問題児たちより少し先に1人異世界から来るそうですよ? 作:アリアドネの糸
「私がやる」
読み終わるや否や春日部がピシ!と指先まで綺麗に挙手した。
彼女の瞳はグリフォンを羨望の眼差しで見つめている。
比較的大人しい彼女にしては珍しく熱い視線だ。
「ニャー?ニャニャーニャー」
「大丈夫、問題ない」
「ふむ。自身があるようだが、コレは結構な難物だぞ?失敗すれば大怪我では済まんぞ」
「大丈夫、問題ない」
耀の瞳は真っ直ぐにグリフォンに向いている。
キラキラと光るその瞳は、探し続けていた宝物を見つけた子供のように輝いていた。
隣で呆れたように苦笑いを漏らす十六夜と飛鳥。
「OK、先手は譲ってやる」
「気を付けてね、春日部さん」
「頑張れ、春日部」
「うん。頑張る」
俺たちはそれぞれ思うがままに耀へと声援を投げかけた。
その言葉を背に受け、グリフォンに駆け寄る耀。
だが、グリフォンは大きく翼を広げてその場を離れた。
戦いの際、白夜叉を巻き込まないようにだろう。
白夜叉がその程度でどうにかなるような存在でもないが、
あのグリフォンにとってはよほどの恩義があるのだろう。
春日部耀を威嚇するように翼を広げ、巨大な瞳をギラつかせるグリフォンを
追いかけるように春日部耀走り寄った。
数mほど離れた距離で足を止め、まじまじとグリフォンを観察する。
鷲と獅子。猛禽類の王と、肉食獣の王。
数多の動物と心を通わせてきた彼女だが、それはあくまで地球上に生息している相手に限る。
箱庭にいる生態系を逸脱した幻獣と呼称されるものと相対するのは、これが初めての経験。
まずは慎重に話しかけるようであった。
「え、えーと。初めまして、春日部耀です」
「!?」
ビクンッ!!とグリフォンの肢体が跳ねた。
とても驚いたようだ。しかし耀の力本当に便利だな。
その瞳から警戒心が薄れ、僅かに戸惑いの色が浮かぶ。
彼女のギフトが幻獣にも有効である証であった。
「ほう・・・あの娘、グリフォンと言葉を交わすか」
白夜叉は感心したように扇を広げ、声を漏らした。
二種の王であるグリフォンの背に跨る方法は二つと、さっき黒ウサギにこっそり聞いた。
一つは、力比べや知恵比べで勝利し、屈服させること。
二つ目は、王であり誇り高い彼らにその心を認められること、らしい。
しかしこの二つ以外の方法でも、言葉を交わせるのであれば、
自分の有利なように、もとい自分の好きなように交渉を進められるだろう。
そして、耀は大きく息を吸って、一息に述べた。
「私を貴方の背に乗せ………誇りを賭けて勝負をしませんか?」
「………!?」
耀がグリフォンに向けて言った。
『誇りを賭けろ』というのは、気高い彼らにとって最も効果的な挑発だろう。
その証拠にグリフォンの声と瞳に闘志が宿る。
耀はグリフォンの返事を待たずに交渉を続ける。
「貴女が飛んできた山脈。
あそこを白夜の地平から時計回りに大きく迂回し、この湖畔を終着点と定めます。
貴方は強靭な翼と四肢で空を駆け、湖畔までに私を振るい落とせば勝ち。
逆に私が背に乗っていられたら私の勝ち。・・・どうかな?」
耀は小首を傾げる。確かにその条件ならば力と勇気の両方を試すことができる。
だが、グリフォンは如何わしげに大きく鼻を鳴らす。
そりゃいきなり人間の小娘に誇りをかけろと言われたらああなるわな。
そしてグリフォンが耀に何と返したかは彼女とグリフォン自身にしかわからなかった。
だが、耀が次に発した言葉である程度は察しがついた。
「命を賭けます」
そう答えた。グリフォンが対価を聞いたのだろう。
誇りの対価に何を賭けるのかと問われ彼女はすぐに自分の命と答えたのだろう。
黒ウサギと久遠が驚愕といった感じで声を上げた。
「だ、駄目です!」「春日部さん!? 本気なの!?」
あいつ本気なのか?もしそうであるなら何も言わない。
「貴方は誇りを賭ける。私は命を賭ける。
もし転落して生きていても、私は貴方の晩御飯になります。・・・それじゃ駄目かな?」
「・・・」
耀の提案にますます慌てる黒ウサギ。それをほかの3人が厳しい声で制す。
「双方、下がらんか。これはあの娘が切り出した試練だぞ」
「ああ。無粋な事はやめておけ」
「そうね。春日部さん自身が決めたことよ。そう簡単には曲げないわ」
「そんな問題ではございません!!同士にこんな分の悪いゲームをさせるわけには―――」
「大丈夫だよ」
耀が振り向きながら黒ウサギに頷く。
その瞳には何の気負いもない。むしろ、勝算ありと思わせるような表情だ。
