異世界人こと俺氏の憂鬱   作:魚乃眼

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第五十五話

 

 

……と、俺の生徒会に対する認識は北高においても決して良くはない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しかもこの場合に限って言えば一言なんかで済ませなかった古泉のせいで面倒さを更に感じていた。

部長の長門さんだけでいいんじゃあないのか、と思ったところで文芸部はやはり部として破綻している。

二人集めたところでどうなるとも思えないのが現状なのだ、そしてそこにキョンも居るらしい。

……何を論ずればいいんだ? 俺の生徒会に対する思いをぶつける気にすらなれなかった。

 

 

 

こういう場合はもう少し建設的な事を少しでも考える事にしよう。

果たして精神の成長と言うのは俺の場合は能力に多少影響するらしい。

前々からそうではあったが、本当によくわからない。

エネルギーこそ不明だが、俺は自分の能力を現在こう結論づけている。

 

 

「――次元の干渉?」

 

「そうさ」

 

先月のバレンタインがあった週、その日曜日の話である。

俺が何処に居たかと言えば例によって朝倉さんの家、505号室。

実は朝倉さんの方も俺の家に行きたいとは言っているが、俺がやんわり拒否している。

その理由? 親のせいだ。後は万が一にでもUSBの中身を見られるのは困るからだ。

朝倉さん(大)はまるで初めてあの存在を知ったかのようだった。

つまり俺はこれを処分する日が来るまで隠す必要がある。逆説的制約、自業自得。

俺の全能力をフル活用し、この時代よりワンランク上の技術でもって秘匿をしている。

結局、"ロッカールーム"に仕舞えばいいんだけど……ふと見たい時だってあるんだよ。

それに真面目な――遊びで作っているレベルだが――プログラムのソースだってある。

わざわざロッカールームから出すのも面倒なんだ。いいだろ? それで。

 

 

「どういうことかしら」

 

「重力を操れるわけじゃあない。さっきやったのは反重力だ」

 

「なるほどね。確かに時空には関係する。空間に時間、そこは四次元であるし、時空の歪みが斥力だもの」

 

俺は突然覚醒したという無理矢理な言い訳をした後に、朝倉さんに頼んで金縛り状態にしてもらった。

直前まで"ブレイド"を左手に具現化していたが直ぐに霧散し、レジスト兼次元干渉モードに移行していた。

そこで手のひらサイズの反重力フィールドを展開。金縛り中に動いたりして実演したのだ。

 

 

「そうさ、反重力なんて力は本来存在しない。……失われた力だ」

 

この"世界の不純物"。まるで俺自身のようであった。

反重力について説明するにあたって、"引力と斥力"という話が必要にある。

何てことは無い。くっつく力にはハジく力が対応して存在するという考えだ。

磁石のNS極がそれに当たる。つまり引力と斥力。斥力とは反発させる力。

だが、現実世界において重力が反発するなんて現象は存在していない。

当たり前だ、そんな事が突然発生したら何が起こるかわからない。パニックどころではない。

地球全体で発生すれば宇宙空間へ放り出されるかもしれないし、人体の一部に作用した場合破裂するかもしれない。

そして俺はどうやら空間にしか作用させられないらしい。

 

 

「よくある創作物なんかでは反重力を弾く力ではなく、時空の歪みとして考えている」

 

「最強の防御ね」

 

「そうでもない。結局のところ反重力は過程であり、オレがやっている行為は空間の操作、その結果"壁"が出来ただけだ。朝倉さん達のバリアー同様に強力な抵抗力には負けることもあるし、重力には絶対に勝てない。次元の壁を越えれるエネルギーは重力だけなのさ」

 

「じゃ、あなたを倒したかったら重力負荷をかけて押しつぶせばいいの?」

 

「……そうなる」

 

「ふふっ。弱みゲットね」

 

俺は決して笑えないんでやめてもらえませんかね。

この瞬間に俺が朝倉さんに逆らえない事が本格的に確定した。

逆らうなんて考え自体ないが、よーいどん方式で秒で負けるのだから無理だ。

どこの未来の奥さんが俺を最強だなんて言ってたんだ? 過大評価だろう。

 

 

