異世界人こと俺氏の憂鬱   作:魚乃眼

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夜明けの月 その三

 

 

 

 

 

今日から三日前、日曜日の事だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……わざわざついて来てもらってすまないね」

 

「ううん。これもデートよ」

 

冗談にしてはどうなのだろうか。家デートという概念が許されるならこれもありなのか?

そもそも夜の学校に忍び込むなど、俺はともかく優等生で通っている朝倉さん的にいかがなものか。

で、現在は部室棟のSOS団アジト内だ。

 

 

「と言うか、いつぶりかしら? 私があなたの"臆病者の隠れ家"に入ったのは」

 

「さあね。去年の時と違って悪用してるのは確かだよ」

 

まさか生徒玄関から侵入できるはずがない。

いや、朝倉さんに頼れば出来るが移動の手間が面倒だった。

俺の部屋から直接朝倉さんの部屋に行き、そこから部室に仕掛けた"出口"に対応する"入口"を用意した。

マスターキーは俺にしか使えないのだ。

 

 

……でも。

 

 

「何だかんだ朝倉さん頼みになるのがオレには情けなく思えてくる」

 

「私は別に大丈夫よ?」

 

「ま、さっさとしよう」

 

現在俺たちは朝倉さんが展開してくれた不可視遮音フィールドとやらの中である。

いや、正確にはフィールドではないらしいが姿と音がそこから奪えれば同じだ。

仮に教職員が巡回してたとして、まずバレないと言う訳らしい。

でもバレても朝倉さんなら記憶ぐらい消せるんじゃないか?

 

 

「その辺どうなの?」

 

「いいけど、荒っぽくなるわよ?」

 

「オールオッケー。行こう」

 

文芸部を出てそのすぐ横にあるコンピ研部室前に行く。

当然鍵がかかっていたが、言うまでもなく無駄だ。

 

 

「暗いわね」

 

「そりゃそうさ、今は二十三時だからね。どうにかなる?」

 

「はいはい。申請するわ……」

 

すると急に電気が付いた。

宇宙人お得意の空間支配。情報制御だ。

周防と言い、彼女たちの戦闘は陣取りゲームらしい。

 

 

「ふふっ。ここは二人の"世界"よ」

 

「……」

 

魅力的な提案ではあるが、そこまで俺もおのぼりさんではない。

さっさとパソコンを漁る事にしよう。何もストロベるのは帰ってからでいいのだ。

うろ覚えな記憶を頼りに部長氏が座っていた座席を当たる事にした。

 

 

「それにしても、もっと楽に出来るわよね?」

 

「うん」

 

「何もわざわざ出向かなくても、いくらでも攻撃は仕掛けられるわよ」

 

「オレはこれでもかつてセキュリティの資格を持っていた。攻撃方法は知ってるけど、基本的には技術の悪用でしかない」

 

なけなしのモラルだ。

 

 

「結局いけない事をしてるのは同じじゃない」

 

「いいや。まずはハックするにしても、正当なる理由を見つける必要がある。自分への言い訳さ」

 

「私は何をすればいいの?」

 

「必要に応じてでいいよ」

 

原作ではコンピ研は"THE DAY OF SAGITTARIUS III"で索敵モード・オフなんてインチキをやっていた。

彼らとて写真のフィルムがある限り涼宮さんにいいように使われるのは知っているはずだ。

 

 

「彼らとオレらでは、覚悟に差がある」

 

社会的にどこまで追い詰められるかは知らないが、俺の根拠のない悪名よりは酷く思われるだろう。

谷口が言うには、朝比奈さんは北高全男子生徒のアイドルだ。

その彼女に対して痴漢行為を働いたとなれば、本当にフクロにされてしまう。

馬鹿馬鹿しくも思えるが、切実な問題らしい。

 

 

「力で勝てないから自作ゲームでインチキするなんて、情けないわね」

 

「いや、原因を作ったのは間違いなく涼宮さんなんだけどね……」

 

っと、早速発見した。

ソースコードを解析すれば何かわかると思っていたが。

 

 

「"上質剣士"って奴か」

 

