第一節 カルデアの記
人理継続保障機関フィニス・カルデア。
午前9時過ぎ。
「フォウ!フォッ、フォフォーゥ!」
自分の上からだろうか。
何か、獣の気配がする。
「ん………フォウ?」
「フォウッ!」
「フォウ」と呼ばれる生物の鳴き声で、青年は目を覚ます。
名を藤丸立香。
ここカルデア唯一のマスターにして、英雄。
枕元の時計を見る。
「9:04 Thu 22/6 2017」。
即ち、2017年6月22日木曜日。
アレから半年経つが、未だに落ち着かない。
半年前、2016年の大晦日。
冠位時間神殿ソロモンにて、ゲーティアとの最終決戦が繰り広げられた。
大切なモノを失いながらも藤丸とそのサーヴァント達は王を倒し、人理を救った。
その失ったモノとは_______
「見つけました、フォウさん。先輩の部屋に来ていたんですね」
桃色の髪をした少女、マシュ・キリエライト。
カルデアで出会った
サーヴァントといっても、本来のそれではない。
カルデアが召喚した英霊「ギャラハッド」が爆発事故により瀕死の重傷を負っていたマシュに憑依したモノだ。
俗に
そして、何故彼女が「元」なのか。
かのゲーティア戦で、彼女は一度死んだ。
宝具によって肉体を焼かれ、粉微塵も残らなかった。
そこで、フォウが力を発揮した。
フォウの本来の姿であるキャスパリーグ、彼が
その代わりに、フォウは一切の知性を失ったが。
もう一人、失ったモノがいる。
ロマニ・アーキマンというドクターなのだが、彼のことは話すべきではない。
「んぅ、おはよう、マスター!」
「ああ、おはようジャック。お、ナーサリーも元気だな!」
「ええ!今から遊びに行くのよ!」
「おはようございます、マスター。その顔、あまり目覚めが良くないようで」
「言うてトリスタン、お前も眠そうだぞ?」
「ええ。この顔は元からですのでお気になさらず」
「やぁバベッジ卿。機関の調子はいかがかな?」
「絶好調である。してマスター、私のことを卿と呼ぶとは珍しい」
「あは、バレた?」
だがそれと同時に、多くの大切なモノを得た。
人類の未来、サーヴァント達。
そして新たに______
「おはようございます、ホームズさん。非番ですか?」
「そうとも言うだろう。だが、厳密には違う。仕事と言えるような大事になかなか遭遇しないのだよ。故に、私は只今休憩時間だ。それと同時に、犯罪紳士からの逃亡時間でもある」
「あー……
キャスターのサーヴァント、シャーロック・ホームズ。
亜種特異点の新宿して遭遇し、そこで自らの力の限界を悟り、現在はカルデアでデスクワークに勤しんでいる。
ジェームズ・モリアーティという
「今回ばかしは違う。私のストラディバリウスを使わせてくれとせがんで来るのだ。例え
「いや、それはお前の許容範囲の問題だと思うぞ」
「………別解、というわけか」
相変わらず、彼の思考はいまいち理解出来ない。
世界一有名な探偵というだけあってか、頭脳が違いすぎるのだ。
「そうそう、ミスBBが呼んでいた。何でも、面白いモノを見つけたとか」
「面白いモノ?」
「私も詳しくは知らない。だが彼女のことだ。ろくな事______」
考えていないだろう。
そう、ホームズが口にしようとした瞬間だった。
うぉん、うぉん、うぉん。
カルデア中が、赤いランプに照らされた。
『緊急事態発生。緊急事態発生。藤丸立香、マシュ・キリエライト、シャーロック・ホームズの3名は大至急カルデアス前に来てください!繰り返します____』
「____どうやら、ろくな事では無かったようだ」
「言ってる場合ですか!さあ、先輩!」
「ああ、急ごう!」
即ちカルデアの危機。
3人は駆け出した。
「藤丸立香、到着しました!」
「同じくマシュ・キリエライト、到着しました!」
「同じくシャーロック・ホームズ、只今到着した」
3人の目の前にいたのは、モナ・リザを彷彿とさせる女性。
レオナルド・ダ・ヴィンチだ。
もっともダ・ヴィンチは男性だが、美を追求した結果、モナ・リザの姿を以て現界したとのこと。
「やあ、3人共!今日もダ・ヴィンチちゃんは元気さ!早速だけど_____」
と、気楽な挨拶が返ってくるはずだった。
だが、違う。
ダ・ヴィンチの表情が明らかに険しい。
「あの……何か、今日暗くないですか?」
「ああ、マシュか。そうだね、済まないがそんな暇は無いんだ。これを見てくれ」
