異世界人こと俺氏の憂鬱   作:魚乃眼

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第六話

 

 

 

 

 

 

 

 

 

前世でもよほどの事がない限り休日出勤などなかったが、このSOS団という集まりにおいてそれを言ったところでしょうがないのである。

 

駅前は家から近いわけではないのだが、遠いわけでもない。

せいぜいが片道数十分かかるかどうかな上に、不法駐輪するのもあれなので、徒歩で向かう事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺は昔からあらゆる移動手段の中で徒歩が一番好きだ。

地に足を付ける考え方を常にしたいという願掛けの面もあるが、そこまで乗り物が好きじゃないのだ。

何となくだが。

 

 

 

 

程なくして九時から三十分以上も前には到着した俺だが、その時にはもうキョンを除く全員が揃っていた。なにこれこわい。

こいつらは時間遵守の意味をはき違えてるんじゃあないのか?

自衛隊でそんなに規定時間の早くから行動したら、かえって腕立て伏せやランニングなどの罰が課せられるんだぞ。

 

俺は早起きが習慣づいていて、朝五時には起きるので徒歩でも間に合う。

ちなみに昨日は遅くに帰宅し、今日は朝早くに出かけるいう俺を、母はまたしても生暖かい眼差しで見たのだが、「部活だよ」という俺の言い訳はたいして信用されていなかった。

そりゃあ文芸部に入部したとしか言っていない、これも当然であるが。

 

 

しかし、貴重な私服姿である。

涼宮は裾が長いロゴTシャツとニー丈デニムスカート、カジュアルだ。

 

朝比奈さんは白いノースリーブワンピースに水色のカーディガン、バレッタで後ろ髪をまとめていて、手には小さなポーチを持っている。うむ。

 

古泉はピンクのワイシャツにブラウンのジャケットスーツ、えんじ色のネクタイを締めており、とてもスタイリッシュだ。

……高校生とはとても思えないファッションレベルの高さである。

 

俺はと言うと青のジーンズに上は黒を基調としたTシャツとライトグレーのジレ。

そして長門は説明不要、いつものセーラー服だ。

 

 

そして俺が到着してから二十分と少しでキョンは到着した。

キョンの私服は青のロングパンツに白黒ラインのインナー、アウターにグレーのジャケットと落ち着いた服装だが、これも高得点だろう。

 

 

 

 

その後とりあえず喫茶店に入り、一番遅かったキョンは全員に一品を奢らされる事に。

俺は無難にチーズケーキを奢ってもらい、ウィンナーコーヒーをプラスする。

ひとしきり全員がオーダーを平らげた後、いよいよ散策の班決めが行われる事になった。

原作では2:3のメンバー比率だったが俺の存在により現在団員は六人なので、二人ずつでの行動である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「明智さんは、どこか行きたい場所はありますか?」

 

記念すべき最初の市内散策の相手は、なんと残念ながら野郎で、古泉だ。

 

キョンは原作通り朝比奈さんと、涼宮は長門とだ。

俺は009の大気圏突入シーンを思い出しつつ、どうもこうも、行きたいところは特にないよと答えると。

「とりあえず歩きましょう」と言われ、古泉を先頭にぶらぶら歩くことになった。

 

 

 

やがて、公園のベンチにすわって休憩する事にしていたら、不意に古泉が「話があります」と切り出した。

 

 

「何かな?」

 

「あなたは昨日、部活終わりに長門さんに呼び出された。そこでおそらくですが、涼宮さんを取り巻く環境について様々な説明を受けたはずです。違いますか?」

 

俺の事、正確には長門の事も監視しているようだ。

正確には監視しつつされつつといった関係なのだろうが。

 

 

「宇宙人がどうこうって話? まさか、それは転校生の古泉にも知られてる設定なのかな」

 

「いえ、現実ですよ。信じられないでしょうが。あるいは知らないふりという線も考えられますが、それはどちらでもいい事です」

 

「……」

 

古泉は相変わらずの笑顔である。

だがな古泉君よ、日本人はそういうニヤニヤ顔のせいで外国人から気味悪がられているんだ。

あまり多用は禁物だぞ。

俺は黙り、古泉は話を続ける。

 

 