別に某死にゲーの話ではない。

俺はある程度、渡されたゲームと彼らが実際に使うゲームが異なる事を予想していた。

案の定、機体から母艦まで、全ての設定値が異なっている。上乗せである。

それに他にもあるみたいだ……。律儀にコメントもしっかり付けている。

 

 

「優秀じゃないか。オレはゲームプログラマーじゃないから何とも言えないが、わかりやすいプログラムを書くのが基本だ。彼らがオレの部下だったらやりがいがあるね」

 

「私たちには低次元の世界だからどうあろうが大差ないわ。数字にしたら十桁かしら」

 

「そりゃ傷つくぜ。事実だろうけどさ」

 

情報が具現化したようなもんだからな。

古泉の超能力者もそうだけど宇宙人って表現は微妙だ。

なんかこう、特殊生命体とかでいいんじゃないかと思った所でトランスフォーマーも宇宙人だった。

 

 

「オレは昔エクセルで某捕食アーケードゲームを再現したことがある」

 

今となっては普通に配布されてたりする。

わざわざ自力で作った意味だ。

 

 

「それって黄色い球の奴かしら?」

 

「よく知ってるね。……速度変化や無敵モードって訳だ。でも遊びにもならなかったけど」

 

「ふーん。とにかくこれで黒だってわかったじゃない、どうするの?」

 

「そりゃいつも通りさ。言わなくてもいいよね?」

 

"どうか"って俺に訊ねる事ほど愚かな事はないのだ。

常に俺の返事は同じなのだから、無意味で無価値だ。

 

 

「だから、具体的な作戦よ」

 

「涼宮さんの言った通り、正々堂々と叩き潰す。やられたらやり返すのさ」

 

つまり、俺もインチキをしよう。バビロニアでも言われてた事だよ。

 

 

「ユニークだわ、これだからあなたと居ると楽しいのよ」

 

「そりゃ貴重な意見だ。……今日はこれだけでいい。一々確認はしないと思うけど、当日までは何もしなくていい」

 

「じゃあ帰りましょ」

 

朝倉さんは腕を引っ張って俺を椅子から引きずり出した。

なんだ、さっさと解散でいいんだぜ。出るだけなら苦労しない。

 

 

「もう遅いからオレは直帰したいんだけど」

 

「今ここで修行をしてもいいのよ? さ、私の部屋に戻るわよ」

 

「……はい」

 

俺の中での逆らってはいけない2トップ。

朝倉さんと涼宮さんだ。多分心はとっくの昔に折れている。

その音はきっと乾いた音だったと思う。

 

 

 

でも、これは自慢だが、朝倉さんは世界一美人だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、ここで画面についての説明をしたい。

ヒットポイント、エネルギー、残段数の他に表示されるものは、周囲のマップ情報とレーダーチャートだけ。

3次元座標を利用したトポロジーレーダーを用いた情報がそのまま戦闘に利用される。点と点の世界だ。

機体や戦艦のグラフィックは存在しない。マップのみだ。ここら辺は餅は餅屋なのだろうか。

自分や敵の攻撃は線で表現されるのではっきり言ってゲームシステムに慣れる必要がある。

モニタで敵は発見できないのにも関わらず、レーダーの表示は視界情報に依存する。

つまり建築物に隠れてる相手やクレバス地帯で高低差があれば相手の発見に遅れる事があるのだ。

いや、本当に面倒なシステムだ。

 

 

「これでいてあっちはインチキしまくってるからな……」

 

「……」

 

誰にも聞こえないレベルの声にならない声で呟く。

聞こえたのは精々宇宙人二人くらいだろうさ。

 

 

 

色々言ってきたが、このゲームの最大のポイントは相手の残HPがわからないという点にある。

要するに死にかけの機体だろうと相手にとっては脅威となり得るのだ。

開始から二分程度経過。俺の隣のキョンの隣、古泉が

 

 

「涼宮閣下、僕の機体のレーダーに敵機の反応がありました。いかがいたしますか?」

 

「距離は?」

 

「このまま接近すればあと20秒」

 

「よし、突撃よ!」

 

「御意」

 

