Fate/dragon sphere   作:小櫻遼我

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もうダ・ヴィンチちゃんちっちゃくなってからの時間の方が長いのおもしろい
この連載始めた当初はまだアルターエゴキアラが最新サーヴァントだった時代だぞ


第十一節 異形の末路

 司令部より全ヨルハ部隊へ。

 数百年もの間発見されなかったエイリアン達の反応を確認した。知っていると思うが、エイリアンは機械生命体達の司令塔だ。エイリアンを殲滅すれば、長きにわたるこの戦争も終結する。現在、技術部の方で電波発信源の解析を進めているが、情報が不足している。地上にいるヨルハ部隊は、本案件に対する情報収集を最優先しろ。この好機を逃してはならない。

 人類に栄光あれ。

 

 ヨルハ部隊達にあのアラートが発令された直後、バンカーの司令官から一斉にこのような通信が入った。周囲、また飛行ユニットに登場した上空のヨルハ達がソワソワとし出す。彼らにとってエイリアンとは全ての元凶であり怨敵。しかし部外者である藤丸と小太郎には、それがイマイチ実感できずにいた。

 曰く……。西暦5012年、地球に突如エイリアンの船団が飛来した。それを受けた人々は地球を外敵から守るための人類軍を設立し、戦闘用アンドロイド製造に着手。()()()()()()もあり善戦するが、それに対抗しエイリアンは機械生命体を製造し、投下。こうして約六千年にわたる人類とエイリアンの代理戦争が始まったのだ。

 そして今、エイリアンを発見した。彼らを攻撃すると言うことは、敵国首脳陣営に殴り込みをかけるも同義だ。故にここでの采配が、対機械生命体──或いはエイリアン──戦争を大きく左右するのである。

 廃墟都市、中心部。廃ビルが乱立しどこが中心なのかさえ分からなかったが、先の大型機械生命体の共鳴によって地形が変化し、まさに中心であるとアピールするような大穴ができた。崖から大穴を覗くと、開けた空間には機械生命体が跋扈し、小川が断たれ水の流れは穴の遥かそこへと落ちる滝となってしまっている。地中に埋まっていた下水管なども切断され、どこかへ繋がる秘密の通路のようになり壁から飛び出ていた。

「地形が陥没してる……。元々地下に空洞があったみたいですね」

 9Sが呟く。確かに、この規模の地盤沈下は単なる地形変化のみで起きるものではない。大胆な地形の変化には、いずれもその結果に繋がった”何か”があるはずである。例えば、地面の下に大きな空洞が開いていれば路面の陥没により大きな穴ができ得る。

「主殿」

 陥没を考察していると、小太郎が藤丸を何かから庇う。小太郎が意識を向ける方角を見てみると、そこには見たこともないような異形の機械生命体が彷徨っていた。……ミミズ(ワーム)、だろうか。小さい飛行型機械生命体がムカデの節のように連なり、うねうねと空中を泳ぐウミヘビのような一個の機械生命体に合体している。その頭部には大きなドリルがついており、その危険性は察するに余りある。地面だって掘れそうだ。案外、ミミズというのも間違っていないのかもしれない。そんな中、ミミズ型機械生命体の節のある一点に爛々と輝く光球が連なっているのに気づく。察するに、あれが小型機械生命体達を統合するコアなのだろう。あそこを突けば小型機械生命体のテザリングが崩壊し、既に一個の機械生命体として成立してしまった奴は複数の小型機械生命体に分裂することさえなく皆一気に爆散してしまうことだろう。

「敵性反応を確認、破壊す──」

「いや、待ってくれ」

 刀に手をかけた2Bを藤丸は制止する。……ミミズ型機械生命体はこちらを気にすることもなく、ゆらゆらと宙を漂っている。2Bがああ言っているのだから、ヨルハの識別装置には敵性と認識されているのだろう。だが奴らにはどうも敵意を感じない。

 藤丸は小太郎の制止をなだめ、浮遊するミミズ型機械生命体の下に潜り込む。ゆらゆらと藤丸の上を通り過ぎていく。連結した小型機械生命体の何体かと目が合ってしまった。奴らの目は敵性を示す赤色だったが、依然として藤丸は襲われていない。冷や汗を流しながらも、藤丸はガンドの構えを解く。

