異世界人こと俺氏の憂鬱   作:魚乃眼

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第五話

 

 

 

 

 

 

 

 

 

情報化だの言っていた涼宮さんだが、パソコンを使って何がしたかったと言えば。

SOS団のホームページ作りであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

原作ではキョンが『ホームページにようこそ!』というHello worldレベルの出来のものを作っていたはずだ。

けれども、俺はホームページ作りの心得が多少ある。

よって俺が作成する事にした。仕事でやった事はないがHTMLぐらいは知っている。

そして、多少の試行錯誤を経てホームページが完成した。

でっちあげの内容を書くのも妙で、しかし個人情報に繋がる情報はあまり多く載せたくない。

俺は文芸部としての活動についてや、適当に調べた都市伝説なんやらについてのまとめをホームページに掲載する事にした。

無難である。

いわくつきのロゴについてはキョンに任せる。

 

 

 

 

そんなパソコンにまつわる一連の作業は手間でもなんでもなかったので気にすることではないのだが。

俺がホームページを作成した次の日の放課後に、涼宮はとんでもない事を決行した。

 

涼宮はこれまたどこからか調達したバニーガールのコスプレを無理矢理に朝比奈さんに着させ、自分もまたそれに着替えると、宣伝用のチラシを持って校門の前でSOS団の宣伝活動をしたのだ。

 

オー、クレイジー。

 

その活動は教師たちに邪魔されるまでの約十数分しかない短い時間ではあったが、学校中に広がり、伝説となるには充分すぎる時間であった。

涼宮による強引なストリップまがいの強制や、教職員の説教といったショッキングな出来事で次の日、朝比奈さんは学校を休んだ。

 

ご愁傷様です。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「キョン、明智……いよいよもって、お前らは涼宮と愉快な仲間たちの一員になっちまったんだな……」

 

休み時間、谷口が憐れみすら感じられる口調で俺とキョンに言った。

 

 

「涼宮にまさか仲間が出来るとはな……。やっぱ世間は広いぜ」

 

「ほんと、昨日はビックリしたよ。帰り際にバニーガールに会うなんて、夢でも見ているのかと思う前に自分の正気を疑ったもんね。このSOS団って何なの? 何するとこ、それ」

 

手に持った宣伝用のチラシをヒラヒラさせて訊いてくるのは国木田だ。

 

そう質問されたところで何かをするかと言えばどうもこうもないとしか言えない。

せいぜい実績と言えるのもコンピ研からパソコンを頂いたぐらいである。

「不思議なことを教えてくれればそれを調査、解決します」

俺はそんな事をホームページに書いた気がする。さながらゴーストバスターズだな。

実際に涼宮のあずかり知らぬ所でそれを行うのだから間違ってはいない、よな?

 

 

「面白いことしているみたいね、あなたたち。でも公序良俗に反することはやめておいたほうがいいよ。あれはちょっとやりすぎだと思うな」

 

俺の後ろの席の朝倉涼子にまで釘を刺される。

刺させたのが釘でよかったよ、いや、マジで。

一言だけ「善処するよ」とだけ言った。この台詞の多さに最近の俺はまるで政治家のようだ。

 

 

当の涼宮さんはそこまでやっても宣伝不足だと思っているらしく。ビラ配りを途中で邪魔され、今日の放課後になってもまるっきりSOS団宛のメールが届かなかったのが証拠である。

 

つまり、涼宮ハルヒはイライラしていた。

 

 

「なんで一つも来ないのよ!」

 

不機嫌な涼宮さんに対してキョンは「昨日の今日だから仕方がない」と気休めを言う。

 

ただ、俺のホームページの出来栄えがいいのかアクセスカウンタはそこそこ回っておりこんなHPの割に100の桁に突入している。

単なるカウンタではなく、同じIPの人は一日に一回しかカウントアップされないので、まあまあの成果ではなかろうか。

ログを見ても色々な人が来ているのがわかった。

一般人からすると、ただのミステリオタクのHPでしかないが、コアな奴にウケたのかもしれない。

とくにチュパカブラについてのページはかなりの力が入っている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