「僕も長門さん同様に、いわゆるただ者じゃありません。正確には違いますが、涼宮さん風に言いますと、そうです、僕は超能力者です」

 

「なるほど。涼宮ハルヒが注目した謎の転校生、その正体は超能力者。……悪くないね、いいんじゃないかな」

 

「ありがとうございます。僕の能力は非常に限定的でして、今この場では残念ながら証拠をお見せできません。これは、機会があれば披露しますので楽しみにしてて下さい」

 

 

俺の皮肉に対し、どこがありがたかったのかわからない古泉は感謝を述べた。 

だがな、スプーン曲げぐらいじゃ俺の心は動かんぞ。

 

 

「実のところ、急に北高へ転校する予定はありませんでしたが、状況が変わりまして。まさか長門さんと朝比奈さんが簡単に涼宮ハルヒと結託したのは驚きです。それまでは外部から観察しているだけだったんですが、抜き差しならない事態になる前に僕が送り込まれたのです。どうか気を悪くしないで下さい。我々も必死なんですよ」

 

「その口ぶりじゃ、まるで古泉以外にも超能力者が居るみたいだね」

 

「ええ、正確な人数はわかりませんが十人居るかどうかでして、その全員が僕の所属する『機関』に属しています」

 

『機関』とは、どこぞのマッドサイエンティストも納得の中二設定だ。

しかしその『機関』も涼宮が望んで出来たものだから、痛々しいのはあいつもなのだ。

何か正式名称はないものだろうか。

 

 

「『機関』の最重要事項は涼宮ハルヒの監視です。はっきり言いますと、このためだけに発生したようなものです。そしてお察しの通り、『機関』のエージェントは僕以外にも北高に潜入済みです。僕は追加要員として来ました」

 

「監視だの潜入だの、穏やかじゃないね」

 

「ええ、むしろ穏やかじゃないから僕が送り込まれました。どうにも厄介な状況になりつつありまして」

 

「厄介って?」

 

「我々SOS団というグループの中で、あなたと彼は一般人という点において異端です。実際にその真偽を検証できませんが、表面上ではそうですからこちらからすると同じです。ただ問題は別にあります。あなたと彼は現在どこのコミュニティにも所属していません。これが、どういうことかわかりますか?」

 

 

なるほど、多くの化け物の群れに居る少数の人間は化け物からすれば異端である。

俺はかつて読んだ海外の小説を思い出した。

 

それは感染した人間が怪物となるウィルスが全世界に蔓延し、人類が滅びた。

だが怪物を駆逐して荒廃した世界を生き延び、ついに人類最後となった男がいたが、実は怪物たちからすれば彼こそが恐れられる対象の"怪物"であった。

というオチだ。

 

 

 

そんな事が脳裏によぎりながら、俺は古泉の質問に答えた。

 

 

「後ろ盾がない、だろ」

 

「正解です。あなた方二人は僕や長門さん、朝比奈さんのように支援組織がありません。ゆえにいつ、どこで、誰に狙われるのかがわからないのですよ。見捨てるつもりもありませんし、勧誘するわけじゃありませんが、これは警告です」

 

最近は警告されてばかりである。俺はそんなに危険なスポーツマンだったのか。

このままではイエローカードが溜まる一方だ。

 

 

「彼がある種の『鍵』だというのが勢力間の共通認識でして、それが何なのかまではわかりません。しかしながらあなたのことはそれ以上に謎なんです。失礼とは思いましたがあなたについては色々調べさせてもらいました。わかったことはある種の、技術者としての才能があることぐらいです」

 

「ソフトウェアに関しては、多少の知識があってね。文芸部に所属してたのも読書が好きで、本を書くのも好きだからさ。……でも、それだけだ」

 

「まぁ、とにかく、危ない橋を渡らないようにしてください。涼宮さんに害を及ぼさない内は、我々はあなたの味方ですよ」

 

「ありがたいよ」

 

 

そして古泉は「話は終わりにして、探索を再開しましょう。何か見つかるかもしれません」と言い、この場はお開きとなった。

はたして俺のポーカーフェイスはどこまで通用したのだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

昼食ということで再び全員が合流し、ハンバーガーショップへ立ち寄った。

午後も散策は継続するらしく、再びグループ分けが行われた。

言うまでもないだろうが、午前の散策では何の成果も得られませんでした。

 

