時間とは日に日に過ぎていくものであり、しかも体感時間は歳をとるにつれて早くなっていく。
ついこの間までまだ秋の風を感じていたはずなのに、気がついたら雪がぱらつきリア充がやかましい季節、冬が訪れていた。いやリア充はいつでも煩いとかのツッコミはいいから。してない?あ、そう。
「……いよいよ明日か」
「ああ、明日だ」
「明日だねぇ〜」
そこまで広くない事務所に三つの声がこだまする。
冬に伴い暖房、コタツ、ミカン、小町と様々な癒しアイテムを導入しているのだ。
「やー、それにしても驚いちゃいましたよー。オールマイトもお兄ちゃんも雄英の先生だなんて!
はじめお兄ちゃんから聞いた時はついにここをクビになっちゃった!って小町勘違いしちゃいました」
「ハハハ!それはないさ小町君!比企谷君がいないとウチの事務所は回らないからね!いやほんと、座ってるだけで1日が終わっちゃうよ!」
「実際俺ほぼ毎日座ってるだけで終わってるけどな」
「もー!文句言わないのお兄ちゃん!せっかく拾ってもらって色んなとこにコネができたんだから大切にしないと!」
「……さらっと利用しろ宣言するのお兄ちゃんどうかと思うなぁ」
千葉にある俺の実家から事務所までは少し遠いが、一時間もあれば辿り着けるので小町は俺の借りているマンションの掃除がてらたまに遊びに来ることがある。
もちろん仕事が忙しいことが多いので事前連絡を必ずしてもらい、その間はオールマイトには出かけてもらっていることが多い。
オールマイトの萎んだ身体を小町に見せるわけにもいかないし。
しかしオールマイトもひょこっと来て、事務所の掃除まで軽快にやってくれる小町への感謝の気持ちもあってか、度々今回のようなオールマイト同席のお茶会が開かれる。
ただマッスルモードなのでとても狭い。あと小町と二人きりの時間が減るので正直邪魔である。
「まあ何にせよ明日は雄英の一般入試だし、将来有望のヒーローの卵さん達をしっかり見てあげてね!で、後で感想聞かせてね」
「それはいいんだけどよ。雄英の入試に小町なんか関わりあったけ?」
「そりゃもちろんだよ!将来小町の後輩になるかもしれないんだから、ツバつけとかないと!
あ、今の小町的にポイント高い!」
「そうかよ。あ、やるなら女子だけにしろよ?男にやったら俺はそいつを退学にしなくちゃならなくなるしな。
お、今の八幡的にポイント高くね?」
「…うわぁ、ないわぁ」
「比企谷くん、仕事に私情は良くないぞ!」
「ジョーダンだよ。…二割くらい」
「結構マジだね!?」
「ハァ、ゴミいちゃんが…」
妹が辛辣で辛い。
……一応説明しておくと我が愛妹、小町ちゃんもヒーローである。
プロフィール
個性【電気誘導】
捕捉:電磁誘導に非ず。
電気の流れを操作する個性であり、電気を放出したり生成したりはできない。
また電気信号も読み取れ、表面的な感情なら分かるのだとか。
きっとウチの妹のコミュニケーション能力が高いのはこれのおかげだと思う。
「にしてもさー。教師だなんて突然過ぎない?
お兄ちゃんは元よりオールマイトなんて国民的ヒーローなんだから、もっと自由にしてた方がヴィランも動きづらいと思うんだけどなー」
「オトナの事情ってやつだ。
正直俺に教師とか一番似合わないしな。
先生なんて俺にトラウマ作りまくった存在だし」
「ま、まあほら!後継…じゃなくてこれからの時代を担っていく若者を育てるのは先駆者の義務というかだね!」
「………ふーん、まあいいか。
というかお兄ちゃん、今さりげなく小町を子供扱いしてなかった?
小町ももう立派な大人なのです!相応の扱いを要求します!」
「はいはい、大人しくしとけ。それが大人の第一歩だ」
「…は〜い」
「うんうん、仲が良くて何よりだ!」
高らかに笑うオールマイトの声をBGMにある資料を取り出す。
そこには【入試概要(教師用)】と書かれており、明日の一連の流れが書いてあった。
試験内容は俺の頃と変わらず、ポイント制のロボット退治。そこに救助ポイントを雄英講師の偏見と独断により采配されることで決定する。
入試当日の映像はもちろん、受験生何百人といる人気校なので個人の配点を特定するために繰り返し録画したビデオを見せられるのだとか。
「……前から思ってたが、教師の独断と偏見で落とされた側は堪ったもんじゃねえな」
「そだねー。そもそも実力高い人しかいなかったらレスキューポイントなんて稼げないわけだし。
小町は楽だったけど」
「相性いいしな。
まあヒーローの資質?だかを測るとか書いてあるし、意図はわかるが大人の汚さが滲み出てるというか」
「ならお兄ちゃんならどんな試験にするのさ」
「俺?そりゃー、そうだな。
雄英の先生対受験生とか…」
「プロのヒーローに勝てるわけないじゃん。
合格者いなくなっちゃうよ?」
「か、勝ち残りトーナメントとか?」
「雄英の受験生の人数考えなよ。
どれだけかかると思ってんのさ」
「ば、バトルロワイヤル!」
「加減のできない受験生同士でやったら最悪死人が出るよ?」
「………雄英って凄えな」
「最高峰だもんねー」
「その最高峰に勤めるわけだし、我々も覚悟をある程度決めていかねばな。
なっ、比企谷くん!」
「いや俺雑用だから。講義とか無理だし」
「そっちは乗ってくれないんだ!?」
実際未だに俺の詳しい仕事内容が伝えられていないので、マジで雑用だけの可能性も高い。
オールマイトはヒーロー基礎学なる実践的な訓練の教師だそうだ。
オールマイトが教師というだけでも生徒達のモチベーションは上がるだろうから、俺の存在は完全に蛇足である。
むしろ一緒に入って「オールマイト!……と、誰?」となるのが関の山。
いやほんと今からその光景がリアルに想像できて辛い。
「………なんにせよ、どんな個性の奴が来るかで対応も変わるだろ。たまに不作の世代もあるらしいし。
去年とか教師の話盗み聞きしてたら一クラス丸ごと除籍食らったとか言ってたし」
「うっそ!折角入れたのに!?」
「ま、それもこれも俺たちの問題じゃなく受験生の問題だ。遅れてもまずいし今日は早めに上がろうぜ」
「そうだね!私も心の準備はある程度出来たしね!
小町ちゃんのおかげさ!」
「おお!よく分かんないですけどお役に立てたなら小町嬉しいです!
ではでは!お先失礼しますねオールマイト!」
「うむ!お疲れ様、二人とも!」
パタンと音を立てて事務所を小町と共に後にする。
そろそろオールマイトの時間もまずかったし、前日ということで緑谷の方に向かうことだろう。
そのために小町を早く退散させておいてやるのが優しさというものだ。
俺は気が使えるからな!無碍にされること多いけれど。
「…小町、ちょっと早いけど飯食ってくか」
「いいね!どこいく?」
「サイゼ」
「おっけーい!レッツゴー!」
……うん。ほんの の日常の一ページではあるが、確信を持って言える。
やはり、俺の妹はとても可愛い。
入試あんま変化なさそうでカットしたくなる気分。
介入要素ないでござる。