異世界人こと俺氏の憂鬱   作:魚乃眼

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第七話

 

 

 

 

 

 

さて、皆さんは原作SOS団の団員について何か考えた事はあるだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

考察というのはサブカルの常でもあり、考察の余地があるというのは面白い。

ただ、伏線を回収しないだとか、単なる思わせぶりというのは萎えてしまうが。

 

 

涼宮ハルヒは絶対的な力の持ち主で、まさに神に等しいとも言える。

 

長門有希は情報操作能力というありえないほどのチートが可能。

 

朝比奈みくるは未来人というだけでかなりの情報アドバンテージが本来あり、TPDDによる時間移動というだけでもかなりの役割だ。

 

古泉の超能力は限定的ではあるが、組織力という点で『機関』は長門と朝比奈さんと充分対抗できるだろう。

 

また、キョンについても原作では何かしらの伏線があり、一部では、佐々木にハルヒの能力を移動するのにキョンの協力が必要という描写からキョンにも鍵としての役割以上の能力があるのではないかと考察されている。

 

 

何が言いたいかというと、SOS団のメンバーはもれなく特異性があるのだ。

 

 

 

では、俺はどうなのだろうか?

そもそもただの原作知識があるだけの凡人が、後ろ盾もなしに原作介入しようなど、不可能と言える。

しかし涼宮ハルヒは俺という異世界人枠の登場を望んだのだ。

あるいはこの世界はその可能性の一つとして存在するのかもしれないが、ここがどういう世界なのかは俺の知るところではない。

 

 

 

 

 

 

とにかく、異世界人として呼ばれた俺にもスキルと呼べるほどの技術があるらしい。

それは前世で俺が知っていたものだったので、使い方の把握にも苦労しなかったが。

 

……まあ、それがあるからこそ無茶な作戦が可能になるんだけど。

特殊な技術が無くても、俺は原作知識でも涼宮ハルヒでも使って何とかしてただろう。

死ぬ覚悟ぐらいはできている。

 

 

これから行うのは、全部、自己満足のための戦いだ。

何故ならば、俺の前世の憧れは異世界に飛ばされた俺がファンタジーな力に目覚めて事件を解決するというものだ。

正義感から行動するわけじゃないけど、身近な人間が死のうとしているのを黙って見てはいられない。

 

故の自己満足さ。

 

 

 

 

 

 

 

 

市内散策後の週明けである月曜日。涼宮さんは部活に来なかった。

翌日の今日、話を聞くところではどうやら「反省会」として、一人で土曜日に回ったコースを再びトレースしたとの話だ。

 

今日は古泉が「アルバイト」で早めに帰宅したらしい。

おそらく巨人相手に格闘しているのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、朝比奈さんがメイド服から着替えるために男子の部活が解散した。

五時三十分ごろ。俺は一年五組の教室の前まで来ている。

意を決して教室の引き戸を開けると、中に居た人物は驚いた顔をしてこちらを見た。

 

 

「こんな時間にどうしたの?」

 

すぐに驚きを取り消し、こちらに笑いかけてきたのは俺の席の後ろの朝倉涼子だ。

青いロングヘアーの彼女は、夕日をバックにしている。

 

 

「どうもこうもないさ」

 

「ふーん。あなた、キョン君と同じ部活よね。彼はどうしたのかしら。私はここで彼を待っているの」

 

「ああキョンか」

 

それならね、と俺は言葉を続け、懐からノートの切れ端を取り出して朝倉に見せる。

すると、再び朝倉の顔は驚きに包まれる。

その切れ端には、『放課後誰もいなくなったら、一年五組の教室まで来て』と書いてあった。

 

 

「彼は、今日、来ないよ」

 

「……あら、それはひょっとしてキョン君の代理として来たって事?」

 

「いいや。キョンはこの紙を見てない。オレが先にキョンの下駄箱からとったからね」

 

 

そう。

今日俺は朝、キョンより早く登校し、彼の下駄箱に入っていたこの呼び出しの紙を彼に見られる前にそこからとった。

流石に彼がこの教室に居る状態で俺が現場に介入して解決できる自信がないからだ。

あいにく、一般人を守りながら朝倉を相手にできるような能力は持ち合わせていない。

 

 

