ワン・フォー・ワン《独りは一人のために》   作:亡き不死鳥

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キャラがブレるのは基本(暴論)



フューチャー

部下という存在は上司にこき使われるために存在する。上司は部下に無茶振りし、部下はそれになんとか応えんと奮闘する。だって失敗したら上司の相手が面倒だから。

しかししかし、部下が上司に仕事を押し付けられるタイミングが実は存在する。それは何か。

 

…答え、クレームの対処。

 

 

 

「まったく、何故ワン・フォー・オールを無個性の中学生に受け継がせた!オールマイトを諌めるのが君の役目だろう!」

 

 

 

ただし、上司がいる時に限る。あるいは個人に対するクレームじゃない場合に限ります。

電話の相手はオールマイトの元サイドキックのサー・ナイトアイ。件のヘドロ事件からはや数日が経ち、オールマイトが見込んだ少年からは無事個性を受け継ぐと言ってもらえたらしい。

なので然るべき相手にオールマイト個人が方々へ報告を行った。すると来るわ来るわクレームの山。オールマイト本人に言い辛い愚痴不満やイライラが全てこちらに回って来る。

厄介なのが口八丁で考え直さないかと誘導してこようとする校長。やだ、校長って言っちゃった。まだ見知らぬ中学生に信頼を置くことが出来ないことを明言しつつ、雄英で後継者を選ぶ利点を滲ませてくるいやらしさ。頭のいい人はこれだから!校長人じゃないけど!

まあクレームの山といっても、そもそもオールマイトの個性について知ってる人間がそもそもそんないないわけだが。それでもその一人一人が厄介なわけで。

とりわけ面倒なのが現在電話しているナイトアイである。このガチオタクめ。これで何回目の電話対応だと思ってるんだ。

 

 

「何回も言ってんだろ。オールマイトも考えなしってわけじゃない。その中学生に感じるもんがあったんだろうよ」

 

「それでもだ!なんの技術もなく、その上個性もないただの一般人だぞ…。ワン・フォー・オールを使いこなせるかすら怪しいじゃないか…」

 

「それも何回目だよ。為せば成るっていうだろ。オールマイト直々の指導があるんだ、なんとかなんだろ」

 

「君がオールマイトの何を知っている!彼が彼たるはその精神!自己献身を超えた、自己犠牲すら超えた平和への想い!それがそこいらの中学生に宿っているものか!全く相応しいと思えない。しかも君は彼の肉体を見ていないのかね?あの完成された肉体を作り上げるのにどれだけの時間がかかるか!あとオールマイトに教職経験はない!」

 

「中学生への不満にさらっと本人の不安要素出してんじゃねえよ」

 

 

電話口にも聞こえるくらい大きなため息を電話に吹き付ける。口数も声量も倍増してこちらにぶつけてくるナイトアイを抑えるのは毎度苦労する。しかもそちらだけに集中していたら仕事が進まないので、同時進行で行う必要が出てくるのだ。つまり仕事が停滞する。人間には右脳と左脳があるが両方を別々に使えるわけではないとバカ以外は知っているはずなのに、やるしかないのが社畜の辛いところ。

…あれ、俺いつ社畜になったの?ヒーローは社畜だった?

 

 

「……はぁ。いい加減お前の相手するのも面倒になったから単刀直入に言うぞ。

何も心配いらない」

 

 

電話口でまだぐちぐち言っていたナイトアイの言葉を遮るように、少し強めの言葉を投げかける。あえて伝えたい言葉の前に一拍開けると相手はよくきいてくれるらしい。これ豆な。伝えたい言葉も相手もいなかったから実践したのこれが初めてだから効果の程は知らないけどね。

 

 

「………どういうことだ?」

 

「ちゃんと手は打ってあるってこと。ようするにナイトアイは後継者が次の平和の象徴レベルまでいけるか心配なんだろ?

だがオールマイトはその中学生の可能性に賭けてみたい気持ちがでかいわけだ」

 

「そう、だな。しかし今回のことはそんなギャンブルに挑むような気持ちで決めるべきじゃない」

 

「それでも最後に決めるのはオールマイトだ。一部食わせないといけないわけだし。

まあだからオールマイトには期間を決めさせて、結果が出なかったら諦めてもらうって流れにしておく」

 

「……どういうことだ?」

 

「ワン・フォー・オールの9代目が一年足らずでもいいだろって話だ」

 

「ッ!」

 

 

社会に出たらみんなそう。過程より結果。頑張りよりも才能。そんな残酷な現実を、大人としていつも通り子供に押し付けるだけの話。

 

 

「オールマイト曰く、その中学生は三年生。今年もう受験だ。だからそれまでの10ヶ月。その間に身体を完成させ、雄英に受かる程度には個性を使えるようになる。そんで学校でプロ免許をとって、ヒーロー活動へ。

その過程で一つでもミスったらワン・フォー・オールは次の後継者に受け継がせる。それで問題ないだろ」

 

「…………無茶だ」

 

「ハッ。今度は中学生の心配か?

