異世界人こと俺氏の憂鬱   作:魚乃眼

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第五十六話

 

 

この場を平和的に解決する方法とは果たして何なのだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

どう考えてもこちらに非があるのは確かで、その上であちらは『歩み寄る』と言っていたのだ。

実際は詭弁もいいとこで歩み寄るも何も張り倒しに来ているのだが、それはどうでもいい。

涼宮ハルヒにとってはその差はない。面白い事があって、自分の遊び相手が居ればそれでいい。

まるで俺が好きだったとあるの漫画の主人公。"あの人"は彼を英雄と讃えていた。

その通りだと思うよ。

 

 

「これが生徒会のすることなの!? SOS団をなんだと思ってるのよ!」

 

「まあまあ、落ち着いて下さい。とりあえず生徒会側の意見を聞いてみましょう」

 

古泉が涼宮さんを制そうとするが効果はまるで無かった。当然だ。

意見も何もあっちの意見は出尽くしている。そして、それは命令らしい。

思えば朝倉さんとあの鬼畜黒怒髪天女周防を航空機に俺は例えていた。

これに従えば長門さんは無人偵察機で、喜緑さんのそれときたら上空25キロを超高速で飛行する"ブラックバード"。

涼宮さんに至っては航空機ですらない。ただのクラスター爆撃である。

 

 

「いいわ、全面抗争よ! あたしたちと生徒会の国家総力戦。情け無用で容赦も無用、どっからでもかかってきなさい!」

 

「……」

 

「キョン、あんたは何ボサっと突っ立ってんの。敵は生徒会長、あんたには味方に見えるのかしら? グーで殴り掛かるぐらいじゃないと」

 

「……」

 

「今日ばかりは言わせてもらうぜ――」

 

「やれやれだ」

 

「――おい」

 

いいだろ別に、そのまま封印してなよ。

とにかくこうして火種は文字通り大火事へと変化した。

『火の無い所に煙は立たない』だって? とんだ皮肉だ。

そして燃え盛るように涼宮さんはヒートアップしていく。

 

 

「悪代官、あんたが黒幕よ! ほらほら、どこからでもかかってきなさい。ルールは総合よ、目突きとヒジは無し、金的も勘弁してあげる」

 

「キミが架空団体における自称団長の涼宮くん、か。総合格闘技自体は興味深いがまさか死闘を許可するわけにはいかない。生徒会としてそのような野蛮な行為は排除するに限るのだ。当然、キミたちの団体を含めて」

 

「……」

 

「……はぁ」

 

会長殿の偉そうオーラに対しキョンのそれは帰りたいオーラだった。

涼宮さんが来てしまった以上彼に出来る事はもう何もない。

何故ならそこにはぺんぺん草さえ残らない、もれなく焦土と化してしまう。

 

 

「どうした、キョン。さては疲れたのか?」

 

「当たり前だ。それにお前は今回の騒動の中心人物だろ」

 

「オレがか?」

 

「長門一人に押し付ける気か」

 

「こっちだって驚いてる。でも大丈夫、涼宮さんの登場だよ?」

 

「それは攻略本並にあてにならんな。そのハルヒのせいで俺は頭を痛めているんだ」

 

「難儀なこった」

 

「いや、お前が苦しむのが当然の流れのはずだ」

 

「でも文芸部員は来年度になったら実質復帰していいらしいし」

 

何もSOS団が消えてくれというわけではないが、その権利がある以上はないよりいい。

あちらの提案なのだから聞かなかったことにするのは無茶で失礼だ。

そもそもこれ決定事項らしいから、俺たちに出来るのは今のところ暴動だけだ。

しかも今回に関して言えば生徒会長のリコールが可能かは怪しい。

本気になれば可能だけど、俺は明日から本気出すのが流儀なんだ。

 

 

 

そんなこちらのやり取りは聞こえていないらしい。

 

 

「じゃあどうするのよ。喧嘩売るだけ売って逃げるなんて許されないわよ。殴り合いが駄目なら麻雀か卓球。あ、パソコンゲームもあるわよ」

 

「なぜ我々生徒会がキミたちと勝負する前提で話が進んでいる。そんなヒマはない。そしてこれは警告ではない、宣告なのだ」

 

「何よっ!」

 