「勘違いさせたみたいだけど、いたずらでやったんじゃないのよ。彼を呼んできてくれる?」

 

「それも"ノー"だ。残念ながらあいつは既に学校を出てる、話は後でいいんじゃないか」

 

演技がかった台詞をポーカーフェイスで並べる。

朝倉相手にどこまで心理戦が通用するかは謎だが、先ずは舌戦というものだろう。

昔の日本の武将も「やあやあ我こそは~」と名乗りを上げるのが戦のルールだった。

 

 

「今日はオレが、朝倉さんに用があるのさ」

 

「ふーん。人の呼び出しを邪魔したのは感心しないけど、いいわ。その前に一つだけ訊いてもいいかしら」

 

「何かな」

 

つまらなそうな顔でこちらを見る朝倉は話を続ける。

 

 

「『やらなくて後悔するよりも、やって後悔するほうがいい』って言うよね。これ、どう思う?」

 

マジかよ、こいつ、やっぱり俺の話を聞く気がなさそう。殺る気充分だよ。

覚悟を決めた事を悟られずに、俺はそれに答える。

 

 

「どう思うか、ね。そのままの意味だと思うけど」

 

「じゃあ、たとえ話なんだけど、現状を維持するままではジリ貧になることは解ってるの、でもどうすれば良い方向に向かうことが出来るのか解らないとき。あなたならどうする?」

 

「そうだな……。朝倉さんは、オレの名字"明智"についてこんな話を知ってるかな。明智の語源は悪に地面の地で"あくち"というらしい。今でこそ日本では悪地といっても、イメージはつかないだろうけど、言い換えると悪地は荒野って意味でね。昔の時代じゃ、道路も水道も整備されていないから豊かな台地が荒野になることもあった」

 

「その戯言にどういう意味があるのかしら」

 

「要するに、オレはそんな名字を背負って生まれた以上。絶望的な状況でも、どこかに活路を見出して生きてきたいんだ。ジリ貧だろうが現状から何かいい手段を見つける。その結果、志半ばにして倒れようと、そこに後悔はないよ。退屈かと思われた高校生活も、涼宮のおかげで楽しくなりそうだしね」

 

「へぇ。でもね。上司は頭が固い。現場はそうもしてられない。どんどん状況は悪化する一方。だったらもう現場の独断で強硬に変革を進めちゃってもいいわよね?」

 

改革というスタンスに肯定的な意見を出され、朝倉はにこやかな表情に戻った。

だが、俺は何も過激な行動を許すという意味で言ったわけではない。

本質はそこじゃないんだ。

どんな絶望的な状況にでも希望を生み出せる人間の心、その素晴らしさを君に伝えたいんだ。

 

 

「それでも。だからといって、人が死ぬ必要は、ないんだ」

 

「どういうことかしら?」

 

「そのままの意味さ。オレが今日、ここに来たのは誰も死なせないためなんだ。朝倉さん、とうぜん君も含めてね」

 

「死なせない? それって何の話?」

 

「とぼけなくてもいいよ、オレも演技はやめるからさ。対有機生命体コンタクト用ヒューマノイド・インターフェース、朝倉涼子さんや」

 

「……」

 

そう言うと、朝倉さんは沈黙して無表情になって立ち尽くす。

そしてそのまま数十秒が経過すると、朝倉は表情を変えずに口を開いた。

 

 

「なぁんだ。あなたには私の計画が筒抜けみたい。イレギュラー、明智黎。文字通りのクロだったわけか」

 

「自分でふっておいてあれなんだけど、名前をネタにするのは感心しないよ」

 

「けれど、正体はともかく、私の狙いを知った以上はあなたにも消えてもらう方が都合がいいの。どの道、彼の次はあなたのつもりだったわ」

 

「野郎をとっかえひっかえか、それも感心できない」

 

「――そう。じゃあ、死んで?」

 

 

俺の戯言をまるっきり無視し、朝倉は後ろ手から隠し持っていたナイフを取り出した。

しょうがない。この教室は彼女の情報制御下とやらで不利だ、"場所を変えるとしよう"

 

右手の一閃をかがんで回避すると、俺は朝倉の右手首を掴んだ。

朝倉は持っていたナイフを落として、もう一方の左手から、いつの間にか持っていた別のナイフ――おそらく情報操作で構成した――で俺に切りかかろうとしたが、それは叶わなかった。