謎のバニーガールズとして認知を受けてしまった二人組みの片割れである朝比奈さんは、けなげにも一日休んだだけで次の日には復活し、部活にも顔を出すようになった。

なかなかのメンタルタフネス、俺も見習わなくてはならない。

 

今はキョンが自宅から持ってきたオセロで時間を潰している。1勝1敗でとんとん。

長門は相変わらずの読書である。今度、興味のある本の見つけ方を訊いてみようと思う。

オセロが第3ラウンドに突入した時に、朝比奈さんがポツリと漏らす。

 

 

「涼宮さん、遅いね」

 

「今日、転校生が来ましたからね。多分そいつの勧誘に行っているんでしょう」

 

「転校生……?」

 

「九組に転入してきた奴がいまして。ハルヒ大喜びですよ。よっぽど転校生が好きなんでしょう」

 

俺も初耳である。谷口も特に話してなかったが、男だから興味がないのだろう。

 

 

キョンと朝比奈さんがそんなやりとりをしていると、長門が俺の横に来て、じっと盤面を見つめていた。

どうやらオセロに興味があるらしい。

 

俺が席をかわり、キョンが長門にオセロを説明しながら対戦していると、諸悪の根源である涼宮が新しい生贄を連れてきた。

 

重役出勤である。

 

 

「へい、お待ち! 一年九組に本日やって来た即戦力の転校生、その名も」

 

「古泉一樹です。よろしく」

 

そう名乗る細身の男はさわやかなスポーツ少年といった外見で、間違ってもオカルトやミステリーに興味がある人材だとは思えない。

身長も高く、俺やキョンより上なのが窺えた。

 

そしてその笑顔からは、涼宮に連行された事への不満が一切窺えない。

 

 

「ここ、SOS団。わたしが団長の涼宮ハルヒ。そこの四人は団員その一と二と三と四。ちなみにあなたは五番目。みんな、仲良くやりましょう!」

 

ちなみに、団員その一がキョンで二が長門、三が俺で四が朝比奈さんである。

数字で呼ばれるのは刑務所ぐらいにしてほしい。

 

 

「入るのは別にいいんですが、何をするクラブなんです?」

 

「教えるわ。SOS団の活動内容、それは、」

 

大きく息を吸い込み、しっかり間を作る涼宮。なんとも芝居がかっている。

だが、ここら辺のやりとりなど俺はすっかり忘れている。

どんな活動内容なのだろう、後でホームページを更新する必要があるかもしれない。

 

そんな俺の呑気な考えと裏腹に涼宮は驚くべき真相を吐く。

 

 

 

「宇宙人や未来人や超能力者、ついでに異世界人を探し出して一緒にあそぶことよ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なるほどね。…………って、俺はついでかよ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

呼び寄せた張本人におまけ扱いとややショックな俺を尻目に部室の時は止まっていた。

キョンは呆れ顔だが朝比奈さんは完全に硬化していた。

目と口をあけ涼宮を見つめたまま動かない。

長門も同様に、首を涼宮へと向けた状態で動作が止まっている。

 

古泉一樹は微笑なのか苦笑なのか驚きなのか判断しにくい微妙な表情で突っ立っていた。

そして我に返ると「なるほど」と一言だけ納得したように呟き。

 

 

「いいでしょう。入ります。今後とも、どうぞよろしく」

 

何ともさわやかな笑顔だった。

 

 

 

 

 

その後は各々が古泉一樹と自己紹介をした後に、学校を案内すると言った涼宮が古泉を連れ出し、朝比奈さんは用事があるからと帰ってしまい、部室には俺と長門とキョンの三人が残された。

 