こいつら二人はこんなコントじみたやりとりをよく平気で出来ると思う。

案の定と言うべきか、置物機体のランパートをチョイスした奴は居なかった。

みんな普通の機体であるスペンサー。俺と朝倉さんは速攻が可能なジャッカルを選択。

10分という最大活動時間は魅力的かも知れないが、そこまでこのゲームは補給や長期戦を必要としない。

だいたい長くても30分程度だ。

 

 

「……」

 

「ハルヒ、こっちも反応があった。だが直ぐに逃げて行った……どうする?」

 

「上等兵、あたしを呼ぶときは閣下よ。古泉大尉を見習いなさい」

 

「じゃあ閣下、指示をくれ」

 

「とりあえず探索を続けなさい。深追いしてもあんたならやられるだけよ。あたしはじわじわ母艦を前進させるから、ゆっくり追い詰めるのよ」

 

「へいへい」

 

意外にも個人プレー中心ながらこっちはしっかり連携をとっていた。

普通なら互角の試合になるんだろうさ、だが。

 

 

「おや、敵さんは高機動型のようですね。数発浴びせましたが消えてしまいました」

 

「こっちもだ」

 

な訳である。当然これもインチキの内だろうよ。

……さて、もう少し様子見だな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

武装についてだが、俺と朝倉さん以外はバトルライフルだ。無難である。

というか普通にプレーしてればセミオートだろうがこれ一丁で済む事に気が付く。

だが俺は母艦にある共用残弾の観点からガトリングを選択。

朝倉さんは最初からブレードと変態仕様だ。

 

 

「ふふっ。涼宮閣下、私の方に反応があったわ」

 

「朝倉軍曹さん、やる気か?」

 

「あら兵長。そうね、屠らせてもらうわ」

 

「オレはエネルギーが怖いんで後退しよう」

 

「わかったわ。軍曹、交戦を許可。やっちまいなさい!」

 

「了解よ」

 

その言葉通り、数秒後には本当に撃墜したらしい。

キーボードとマウスの音が異常だった。逆に俺たちがスローモーだと勘違いしてしまう。

俺がかつて見た全国レベルの音ゲーマーを思い出す変態的な手と指の動き。

敵もびびってるだろうな。俺も怖い。

とにかく初撃墜者は接近機体の朝倉さんである。

いや、近接兵装の"カトラス"は彼女のためにあるような装備だからな。

最初からこれ一択で練習してたみたいだし、ナイフとでも思ってるんじゃないだろうか。

 

 

 

そして開戦から十分が経過、朝比奈さんは補給作業に対してわたわたしている。

 

 

「ち、ちょっと待って下さい~」

 

「みくるちゃん、早くしなさい!」

 

「ふぇぇ」

 

因みに朝比奈さんは副長であると同時に砲術長だ。

どっちで呼んでもいいが副長って感じではない。少なくとも土方歳三にはかなわない。

するとキョンが。

 

 

「……ん?」

 

「……」

 

「おい」

 

「どうかしたか?」

 

「いや、見間違いならいいんだがな、レーダーに反応が無い所から急に一瞬出てきた」

 

「隠れてただけでしょ」

 

「それが俺が今居る地帯は平地が続いている」

 

ステルスモードって奴か。

そうだな、そろそろこいつにも説明しとこう。

 

 

「大きな声出すなよ?」

 

「何だ」

 

画面から目を離さず、淡々とした説明をキョンにする。

学校に潜入しただとかの要素は話していないが。

 

 

「……はぁ、どうしたもんかね」

 

「どうもこうもないさ。勝つよ。あった方がいいでしょ、ノートパソコンも」

 

「そうかい。……まあ好きにしてくれ」

 

「でも最後はきっちりお前が決めてくれよ」

 

「何をだよ?」

 

「トドメさ。敵艦撃墜だよ」

 

「別に俺じゃなくてもいいだろ。お前らがやった方が早いんじゃないか」

 

「いやいや、閣下はお前さんに期待しているんだ」

 

「……面倒だ」

 

「大丈夫だって、安心しなよ。露払いはオレたちでやるし、後暫くしたらインチキも打ち止めさ」

 

「そのインチキに対する反撃を何でさっさとやらないんだ?」

 

「はっ。決まってるじゃないか」

 