「おい、待てハルヒ。だいたいお前は何で俺たちがここに居ることを知っている」

 

「みくるちゃんが言ってたわ、そのみくるちゃんは鶴屋さんから聞いたそうよ。あんたが生徒会に呼び出しを受けたのを見たって」

 

「鶴屋さんが、か……」

 

「部室にはみくるちゃんと涼子しかいなかったもの。これは裏があるに決まってる、生徒会の陰謀だってね。で、聞き耳立てたら案の定ふざけた事を言ってるんだもの。そりゃあ突撃するわよ」

 

又聞きとはまさにこのこと。

どうやら古泉は本当に涼宮さんに隠していたらしい。

いや、実は鶴屋さんをキョンにけしかけたのかもしれない。

鶴屋家と『機関』は多少のつながりがあるみたいだし。

 

 

「……古泉くん。キミから説明してやりたまえ。どうやら我々生徒会と彼女では標準言語が異なるらしい」

 

「承りましょう」

 

「その必要はないわよ。つまり、挑戦なんだから。文芸部どうこうなんて建前。あたしたちSOS団が気に食わないってだけじゃない!」

 

「わかっているなら結構」

 

「ですが、SOS団は同好会として成立しています。実態に不満があるのはさておき、有無を言わずに廃部とはいかないでしょう。会長、生徒会にそこまでの強権はおありでしょうか?」

 

「フッ。"盗人猛々しい"とはまさにキミたちのためにあるような言葉だな」

 

「僕は無い知恵だけを働かせていますので」

 

嘘つけ。

よくわからん宇宙理論も知っていたじゃあないか。おかげで助かったけど。

孤島の推理ゲームの提案と言い、お前は絶対涼宮さんよりそういうのが好きだ。

じゃなかったらキャラでやってるのか? 勉強熱心だな、流石は理数クラスだよ。

 

 

「我々とて無駄な騒ぎにしたくはない。これ以上キミたちに好き勝手されては困るのだ」

 

「はあ? あたしたちの何に文句あるのよ」

 

「全部だ。そう、文芸部員を呼んだのは他でもなく文芸部的活動を求めているからなのだよ」

 

「何か腹案がおありのようですね」

 

「プランではない、そして要求でもなければただの条件だ」

 

「言ってごらんなさい」

 

涼宮さんは何が根拠でこんなに偉そうなんだろう。

成績優秀って点だけで言えば間違いなく谷口やキョンよりはそうあっていい。

でも朝倉さんみたいに猫はかぶっていないのだ。合宿のあれは何だったんだろう。

確かに猫はかわいい。だが朝倉さんの方がかわいいのは言うまでもない。

 

 

「文芸部として活動したまえ」

 

「有希や明智くんがしてるわよ」

 

「目に見える形での結果を求めているのだ。それも早急に。一度でもキミたちがそうしてくれれば当面は文芸部について問題にするのは保留しよう」

 

「何をしろってのよ。キョン、あんた文芸部が何するところか知ってる?」

 

「俺に聞くな。そこに口が達者な適任者が居るだろ」

 

そう言って俺の方を見る。

 

 

「うーん。具体的に何するのって言われると難しいね。読書だって立派な活動だし、オレみたいに小話を書いていくのも活動だ。でも、会長殿は豆粒みたいな活動じゃあ満足してくれないみたいだよ」

 

「当然だろう。読書会をしようが、みみっちい話を書こうが、形として残るかは別だ。私が認めない」

 

「はっきり言いなさいよ」

 

「……機関誌を作りたまえ。文芸部の歴史として少なくとも毎年一冊は発行していた。偉大な記録だ。どうだ、目に見える活動としてはその方が相応しいだろう? そこの明智くんも、話を書くのであれば大々的に知れた方が気乗りするだろう」

 

「今となっちゃ、そんな気持ちはあまりないんですけどね」

 

昔は違った。

昔は。

 

 

「とにかく、不服ならばそれでも構わない。既に宣告した通り文芸部から立ち退いてもらうだけだ。その後にしかるべき形で二人には文芸部的活動をしてもらおう。つまり、同じ事にも関わらず我々は譲歩しているのだ」

 

「これ以上はない、って感じですかい」

 

「そうだ。私以外の者であれば、キミたちを放置していただろう。現に先代会長がそうだった」

 