キョンは「はぁ」とため息をついた後に「じゃあな」と一言こっちに声をかけて鞄を掲げた。

すると長門が「本読んだ?」とキョンに質問した。キョンは思わず足が止まったようだ。

 

 

――そういえば今日だったか、キョンが長門の家に行くのは。

別に変な意味ではない、長門が自身の正体について語るのだ。

この時点でキョンは信じないが。 

ともすれば近いうちに俺も長門に呼び出されるかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして俺のその予想は、まさかの翌日に的中する事になる。

 

古泉一樹が加入した翌日、涼宮がSOS団初ミーティングを行い、明日の土曜日に市内散策をすると言い出した。

俺はいよいよ楽しくなってくるな、などとのぼせていたら、帰り際に長門が俺に本を手渡し「読んで」とだけ言った。

マジか。

本には栞がはさんであり、『午後七時。光陽園駅前公園で待つ』と書いてある。

 

明日は市内散策のため九時に駅前集合だが、遅くまで働き朝早くに出勤など日常だった。

よって夜の外出に特別な抵抗はなかった。

ただ、両親からは「夜遊びもほどほどに」と微妙な表情をされたが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんなこんなで長門と合流し、彼女の部屋がある分譲マンションまでやってきている。

俺の夢はこんなマンションのセキュリティとして、警備室にのんびり居座る生活か、もしくはマタギとして山で静かに暮らす事だ。

銃の免許取得はアホなぐらいお金がかかるから、マタギはまず無理だろうが。

 

 

俺が自由な生活に憧れていると、いつの間にか長門の部屋である708号室の前に来ていた。

ドアを開けて「入って」と言われるのでそれに従う。

 

リビングにはコタツ机が一つ置いてあるだけで他には何もない。

窓にはカーテンすらかかっておらず。十畳くらいのフローリングにはカーペットも敷かれていない。

居るだけで淋しくなってくる部屋である。

 

 

コタツに座ると、長門はお茶を出して俺の正面に座った。

熱いお茶である、確かに夜に出歩いて身体がやや冷えるのでありがたい。

俺は一口すすると話を切り出した。

 

 

「――それで、オレに何か用事があるんだよね?」

 

「話」

 

わざとらしくと俺はとぼけるが、長門がそれに気づくことはないだろう

 

「涼宮ハルヒのこと」

 

背筋を伸ばした綺麗な正座で、

 

「それと、わたしのこと」

 

口をつぐんで一拍置き、

 

「あなたに教えておく」

  

話すペースがゆっくりなのは構わないが、帰りが遅くなりすぎると流石に明日に響く。

そんな俺の思いと関係なしに、長門は淡々と説明していく。

 

 

 

 

俺はその間聞くだけだったのだが、数十分にわたる長い説明を要約する。

 

 

涼宮と長門は性格に普遍的な性質を持っていないという意味ではなく、文字通りの意味で大多数の人間とは違う、普通の人間ではない。

 

長門有希は銀河を統括する情報統合思念体によって造られた、対有機生命体コンタクト用ヒューマノイド・インターフェースで要するに宇宙人。

三年前に創られた長門は涼宮ハルヒの観察と報告が任務。

 

涼宮ハルヒはよくわからないが凄い能力を持っていてとにかく情報で宇宙がヤバいらしい。

曰く、自律進化の可能性。

 

 

「産み出されてから三年間、わたしはずっとそうやって過ごしてきた。この三年間は特別な不確定要素がなく、いたって平穏。でも、最近になって無視出来ないイレギュラー因子が涼宮ハルヒの周囲に現れた」

 

「……」

 

その一つはキョンだ。長門じゃなくても、涼宮とまともに話し合えるのを見ただけでキョンは凄い人間だと思うよ。

鍵ってのはいまだによくわからんが。

 

 

「もう一つのイレギュラーは、あなた」

 

 

 

 