 

 

「な、何!?」

 

いつの間にか、足元に出来ていた黒い水たまりのような、あるいは穴のようなものが、俺と朝倉の下半身をじわじわと飲み込んでいくからだ。

いや、正確にはその中に身体が入っていくというべきか。

その折に生じた隙を突いて、俺は朝倉の左手のナイフを手刀ではたき落とす。

 

 

「大丈夫、こちらから危害は加えないよ。とにかく、話の続きは"向こう"でしよう。ここでやりあうのはオレにとってフェアじゃないんだ」

 

その言葉を最後に、俺と朝倉は一年五組の教室から姿を消した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「殺風景な部屋だが、我慢してほしいよ。粗茶でよければお出しできるけど」

 

 

そこはまるで部屋とすら呼べるか怪しいただの空間だった。

壁紙と呼べるものもなく、天井から壁は全て白。間取りは一般家庭のリビング程度。

あるのは机と椅子と冷蔵庫とキッチンシンクぐらいで、TVもないのだ。

長門の部屋と同じく、この空間から生活臭は感じられない。まるで箱の中である。

 

朝倉は木製の長椅子の横に立ち、ナイフの背で肩を叩きながらこちらを見ている。

相変わらずの無表情である。

 

 

「この空間に送り込まれたのはあなたの仕業ね?」

 

「ああ。とりあえず座ったらどうかな。この空間そのものに、害はない。それにオレを殺すのは話をしてからでも遅くないんじゃないかな」

 

はぁ、とため息をついた後。朝倉は「熱いのを頼むわ」と言って椅子に座った。

こちらの秘めた手札がわからない以上、当面の抵抗は諦めたらしい。

 

 

やかんに水を入れてコンロに火をつける。

俺は朝比奈さんのようにお茶のスキルがないので必然的にティーパックだ。

 

数分後、朝倉に緑茶を入れた湯呑を渡すと再び話をすることになった。

心理戦で相手を威圧する方法の一つは、食事をしながら会話することだ。

よく映画なんかでマフィアのボスがやっているあれである。

しかしながら彼女にそんな手段が通用するとは思えないので今回は没。

 

 

「尋ねたいことがあるの、質問に答えてほしいわ。そして、この空間から解放することを保障するのであれば私は暴れない」

 

「うん。オレが知っている、あるいは答えられる範囲なら質問に答えるよ。ただしここから出られるかは信頼関係しだいさ。脅しは一切通用しないと思ってくれ」

 

「そ。一つ目、あなたは何者かしら?」

 

「はぁ、てっきり情報統合思念体サマのおかげで、この前の金曜日のオレと長門とのやりとりは共有されているんじゃないのかな」

 

俺の台詞に反応して眉毛が一瞬動いたが、未だに無表情のまま「そうね」と返事をする。

こんな状況で紹介することではないが、朝倉のチャームポイントは太めの眉毛である。

 

 

「でも、今は通信を断っているの。本当なら今頃キョン君を殺してるはずだから」

 

「なるほどね。……あの時の会話を知っているのなら話は早い。オレは本当に異世界人なのさ」

 

「どうやら空間転移といい、普通の人間じゃあないのは確かみたいね。ここを解析しようにもよくわからないもの。でも、あなたに関して更に質問するけど、三年前涼宮ハルヒの情報フレアが観測される以前からあなたはこの世界に存在していたわ。少なくとも記録上はね。異世界人に歴史改竄なんてことが出来るのかしら」

 

「さぁて何のことやら。オレに答えられるのは、今居るのが涼宮に呼ばれた結果だから。そうとしか言えない。だた、この前、ある日を起点に時間逆行ができないって話を聞いてね。つまりオレが産まれてからずっとこの世界に存在していたのかという検証もできない。それが事実ならばオレの記録の正確性なんて、ハナから消し飛んでしまう。馬鹿馬鹿しいと思うよ」

 

「ええ。訊くだけ無駄なのはわかってたわ。でも、訊かないでいて後悔したくないもの」

 

嫌味ったらしくそういうと朝倉はようやく無表情を崩し、にこにこ顔に戻った。

思い出したかのように笑うのはやめてくれ。

 

 

「二つ目は、あなたの目的についてよ」

 

