side緑谷
オールマイト対ノーフェイス。
ナンバーワンヒーローと無名ヒーローとの演出は、生徒達にオールマイトの圧勝というイメージを持たせる。
しかし画面に映るのは、足場を崩されて吹き飛ばされるオールマイトの姿だった。
「オールマイトが…吹っ飛ばされた!?」
「てか比企谷先生ズッケェ!
奇襲なんて男らしくねえ!」
「いや、奇襲も立派な戦略だよ。
そもそもオールマイトがヒーロー役だからって初めから衝突の可能性を排除してた。本当のヴィラン戦なら個性割れだってないわけだし、気を抜いていい場面じゃなかったな。そうか、比企谷先生が自分の個性を先に説明しなかったのもこういう理由があったのか。先入観に囚われてたけど視界が潰れるだけじゃ異形系の個性持ちは捕まえられない。だったら攻撃性や拘束性のある攻撃を考慮すべきだった。今の映像的には風?でも影との関係性は…」
「緑谷長え!怖え!」
嫌でも生徒達の興味は画面に集中していく。
演習はまだ始まったばかりだ。
sideオールマイト
(うんうん、さすが比企谷くん。エンターテインメントのなんたるかが分かってるね!)
吹き飛ばされながら空中で体勢を整えつつナンバーワンヒーローは考える。
第一回目の授業。それ故にまずは興味を引かなければならない。
もちろんヒーローを志して雄英に来た以上真面目に取り組むだろうことは理解しているが、モチベーションは高いに越したことはない。
ならばまず派手に!盛大に!盛り上がるがよし!
「デトロイト・
空中で大の字になるように吹き飛ばされる方向とその逆に向けて拳を放つ。
それだけで暴風を更なる暴風で押し潰し、オールマイトは慣性により床に着地した。
「ヴィランは……さすがにもういないか」
ノーフェイスの現れたところに目を向けても、既に人っ子一人おらず、それどころか物音もしない。
オールマイトに仕掛けられた落とし穴のような大穴と、奇襲のために用いられた同じ大きさの天井の穴。
(このまま天井の穴に飛び込めば横に控えているヴィランに捕獲テープで捕まるって流れが濃厚か。
う〜ん!いちいち嫌らしいぜ!)
かといって奇襲を避けるために真上をぶち抜いていくという手段は、核の存在によりできない。
超パワーを封じるためにあえて近場に隠しておく可能性を否定できないからだ。
相手のいやらしさを考慮すれば尚更に。
(ま、なんにせよ三階探索してから四階に行くしかないか!)
ノーフェイスの妨害が奇襲一度などあり得ない。
長年の付き合いから彼の忍耐力や狡猾さ、というか心理を読み取る力の強さを知っている。
ならばむしろここからが本番と言える。
「………んー!おっかないねえ!」
4階は、なんというか、もう局所的台風に陥っていた。
このビルは正方形の形に対して廊下も直角で、かつ他の通路による合流も容易になっている。
それを利用してか、まるで循環するように暴風が4階全体を走り回っていた。
階段の手前までは触れれば身体ごと持ってかれそうなほどの風が吹いているのに、そこから先はそよ風程度にしか感じない。
つまり4階に核はない、と断言できないということだ。
個性のコントロールに自信があれば、やってできないことでもない。
「……うーん、悩んでても仕方ない。
一発、いきますか!