「……大丈夫そうだ」

 藤丸は三人のもとに戻り報告する。マスターたる藤丸の言葉を全て聞き入れる小太郎とは異なり、ヨルハの二人は怪訝そうな表情を浮かべている。

「確かに、現段階では奴らに敵意はないかもしれません。しかし考えてみれば奴らは今まで地中に埋まっていたわけですから、目が覚めきっていない、或いは自身の敵の情報が正しく同期されていないのかもしれません」

「じゃあ、同期される前に早めにコトを済ませた方が良さそうだな」

 そう言い、藤丸は歩みを進める。ヨルハの二人は敵性機械生命体と聞いて、破壊したくてたまらなかった。それがヨルハの存在意義だからだ。しかし放っておいても害がないのであれば、リソースを無駄にする意味もない。襲ってきたらまた考えればいい。そう整理をつけた。

 陥没部のさらに崖から、9Sが下を覗く。さらに下に空間が存在し、この崖はそこまで通じる縦穴になっているようだ。それを確認するや否や、2Bは崖から飛び降りた。下を見ると、ポッド042をパラシュート代わりとしてふわふわと落下していく2Bの姿があった。さながらメリー・ポピンズだ。

 一方、藤丸には当然のような懸念が生じた。

「これ、俺……降りられるかな」

「ご安心を。僕がしっかりと抱えて離しませんので」

「でもGがかかって心臓に悪いんだよなぁ」

 そう尻込みしていると、何やら9Sが微笑み──それか、ニヤついているのか──ながらこちらを見ている。その視線……というか首は藤丸とその背後を交互に指しているようにも見える。

「どうやら、非戦闘員の移動も考慮されているみたいですよ」

 彼の言葉を受け藤丸が振り向くと、崖から下に向かって梯子がかかっているのが見えた。先遣隊によるものだろう。梯子の終点には、先ほど飛び降りた2Bがおりこちらを見上げている。確かに、ヨルハが皆2Bのように度胸があるわけでもないのかもしれない。特に2Bは名前通りの

戦闘型(Battler)なのだから。

 しかし、藤丸はヨルハでなければアンドロイドですらない。生身の人間がこの高さの崖を覗き込み、挙げ句の果てにこの高さを落下防止柵さえない梯子で下っていけと言われて、「はい行きましょう」と元気に言えるものだろうか?

「小太郎……」

「はっ」

「着地、任せた……」

 

 崖を降りると、目の前には洞窟の入り口があった。藤丸四人分ほどの高さはあるだろうか。ここまで大きいともはや洞窟ではなくまさに”空洞”だった。それにおそらく……この洞窟は自然にできたものではない。入ってみて気づいたことだが、自然物にしては足元が整いすぎている。舗装こそされていないが、明らかに生命体が歩きやすいような整地がなされていた。さらに壁面は、崩れないように木材で補強されている。明らかに何か知的生命体の手が加えられている。古代人か、それとも──。

「ここの通路は昔からあるみたいですけど……」

「にしては、整いすぎてるよな」

 と、藤丸は通信機のスキャナー機能を起動する。壁を補強した木材にスキャナーをかざし、読み取ったデータをカルデアに向け転送する。

「藤丸さん、何を……?」

「炭素年代測定、って言うのかな。うちの技術者に見てもらおうと思って。ダ・ヴィンチちゃん、行けそう?」

『任せたまえ! 数分で特定してみせようとも!』

 通信機の向こうで彼女が叫ぶ。さすが、と彼女に一言添えると、藤丸達は再び歩みを進めた。

 洞窟を進んでいくと、日の光がだんだん弱くなり、やがて何も見えなくなってしまった。入ってきた方を見ると確かに日の光は確認できるが、それが進行方向まで照らしてくれない。あまりに遠すぎるのだ。奥に進むにつれ足元も悪くなり、何か鉄クズのようなものを踏んだり足を引っ掛けてしまったりする感覚がある。

「うう……9S、何か見えるか?」

「いえ……。この目隠し(バイザー)暗視機能(ナイトビジョン)を搭載しているわけではなくて、あくまで目視できるものに情報を付加するスクリーンというだけなので……。ポッド、ライト点灯」

