍しないし。

と思っていたがウェイトレスのコスプレは朝比奈さんのクラスでそう言えばあったはずだ。

確か焼きそばを出していたな。何故汚れるウェイトレスの服装だったんだろう。

とにかく、じゃあ無難な模擬店で行こうとなり、最終的に俺の。

 

 

「そうだね。甘いもんでも売っときゃ女子が来るんじゃない?」

 

という適当な発言が採用され、クレープ兼タピオカジュースを販売する模擬店となった。

しかしながらこの時期はタピオカと言っても知名度がまちまちらしく、仕入すら俺に任される羽目に。

……まあいい、インターネットがあれば大丈夫だ。文明の利器だよ。

残念ながらコスプレとは無縁であるが、実に1年5組らしくていいんじゃなかろうか。

喫茶店と言うよりは販売がメインだからな、こっちは。

とっとと回ってくれるのが一番さ。

 

 

 

 

 

 

要するに俺は面倒な役を押し付けられたのだ。

その分、当日は何もするつもりは無いのだが、これぐらいは当然だろう?

俺はクラスの予算を考えると言う面倒な作業さえ部室に持ってこなければならないという事が一番嫌だったが。

そんなかったるい雰囲気に包まれていると部室のドアが開かれた。キョンと涼宮氏だ。

 

 

「あ、こんにちは。すぐにお茶を淹れますね」

 

SOS団が楽しみでしょうがない涼宮さんはさておき、キョンは朝比奈さんのお茶のためにここへ来ている所がある。

あいつはそんな能天気だから涼宮さんが怒るのだ。

ちいとは自分の立場を理解して欲しいが、俺もここにまだ来ていない古泉もそれは諦めている。

ほら、涼宮さんがキョンの横っ腹に肘鉄を入れた。思いの他痛そうである。

 

 

 

その後、朝比奈さんへ涼宮さんによる。

 

 

「メイドはお茶を運ぶ三回に一回の割合でこけるのよ、ドジッ娘を演出なさい」

 

などと言う意味不明な講釈があった後。

 

 

「すいません。ホームルームが長引いてしましまして」

 

イエスマンこと古泉一樹が遅れてやってきた。

どうやら文化祭絡みだろう。涼宮さんがどう思うかはさておきいい事じゃないか。

そもそも俺のクラスはやる気がなさすぎる。朝倉さんが不在だと思うと恐ろしいね。

 

 

「せっかくの会議が僕のおかげで始められなかったようで。いや、すいません」

 

「会議だと? なんだ、俺は一言も聞いてないぞ」

 

「あ、言うの忘れてたわ。昼のうちに他のみんなには知らせたんだけどね。どうせあんた前の席だしいいやって」

 

「おい。どうして他の教室まで出向いてるくせに俺が聞いてないんだ。一番最初でよかったじゃないか」

 

「いいじゃない。どうせ会議をすることは変わらないんだし」

 

同情してやりたいが今回は多少俺にも関係するからな。

俺もどうせキョンは会議について聞いてないだろうとは思ってたが、言う必要も無いからね。

そしてこの部室に集まらない方が珍しいし。

で、肝心の会議の議題は。

 

 

「今度の文化祭、あたしたちSOS団は映画の上映を行います!」

 

「はあ?」

 

「と、いうわけよ。解った?」

 

「今の流れで何が解ると言うんだ。じゃあ会議ってのは、その映画の内容を考えろってのか?」

 

「そうとは言ってないわ。脚本は明智君に手伝ってもらったの。だいたいの流れは出来てるから、後は撮影ね」

 

「お前……」

 

何でそんな事黙ってた。と言わんばかりにキョンが俺を睨む。

用意があると言えど、しっかりした台本と呼べるものではないんだけど。

 

 

「オレに聞かれてないからね。答える必要もないのさ。ちょっとしたサプライズだよ」

 

「……ハルヒ、本気で言ってんのか?」

 

「嘘ついてどうすんのよ。これはもう決まった事なの」

 

「なるほど。よく解りました」

 

「映画ね。楽しそうだわ」

 

「……」

 

「へぇ」

 

出任せもいいとこに古泉がそう言う。

朝倉さんは楽しんでくれるのはいいけど勝手な行動はしないでくれよ、頼むから。

他のみんなも、まさか涼宮さんに意見する訳もない。

だがキョンは抵抗を必死に続けていた。

 

 

「製作費はどうするんだ? 機材やら小道具やら、タダではいかんだろう」

 

「予算ならあるわ。文芸部にくれた分が」

 

