ワン・フォー・ワン《独りは一人のために》   作:亡き不死鳥

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息抜き小説なので文章が稚拙になっております。


ワン・フォー・ワン

誰の言葉だったか。あるいは、何の歌だったか。それとも、小説の1フレーズだったかもしれない。

幸せは分かち合うことで倍になり、悲しみは分かち合うことで半分になるらしい。共有することで相手から幸せを分けてもらい、悲しいことがあれば悲しみを相手が分かち合ってくれるとかなんとか。

だが、ちょっと待ってほしい。分けるなら幸せも半分にならね?とかそんな無粋なことを言うつもりはない。いやまあこの話自体が無粋ではあるのだが…。

…続けよう。しかしこれはあくまで一対一を前提にしているのだ。その二人が「私達、ずっと親友だよね!」と二人ぼっちならともかく、例えば一方に共通ではない友達がいた場合はどうだろう。

幸不幸を同価値と考えても二人と半分ずつ悲しみを分け合えばそれだけで一人分と変わらなくなる。さらに三人、四人と分け合う相手が増えればむしろ一人でいた時よりも負担になっていくのだ。

どこぞの裸エプロン先輩が言っているように、良いことがあったからって嫌なことが帳消しになるわけもない。ならばいくら幸せの量が増えても悲しいことが比例して増えては意味がないと言える。故にぼっち最強説もQEDされるというもの。

それ以前にだ。現実というのは不平等なもので、分け合うといいつつ実際は押し付けられていると表現するのが正しい。押し付ける側は悲しみを押し付けルンルン気分かもしれないが、押し付けられる側は堪ったものではない。

そして悲しいことに押し付けられる側は大抵同じ人物に向かうのだ。人は易きに流れるが、水も悪意も低きに流れる。つまりカーストの低い弱い人間に向くのだ。

そんなものは悪だろう。悪は唾棄すべきものだ。

 

結論を言おう。

 

 

「……サイドキックに仕事を丸投げするヒーローはまちがっている」

 

 

二人分の悲しみ(仕事)を押し付けられ、今日も俺は書類の山に埋もれていた。

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

 

事の始まりは中国軽慶市。発光する赤子が生まれたというニュースから始まったらしい。きっと日本で生まれていれば孔明にちなんで光明とでも名付けられていたであろう子供に続くように「超常」は発見され続けた。

それはもう妖怪人間が「早く人間になりたい」から「は?俺人間だし」と牙をむき出しにしても気にならないほどに「超常」は「日常」に成り代わった。

そして世界人口の約八割がなんらかの特異体質、「個性」を持つ超人社会となった現在、一つの職業が脚光を浴びていた。

それが……

 

 

 

『ヒーロー』

 

 

 

誰もが子供の頃に憧れ、誰もが一度は志す。それが現実となっているのだ。

その中でも一際注目を浴びている、否。日本中で知らない人間はいないナンバーワンヒーローがいる。

筋骨隆々、筋力莫大、笑顔炸裂、画風隔絶と四字熟語に欠かない男。

それが……

 

 

「おいオールマイト。雄英高校から手紙がきてるぞ。あと手伝え」

 

「ハハハ、書類仕事は疎くてね!いつも助かるよ、比企谷くん!手紙ありがとう!」

 

 

それが今、目の前にいる。というか上司である。

そう、俺こと比企谷八幡はナンバーワンヒーローであるオールマイトのサイドキックを勤め先としている。サイドキックとはヒーローを社長と例えた時の社員のようなものだ。

雑用だったりヒーローの補助が仕事なのだが、そこはナンバーワンヒーロー。犯罪者であるヴィラン相手に負けることなどあるはずもなく、書類仕事ばかりお鉢が回ってくるのだ。もっと人雇えよ、サイドキック今俺一人だぞ。

 

 

「………」

 

「雄英なんだって?」

 

「…雄英高校の教師として、私を迎え入れる準備があるそうだ」

 

「ほー。大丈夫なのか?その体で」

 

「………」

 

 

書類に落としていた目線を上に上げ、オールマイトを視界に入れる。そこにいるのは筋骨隆々、なんてことは口が裂けても言えない男が一人。

頬はこけ、痩せ細った不健康な体にだぼだぼのシャツを着ている男がいるだけだった。前述した四字熟語に到底似合わずその真逆を行くその姿は何も知らない人間からしたら人違いを疑うものだろう。

だが、彼は正真正銘オールマイトだ。オールマイトは過去に大怪我を負い、身体機能の多くを失った。筋肉まみれの超パワーを生み出す個性を、今では3時間程度しか使用できないほどに。

 

 

「つうか雄英って確かオールマイトの状態知ってるよな?なんで今更?」

 

「……私の個性、『ワン・フォー・オール』は他の人間に受け継がれる個性だというのは知っているだろう?その後継者を、雄英高校で見つけないかというお誘いさ」

 

「……んで?」

 

「……これも何回目かわからない誘いだが…。君が私の個性を…」

 

「断る」

 

 

即答速攻大否定って、はちまんははちまんは拒否ってみる。

兎にも角にも俺には無理。そもヒーローという職業そのものが俺とは致命的に合ってない。自己犠牲も綺麗事も俺には似合わない。いやまあ、ならなんでヒーローの資格なんてとったと言われそうだがそれはそれ。

 

 

「柄じゃねえよ。てか俺なんかに受け継がせようとするとか先代に申し訳ないとか思わないの?」

 

「くっ!なんか堂々と言われると私が間違えているようにも思えてくる!

だが!私のサイドキック、相棒としてこの数年君を見てきた!君にヒーローの資質は十分だ!困ってる人間を助けようとする優しさも、人を助けられる個性も、それを悪用しない心の強さだってある!」

 

「目の前の人間だけだ。目に入って、助けられそうで、トドメにサイドキックになった時にそういう契約をしたからしてるってだけだよ。『目の前でヴィランの出現や困ってる人を見つけたら能動的に対処する』。それを守ってるだけだ」

 

「それだよ!人に見られていない時にこそ人は真の姿を見せる!言ってしまえば「気づかなかった」の一言で契約なんてすり抜けられるが、君はそうじゃない!助けようと思えるなら…!」

 

「オールマイト」

 

シャッと最後の書類を書き上げ端に寄せる。平行線の話し合いに時間を費やすつもりはない。それが相手にとって大事なことならなおさらだ。余計な時間を過ごさせるなんて互いに損しかないのだから。

 

 

「俺はみんなの英雄なんてなれねえよ。

俺の個性は『ワン・フォー・ワン』だ。あんたの背負うような『オール(みんな)』は、荷が重すぎる。

……定時だ、俺は上がる。おつかれ」

 

「………ああ、おつかれさま」

 

 

オールマイトの声を拒絶するように事務所の扉を閉め、懐のイヤホンを取り出して耳にはめる。

ほんと、オールマイトには困ったものだ。あんな強すぎる個性、自分の個性すら持て余している俺にどうしろってんだ。

 

ワン・フォー・ワン。

独りは、一人のために

 

 

「……一人を助けるのだって、荷が重いっての」

 

 

 

 

 

 

 




とりあえずだらっと書いていきたい。
過度な期待はNGで。

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