ダブル・スマッシュ!!」
階段を抜けた先には右に向かう廊下と左に向かう廊下。
その両方に向けて拳を放つ。
まるで先ほどの焼き増しのように風を更なる風が押しのけて壁に向かって行く。もちろん壁を壊さないよう力の調節はしてある。
なので廊下の先にある窓と壁に亀裂が入る程度で収まる、が。
廊下をオールマイトが作り出した風が通過した先から、他の横に向かう廊下よりノーフェイスの風が新たに走ってくる。
「風は時計回りに走っているのか。
しかも……っと」
パシッと飛んできた塊を受け止める。
「……捕獲テープの塊。
風に流して当たったら捕獲できるようにする罠か。
風で視界も悪く、身動きも取り辛い。
危ないなぁ!」
ハハハハ!と笑いながらぐしゃっとテープを潰す。
浮かべるのは余裕の笑み、に見せかけた少し浮上してきた焦りを抑える笑いだ。
ヴィラン側からしては当然だが、第一目標として時間稼ぎを行う戦術を取られている現状は時間との勝負をお互い行なっている。
一対一である場合先ほどノーフェイスが行ったような奇襲は、一見時間稼ぎと矛盾しているように思えるが、立派にその役割を果たしていた。
何故なら一度あれば二度目もあると考えるのが常識だからだ。
下の階層を回っていた時のような足で時間をカバーするような戦略は取り辛い。
その上あの落とし穴を皮切りに罠の数が3階から増加していた。
飛んでくる捕獲テープ。
なんの変哲も無い石が音を出して警戒させてくる。
部屋の入り口を隠すようにテープが貼られていたりもした。
見え見えの罠でも警戒せずに踏み込めばいつ本命を踏むか分からない。そんな攻防を繰り広げている間に、四階に辿り着く頃には10分を回っていた。
「だがこの程度の風!
台風+津波の災害救助を行う私にはどうということないさ!」
顔の皺を増やして風の流れに逆らうように走り出す。
なんせ後ろからテープで確保されたなんて格好悪くて笑えもしない。
かといって何度も風を吹き飛ばしながら進むことも難しい。
相手もプロなのだ。最初の奇襲は体勢を崩すことに重きを置いていたのか空中でも吹き飛ばせたが、こんな暴風は地に足をつけないと自由を奪われかねない。
パンチに大事なのは腰が入っているかどうかなのだから。
「いっちょ核を災害救助しますか。
ではいくぞっ!……っ!?」
勇み足で踏み出した第一歩。
オールマイトはその足を即座に下げて顔を拭った。
(……今の感触。
砂利?いや、ここは屋内だしコンクリートを砕いた塵か。
シット!ほんと厄介だね!)
風に当たった時の感触。
それは砂を当てられた時のようなバチバチと広範囲に広がる地味な痛み。
だが問題は痛みではない。
この程度なら痛みのうちにも入らないが、正面突破しつつテープの存在に気を配るなら当然目を開けなければならない。
そんな時に砂のような小さいものが目に入ればたちまち視界を奪われる。
そうなればただ確保されるのを待つだけでしかない。
触れればわかるバレバレの罠。だがこの場合、見えていても対処し辛い姑息な攻撃だった。
「……塵による目潰しか。
ヒーローの所業じゃないがヴィランなら致仕方ない。
オーケイ!正面突破してやろうじゃないの!
連続スマッシュ!!」
拳を振るうと同時に駆け出す。
廊下の角から新たな風を感じると同時にもう一発。
四階の一室の前にたどり着くと中を覗き込みながら風の迎撃に当たる。
核のハリボテはなかなかにでかい。ナンバーワンヒーローたるオールマイトなら覗き込み視界を一瞬巡らすだけで充分だった。
「ない。よし次ぃ!…ゴフっ」
小刻みの個性連続使用。
負担が大きいとは言わないが、小さいとはとても言えない。
口からわずかに溢れる吐血を手で隠しながら四階を突き進んでいく。
「ヒーローたるもの負けられんのだよ!」
あっという間に4階を踏破したオールマイトは最後の階に足を踏み入れる。
5階層のビル故に今までの部屋で見つからなかった以上この階にあるのはずだ。
……が、当然ここにも妨害策が用意されていた。
「………くっ!この感じ、高濃度の酸素で5階を満たしているのか…!」
今度は見た目には何もない普通の空間。
それなのに吸う空気に多大な違和感を感じる。
しかもそれだけではない。高濃度の酸素は体に毒だが、吸ってすぐ影響が出るわけではない。危険ではあるが。
問題なのは、ビルの奥。
『STOP』
その文字と共に互いの接触を待ちかねているかのように回り続ける拳大の石が二つ。
酸素に満たされた空間で、火花でも起きればどうなるかなど考えるまでもないだろう。
つまりは5階まで攻め込んできたオールマイトに対する核を人質とした籠城。
「……………エグッ!」
ヒーローとして人質は無視できない。まあ物だが。
つまるところ効果は絶大だった。
試験終了まで、後5分。
頭脳派ヴィランは高みの見物らしい(校長談)。