そう指差したのは、疑似地球環境モデル・カルデアス、その周囲を周回する近未来観測レンズ・シバ。
「カルデアスと、シバ。これがどうしたんですか?」
「日本をよく_____いや、シバ越しに見てくれ」
言われたとおりカルデアスの日本に目を向ける。
何の変哲もない、文明の光が灯った美しいモデルケースだ。
「これを……シバ越しに………ッ!?これは_____」
藤丸は、気づいてしまった。
いくらカルデアの開発といえど、シバも元はただのレンズ、奥を透かして見ることはできる。
そして、そのシバを透かしてあの二箇所を見てみると_____
「気づいたかい。そう、日本が真っ赤、しかも反転して写ってるんだ」
シバ越しに見たときだけ真っ赤に染まった日本。
しかも、鏡写しにしたかのように反転している。
「まさか____また人理が?」
「いや、あり得ない。ゲーティアは消滅して、残っているのは数本の魔神柱だけだ。それに_____」
その時、ダ・ヴィンチは衝撃の一言を放った。
「これ_____ひょっとしたらゲーティア騒動よりヤバイぞ…!?」
「アレより、ヤバイ…!?ダ・ヴィンチ、それはどういう_____」
「____だ」
ボソリ、と、ホームズが呟いた。
「____ミスBBはどこだ!彼女なら、何か知っているはずだ!」
BBは、藤丸に面白いモノを見せたかったという。
BBの面白いモノというと、だいたいろくな事にならない。
要するに_______
「BBが____黒幕だったのか!!」
「違いますよぉ〜…」
カルデアスの裏から声が聞こえてきた。
この優しくも冷酷な声は____
「そこにいるのか、BB!」
「いや、これは私のせいじゃないです!確かに、カルデアスに悪戯して観測範囲を変化させましたけど、気づいたらまっかっかだったんだすよぅ〜!」
「だとすると____カルデアスの観測範囲の更に未来、そこに問題があって、それに気づいていなかっただけなのか!?」
BB曰く。
カルデアの力が足りないだけで、本来は未来にもレイシフトできるとかなんとか。
BBは陰から出てきたと思ったら、一瞬で藤丸に迫り首元で囁く。
「なら……やることは1つですね?セ・ン・パ・イ♡」
「なっ、なんだよそんなに顔近づけて………まさか!?」
藤丸が言動の意味に気づき驚愕すると、BBはダ・ヴィンチに向かってこう言い放った。
「やることは1つ!超未来までレイシフトして、異変を解決しちゃいましょ〜!」
周囲のスタッフに、どよめきが起こった。
本来、未来へのレイシフトはほぼ不可能。
それをカルデアスで観測しきれないほどの未来まで跳ぶなんて、自殺行為もいいところだ。
身の安全は保障できまい。
「………なるほど」
ホームズは、何かに気づいた。
その呟きを聞いた藤丸がホームズに声をかける。
「なるほど、って……何かわかったのか?」
「ああ。思えば実に簡単なことだったよ……超未来にレイシフトするのはね」
え、と藤丸は声を漏らす。
そうだ、腐っても彼はシャーロック・ホームズ。
その頭脳は、冴えに冴えている。
周囲のスタッフがホームズに注目する中、ダ・ヴィンチは問う。
「超未来に、……どうすればいいんだい?」
「実に理論的で、実に正確。実に____」
ホームズは、言った。
「_____初歩的なことだ、友よ」
「わかった、君の言葉を信じよう。さぁみんな、準備を始めるぞ!」
スタッフが一斉に散り、各配置につく。
その様子を、BBはまじまじと見つめていた。
そんなBBに、ホームズが声をかけた。
「ミスBB。君は先程、カルデアスに悪戯していたと言った。それにより、この超未来が観測できた。この作戦には、君のその悪賢さが必要だ。ミスター、ミス……ダ・ヴィンチちゃんのサポートの元、レイシフト先の特定を行ってほしい」
BBの悪戯は、悪いことではなかった。
この悪戯のお陰で、この危険にいち早く気づくことができた。
故にホームズは、BBの力が必要不可欠だと。
「…………全く、仕方ないですね」
生意気そうに、BBは言う。
「このBBちゃんに、お任せください!」
決意したBBは早々にダ・ヴィンチの元へとかけていった。
それを見送ったホームズは、藤丸の方を向く。
「君も急いで準備してくれ。超未来となると、サーヴァントの現界処理が不安定になることが予測される。故に同行できるサーヴァントは1騎が限度だろう。時代の解析が進めばこちらから複数騎のサーヴァントを送り込むことも可能だろうが、とりあえずは1騎だ。慎重に選んでくれ」