「"金縛り"ってのは実際にオレたちの筋肉に働きかけているわけじゃあないんだよね?」

 

「そうよ。そんな事が出来るなら即死させれるもの。それは最早エネルギーそのものを奪っているじゃない。心臓止めれば一発よ、限界があるわ」

 

「結局は空間の情報操作、その応用編なんだ。人体の外側、その空間の固定化」

 

「ええ」

 

では俺の元"臆病者の隠れ家"、現"異次元マンション"。

これについての説明は簡単だ。

 

 

「あれはオレのその能力の片鱗。次元世界の"どこか"に部屋を造っている」

 

「それはどこかしら?」

 

「さあ。つまりオレたちが空間として観測できない、折りたたまれた五次元以上のどこかを三次元に変換している」

 

何故五次元からが折りたたまれていると考えているのか。

そこは"ひも理論"に関係してくる。いかにも、宇宙的な話さ。

それについての詳細な説明は今回割愛させてもらう。

簡単に言えば、『図に書けないからもう纏めて折りたたみました』という話だ。

いや、ここに至るまでには複雑な説明が必要になるし専門知識についても逐一解説が必要だ。

俺がかつて読んだ本も説明が無茶苦茶だったのは確かだ。

 

 

「とんでも能力ね」

 

「だから"部屋"を利用した擬似空間転移も可能なんだ」

 

「ふーん。でも、だったらあのブレイドは? 平行世界と次元世界は、違うわよ」

 

「……そこが謎だ」

 

あの"思念化"に関しては一応の説明がつく。

俺自身の存在を低次元あるいは高次元のものへと変換、三次元の干渉を受けなくする。

ただし情報として三次元世界には存在するらしいので宇宙人の技術によっては対抗される。

今一中途半端な性能だ。

 

 

「逆なんだ。オレは異世界人。多分、平行世界ってのが本来の俺の能力なんだ。その根源は不明だけど」

 

「つまり?」

 

「次元干渉。それにはきっと、オレの知らないオレの役割が関係している」

 

「本当にあるのかしら」

 

「暫定的な結論だよ。だから本来は結論ですらない」

 

「どうにも全体像が見えないわね」

 

「正直言うと見たくもないんだよね」

 

「でも、それはもうやめたんでしょ?」

 

「……うん」

 

きっとそこには俺の"決着"が関係してくる。

それは何に対するものなのか? 過去か、現在か、未来か。

もしかして、俺自身なのかもしれない。

 

 

「それでも、オレは朝倉さんと一緒に居たいんだ」

 

惚れた弱みじゃあないぜ、惚れた強みだ。

聞いた話によると男の子には意地があるらしい。

 

 

「まさか私も、あなたと本当に付き合うなんて」

 

「そりゃどういう意味なんだい」

 

「興味対象にして良かったわ。まだまだ明智君を探究できそうだもの」

 

「オレがわからないのにどう探究するのさ」

 

「あなたの表情を見ていて、解った事があるのよね」

 

……何だ、ずいぶん不気味に笑うじゃないか。

まるで悪戯を思いついた子供のようだ、本物の三歳児のようだ。

 

 

「あの"思念化"をする時」

 

「……何?」

 

「きっとあなたは私の事をスキスキ大好きだー、だなんて考えてるんじゃないの?」

 

「…………」

 

この覚悟って奴が、本当に正しいのか俺は疑問に思えてきた。

確かにそれがきっかけで発現してくれたけど、それがそのまま発動条件だなんて。

俺は朝倉さんの前で実演する時は確かに鉄仮面を被っていたはずなんだけど。

 

 

「どうして、って?」

 

「あ、ああ」

 

「あなたが私の偽物を見分けれるのと同じ理屈よ」

 

はいはい、そうですか。

朝倉さん(大)の言っていた事も、的外れじゃないのかもしれないな。

愛の力は無限大、だ。自分でもこんな馬鹿みたいな事を考え付くなんて。

 

 

 

悪くないよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しかしながらそんな回想もそこそこに、ようやくこの重苦しい空気を打開する兆しが。

生徒会室。その扉が二三ノックされた。

 

 

「入りたまえ」

 

そう言ったのはいかにも私偉いですオーラを出している長身の男。

この状況を察するに、彼はこの北高の生徒会長らしかった。しかもこっちを一切向いていない。

俺がこの生徒会に対して初めて感心できた事と言えば、部屋が会議室以上の役割を果たしそうにない点だ。

前世では立場上生徒会室に足を運ぶことも――本来であればあっちが来るべき――あったが、いや、酷かった。

ノートパソコンで弾幕STGをやっている奴もいればそもそもお菓子なんてのも置いてある。

そりゃ俺が居た放送室にもお菓子は置いてある。だが、生徒会は規範となるべき集団だろ?