「く、難波さんも止めてください」
黒ウサギが俺に耀を止めるように訴えてきた。
「断る」「な、何故・・先ほどは3人を止めようとしてくれたでありませんか」
それは当たり前だ。
「命を投げ捨てるような行為が大嫌いだから言っただけだ。
だが、この賭けは春日部にとってクリア不可能な難易度ではない。
よって俺は止めない」「そんな・・・」
グリフォンはしばし考える仕草を見せた後、頭を下げて背に乗るように促した。
耀は頷き、手綱を握って背に乗り込む。鞍がないためやや不安定だが、
耀は手綱をしっかり握りしめて獅子の胴体に跨る。
耀は鷲獅子の強靭で滑らかな肢体を擦りつつ、満足そうに囁く。
「始める前に一つだけ。・・・私、貴方の背中に跨るのが夢の一つだったんだ」
「・・・」
耀の奴、決闘を前に何を口走っているのやら。
グリフォンは苦笑してこそばゆいとばかりに翼を三度羽ばたかせる。
前傾姿勢を取るや否や、大地を踏み抜くようにして薄明の空に飛びだした。
「春日部さん大丈夫かしら」
久遠が心配そうにつぶやく。大丈夫だとは思っても心配なものは心配なんだろう。
「そうだな、体感温度はマイナス数十度を下回るだろう」
十六夜が冷静に言う。
「うぅ、耀さん」
黒ウサギは耀を止められなかったことを悔いているようだ。
耀を乗せたグリフォンが山脈を回ってきた、
だがまだ落ちていない耀を振り落とそうと旋回などで振り回している。
しかし、耀を振り落とすことはできず、湖畔の真ん中まで疾走した。
耀の勝利か。
そう思った瞬間、耀の手が手綱から外れた。
『何!?』
「春日部さん!?」
耀の小さな体が突風に吹き飛ばされたように舞う。
黒ウサギが助けに行こうとしたようだが、十六夜に止められていた。
「は、放して・・・」
「待て、まだ終わっていない」
焦る黒ウサギを止める十六夜だったが、
次の瞬間耀の体が翻った。
慣性を殺すような緩慢な動きは耀の落下速度を衰えさせ、耀は飛翔した。
「・・・なっ」
その場にいた俺を含めた全員が絶句した。
さっきまでおそらく耀は飛べなかった。
しかし、耀は飛べるようになった。つまりグリフォンの力を手に入れたのであろう。
「やっぱりな。お前のギフトって、他の生き物の特性を手に入れる類だったんだな」
湖畔の上に浮いたままの耀に十六夜が近寄り声をかけた。
しかし、十六夜が浮かべた軽薄な笑みが気に入らなっかたのか、
むっとしたような声色で耀が返す。
「・・・違う。これは友達になった証。けど、いつから知ってたの?
「ただの推測だ。
お前黒ウサギと出会ったときに‶風上に立たれたらわかる〟って言ってたろ。
そんな芸当はただの人間にはできない。
だから春日部のギフトは他種とコミュニケーションをとるわけじゃなく、
他種のギフトを何らかの形で手に入れたんじゃないか・・・
と推察したんだが、それだけじゃなさそうだな。
あの速度で耐えられる生物は地球上にはいないだろうし?」
おそらくこいつは耐えられるだろうに何をいってるんだか。
三毛猫が耀に近づき心配そうに肩に乗った。
『お嬢!けがはないか?』
「うん、大丈夫。指がジンジンするのと服がパキパキになったくらい」
三毛猫が大丈夫か尋ねたのであろう、耀は大丈夫と返した。
しかし、その指がとても赤いのが見ているのが少し見ていられなかった。
「春日部、手を出してくれるか?」
「・・・?、うん」
疑問に思いながらも耀は手を出してくれた。
俺は耀に近づき力を使った。
「・・・暖かい」
「もう指は大丈夫か?」
「うん」
「おいおい、お前いくつのギフトを持っているんだ?」
「秘密だ」「っく」
十六夜が悔しそうな声を出す。
向こう側に白夜叉が耀にパチパチと拍手を送り、グリフォンが感嘆の眼差しで耀を見ている。
『見事。お前が得たギフトは、私に勝利した証として使ってほしい』
「うん。大事にする」
「いやはや大したものだ。このゲームはおんしの勝利だの。
・・・ところで、おんしの持つギフトだが、それは先天性か?」
「違う。父さんにもらった木彫りのおかげで話せるようになった」
「木彫り?」白夜叉が首をかしげる。
『お嬢の親父さんは彫刻家やっとります。親父さんの作品でわしらとお嬢は話せるんや』
「ほほう・・・彫刻家の父か。よかったらその木彫りというのを見せてくれんか?」
三毛猫が白夜叉に何か言ったようだ。猫がいうには耀の父親は彫刻家か。
耀は白夜叉の頼みに頷き、丸井木彫り細工を取り出した。
白夜叉が渡された手の平大の木彫りをみて、急に顔をしかめた。