「ああ、わかった。じゃあ、俺は準備してくる。マシュ、サポート頼むぞ!」
「お任せください!BBさんには負けませんので!」
………後輩の座をBBに譲る気はないようだ。
安堵した藤丸は、マイルームへと向かった。
超未来というのは、どのような環境かわからない。
入念な準備をしなければ。
時は来た。
これから、「超未来」へのレイシフトが行われる。
『藤丸くん、準備はいいかい?』
「はい!魔術礼装の下に戦闘服着てきました!」
『いい心掛けだ。で、サーヴァントは誰にしたんだい?』
「えっと、迷ったんですけど一応日本らしいので……彼にしました」
背後にいたのは一人の青年。
赤い髪に、和の装い。
多彩な道具を隠し持ったそのサーヴァントは____
「はい。アサシン、風魔小太郎。主殿を必ずや守りきってみせます」
忍は、言った。
『超未来に聖杯はない。ゲーティアによる異変でもない。故に現地でのはぐれサーヴァントとの遭遇は絶望的だと考えた方がいいだろう。現地人協力の下、異変の元を断ってくれ』
わかりました、と藤丸は威勢よく返事をする。
『いい返事だ。こりゃ簡単にはくたばらなさそうだね。いいとも、始めよう!BB、ホームズ、よろしく頼むよ?』
「任せ給え。では………ミスBB」
『はーい!では、先輩はコフィンにお願いします!』
言われるがままにコフィンに乗り込む。
緊張はするが、楽しみでもある。
未だ見ぬ超未来、一体どんな世界が広がっているのだろうか。
全自動化した超文明か?
それとも壊滅した世紀末か?
それを、これから確かめに行くのだ。
それを、これから救いに行くのだ。
『え〜っと、ここがこうでこうなって……出ました!場所は新宿で、年代が……せっ、西暦11945年!?』
『そりゃまたぶっ飛んでるねぇ。通りで観測できなかったわけだ』
『ダメです、年代が飛びすぎていて空間が安定しません!成功確率低下、コフィンのブレーカー、ダウンします!』
「そんな時の為の私…なのだがね」
気づいたら、ホームズが謎の球体に腰掛けていた。
彼の宝具だろうか。
「ホームズ、一体何をするんだ?」
「私の起源は「解明」。文字通り、解明するだけさ」
球体が変形し、虫眼鏡のようなものが複数飛び出す。
そして、虫眼鏡に収束された光が、カルデアスを照らす。
「例えどんなに解明不可能であろうとも、必ずそこへの道筋を「発生」させる。端的に言えば、私はミス両儀の言う起源覚醒者の一種というわけだ」
何気衝撃的な発言がされたが、今はそんなことを考えている場合ではない。
ホームズは目を瞑り、手を組む。
そして見開き______全てを見透かす。
「真名開放、起源覚醒_____
『空間安定、成功確率上昇!行けます!』
『よぅし!レイシフトを開始する、BB!』
『はい!いってらっしゃい、先輩!』
瞬間、全てが空間に飲み込まれる。
身体が消えるような感覚、そして全てを世界に委ねる。
ホームズの見出した道筋を辿り、世界を辿る。
そして、辿り着く。
11945年、3月10日。
廃墟都市。
箱に掴まり、地上へ落下する黒い人影が2つ。
「もう、いきなり飛び降りるんですから!もしポッドに掴まってなかったらどうなってたことか…」
「………すまない」
少女は少年に謝罪する。
すとん、と地上に降り立つ。
少女の名は2B。
少年の名は9S。
ヨルハ部隊のアンドロイドとして、この廃墟都市へ派遣された。
「報告:機械生命体反応多数。どれも非好戦的」
「戦いを嫌う機械生命体………」
「最近、増えてるらしいんです」
人ほどの高さの機械生命体。
草を踏みながら、悠々と歩いている。
すると白い箱___ポッド042が反応した。
「報告:未確認生命体反応確認」
「と言うと、新種の動物ですか」
「否定」
え、と9Sは声を上げる。
「鹿や猪と同じ生体構造から哺乳類と予測。アンドロイドの発声と同じ空気の震えを感知」
「それって、言葉を話してる…!?」
(そんな_____いや、あり得ない_____)
驚愕する9Sの隣で、2Bは顔をしかめる。
そして、次のポッド042の発言で、全てが
「推測:人間」
前々から考えてたクロスオーバーをココで放つ時が来ました
同時連載の「Fate/imagine breaker!?魔法少女と不幸少年」もヨロシク!