せめて普段は隠しておくなり配慮に欠けていた。そもそも多少散らかっていたし。

 

 

 

その偉そうな声に従い、キョンが入ってくる。

古泉がそれを一礼して迎えた。もう一人の文芸部員、長門さんは無言だ。

 

 

「どうも、よく来てくれました」

 

「ああ」

 

「……」

 

「キョン、おハロー」

 

「もう放課後だぞ」

 

こんなやりとりでも会長はこちらを一切窺う様子はない。

中々の演技派じゃあないか。いかにも堅物にしか見えないではないか。

確か、詳しく覚えていないがそんな役柄ではなかったはずだ。

そして古泉はお待たせしたと言わんばかりに。

 

 

「会長。お呼びになられた人員は以上になります。用件の方をどうぞ」

 

「……よかろう」

 

ようやくその会長殿はこちらを向いた。

眼鏡をかけたエリート。生気は感じられないが覇気はある。

俺からやる気を常に奪い続ける世界が憎くてたまらない。

どうしてイケメンばかり俺の傍に集まるんだ。涼宮さんのせいにしたい。

 

 

「さて、既に聞いていると思うが用件は単純だ。文芸部の活動に対し、生徒会は最終勧告を行う」

 

まるでそのために集めましたと言わんばかりの気迫。

もうこの人が主人公でいいよねって感じがしてくるぞ。

俺は朝倉さんが居れば後は自衛が出来ればいい。

役割とやらをこいつに押し付けたいんだが。見た目で居れば彼の方が強そうだって。

俺なんか鍛えているとは言ってもガチムチじゃないんだからさ。

 

 

 

とりあえず俺も多少会話に雑じる必要があろう。

長門さんは何かを言う感じがしないし。

 

「……」

 

「現在、文芸部は活動休止、有名無実、虚構と化している。認めるな?」

 

「……」

 

「すいませーん。オレは先月短編を書きましたー」

 

「ほう。それは良かったな。だが今回、部活動かどうかという点で話している。部長の意見はどうなんだ?」

 

「……」

 

「沈黙は肯定と判断する」

 

会長殿はさも俺の発言に興味なさげに言ってくれた。

本気を出せばこちらのフィールドに引きずり込める、が、俺の役目じゃない。

会話をしないのも話術のうち。下手に出て、ただ言葉を狩る。

そうしていれば勝手にこっちが勝っている。何も特別な話ではない。

 

 

 

そりゃあ、認めるも何も長門さんは基本読書してるだけだし。実体を問われたら困る。

で、これは最近気づいた事だがいつの間にか長門さんの眼鏡が某高級ブランドのそれになっていた。

自分で買ったんだろうか。きっとそうなんだろうけど、意外なこだわりを見せてくれた。

 

 

「つまり、最早部としては機能していない」

 

「……」

 

「結論を言おう。我々生徒会は現在の文芸部に存在意義を見い出せない」

 

「寛容な精神でお願いしますよ。これでもオレが文芸部に入る時に山田先生は喜んでくれたんですから」

 

山田と言うのは俺が入部届を提出した教師だ。

確か担当は世界史と、公民だったはずだ。

公民に関しては何か本を出しているらしい、二冊以上。

何でそんな人がわざわざ田舎の進学校もどきに居るのかは謎である。

 

 

「だがこれは既に決定した。生徒会において承認されたのだ」

 

「何がです?」

 

「文芸部の無期限休部、これを通告する」

 

「……」

 

「オーノーッ。これじゃオレは明日から寝床がなくなっちまいますよ」

 

「キミは部室に住んでいるのか……?」

 