「了解」

 9Sの呼びかけに答え、ポッド153がライトを点灯する。唐突な発光に思わず目を瞑ってしまう藤丸。なんとか目を開けようとするがその度に目を焼かれるような痛みに襲われ、近くにいる小太郎達の影がうっすらと見えるだけだ。

「主殿、これは……」

「小太郎!? 何が見えるんだ!?」

 ゆっくりと、藤丸は目を明るみに慣らしていく。次第に小太郎達の詳細まで見えるようになってきた。それと同時に、小太郎が何に驚いているのかを藤丸も理解した。

 錆びつき、力尽きた機械生命体達の残骸がいくつも転がっていたのだ。

「これは……」

「これ……、随分昔からあるような感じですね……」

 9Sが呟く。確かに残骸はかなり錆びついており、ここまでのものは藤丸も見たことがなかった。果たしていつからあるのか……ダ・ヴィンチの炭素年代測定が早く終わればいいが。

「主殿、あれを」

 続いて小太郎が指さしたのは、奥へ続く道だった。道の端には、等間隔で木の台のようなものが組み立てられている。形状からして……篝火だろうか? そして篝火の導く先を辿ってみると、そこには奇妙な光景が広がっていた。金属の通路だ。”鉄”といった感じではない謎の金属でできた通路、上に続く階段が伸び、ところどころに青白いワンポイントの照明が組み込まれている。

「これは……機械生命体のか?」

「おそらく……。ですが、これほど文明的な建造物は見たことがありません。これを奴らが……?」

 藤丸は階段の上を見上げる。建物一階分を上がるほどの高さの先に、円形の扉があった。ノブはついていない。おそらく自動ドアだろう。

「みんな」

「はい、警戒を」

 9Sの言葉を聞き、2Bは刀に手をかける。何が待っているかわからない……四人はそろりそろりと階段を登っていく。先頭を進む2Bの手が扉に触れようとした瞬間、扉は左右上の三つに分かれ開いた。やはり自動ドアだったようだ。

 だが、その先にはさらに驚くべき空間が広がっていた。

「この場所は……」

 そこはいかにも未来、といった様式の空間だった。円形の空間は真っ黒な壁に囲まれ暗く、しかし青白い照明が空間を照らしている。雰囲気としては、キャメロットで見たアトラス院のそれが近いだろう。だがここは、それ以上に無機質だった。金属なのかさえ分からない壁、感情さえ感じさせない色の統一感。色調・質感こそアトラス院のそれと似通っているが、この空間には「人の介在」を感じなかった。

「9S、ここは……?」

「いえ、僕にもさっぱり……。データベースに該当する情報はないようですが、機械生命体がこんな……いや、つまりここがエイリアンの──」

 そう9Sが言いかけたところで、ごぅん、と重低音が響いた。何かの機械の起動音。何だ何だと慌てる藤丸の目を刺したのは、眩い白色の光。即ち日光。壁だと思われていた巨大なシャッターが音を立て上がっていく。

 四人は光の方へ駆け出した。目の前の階段を駆け降りると、視点が下がり、より多くの日光を浴びる。直視する者、思わず目を背ける者。そして光のさす先に何かを感じた2Bは光が続く背後を振り返る。光が当たり、足元からその全容が明らかになっていく”何か”。それが入ってきた円形の舞台を背に囲うように、何体も何体も鎮座していた。それは何本もの触手を足に持ち、胴は長く、腕を持たず、眼窩は大きく窪み、歯を剥き出し、頭でっかちで──男性器をさえ思わせる形状の、謎の生命体の──、

「これは……死体!?」

 すると、開いたシャッターの向こうを見ていた9Sが2Bに声をかけた。2Bはすぐさま9Sのもとへ駆け寄り、彼の指す方を見る。シャッターの裏に隠れていた、巨大な窓。その向こうに見えたのは、何か大きな機械の残骸だった。ボロボロだったが、ヨルハの二人にはそれが何か直感できた。「船」だ。

「破壊された、エイリアンの母船が……」

「ってことは、これは……宇宙船?」

 そう呟く藤丸のもとに、カルデアから通信が入った。ダ・ヴィンチからだった。要件はおおよそ察しがつく。

「ダ・ヴィンチちゃん! 結果が!?」

『ああ、出たとも。条件が悪くて細かい年代までは特定できなかったが、おおよその見当はついた。その一帯は、約七千から六千年前からあるものだ。それは、ヨルハ達の言うエイリアンの侵略時期と一致する!』

「じゃあ、やっぱり──!

