異世界人こと俺氏の憂鬱   作:魚乃眼

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第二十八話

 

 

 

 

 

 

 

 

どうも、みなさんご無沙汰している。

夏の合宿以来だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あのアホの明智が昼休みに朝倉といちゃいちゃするためにさっさと居なくなってしまったからな。

まったくもって忌々しい。

そして「魔法少女」と意味不明な事を言ったあいつに対して俺はハルヒと同じくらいに恐怖を覚えたね。

あいつも頭がお花畑なのだろうか。俺の中でのあいつのキャラは安定しない。

いや、とにかく俺は詳しい話を聞きたかったのだが、明智は鞄から黒のバインダーを取り出して俺に渡すと消えていた。

中にはルーズリーフが何枚か入っている。これを読めと言いたいのだろうか。

 

 

 

いいさ。"信頼できない語り手"の明智よりは俺の方がよっぽどマシだろう?

今回の俺はただの狂言回しに過ぎないが。

 

 

 

 

 

 

……てな訳で谷口、国木田との昼食を終えると俺は自分の座席にさっさと戻り、ルーズリーフを眺める事にした。

先ずは一枚目からだ。

 

 

『原案:涼宮ハルヒ(総指揮/総監督)

原題:【朝比奈ミクルの冒険】

主演女優:朝比奈みくる

主演男優:古泉一樹

ライバル:長門有希

その他:その他

雑用:キョン

 

 

基本設定

 

・ミクル:未来からやって来た戦うウェイトレス。商店街の一角に居住スペースを借り受けている。

・イツキ:ごく普通の男子高校生だが正体は超能力者。だが本人に自覚は無い。

・ユキ:ミクルのライバル。悪い魔女

 

 

あらすじ

 

・未来からやってきた戦うウェイトレス朝比奈ミクル。

 ミクルは男子高校生のイツキを陰ながら守るために日夜戦っている。

 イツキには秘められた力があり、ミクルのライバルのユキがそれを狙っているのだ。

 頑張れミクル。負けるなミクル。地域住民の笑顔のために!』

 

 

 

 

 

 

この時点で眩暈がしたね。

どうやらこれは原案らしく、つまりハルヒが用意した内容なんだろう。

と言うか「未来」だの「超能力」だのそのまんまじゃねえか。

ハルヒには自覚が無いんじゃなかったのか。

……次だ。

 

 

『脚本:明智黎(演出)

題名:【未来系魔法少女 アサルト×ミクル】

主演女優:朝比奈みくる

主演男優:古泉一樹

ライバル:朝倉涼子

謎の魔女:長門有希

みくるの兄:キョン(雑用)

その他:必要に応じて

 

 

基本設定

 

・ミクル:高校二年生の美少女。その正体は未来の技術で変身する魔法少女。武器は銃。年下のイツキに片思い。

・イツキ:ミクルと同じ高校に通う普通の高校一年生。ミクルに惚れられている自覚は無い。その正体は……?

・リョウコ:世界征服を企む、悪の秘密結社"アサクラ―"の女首領。ミクルとイツキを何故か狙う。

・ユキ:ミクルとは別の、謎の魔法少女。敵か味方か。

・キョン:ミクルの兄で軍人。作中では故人。

・秘密結社の構成員:エキストラが担当。

 

 

あらすじ

 

・高校二年生の女子高生ミクル。ある日彼女は謎のペンライトを拾う。

 だがそれは未来の技術で出来た、光る、鳴る、の変身アイテムだった。

 悪の秘密結社"アサクラー"によってミクルが突如襲われた際に、偶然にも彼女は魔法少女として覚醒した。

 果たして魔法少女とは何なのか、そして"アサクラ―"の狙いとは!?

 非合法に仕入れたミクルの銃が今日も悪を撃ち倒す!』

 

 

 

 

 

 

……どこから突っこめばいいんだ?

だいたいな、高校生の俺たちが"魔法少女"だなんて言ってもな、通用しないんだよ。

世の"魔法少女"を冠する作品の大半が小学生かどうかって感じなんだぞ。

それに俺が出るようだが、軍人で故人って何だ。

どうやって死んだんだ。世界観がわからん。

まあ、ハルヒの意味不明な内容よりはまだわかりやすくていいが。

それにしても"アサクラー"って、おい。思わず読んでて噴き出しかけたぞ――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――何やら俺と朝倉さんが馬鹿にされたような気がする。

 

 

大方キョンが俺の渡した設定集を読んで文句しているのだろう。

だが脚本にしても原作ではまるで存在してなかった全編アドリブ状態なわけで、作品としては成立させたつもりだ。

涼宮さんと相談した時も。

 

 

「う~ん、魔法少女ねえ……。悪いとは言わないけどありきたりだと思うわ」

 

「それは違うよ涼宮さん。朝比奈さんの魅力を前面に押し出すには、まずはわかりやすくしないといけないんだ」

 

「あたしたちは高校生よ? コスプレさせるにしてもみくるちゃんのエロさが大切じゃない。ムラムラっとしたいのよ」

 