「おい。それは文芸部の予算だろ。勝手に使っていいもんじゃねえぞ、それは横領だ」

 

「違うわよ。だって有希はいいって言ったもの」

 

「……」

 

キョンに見られた長門さんはゆっくりとした動作でこくんと頷いた。

とにかく、本人が言うように決定事項。

これより"いい案"を出さない限り映画の撮影は実施されるのだ。

 

 

「だからみんないいわね! まずはこっちの撮影が優先よ。監督の命令は絶対なんだから」

 

チープな出来だとしても、SOS団は美人揃いだ。

内容さえ見れるレベルならいいんじゃないかなと思うよ。

涼宮さんは色々と用意が忙しいと言って解散を宣言した。とっとと去っていく。

今日の部活はここまでらしい。

 

 

「いいじゃないですか」

 

「何がだよ」

 

「宇宙人を捕獲してこいだとか言われたら、僕たちはエリア51にでも行かないといけませんでしたよ」

 

「オレは銃弾の雨の中をかいくぐってまであそこに潜入したくないんだけど」

 

「ですから、まともな内容で一安心ですよ」

 

「それはともかく。明智、お前ハルヒが脚本云々と言っていたがどういうことだ?」

 

「言った通りさ。別に馬鹿にするわけじゃあないけど、涼宮さん一人で映画を撮るのは無茶だろう? オレが脚本でも書いとけば彼女は安心して監督業に専念できる」

 

「俺は専念してほしくなかったがな」

 

「うん、それは無理みたいね」

 

いつぞやみたいに全員で反抗すればわからない。

でも誰に迷惑をかけるわけじゃ……まあ、世界全体に比べれば安いもんさ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

会議でもなんでもない集まりがあった次の日。

委員長な故にクラスの出し物について責任がある朝倉さんと、委員長でもなんでもないのに責任を押し付けられた俺の二人は模擬店の予算案をどうにかまとめ上げ、担任の岡部先生へと書類を提出した。

実際の販売時間など半日とない。それに、高校の模擬店なんざ黒字だろうが赤字だろうが同じなのだ。

後は、俺の仕事は自宅へと届く段ボールに詰められたタピオカを当日学校へ運ぶだけだ。

あまりにも怠いので"臆病者の隠れ家"を使おう。早朝に部室へ運べばまず大丈夫だろうよ。

調理器具その他ドリンクに入れる飲み物やクレープは俺の担当ではない。

まあ、近場で手に入る安い値段でまとめといたから、誰かに買ってきてもらうさ。

 

 

 

このような理由で俺と朝倉さんが遅れて部室に行くと涼宮さんは。

 

 

「ようやく来たわね。今からスポンサー回りに行くわ」

 

どうやら機材や小道具をかっぱらいに行くらしい。

商店街には様々な店が立ち並んでいる。だがここの駅前ではない。

高校が山の上にある事といい。ここは半ば田舎である。

三駅ほど電車を移動して、ようやくいつもとは異なる駅前へ行くと近くに商店街があった。

しかしながら最近では大型ショッピングモールに押されつつある。時代の波とやらだ。

涼宮さんはスポンサーとして回った電器店と模型店からビデオカメラとエアガンをもらっていた。

わざわざビニール袋にまで入れて頂いている。何も買ってないのに。

個人的に銃は好きで詳しいのだが今回詳細な説明は割愛させていただく。

そしてそれらは全てキョンが持たされていた。

 

 

「おい、貰ったはいいがこの荷物はどうすんだ」

 

「あんたが持ってて。一回部室まで戻るのは面倒だから、今日は解散ね」

 

キョン、俺を見ても困る。お前が頼まれたんだから自分でやってくれ。

 

 

 

 

 

 

 

……しかしそれでは流石にキョンがかわいそうだ。

幸いと言ってはあれだが今日は朝倉さんが弁当を用意してくれる日だった。

よって俺は朝から野郎の家へ行くという嬉しくない気分になりつつ荷物運びを手伝う事にした。

俺が運ぶのは未だに段ボールに入っているビデオカメラだけだが。

そんな、こっちとしてはとても笑えない状況で谷口は笑いながらやってきた。

 

 

「おう。お前ら二人が揃って登校してるなんて珍しいと思えばよ……何だその袋は?」

 

「オレのはビデオカメラ、キョンのは見た方が早い」

 

「ほれ」

 

とキョンはやけに大きいビニール袋を谷口に渡す。

 

 

「ん。何だこりゃ? モデルガンか? おいおい、お前らがミリオタだったのは意外だが、文化祭はまだ先だぜ。」

 