 その時だった。小太郎は何かの気配を感じ取り、藤丸を庇った。同時に、ヨルハの二人も何かに気づき振り向く──いや、二人のそれは気配ではなく「声」だった。背後から何者かが四人に声をかける。その声を聞き、小太郎の感じた気配の存在を藤丸も認知する。光を背に、声の方を向く。そこにいたのは、三人の男だった。

「ようこそ、我が創造主の墓場へ」

 一人は、右手にロンググローブをつけた長髪の男。ズボンのみを履き、上半身は裸で、白い髪がたなびいている。一人は、左腕に黒い紋様が刻まれた短髪の男。ズボンのみを履き、上半身は裸で、白い髪がたなびいている。そして一人は──二刀を腰に差した、和装の男。

 奇しくも、その全員に見覚えがあった。

「オマエ達は……!」

「こいつ……鏖殺のセイバーっ!」

 自らの名を呼ばれ、セイバーは目を見開く。するとすぐに笑い出し、不敵な笑みを浮かべ四人を睨む。

「ほう、やはり覚えていたか。自己紹介は要らんようだな。では……」

 と、セイバーは一歩退く。それを見た長髪の男は鼻を鳴らし、セイバーを尻目に見たのちに四人に真っ直ぐ目線を据える。

「フン。──ご機嫌よう。私の名前はアダム」

 名乗る長髪の男──アダムの言葉を遮り、隣でふらふらと揺れていた短髪の男が一歩踏みだす。ズン、と、それだけで強烈な威圧感が響く。藤丸は魔術師ですらないただの人間──弱者であるからこそ、その圧をより力強く感じる。男の殺意さえ感じさせる一歩を見た9Sは、男がじっと見つめている2Bに声をかける。

「2B! 気をつけてください!」

「なぁ……コイツら殺していい?」

「イヴ、落ち着け。まだ話は終わっていない」

「チッ……分かったよ、にぃちゃん」

 アダムが諫めると、イヴと呼ばれた男は不機嫌そうに頬を膨らませ、踏み出した足を元の場所へ引き戻した。それを後方で見守るセイバーは、不敵な笑みを依然保っている。

「さて、どこまで話したか……そうか。では改めて、私の名前はアダム。君達が探しているエイリアンは、もういない」

「それは、どういう──」

「何百年も前にこいつらは……私達、()()()()()が絶滅させた」

()()()()()……、そうか、お前ら……!」

 そこで、藤丸は気づいた。セイバーのみならず、どこか藤丸の記憶に覚えのある二人。それも当然だ、彼らとはセイバーと出会ったのと時を全く同じくして出会ったのだ。……あの砂漠のコロニーで戦った、全裸の男。それがアダムなのだ。そしてもう片方の男は、2B達がアダムを倒した時にアダムの死体から──肋骨から、まるで聖書に語られる最初の女イヴのように現れた男。彼女と名を同じくする、イヴだ。

 一方で、2Bはアダムの言葉を聞き、すぐそこで何体も力尽きているエイリアンの死体に目をやった。

「絶滅……させた?」

 怪訝に思うのも不思議ではない。機械生命体はエイリアンが地表に放った代理戦争の尖兵。彼らがエイリアンに弓引くということは、彼女達ヨルハが人類に弓引くのと同じことだった。だが、アダムの振る舞いから滲み出る狂気は、確かにそんな凶行を予感させるものであった。

「今度絶滅するのは……君達アンドロイドかな? それとも……」

 アダムが2Bから目線を逸らし、藤丸を見つめる。目と目が合うだけでも十分に伝わってくる狂気に、藤丸は震え後ずさってしまう。小太郎はすぐさま、そんな藤丸をアダムの目線からカットする。それをアダムは、まるでヒトが忠犬を慈しむような、あるいはこれから起こる暴力に期待するような歪な笑顔で見送った。