「高校生"だからいい"んじゃあないか! あの朝比奈さんが魔法少女だなんて幼稚な恰好をするんだ、その背徳感だけで客は来てくれるね。そしてこの作品は観客をカタルシスへ誘ってくれる」

 

「……そうね。まあ、ストーリーもしっかりしてるし、台本も少し弄ればいいと思うわ」

 

「流石だよ監督」

 

と謎の話し合いになってしまった。

まあ、詳しい内容については上映会まで伏せさせてもらうよ。

 

 

 

 

俺が朝倉さんのオムライス弁当を食べ終わってのんびりしていると。

 

 

「よくあんな話が作れるわね」

 

朝倉さんが微妙な表情でそう言ってきた、

一応彼女にもルーズリーフについては見せているがその時は十分近く朝倉さんは無表情になってしまった。

ハイライトが消えたあの顔を思い出すだけで恐ろしい。

何が気に入らなかったんだろうか。

 

 

「涼宮さんの意見を基にアレンジしただけだよ」

 

「それにしても私を出す必要はあったのかしら? そもそもあなたが出てないじゃない」

 

「オレはいいんだよ。映像編集なんかもするつもりだし、台本も書かなきゃだからね」

 

「出来栄えは期待していいのかしら?」

 

「こっちは朝倉さんの迫真の演技に期待しとくよ」

 

演技という点において朝倉さんは長門さんより頼りになるだろう。

とりあえず、涼宮さんが無茶を言って現実が無茶苦茶にならなければいいけど。

 

 

 

 

 

……いや、無茶苦茶になる点においてはこの時点から水面下で進行していたのだ。

そして。挙句の果てに、現実まで無茶苦茶にされてしまう。

 

 

 

 

 

 

次の日の昼休みの話をしよう。

元々作りかけていた台本を仕上げ、ワードソフトに打ち込んだので原稿用紙に印刷でもするかと考えていたところ。

いつもの男子四人でメシを食っていた所涼宮さんがやってきて。

 

 

「キョン、ついてきなさい!」

 

と言ってキョンを引っ張ってさっさと消えてしまった。

 

 

「何だったんだありゃ?」

 

「涼宮さんが手に持っていたビデオカメラが気になる。オレもちょっと行ってくるよ」

 

そして悪い予感ほど見事に的中する。

涼宮さんがやって来たのはなんと放送室で。

 

 

「大変だわ! 緊急事態よ緊急事態!!」

 

と叫びながら放送室特有の分厚いドアを押し開ける。

まだ昼の校内放送は始まっておらず、準備中だった局員たちは唖然としている。

 

 

「……な、何ですか?」

 

「大変だわ、今すぐ全校中に知らせなきゃまずいのよ! じゃないと恐ろしい事になるの!!」

 

「もしかして火事とか!?」

 

「いいから早く、マイク」

 

キョンは置いてけぼりを食らっている。

まあ、俺はだいたいの察しが付いた。ビデオカメラを用意している辺り放送がしたいのだろう。

 

 

「ちょっとどいてくれるかな」

 

とミキサー近くにいた放送局員に言うと、俺は勝手に椅子に座って放送の準備をする。

放送機材を扱った経験はある。前世では高校の放送局員をやっていたからね。いやあ懐かしい。

涼宮さんはカメラにケーブルを繋げ終わると俺に合図をした。キューサインを送ってマイクのボリュームを上げていく。

 

 

『ここで一大ニュース! 全校生徒の皆さん、SOS団からのお知らせよ。まずはテレビを付けてチャンネルを校内放送に切り替えてちょうだい』

 

数秒の間を置いて涼宮さんはビデオカメラを再生する。

内容は何だろうかと思うと放送局員が確認用にモニターを付けてくれた。

すると一昨日行った商店街をバックに、メイド服の朝比奈さんと、クラスイベントの占いで使うらしい魔女装束の長門さんが映し出された。

……スポンサーと言っていたからな。コマーシャルだろう。

ビデオカメラを貰った電器店の宣伝が終わると再び涼宮さんはマイクに語りかけ。

 

 

『以上、スポンサーからの告知でした。で、ここからが本題だから』

 

モニターが暗転。壮大なBGMと共に一枚絵に切り替わる。

 

 

「SOS団プレゼンツ、【未来系魔法少女 アサルト×ミクル】 文化祭にて上映予定! ……だぁ?」

 

キョンは口をあんぐり開けている。いや、俺もここまでやるとはね。

昨日部活終わりに朝比奈さんと長門さんを引き連れていなくなったのは見てたけど、こんなCMを撮影しに行ってたのか。

 

 

『そういうわけだから。文化祭はぜひSOS団自主製作の大作を見に来てちょーだい!!』

 

そう言ってマイクから手を放す。要件は済んだらしい、俺はミキサーの電源を落としといた。

しかしこの場にはキョンより現状を訴えたい人物が居た。

眼鏡をかけた青年。どうやら他局員の様子からするに彼が局長らしい。

 

 

「あ、あなた達! 何してるんですか! 勝手に放送室に来て、わけがわからない放送して、ここは学校のためにあるんですよ!」

 