「現会長さんよ。俺や文芸部員二人はさておき、ハルヒだけは放置してよかったんだがな」

 

「そうもいかない。私のマニフェストは学内改革であった。私が有限不実行であれば即時退位しよう。その覚悟をもって、生徒会の活動にあたっているのだ」

 

「お見事です、会長」

 

おい、お前さんはどっちの味方なんだ古泉。

メッセンジャーとはやけに聞こえがいい言葉だ。

キョンはこいつに対し疑問を抱いていないのだろうか。

 

 

「キミたちも知っての通りだ、先代までの生徒会とは名ばかりの無能連中。学校の顔としての自覚に欠けていた、その配慮にも。なあなあに活動して空気のように交代していく。そこに生徒の自主性はなかった。それを私が変えるのだ」

 

「そこに関してはオレも素晴らだと思いますよ」

 

「改革には破壊がつきものだ。"破壊なくして創造はなし"、私は生徒が望むならばどんな些細なことでも議題にかけよう。その価値があれば、だが。そして私は生徒のための犠牲ならば必要不可欠だと考えている。キミたちの居場所よりも、大多数の居場所の方が優先されるのだ」

 

「どうやらSOS団を認めてはくれないのか」

 

「馬鹿なことを言うな。とにかく期限は一週間。来週の今日、火曜日だ」

 

「仮に、俺たちの誰かが原稿を落としたらどうなる?」

 

「どうにもならない。それが機関誌としての体裁を成していれば文芸部に対して文句は言わないが、その場合は作品を掲載しなかった生徒の文芸部立ち入りを認めない。これも当然の措置だろう」

 

「……」

 

「ええ、それでいいわ」

 

こっちの台詞とは思えない。

彼女の辞書には下手に出るという単語はない。

常に上がいいのだから。

馬鹿と涼宮さんは高いところが好きらしい。

……山好きとか馬鹿とか呼ばれてる俺もそうなのか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

機関誌作成、及び配布に関するルールが会長殿から説明された。

 

 

 

内容は不問。文化的かつ文芸的であればいいらしい。

ただ、最低限度の文章量ってのはやはり機関誌として成立するレベルを要求される。

原稿用紙一二枚なんて、それこそ小中学生の読書感想文だからだ。

俺だって長編を書く気はないが、その辺は当然だと思えた。印刷室は自由に使っていいらしい。

 

 

配布に関してだが、渡り廊下に完成品を置く。

それだけだそうだ。つまり機関誌を生徒に捌き切るのが今回の本来の目的なのだ。

勧誘、手渡しは一切NG、無人でやる必要があるそうだ。

きっと生徒会の誰かが俺たちがインチキしないように監視するんだろうさ。

ご苦労様だ。

 

 

そして完成後の三日以内――つまり来週金曜日まで――に捌き切れなければ、ペナルティらしい。

文芸部部室の凍結ではないらしいが、どうでもいい慈善活動をさせられるのだ。きっと。

いつの時代も俺は俺の面倒を見るのが精一杯なのでやりたくはない。

同情してもやる気がないならやらない方がいいのだ。

 

 

 

そして涼宮さんは長門さんを連れ、生徒会室を後にした。機関誌について調べるらしい。

書記担当だった喜緑さんもやがて退席。

後には野郎四人だけが残された。むさ苦しい、華がない。

俺も出てっていいかな? と言える空気ではない。

 

 

「古泉、ドアを閉めろ」

 

「はい」

 

会長殿は椅子にふんぞり返るとそう命令した。

さっきまでと同様に偉そうではあるが、いかにも悪い偉さだった。

テーブルの上に足を乗せると、タバコすら吸い出した。

 

 

「ふぅ……。で、これでいいんだな」

 

「ええ。ありがとうございました」

 

どうでもいいが俺は前世からタバコを吸っていなかった。

無言で窓に近づき、開けさせてもらおう。

喫煙自体を俺は咎めないが飲食店でするのは本当に勘弁してほしい。

吸わない立場からするとご飯の味がおかしくなるのだ。

こればかりはこちらに折れてほしいと常々思っている次第だ。

 

 

 

キョンは眼の前の光景が信じられないらしい。

俺も多少驚いているが、そうか、こんなキャラだったな。

身構えていなかったら俺は今すぐ逃げ出していただろう。

 