ふっ。そんな訳あるか。

だが会長殿も深く気にしていないらしい。

下っ端の俺から視線を外し長門さんの方を向く。

目つきに変化はなかったが、ともすれば睨んでいるようでもあった。

いやいや、立派な会長さんだ。絵に描いたような。

 

 

「部長は長門くんだったな」

 

「……」

 

「どうやら、わけのわからない連中が文芸部室を占拠していると言う話は度々こちらに報告されている。その対処も、いち生徒が出向いたところで相手にされないのだという」

 

「……」

 

「団長と名乗る奇天烈女子生徒。そしてそこの明智黎については良い噂を耳にした事が無い」

 

「ただの風評被害ですよ。オレも迷惑しています」

 

「火の無い所に煙は立たない。たとえ嘘でも、キミには部長同様責任がある。部員でもない者どもを放置していたのだからな」

 

ぐうの音が出ないまでの正論である。

俺は反論する気がないけども。

それでも話を聞き出すのは俺の役目なのだ。

キョンは文字通り部外者だし――それでここに居るんだから謎だ――古泉は突っ立っているだけ。

いっつもだ、俺ばかり貧乏くじを引かされている。

これも運命因果なのか? くだらん。

 

 

「じゃあどうするんです? 無期限休部って、いつまでですかね」

 

「伝統ある文芸部を廃部にするわけにはいかない。その歴史をキミたちの代で穢してしまうのは度し難い」

 

「……」

 

「よって来年度に新入部員が入部するまで部室は立ち入り禁止とする。鍵もかけさせてもらおう」

 

「……」

 

「文句はあるかね?」

 

「新入部員の勧誘はしてもいいんですか?」

 

「好きにしたまえ」

 

する気はないんだけどね。

俺がどうにかしなくてもどうにかなったはずだよ。多分。

こんな所まで何か影響があるとは思いたくない。

どうしても手詰まりになっても俺は異次元マンションで部室に入れるし。

 

 

「さて、長門くん。部長であるキミはこれに従ってもらおう。ただちに我々生徒会が文芸部の繁栄のために今後の活動の安全を確約してみせよう。私物はこちらで責任を持って処分する。全て廃棄だ、約束しよう。役員に横領などさせない。必要なものがあれば今の内に運び出すといい」

 

「……」

 

「ちょっと待ってくれ」

 

とうとうキョンが沈黙を破り介入してきた。

こっちを恨めしそうに見たが、仕方ないだろ?

俺が今逆らっても内申が下がるだけなんだから。

 

 

「今更これを言い出すのはフェアじゃねえだろ。そこの馬鹿と俺とで生徒会には申請書を通したはずだ」

 

「オレか?」

 

「明智以外の誰が居る。……とにかく、SOS団は同好会としては成立した。実際に生徒の相談を受けた例もある」

 

一件だけだけどね。

しかし会長殿はそんな話を聞くと。

 

 

「フッ。いや、失礼した。だがキミたちの提出した同好会設立申請書はまさに失笑ものだ」

 

「……」

 

「あれを認めていてはキリがない。文字通りの足切りとさせてもらおう」

 

「冗談言うな」

 

「冗談ではない。ならば、去年の文化祭。あの時文芸部に充てた予算はどうしたんだ? まさかSOS団という架空団体の自主制作映画撮影に使われた……とは言うまい」

 

「……」

 

そんな事を言えるわけがない。

会長殿はあえてそこに突っこんでいないに過ぎないのだ。

切り札は持っているから逆らうな。威圧外交の初歩の初歩。

 

 

「もっと言葉を学びたまえ。低俗な振る舞いはこの学校の風紀を乱すだけだ」

 

「……」

 

「特にキミはその必要があるらしいな。岡部教諭から話は伺っている。団長を名乗る女子生徒を含め、だ」

 

涼宮さんは成績優秀者であるが人格が破綻している。

そしてその彼女と親しいキョンは成績が破綻している。

ただ頭が悪い谷口なんかよりよっぽど性質が悪い、そう、問題児。

そして俺は教師相手には常に敬意をもって接している。

俺の悪名なんて生徒間のものにすぎない。基本的にはそうだ。

一部教職員にとってはその限りではないだろうが。

 

 