俺はゲームをそこまでやらないが、これだけは心がけている。

基本的に俺に運が無いからこそ、他人の不幸は見てて楽しいのだ。

自分の手でそうなってくれれば尚良い、蜜の味かまでは知らないがこれが愉悦なのは確かである。

 

 

「呑気してるアホ野郎どもを、絶望の深淵に送り込んでやるのさ。ふははっ」

 

「……やっぱりお前らそっくりだぜ」

 

「お前らって、誰と比較してるんだよ」

 

「お前の大事な軍曹さんだ」

 

「いやいや、まさか、どこがさ」

 

「楽しそうに物騒な話ができるからな」

 

そう言われるとそうかもしれないが、朝倉さんの方が俺と比べ物にならない怖さだ。

二言目には誰か死んでる気がする。本当にナイフが好きなんだろうね、うん、そうしとこう。

というか何でこいつはそんな事を知っているんだろう。基本的に彼女は猫かぶりな筈だ。

するとキョンは落ち着けと言わんばかりの表情で。

 

 

「去年のいつぞやの水中UMAの時だ」

 

「"テティス・モンスター"の時か?」

 

「名前は知らん。多分それだ」

 

水中の敵はあの時だけだったからな。

実際にはデマと呼ばれてるテティス湖のトカゲ怪人。

そんな奴を無理矢理でっちあげられた訳だ。

UMAとしてはどうなんだろう。ホームページに書いたのは俺だけどさ。

 

 

「今でも覚えてるぜ、あの時の朝倉はまるで釣りでもするかのようだった。UMAの腕が千切れては楽しそうだったじゃないか」

 

「戦闘要員だから多少はいいでしょ。基本的にオレは説明係だったし」

 

「なら俺と朝比奈さんは観光客だ。今思えばついていったのは失敗だったがな」

 

「でも貴重な体験だったろ? 偽物とは言えUMAだよUMA。本物なら友達になれるさ」

 

「馬鹿言え、お前は朝倉がいきなり翼を出して空を飛んでもいいのか?」

 

「それはきっと天使だ。いや、もう既にそうなんだけどね」

 

「………」

 

「……そろそろまた補給に戻るよ」

 

気分を悪くしたのなら俺は別に謝らないからな。

そして行動不能だけは勘弁だ、よって3分~4分のペースで撤退する必要がある。

いや、ピーキーだよ本当に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから補給を完了して二分後の事だ。

何やら建造物の多い地帯で敵機の反応があった。

未だに撃墜数1なので、ここらで稼いでおきたい。

 

 

「涼宮閣下、遮蔽物のあるエリアで敵機を捕捉。指示を」

 

「エネルギーは大丈夫なの?」

 

「1分もかからずに終わらせる」

 

「そう、ならいいわ。明智兵長、仕留めなさい!」

 

「ラジャー」

 

だがしかし、敵との打ち合いは明らかにこちらが打点負けしていた。

 

 

「オレの機体が紙装甲なのを度外視してもきついな」

 

敵は俺と同じガトリング装備だがダメージの割合が高い。

秒間10以上は削られている。

 

 

「一旦戦線を離脱。あわよくば広域帯でやりたいんだけど」

 

しかし追跡はなかった。

 

 

「僕の方もやや劣勢ですね」

 

「ちょこまかと、面倒だわ」

 

「……」

 

「み、みなさん頑張ってください」

 

「ええ、勝ちますよ朝比奈さん」

 

そう言えばキョンはどっちの味方なんだろう。部長氏にもどこか同情的だが。

でも、朝比奈さんにとってもあんな写真が公になるのは古傷が開くどころでは済まない。

そしてこちらはじわじわと押されつつある。

 

 

「そろそろ、かな」

 

「……」

 

その言葉に反応して斜め右に座る長門さんがこちらを見る。

責められるのは慣れてるが、俺は攻められるのは好きじゃないんだ。

 

 

「長門大佐、予定通りに」

 

「了解」

 

 

 

 

 

 

 

 

じゃ、お決まりの台詞と行こう。

 

 

 

 

 

 

 

 

「――"プランB"だ」

 

 

 

 

 

ん? プランA?

 

 

……ないよ、そんなもん。

 

 

 


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