飛鳥と十六夜も気になるようでその隣から木彫り細工を覗き込んだ。
「複雑な模様ね。何か意味があるの?」
「意味はあるけど知らない。昔教えてもらったけど忘れた」
いや、忘れたらダメだろ・・・
「・・・。これは」
なぜか白夜叉だけでなく、十六夜と黒ウサギも神妙な顔をして鑑定に加わった。
表と裏を何度も見直してその表面にある幾何学線指でなぞる。
黒ウサギが首をかしげて耀に聞く。
「材料は楠の神木・・・?神格は残っていないようですが・・・
この中心を目指す幾何学線・・・そして中心に円状の空白・・
もしかしてお父様の知り合いには生物学者がおられるのでは?」
「うん、私の母さんがそうだった」
「生物学者ってことは、やっぱりこの図形は系統樹を表しているのか白夜叉?」
「おそらくの・・・ならこの図形はこうで・・・
この円形が収束するのは・・・いや、これは・・・これは、凄い!本当に凄いぞ娘!
本当に人造ならばおんしの父は神代の大天才だ!
まさか人の手で独自の系統樹を完成させ、しかもギフトとして確立させてしまうとは!
コレは正真正銘〝生命の目録〟と称して過言ない名品だ!」
白夜叉が興奮した様子で声を上げる。
確かに人の手でギフトを確立、つまり作ったというならとんでもないことだ。
耀は不思議そうに首をかしげて白夜叉に問う。
「系統樹って、生物の発祥と進化の系譜とかを示すあれ?
でも母さんの作った系統樹の図はもっと気の形をしていたと思うけど」
「うむ、それはおんしの父が表現したいもののセンスがなす技よ。
この木彫りをわざわざ円形にしたのは生命の流転、輪廻を表現したもの。
再生と滅び、輪廻を繰り返す生命の系譜が進化を遂げて進む円の中心、
すなわち世界の中心を目指して進むさまを表現している。
中心が空白なのは流転する世界の中心だからか、生命の完成がいまだに見えぬからか、
それともこの作品そのものが未完成の作品だからか
―――うぬぬ、凄い。凄いぞ。久しく想像力が刺激されとるぞ!実にアーティスティックだ!
おんしさえよければ私が買い取りたいぐらいだの」
「ダメ」即答か。耀が木彫り細工を白夜叉から取り上げると、
白夜叉はおもちゃを取り上げられた子供みたいにしょんぼりした。子供か。
「で、これはどんな力を持ったギフトなんだ?」
「それはわからん。今わかっとるのは異種族と会話ができるのと、
友になった種からの特有のギフトをもらえるということぐらいだ。
これ以上詳しく知りたいのなら店の鑑定士に頼むしかない。
それも上層に住むものでなければ鑑定は不可能だろう」
「え?白夜叉様でも鑑定できないのですか?今日は鑑定をお願いしたかったのですけど」
ゲッ、と気まずそうな顔になる白夜叉。おい、つまり鑑定できないのか。
「よ、よりにもよってギフト鑑定か。専門外どころか無関係もいいところなのだがの」
その口ぶりからゲームの賞品として依頼を引き受けるつもりだったのだろう。
困ったように髪をかきあげ、俺たちの顔を両手で包んでみる。
「どれどれ・・・ふむふむ・・・うむ、4人ともに素養が高いのはわかる。
しかしこれでは何とも言えんな。おんしらは自分のギフトの力をどの程度に把握している?」
「企業秘密」
「右に同じ」
「以下同文」
「大体把握している」
「うおおおい?いやまあ、仮にも対戦相手だったものにギフトを教えるのが
怖いのはわかるが、それじゃ話が進まんだろうに」
「別に鑑定なんていらねえよ。人に値札張られるのは趣味じゃない」
はっきり拒絶する十六夜だが、それには賛成する。
白夜叉は困ったように頭をかく。すると突然妙案が浮かんだようでニヤリと笑った。
「ふむ、何にせよ〝主催者〟として、星霊のはしくれとして、
試練をクリアしたおんしらには〝恩恵〟を与えねばならん。
ちょいと贅沢な代物だが、コミュニティ復興の前祝いとしては丁度良かろう」
白夜叉はそう言うとパンパンと柏手を打った。
すると俺たちの眼前に光り輝く4枚のカードが現れた。
俺の目の前のゴールドのカードにはこう書いている。
紫香楽難波・ギフトネーム 〝千里眼〟 〝質量操作〟 〝エネルギー変換〟 〝転位〟
そこには俺が知っている自分の力、この世界における〝恩恵〟が書かれていた。
十六夜たちも同様のようだ。
それぞれ、
春日部耀・ギフトネーム 〝生命の目録〟 〝ノーフォーマー〟
久遠飛鳥・ギフトネーム 〝威光〟
逆廻十六夜・ギフトネーム 〝正体不明〟
・・・十六夜の〝正体不明〟とはなんだ?