「ああ、面倒だったな。お前の言う生徒会長ってのはあんなんでいいのか。アホみたいだぜ。あんなにイイ声で喋り続けるのも楽じゃねえんだ」

 

「なっ……」

 

「なぁにが生徒会長だよ。いい迷惑だぜ。なりたくてなったわけあるかよ。まさか仕事がパーティガールのパーティ演出。ガキは寝る時間だっつの」

 

「……」

 

「おう、お前も吸うか?」

 

「遠慮しておきます」

 

「つまんねえな」

 

「オレも吸いませんよ」

 

酒だってそんなに飲まなかった。

言う人に言わせればつまらないのは仕方ないだろう。

たまのチューハイ程度だったよ。

 

 

「おい古泉、この会長はお前の仲間か?」

 

「仲間……そうですね、正確には協力者です。彼は『機関』に直接所属してませんので」

 

「はあ?」

 

「条件付きですよ。使えるものは使うのが主義でして」

 

「そりゃあオレもか?」

 

「SOS団では持ちつ持たれつがモットーでしょう」

 

いいや、涼宮さんに持っていかれているのが現状だ。

それどころか両の脚を掴まれジャイアントスイングされているとも思えるさ。

助け合いってのは余裕がある人がするんだ。俺は年中ヘルプ希望だね。

 

 

「古泉が言うには、生徒会長ヅラした奴が欲しかったらしい。俺がそうなんだとよ。バカにしてるよな? これ、伊達眼鏡だぜ」

 

「彼を当選させるのにかかった工作費は……それなり、とだけ言っておきましょう」

 

「俺は呆れ疲れたんだが」

 

「キョン、お前はいつも疲れてる気がするよ。朝走るか?」

 

「遠慮する」

 

「重要なのはルックスと雰囲気でして、資質は二の次です。それとわからなければ有ろうが無かろうが、ですよ」

 

それを全国全高校の生徒会長に言ってあげるといい。

間違いなく生徒会はいい方向に改善されていくだろうよ。

ここまでぶっち切りで会長をしていない会長はどうなんだ?

喫煙している高校生の有無を検証する気はないが、生徒会でそんな事があるとは。

不良校でも生徒会室でそんな事はないと信じたいぞ。まして、北高は不良校ではない。

 

 

「とにかく古泉、来年はお前がやれ。俺はもういい。こんな役目は二度とごめんだ」

 

「それはどうでしょうか。こう見えて僕は忙しいんですよ。いっそのこと涼宮さんが生徒会長でもいい気がしてきました」

 

「いいね、それ」

 

「そうしろそうしろ。今回上手くいけばそれでいいんだろ。ならあの女が次に会長をやっても俺は気にしない」

 

「お前ら、馬鹿な事を言うな。ハルヒが会長になんかなった日には北高から笑顔が消えるぞ」

 

「じゃあオレがやろうか?」

 

「検討しておきましょう」

 

冗談だよ。

 

 

「これでも旨味があるからな。一度ぐらいなら生徒会長ごっこも許してやる。内申点に、よくわからん組織からの多少の支援。下手なバイトをするよりは割に合う」

 

「必要経費ならば構いませんが『機関』は散財をしたいわけではありませんよ」

 

確かに夏合宿の時に出た報酬はちょっとした給料だった。

いや、俺の前世での初任給より高かった。あんなんでいいのか。

もう何も言えなかったキョンはどうにか言葉を紡いで。

 

 

「つまり、これもお前らのシナリオなんだな?」

 

「オレは知らなかったけどね」

 

「文芸部をゆすり、SOS団を潰す……だが実際はただの茶番。ハルヒの退屈潰しだ」

 

「これが実を結ぶかは未知数ですよ。もし期限を過ぎてしまった場合は――」

 

「別の遊びにすればいい、でしょ?」

 

「その通りですよ。この四人で新たな作戦を練るのです」

 

どんな無茶をさせるつもりなんだ。

でも、負けず嫌いの代表格である涼宮さんのことだ。

 

 

「どうせ勝つさ」

 

今回も。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――だが俺はこの時大事な事を見逃していた。

 

 

 

三人目の宇宙人、穏健派、喜緑江美里さん。

 

 

 

 

 

 

 

 

彼女の本来の目的とやらを。

 

 

 


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