気持ちはわかる。俺もかつては局員だったからね。

キョンは涼宮さんをフォローする気が無いらしいし、この場で揉められても困る。

今回も俺が誤魔化すとしよう。

 

 

「あなたが局長さんですか?」

 

「ああ、そうだが」

 

「オレは放送局の活動に詳しいから言わせてもらうけど、この学校の放送局は駄目だね。向上心が無い、アナウンスのレベルも低い、ただ曲を定期的に流すだけ、なあなあに活動してるのは見なくてもわかるよ」

 

「な、何だと……!」

 

「こう言えばわかりますか、意識が低いと言ってるんだよ無能。今は学校祭期間だ、それなのにいつも通りに"お昼の校内放送"だあ? 笑わせる。内容に工夫がない。体育祭の時もそうだったが、取材したり、関係するゲストを呼んでインタビューすれば生徒は学校行事に関心を持ってくれるでしょう。ここに置かれている機材は飾りですか?」

 

「ちょっとお前!」

 

男子局員に肩を掴まれたが俺は無視する。

 

 

「そんなんで、あんた達は学校のために活動してると言えるんだろうな? だったらコンクールで入賞ぐらいしてくれ。見たところ、賞状は飾られてないみたいだけど」

 

「それは……」

 

「普段から意識が低けりゃ結果はついてこないさ。残念ながらあんた達がオレ達をどうこう言っても仕方ない。方法はさておき、オレ達は文化祭の盛り上がりに貢献したよ」

 

「そうよ、これは学校のための放送なんだから。この情報を知らなかったら人生損してるわ」

 

部長は何も言ってこなかった。

俺は肩を掴んだ男子局員の手を払い言う。

 

 

「まずはしっかり発声練習をする事をお勧めするよ。今の君たちより涼宮さんの方がよっぽど放送向きだ」

 

最後に涼宮さんが「またCM流しにくるからね~」と言ってこの場は終わった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやあ驚きましたね。何事かと思いました」

 

そう笑顔で語るのは古泉だ。

放課後の文芸部部室。まあ、人数分の台本は明日にでも渡そう。

原作ではノロノロ撮影してた気がするからな。

編集だって映像だけじゃなく音声まで含まれているのだ。

手直しは時間がかかるに越した事はない。

 

 

「どうよ。これで当日は大盛況間違いなしだわ」

 

「なかなか面白かったけど、無茶はよくないと思うな」

 

「わかってるわよ涼子。とにかく、完成が待ち遠しいわね!」

 

これは本当にいつの間にかなのだが、涼宮さんは朝倉さんを下の名前で呼ぶ程度には親しく思っているらしい。

未だに朝倉さんと呼んでいる俺がなんだか情けなくも思えてくるね。

 

 

 

 

と、けっこう呑気してた俺ではある。

しかしキョンにかかってきた電話の内容で呑気も出来なくなってしまった。

 

 

「――おい、ハルヒ。CMで流した商店街の電器店なんだがな……。北高の生徒が大挙して押し寄せてきてるらしい」

 

嫌な予感しかしない。

涼宮さんは「コマーシャルが大うけしたわね」と喜んで。

 

 

「さ、明日から撮影開始だから。今日はもう解散でいいわよ!」

 

と帰ってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

要するに俺の一番の油断というのは対"涼宮ハルヒ"における認識の甘さに他ならない。

脚本がよくなろうと好き勝手するのは目に見えていたはずだ。

それがまさか本編より前のCMについても力を発揮するとはね。

長門さんが言うには。

 

 

「人間には言語だけではなく記号化された映像もメッセージとして受け取る力がある」

 

「はあ? あの映像のどこに記号なんかあったんだ。いつぞやのホームページのようなものは見えなかったぞ」

 

「テレビの映像は本来数字の羅列に過ぎない。涼宮ハルヒが広告を練った以上、何があっても不思議ではない」

 

「サブリミナル効果ってヤツかな」

 

「そう」

 

サブリミナルメッセージ。

人間の目や耳でなく、直接潜在意識に働きかける効果であり、一種の洗脳とも言える。

 

 

「昔アメリカで用いられたことがある広告手法さ。一般の映画フィルムは一秒間に二十四コマなんだけど、その中で各所にコーラが映されたコマを挿入する。一秒間に二十四分の一だぜ? 目で捉える事は不可能だ。そして次第に映像を見ていた観客はコーラが飲みたいとか、喉が渇いたとか言うようになったそうだ」

 

「それが本当なら、そんな事をして大丈夫なのか?」

 

「大丈夫じゃあないから話してるのさ。実際この手法はもう禁止されている。知らず知らずのうちに見てる人へ暗示をかけてしまうからね」

 

「おい、ハルヒはまだCMを流す気でいるんだぞ」

 

「どうもこうもないさ。あの電気店だって客が入ってまさか嫌って事はないでしょ。迷惑にしては可愛いもんだよ」

 

「それはそうだが……」

 

「とにかく、我々は目先の撮影に集中しましょう。涼宮さんの気分が良ければ何事もないはずですから」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――古泉よ、何事もあるから涼宮ハルヒはやっかいなのだ。

 

 

 

 

 

 


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