目的? てっきり俺がどうやってお前をこの空間に移動させただの、能力に関する質問だとか。

何故朝倉の計画を知ったのかだの俺の情報網について訊くかとばかり思っていた。

 

そんな俺の表情を読んだ朝倉は、「それこそ訊くだけ無駄じゃない」と言った。

おいおい、宇宙人ってのはどっちつかずなもんなのだろうか。

 

 

「目的だなんて言えるほどの大義はないよ。強いて言えば、高校生活を無事に終える事ぐらいかな」

 

「ふふっ。なら何故あなたは今日、キョン君に知られないように工作してまで、私と話すリスクを選択したのかしら?」

 

「さっきも言ったはずだよ。誰も死なせないためだ。あのままだったら、キョンか朝倉さんのどちらかが死んでいた」

 

「彼が私に殺されるのはわかるけど、じゃあ私は誰に殺されるっていうの?」

 

「長門有希。……君に対抗できるのは長門さんくらいだろう」

 

それについて思うところがあるのか、朝倉は黙っていた。

 

 

「そうね、そうかもしれないわ。彼女なら私の邪魔をする理由があるもの。でも、私もただじゃやられないわよ」

 

「とにかく、どうあれ平和が一番なのさ」

 

「ふーん。つまんないわ。ま、私の質問は以上よ」

 

二点だけとは何とも短い質問であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで。そろそろ本題に入ってくれる?私の質問タイムを確保するためだけにここまでしたと言うのかしら」  

 

「わかっているなら話は早いね。オレの要求はいたってシンプルなものさ。『今後、急進派として行動することを止め、涼宮ハルヒ及びその関係者に手を出さない』。これがここから解放する条件だよ。オレを今殺そうとするのは構わないが、その場合同時に、脱出の保証も出来なくなるけど」

 

「……それがどれだけ無茶な要求かわかってるのかな」

 

ほどなくして朝倉さんは困ったような表情になった。

 

 

「私みたいな急進派は少数なの。この地球に存在するインターフェースの大半が、長門さんみたいな観察するだけで融通の利かない中道派よ。……けれど、少数とはいえ、勢力であることには違いないわ。そいつら全員から裏切り者として狙われるなんて御免よ」

 

「長門が居る勢力が大多数なんだろ? そっちに回ればいいと思うけれど」

 

「派閥関係もそう単純じゃないし、何より協力こそしても私をわざわざ助けないわよ。キョン君を狙って行動を起こしたけれど、あなたが教室に来るまでの間、私の邪魔をしようとした個体は存在しなかった。基本的に相互不干渉なの」

 

「やっかいだね……」

 

と渋い顔をする俺に対し朝倉の表情は依然として困っている。

ここから出るためのプランを考えているのだろう。俺の要求についても、おそらく真剣に吟味してくれているはずだが、その場合のリスクは計り知れない。

しかしながら、闘争よりも会話の方が今は重要だと判断しているのだ。

 

いわゆる手詰まりである。

 

 

正直なところ、長門と仲良くすれば万々歳だと思っていたがそうにもいかないらしい。

宇宙人のくせに保身だのしがらみだの、どうにも人間臭い連中である。

これも涼宮が望んだ結果なんだろう。せめて、もっとシンプルな勢力に設定しろよ。

 

そして。この問題を解決すべく、俺はある事を決断した。

 

 

「じゃあさ。朝倉さんの安全が確保できるなら、それも構わないんだね?」

 

「どういうことかしら」

 

「オレが朝倉さんを守るよ。どんなことがあっても」

 

 

今日一番の沈黙が訪れた。

正面に座る彼女は飲みかけのお茶を手に持ったまま、何故かうわのそらな表情である。

何だ、長門を相手にしているより長い沈黙だぞ。つまり俺が頼りないってことなのか。

 

やがて「ぷっ」と噴出した後に朝倉さんは大笑いを始めた。

もしかしなくても宇宙人に現在進行形で馬鹿にされているのか、俺は。

その電波キャラとしての役目は涼宮ハルヒだけで充分じゃないのかい。

 

ひとしきり笑い終えた朝倉さんは「ごめんね」と言い。

 

 

「あなた、自分で何を言ったかわかってるの?」

 

「何だいそれは。オレを信用できないってことかな。誓っていい、オレは朝倉さんを裏切らない。当然だけどSOS団のみんなもね」

 