黒ウサギは驚いたような、興奮したような顔で俺たちのカードを覗き込んだ。
「ギフトカード!」
「お中元?」
「お歳暮?」
「お年玉?」
「・・・」
3人のペースについていけない。
「ち、違います。というかなんで皆さんそんなに息が合ってるのです!?
このギフトカードは顕現しているギフトを収納できる超高価なカードですよ!
耀さんの〝生命の目録〟だって収納可能で、それも好きな時に建言できるのですよ!」
黒ウサギが少し興奮気味で説明する。それだけこのカードが希少なのだろう。
「つまり素敵アイテムってことでオッケーか?」
十六夜・・・
「だからなんで適当に聞き流すんですか!あーもうそうです、超素敵アイテムなんです!」
黒ウサギに叱られながら3人は堪えた様子もなくカードを物珍しそうに見つめている。
「我らの双女神の紋のように、本来はコミュニティの名と旗印も記されるのだが、
おんしらは〝ノーネーム〟だからの。
少々味気ない絵になっているが、文句は黒ウサギに言ってくれ」
「ふぅん・・・もしかして水樹ってやつも収納できるのか?」
十六夜が何気なしに水樹をカードに向けた。
すると水樹は光の粒子となってカードの中に呑み込まれてた。
見ると十六夜のカードはあふれるほどの水を生み出す樹の絵が差し込まれ、
ギフト欄の〝正体不明〟の下に〝水樹〟の名前が並んでいた。
「おお?これ面白いな。もしかしてこのまま水を出せるのか?」
「出せるとも。試すか?」
「だ、駄目です!水の無駄遣い反対!その水はコミュニティの為に使ってください!」
「っち」
十六夜はつまらないとばかりに舌打ちした。
黒ウサギは絶対無駄遣いさせないとばかりに十六夜を監視している。
白夜叉はその様子を高らかに笑いながら見つめている。
「そのギフトカードは、正式名称を〝ラプラスの紙片〟、即ち全知の一端だ。
そこに刻まれるギフトネームとはおんしらの魂と繋がった〝恩恵〟の名称。
鑑定は出来ずともそれを見れば大体のギフトの正体は分かるというもの」
「へえ?じゃあ俺のはレアケースなわけだ?」
十六夜がそう言う。おそらく〝正体不明〟のことだろう。
白夜叉が十六夜のカードを覗き込むと、白夜叉の表情が劇的に変化した。
まぁ、全知がエラーを出すことが本来はありえないはずだから、驚くはずだ。
白夜叉は十六夜のカードを取り上げた。その雰囲気は尋常ならざるものだ。
真剣な眼差しでギフトカードを見る白夜叉が不可解とばかりにつぶやく。
「〝正体不明〟だと・・・?
いいやありえん、全知である〝ラプラスの紙片〟がエラーを起こすはずなど」
「何れにせよ、鑑定は出来なかったってことだろ。俺的にはこのほうがありがたいさ」
そういうと十六夜は白夜叉からカードを取り上げた。
白夜叉は怪訝な瞳で十六夜を睨んでいたが、自分の中で結論が出たのか苦笑を浮かべた。
俺はひと段落ついたのを見て、白夜叉に言う。
「白夜叉、俺の願いを1つ叶えてもらう約束だったよな」
「おお、もちろん覚えておるよ。して、おんしの願いはなんだ?」
俺の方をみんなが向く。俺は一呼吸おく。
そして白夜叉に、ずっと胸の内に抱えていた願いを言う。
「俺を〝サウザンドアイズ〟に入れてくれ」