涼宮ハルヒの異常性に普通の人間は耐えられないらしい。

あいつは魔物か? じゃなきゃジャンプの某生徒会バトル漫画の登場人物か。

涼宮は、自分の都合の良いように周囲の環境情報を操作する力があり、ただの一般人である俺は本来、文芸部で涼宮とエンカウントした時点で排除される。

これが筋書きらしい。……だから長門は俺の文芸部への入部を意に介さなかったのか。

 

 

「だけどあなたは今もあの部室に居る。何故?」

 

「……」

 

これは意外な落とし穴である。こんなところから俺の異常性が露見するとは。

おそらくだが、朝比奈さんや、前から涼宮を監視していたであろう『機関』

それに所属する古泉も俺に対して何かしらの思うところがあるはずだ。

 

 

ここですっとぼけるのも構わないだろうが、涼宮が俺を排除しない限りは向こう三年以上の付き合いをすることになるのだ。

今後の信頼関係のためにある程度は話す覚悟をする。原作知識については語らないが。

 

 

 

「長門さん。涼宮が入学してきた時、自己紹介で何て言ったか知っているか?」

 

「……」

 

「ただの人間に興味はない、宇宙人、未来人、異世界人、超能力者がいたら来い。だってさ」

 

「……」

 

「仮に涼宮がそいつらと遊ぼうと願う。すると涼宮の、オブジェクトを操る能力によってその願いが実現するわけだよね。その結果、長門さんはSOS団に居るんでしょ? つまりそういうことじゃないかな」

 

「……あなたも涼宮ハルヒに望まれた?」

 

「長門さんが宇宙人なら、オレはさしずめ異世界人かな」

 

「……」

 

 

暫く無言の時が続いた。恐らく親玉と長門は交信をしているのかもしれない。

文字通りのイレギュラー、空席である六人目のSOS団員、異世界人の俺に。

 

 

だが、俺はその無言を乾いた笑いによってかき消した。

長門は相変わらずの無言である。

 

 

「ごめんごめん。あぁ、面白くってさ」

 

「……?」

 

「よくできたハナシだ。その設定で何か作品が書けそう。長門さんのおかげでガンガン創作意欲が湧いてくる。でも、オレには宇宙だの情報だの、何の事だかサッパリわからないんだよ」

 

「……」

 

 

長門は無表情ながら、どこか不思議さと残念さを感じる視線でこちらを見る。

 

 

そもそもこいつら宇宙人勢が俺の正体をあらかじめ判らなかった以上は、

こちらがネタバラししない限りは真偽を確かめられない。

異世界人としての証拠となるものはあるが、原作知識は最後の切り札。

奥の手の中でも一番奥だ。また、ほかの方法は今披露するわけにはいかない。

まだ時期が早いからである。

 

 

 

「貴重な体験だったよ、うん。今後も何か思いついたら教えてほしい。最近はライトノベルなんかも注目されているみたいだから、卒業したらそういう進路もありかもしれないね」

 

「そう」

 

「じゃあ、そろそろ御暇するよ。明日も早いし」

 

「わかった」

 

長門は諦めたらしく、ただ、涼宮と自分について伝えられただけ満足なのだろう。

去ろうとする俺を止めなかったが、最後に俺にこう言った。

 

 

 

 

「情報統合思念体が地球に置いているインターフェイスはわたし一つではない。統合思念体の意識には積極的な動きを起こして情報の変動を観測しようという動きもある。あなたは鍵ではない、しかしあなたにも危機が迫るかもしれない」

 

 

どうも穏やかな台詞ではない。

というか、今日の問答で俺も完全にターゲットの仲間入りだろう。

情報は他の宇宙人仲間とも共有してるはずだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

……なんだか、だんだん長門の家に行った事を後悔してきたが、

俺はそれを悟られないように「どうも」と言い残して家に帰った。

 

 

 

 

 

長門から渡された本は、明日の散策の時にでも返そう。

 

 

 

 


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