「今更文芸部に入部する、と言っても我々は認めない」

 

「どうして」

 

「簡単だ。キミたちがこの一年何をしていた? 文芸部的な活動を何かしていたのかね? 先月も中庭が騒がしかったが、文芸部に客は必要なのか? キミは賭博罪を知っているのかね。学校で大々的に金儲けなど、信じられん」

 

「……」

 

「これでも大目に見ているつもりだ。SOS団……だったかな? 我々は平和的に解決しようと歩み寄っているのだよ。キミたちがそれに応じないのなら、強行手段に踏み切るだけだ」

 

「……」

 

明らかな負け犬ムードだった。

俺の独善でも、涼宮さんの王道でもない、正真正銘の正義。

それは、社会的に必要なものだけを残し、不要を切り捨てる。

キョンの漠然とした正義でもない。繁栄のための、正義。

 

 

「余罪は多い。それを話に出さないだけ生徒会は慈悲深いのだよ。キミたちの今後にも関わるだろう? バカな事は今すぐ止めるべきだ」

 

「……やり口が汚ぇぞ」

 

「……」

 

「聞くだけなら聞こう」

 

「文句があるならハルヒを呼べばいいだろ。どうして長門と明智を呼び出して文芸部に圧力をかける」

 

「圧力。……やはり誤解しているな。先ほど言っただろう。これも文芸部、いや、我が校のためだ」

 

「そのために俺たちに迷惑がかかるんだ」

 

「迷惑をかけているのはキミたちの方だろう。とにかく、SOS団をどうするかは我々にも権利がある。キミたちだけでどうこうできればルールなど不要だからな」

 

「……」

 

「正論じゃあないか」

 

「ちっ」

 

だってそうなんだよ、キョン。

俺の独善は俺の裁量でしか振るわれない。

こればかりは俺だけが決める権利があるのさ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――それから暫く静寂が生徒会室を支配した。

 

 

 

いや、ペンのカリカリとした音がする。

空気の如く存在感を消し、椅子に座りひたすら議事録をとっていたお方。

見覚えのある女子生徒。書記らしい。

 

 

「……あ?」

 

「……」

 

「どうしたかね。……そうか、紹介が遅れていたな。その必要がなかったから、なのだが」

 

薄緑色の若干クセを感じさせる、ウェーブがかったロングヘア。

朝倉さんのそれとはどこかちがう雰囲気。まるで空間をごく自然に支配できる。

俺が初見で「いいな」と思うと朝倉さんに足を踏まれた――今思えばあれは何だったんだろう。嫉妬? いや、彼女に感情はまだ理解できてなかったみたいだし――その原因。

キョンは今気付いたと言わんばかりに。

 

 

「喜緑……さん?」

 

「何だ、知り合いかね」

 

「……」

 

そう呼ばれた彼女はこちらに笑顔を振りまく。

言っても朝倉さんには勝てないけど、こういうのもたまにはいい。

決して浮ついた意味は無い。本当だ。

 

 

 

さて、喜緑さんは長門さんと見つめ合ったきりこの場に進展が無い。

進展も何も会長殿の通告は完了しているからこれ以上は無い。

 

だが。

 

 

 

 

 

 

 

「――くぉおらぁっ!」

 

 

 

 

勢いよく怒声があがったと思えば生徒会室のドアが壊されんとする勢いで開かれた。

第一声からこんな喧嘩腰になるのは、あの人に他ならない。

 

 

「なに勝手なことしてくれてんのよ! ヘボノッポ! あんたが生徒会長なんだって? それはどうでもいいけど、話はだいたい聞かせてもらったわよ! 文芸部の文句はSOS団の文句なのよ。現最高責任者のあたしを無視して、勝手に話をしないでちょうだい!」

 

生徒会長を睨み付け、そう言い放ったのは我らが団長。

涼宮ハルヒそのお方。朝倉さんに次いで俺が逆らえない人その二。

いや、順序的にはその一なんだけども。優先度としてはまた別の話となる。

結局のところは俺にとっての危険性は同率一位で今も尚上昇中なのだが。

 

 

 

「で、どういうことなのよっ!」

 

 

 

 

 

 

 

まあ、どうもこうもないんじゃない?

 

 

 

 


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