そして午後にもまさか何かオカルトやらミステリやらの痕跡が見つかるとは思えない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お話したいことがあります」

 

いつになくきりっとした目元でやる気が感じられるこの女性は朝比奈さんだ。

何の因果かは知らないが、俺は順番に全員と面談する羽目になったというわけである。

こりゃ、俺もいつかキョンと面談した方がいいんだろうな。 

 

ちなみに午後のグループは、俺と朝比奈さん、長門とキョン、古泉と涼宮だ。

午前中にキョンと話したであろう河原に、オレと朝比奈さんの二人は居る。

 

 

「ほかの二人からいろいろ話があったと思います。わたしはこの時代の人間ではありません。もっと、未来から来ました」

 

 

 

 

これまた長門同様に長い上に、俺から言葉をかけることもなく、たまに質問をしても「禁則事項です」の一言でねじ伏せられ、俺は相槌をうつだけなので話を要約させていただく。

 

 

未来人が過去の人間と意思疎通をはかるのには制限があり、特定の情報にはブロックがかかる。

フィルタリングだろうか。

 

時間と時間には連続性が本来ないらしい。この辺は要約すらできない程に謎だが、彼女曰く「パラパラマンガ」のようなものらしい。

つまり、一ページの変化は全体に影響しないのだ。

 

朝比奈さんがこの時代に来た理由は、今から三年前に時間振動とやらがあり。

それが原因で三年前のその時より過去に遡れなくなった。

朝比奈さんはその主犯と思われる涼宮ハルヒを監視するのが仕事。

 

 

 

……それにしてもこいつら全員涼宮を監視だとか本当に恐ろしい連中だ。

回るターレットから、ハルヒに熱い視線が突き刺さる。さながらバトリングである。

 

 

「信じてもらえないかもしれませんが、本当のことなんです。あなたがSOS団に居るのにも理由があるはずです」

 

「運命的な話ですか。ロマンチックだと思います。でも、オレは何かに理由があるなんて考え方、嫌いなんですよ。お話として読む分には好きなんですがね」

 

「そうですか……」

 

「見解の相違って奴です。俺はただ、自分の考えに基づいて行動している。そう信じないと生きられない性質でして。生まれつき運はよくないので、理不尽だなって思うような出来事がよくあります。ですが、その度に何かのせいにしていちゃ、自分自身が成長できないと思うんですよ」

 

 

これは俺の昔からのスタンスである。

どっかの小説じゃあないが、向上心は本当に大切だ。 

 

俺のそんな未来人からすれば馬鹿馬鹿しいともとれる発言を真剣に受け止め、朝比奈さんは笑顔で微笑んでくれた。 

 

 

「今はそれでいいです。でも、今後もわたしとは普通に接して下さい。お願いします」

 

「かまいませんよ、たまには奇天烈な話をするのも面白いですし。流石に三人連続は堪えましたが」

 

「一つだけ俺から訊いてもいいですか?」

 

「何でしょう」

 

「未来ではチュパカブラが実在しているかどうか、わかりますか?」

 

「それは……禁則事項ですっ」

 

朝比奈さんは笑いながら俺のギャグに応えてくれた。

 

 

 

チュパカブラが実在するかどうかを本気で知りたかったのは俺だけの内緒だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、涼宮から朝比奈さんのケータイに呼び出しがかかり、駅前に戻る。

ちなみに話をした後の俺と朝比奈さんはショッピングモールに行き、朝比奈さんが様々な服を眺めている様子を遠くで見たり、この時代のおもちゃに興味津々で、最後の方はカフェテリアでコーヒーをすすっていた。

勿論俺の奢りである。

 

 

 

キョンは待ち合わせに三十分以上と、盛大に遅刻したおかげで再び奢らされていた。

 

 

 

 

 

今日、涼宮にとってはまともな成果などなかっただろうが、俺にとってはいい異文化コミュニケーションとなった一日だった。

腹の探り合いは気持ちいものではないけれど。

 

だが、ひと時の平穏もこれで終わりである。

俺が記憶する限りでは、いよいよ来週から話が進むはずだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

とにかく、今後の無事を祈りつつ、その日の俺は帰宅した。

 

 

 

 


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