10ヶ月で身体が出来上がらなきゃそもそも継承しない。

雄英に落ちたらお前が褒めてた奴にすぐに継承する流れでもいい。

プロ試験に落ちても同じだ。一年も待ってらんねえ。

……ほら、なんの問題もないだろ?」

 

「問題大有りだ!私が問題視しているのは、その中学生にオールマイトの名を背負う力があまりにも足りないことだ!楽観論で進めているオールマイトが少しばかり腹立たしいのも認める!

しかし!それは少年の心を食い潰していい理由にはならないだろう!」

 

「………」

 

 

………話に籠る熱が最初よりも遥かに高くなっている気がする。もしかしたらナイトアイもオールマイトが決めたことだからと、少しは納得していたのかもしれない。マジでごく僅かだろうけど。

 

 

「ならどうする?せっかくだしそいつの未来でも予知してみるか?未来が分かれば諦めも挑戦もできるぞ?」

 

「……比企谷。私にも怒りの琴線はあるぞ」

 

「冗談だよ。だが実際問題これが最善だと思うけどな。

成功を願うのは別にいいが、失敗した時のことを考えないのはただの馬鹿だ。かといって全部が全部否定で入るのはオールマイトとの間にしこりが残る。表面には出なくてもな。

なら挑戦はしっかりさせて結果を出した後に決めるのが手っ取り早くて、そんで後腐れが少なくて済む。そのためのルールだ」

 

「………最善が最良とは限らないだろう」

 

「お前の予知の通りならあと1、2年でオールマイトは死んじまう。だったら少しでも未練を減らしてやれよ。

育てきれなかった未練と育てることすらできなかった未練なら、少しでもスッキリする方を選ぶべきだと思うけどな」

 

 

「……君は、人の心理を読み取ることに長けているといつも感じるよ。その中学生は挑戦という機会を与えられ励むだろう。オールマイトも自身の意志を通せると喜ぶだろう。私だって成功するに越したことはないと思ってるさ。

だが君は感情を読み切れていない!人間がなんでもすぐに諦められると思うな!中学生があと一歩を踏み外して、そのままヴィランに流れないとどうして言える!オールマイトが育て切れなかったと失意に沈まないとどうして言える!

彼らも一人の人間だ。易きに流れ、膝をつくこともある。安易な希望はその最たる原因なのだぞ…」

 

「そん時はそん時だ。対処しとくよ。オールマイトに駄々はこねさせない。最後まで平和の象徴できる程度には支えとくさ。

…サイドキックだしな」

 

「……私は君のそんなところが嫌いだ。

………失礼する」

 

「おー、じゃあな」

 

 

ナイトアイの通話が終わり、目の前の書類にようやく取りかかれると紙に目を向ける。

……のだが、どうしても手が進まない。心の中にモヤモヤが残っているような、そんな不快感が抜け切れないのだ。

 

 

「………ふぅ」

 

 

小さく息を吐き、先ほどの会話を思い返す。

………間違っては、いないはずだ。挑戦できる可能性は摘むべきじゃない。誰しも挑戦する機会くらいはあっていいはずだ。それでもなし得ないなら器ではなかったということに他ならない。

オールマイトに関してもそうだ。初っ端から目をつけた相手を全否定され、そのまま何も知らない学生に自分の大事な個性を受け継がせるなど、どう考えても喜ばしいことではないだろう。

やるならやるで、自分が間違っていたのだと認識させる必要がある。その結果そのものが説得力になるのだから。

もしも今回の中学生が偉業を成せるならなんの問題もない。早く見つかって良かったと笑えばいいのだ。それが誰も不幸にならない最善のはず。例え気に入らなくても成果が出れば人は自ずとついていくのだから。

 

 

「間違って、ないと思うんだがなぁ」

 

 

その答えを教えてくれるのは未来だけ。未来を見通す個性など、俺にはないのであしからず。答えが来るのを待つしかないのだ。

だからこそ、答えが来るまで何度でも問い続ける。

 

やはり俺はまちがっているのだろうか、と。

 

 

 




いつになったら個性を説明できるのやら…。

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