「確かに文化祭絡みではあるが違う。ハルヒが用意したんだ」

 

「まあ何に使うかは楽しみにしてよ」

 

「へっ。セーラー服に機関銃たあ随分な趣味だな」

 

一応断っておくがどこぞのスタローンが振り回すようなゴツい銃は貰っていない。

精々が自動小銃と拳銃程度である。傍から見ればアホにしか見えないね。

つまり現在俺までそのアホの片棒を担いでいるのだ。

 

 

「俺も悪趣味だと思うよ」

 

「お前も大変だな。まあ、涼宮のお守り役が務まるのはお前ぐらいさ。中学時代のあいつを知ってる俺が保障してやる。さっさとくっつけ」

 

「いいんじゃないかな」

 

「明智、お前が言うんじゃねえ。そして谷口よ、俺がくっつきたいのはハルヒなんかより朝比奈さんの方だ」

 

こいつも普通の男子高校生である以上、普通のゲス野郎である事も確かだった。

価値観が破綻しつつある俺よりはよっぽどマシだが。

 

 

「オレに言わせてもらえば涼宮さんは美人だと思うけど?」

 

「おうそうだ。涼宮はそこのクソ野郎の彼女と同じで、見てくれだけで言えばAAは超えるぜ。それに朝比奈さんは無理だな、全男子生徒にとってどれだけ大きな存在か。お前だって袋叩きはごめんだろ?」

 

「……じゃ、次点で長門にしよう」

 

「お前んとこの集まりは美人ぞろいで麻痺してんのかもしんないがな、長門さんも隠れファンが多いみたいなんだよ」

 

「はぁ。だいたいな、どうして俺がハルヒとくっつくって話になってるんだ」

 

「言っただろ。涼宮とまともに話が出来るのはお前ぐらいだからだ。そして、お前がコントロールしてくれりゃ被害も少なくなるってもんだ」

 

「谷口にしちゃまともな意見だね。100点をあげてやってもいいよ」

 

「勝手に言ってればいいさ」

 

「そうカッカすんなって。そういやそろそろ文化祭だが、お前らは何かするのか?」

 

この場合の"お前ら"はSOS団を表しているらしい。

キョンが「どうするよ」と目で訴えてきたので俺は首を横に振った。

どうせ谷口はエキストラで呼ぶかもしれないんだ。お楽しみにしといてくれ。

 

 

「知らん。それこそハルヒに聞いてくれ」

 

「涼宮に聞いても素直にハイ~ですって答えてくれると思うか? 消去法でお前らに聞いたんだよ」

 

「明智はともかく俺はお人よしじゃない。俺はハルヒの被害を最小限にするために仕方なくこんな状況に甘んじているんだ」

 

「オレを引き合いに出さないで欲しいな。どうもこうもない」

 

「知るか。朝比奈さんだってハルヒによってそれはそれは迷惑して心を痛めているんだ。だから朝比奈さんは"俺が守る"、他の男子生徒なぞ知らん」

 

俺はいつぞやの、つい考えなしに朝倉さんに言ってしまった言葉を思い出して頭が痛くなった。

と言うかこいつは俺を見てそう言ったから狙ってやがるな。そっちこそ後で覚えとけよ……。

あの時俺はもっと慎重に言葉を選んでいれば、きっと朝倉さんは伸び伸びと生きていたのだろう。

彼女の考えなど俺にはわからないが、疑問があるのも確かなのだ。

キョンのいかにも主人公らしい台詞を聞いた谷口は。

 

 

「そうかよ。とにかくほどほどにしろよ。新月は月に一度はやってくるんだからな」

 

谷口は時でも加速させたいのだろうか。

そうこうしている内に山なりの道を登り終え、校門へと辿り着いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……で、いい加減、何の映画か教えてくれ」

 

昼休み、俺が朝倉さんと弁当を食べようと思って教室を出ようとすると肩を掴まれこう言われた。

 

 

「キョン、知りたいのか? 涼宮さんはお前を雑用にするつもりだけど」

 

「それはどうにか受け入れてやってもいいがな。俺は何をやってるのかも解らないままに得体の知れない作品を作るのは嫌なんだよ」

 

俺もそれには同感だ。

だから涼宮さんのアイディアを協力して、しっかりとした形にしたのだ。

朝比奈さんが終始制服を着ないのもおかしいからね。

 

 

「まあいいよ。聞いて驚くがいいさ」

 

「ああ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――今回の映画はズバリ、"魔法少女"だ」

 

俺の言葉を聞くや否や、キョンの目の色が急速に濁った。

 

 

 

 

 

 


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