 ……一瞬の出来事だ。アダムが目を逸らし、再び元の目線に戻るまで。彼の眼差しが藤丸を追い詰めたその僅かな余所見の隙に、2Bは刀を抜きアダムへ飛びかかった。

「甘いな」

 だが、アダムにはお見通しだった。アダムは飛びかかる2Bを尻目に捉えただけで全てを理解した。瞬時にバリアを張り、2Bの刃が弾かれる。2Bが怯んだその瞬間にバリアは吸収した斬撃のエネルギーを真逆の──射撃エネルギーへと変換し、2Bへゼロ距離の散弾を放った。

「っ……!」

 空中で受け身を取る2B。散弾によって傷を負うことは免れたが、その衝撃自体は依然として2Bへと襲いかかる。吹き飛ぶ2Bその無防備の隙を、傍のイヴが突いた。

「ッだらァッ!!」

 優雅で計算され尽くした動きのアダムとは異なり、イヴは感情と筋肉の赴くままに飛び蹴りを放った。その足は見事に2Bの腹部に命中し、2Bは空気を吐きながら墜落する。それを追うようにイヴも着地し、獲物を見つけたかのような目と笑みで2Bを見据える。

「2B!」

 9Sと藤丸が叫んだ。二人と小太郎は一斉に2Bとイヴのもとへ駆け寄ろうとするが、それぞれ異なる相手がそれを阻んだ。

 9Sを阻んだのはアダムだ。アダムは巨大な光の腕のようなものを形成し、9Sを殴り飛ばした。2Bとは逆の方向へ飛んでいく9S。そしてアダムもイヴに同じく、9Sを追った。2Bとも藤丸とも離され孤立した9Sは、目の前に立ち塞がるアダムを見据える。アダムが9Sを引き離したのはイヴへの兄弟愛故か、それともイヴと同じように9Sを獲物として見た故か……。

 藤丸と小太郎を阻んだのは──残り一人では必然か──セイバーだった。セイバーは刀二本を抜くまでもなく、利き手の一刀のみで藤丸を制する。

「貴様……主殿から離れろッ!」

 小太郎は小太刀を抜き、セイバーへ飛びかかる。だが、あまりにも無策というもの。奇襲に特化したアサシンが、剣の腕では右に出る者のいないセイバーに、刀で挑むなどと。セイバーは思わず笑みをこぼす。彼は小太郎の刃を見てすらいない。我々をどれだけ愚弄するか──。小太郎は小太刀を振り下ろす。だがセイバーはそれを見さえせず、素振りのようにさえ見えた刀の一振りで弾き返した。それだけではない、セイバーは小太郎の小太刀を弾くと同時に何発もの斬撃を叩き込んだ。それはまるで踊るかのような剣舞だった。受け身を取りづらい空中に浮いたまま何発もの攻撃を受けた小太郎は、全ての斬撃をかろうじて凌ぎ切り傷なく着地するも、セイバーの猛攻により姿勢を崩してしまっていた。

「小太郎!」

「膝をついたな、カルデアのアサシン。さて、では次はその足を斬り落としてみせようか」

「そうは……いかない!」

 すぐに気勢を取り戻し立ち上がる小太郎。そうだ、サーヴァントたるものそうでなくては──。セイバーは微笑みを見せる。

「彼らは……機械生命体は、自己進化を繰り返し強化されていく兵器だ。蜘蛛の巣のように張り巡らされた彼らの意識の内に芽生えた知性、それが創造主(エイリアン)達のそれを凌駕するのに、大して時間は要さなかった」

「だからって……自分達の創造主を殺すだなんて……!」

 そんな藤丸の叫びを聞いたセイバーは笑い出した。今にでも腹を抱えそうなほどに大声を出し、声を──空気の塊を押し付けるかのように笑っている。

「だ、そうだ! どう思うかね、アダム!」

 振り下ろされた9Sの刀をアダムは鷲掴みにする。光の腕を形成したのと同じエネルギーで右手を補強し、一切傷つくことなく刃を握り締めている。そして、9S達の戦いがそれほどの児戯であるのか……アダムは刃を掴んだまま9Sから目を離し、セイバーの声に応える。