「はぁ……」

 

残念そうな表情の俺を見て、彼女はやれやれと言わんばかりの溜息で呆れた。

 

 

「いいわ」

 

「おっ」

 

「馬鹿なあなたに免じて、その要求を呑むとするわ」

 

嬉しさのあまり、叫びながら小躍りでもしたい気分になったが、それをするとますます馬鹿にされそうなのでオレは我慢した。

とにかく、原作一巻におけるイベントの一つである『朝倉涼子の死』を回避できたのだ。

そして彼女こそ俺の目的である"助けたかった人"そのものだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺が何故、朝倉涼子を説得してまでこのイベントをぶち壊したかったのか。

正直、前世で最初に原作を読んだときは朝倉涼子というキャラが好きではなかった。

現状や世界を変えたいという思想こそ素晴らしい向上心である。しかし人殺しという、

手段を択ばない行動はテロリストそのもの。そのくせ長門にアッサリ敗北したので、同情しようにもできなかったからだ。

 

しかし、原作四巻である"消失"を読んだときに、俺の考えが間違っていたと気付く。

つまり彼女は単なるかませ犬ではなく、長門有希という存在の対極、影だったと。

確か、作中でもそう表現されていたはずだ。

 

妥協なき自身の生き方に、死に際も彼女は後悔などしていなかっただろう。

だが、それが作者、あるいは涼宮ハルヒのさじ加減でその結果になってしまったのだ。

ここまで原作を掘り下げて考えた時に、俺は初めて朝倉涼子に同情した。

 

俺の前世の生き方に後悔は無いが、あったのは妥協の連続だ。

殉教者である彼女と比べて、オレ自身が何と醜く、同時に彼女が運命という

シナリオに翻弄される何と哀れで美しい女性なのかと思い知らされた。

全ては"演出"、この戯言のためだけに彼女は死んだのだ。

俺が打ち明けない限り、その事実を彼女が知ることはないだろうが。 

 

オレはいつのころからか、彼女を是が非でも助けたいという思いを抱いていた。

そこに希望があるのならば。オレは自分の命を差し出すという最悪の手段、それも考えていた。

もっとも、涼宮ハルヒシリーズは言うまでもなく架空の世界の話だから、しょせんは学生時代の思い出の一つ。

働くようになってからはそんな事も忘れていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

感極まって今にも泣きだしそうな声で俺は朝倉に「ありがとう」と伝えた。

そして、とりあえず今後を話し合おうかと俺が話を切り出す前に朝倉が、「ただし」とそれを制した。

 

 

「その要求を呑むにあたって、こちらから二つ条件があるわ」

 

「……朝倉さんは、条件を出せる立場なのかな?」

 

「あら、別に難しい条件じゃないわ。わざわざ私に中道派に寝返れって言うんだから、つまんない観察だけじゃ嫌になっちゃう。こっちにも面白みが欲しいのよ。それに、今後の信頼関係のためにも必要な条件よ?」

 

再び二つのテーマについての問答らしい。

そこまで言うのならと思い、とりあえず話だけでも聞くことにする。

 

 

「一つはあなたの能力についてよ。教えてくれるかしら。まさか、何も知らない相手に私の命を信用して預けろ。って言うのかしら」

 

そう言われてしまうと耳が痛い。

それに、やはり俺の能力を知りたがっていた。とんだタヌキである。

 

 

「説明の場は設けるつもりだよ。そこで、オレが話せる限りの情報は開示しよう」

 

「話せる限りって?」

 

「奥の手は最後まで使うなってことさ」

 

「ふーん」

 

つまらなそうな表情をする朝倉だが、今は深く訊いてこないらしい。

しかしながら朝倉の表情は全部演技なのだろうか。

原作では人間の感情が理解できないと言っていたような気がするのだが。

単純な話で、俺に見る目がないだけかもしれない。

 

とまあ。さっきも言ったように、死人を出さずにこのイベントを達成でき、何だかんだで俺も日和った思考になりがちだった。

 

したがって次の朝倉の要求に、今度は俺の思考が停止する番になるのだが。

 

 

「二つ目の条件はね」

 

 

「ああ」

 

 

「――私と付き合ってくれないかな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……は?

 

 

 

 

 




 

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