「ハッ。……いいんだよ、こんな奴ら。()()()()()()、単純でくだらない構造の生き物だ。価値なんかない」

「この……ッ、話していないでこっちを見──」

「だが!」

 9Sの声に気づいたかのように、アダムはギュンっと振り返り、9Sを見つめる。その不気味な振り返りに、思わず9Sは首を引いてしまう。

「だが、本当に価値のあるものを、私達は見つけたのだ。それは……月にいる人類」

「人類……!?」

 その言葉に驚いた9Sは、アダムを狙う刃を引き戻し、後退した。自分達の主を狙っていると言われて黙っているわけにもいかない。しかし、9Sが戸惑ってしまったのは……これまで、月面の人類に興味を示した機械生命体など──それどころかアンドロイド達でさえ、人類とは「月にいる、そういうもの」という認識でいる者が多い──いなかったからだ。

 アダムは、お前のことだぞ、とでも言うかのように藤丸を見つめる。舐め回すような目を向け、アダムは語る。

「そうだ。人間は魅力的だ……理解不能だよ。記録によると、同じ種族で大量に殺し合ったり、愛し合ったり……その行動原理は、目を見張る不可解さだ。私達は、その神秘に迫りたいんだよ」

「その通り。故に彼ら機械生命体は、人類の模倣たる君達アンドロイドに調査の助力を願いたいとのことだ」

「助力だと……!?」

 2Bの意識がセイバーの発言に向いた。しかしその一瞬を、イヴは全力で突いた。巨大化した光の腕で殴打する。2Bは吹き飛ばされ、9Sの足元に転がる。2Bは受け身を取り瞬時に立ち上がるが、同時にイヴはアダムのもとへと瞬間移動し、二対二の構図を取る。

「そう、助力だ。月にいる人類を引きずり下ろして……生きたまま分解して、分析して、その秘密の全てを暴くんだよ! こんな素敵なこと……他にないよねェ?」

「きひひ。最高だよ、にぃちゃん!」

 アダムにつられ、イヴも笑う。それを舞台上から見下ろすセイバーは、招くように手を広げ、小太郎を挑発する。……小太郎はいい気分ではなかった。セイバーの挑発もそうだが、アダム達の反吐が出るような計画も、人類への悪意を伴った知的好奇心も、その全てを危うく思った。それがいずれは、主たる藤丸に繋がってしまうからだ。

「そんなこと……させる訳がないだろうッ!」

 小太郎は印を結び、口から火を吹いた。火遁の術だ。炎がセイバーに迫る。ここに来て、セイバーはとうとうもう一刀を抜いた。二刀流になったセイバーは、それこそ()()、炎を受け流す。すると炎は、踊るセイバーに付加されたコンピューターグラフィックスのように刀にまとわりつき、最終的に彼の握る二刀は炎を纏う炎剣と化したのだ。

「ほう。ご立腹かね?」

「当然だ! 貴様のような奴らに主殿の命は、そして月で暮らす人類の平穏は奪わせはしない! 二人とも、惑わされてはいけません!」

「僕らはもとよりそんなつもりはない! でしょう、2B!」

「……ああ」

 2Bと9Sも小太郎の怒りに呼応し、刀を構える。それぞれの刃がそれぞれの敵を向き、敵意や殺意さえもを剥き出しにする。そしてそれは彼らへの対抗であり、人類への忠誠心でもあったのだ。

 すると、

「く、ふ」

 セイバーは、狂ったように笑い出した。今日イチの大笑いだ。

「くふ、ふふふはははははは!! そうか! ()()()()()()()()()()()()()()()()と来たか! いやはや、なんたる蒙眛、なんたる哀れか! これでは交渉は決裂だな、アダムよ!」

「ああ……悲しいことだ。では、滅ぼすしかないな、君達を。ここにいる退屈な……宇宙人(エイリアン)と同様に」

 アダムとイヴの気が高まっていく。セイバーも同様に、その燃える剣を手の内で回している。武器を構える2B、9S、小太郎。藤丸も人差し指を立て、ガンドの構えを取る。これからが、正念場だ──。

 が、そう誰もが思った瞬間。アダム達はその殺意を収めた。セイバーも炎を振り払い、左右に納刀する。

「この……まだ終わってないぞ、セイバー!」

「それはこちらとて同じこと。だが生憎、刻限(タイムアップ)でな」

 そう言うと、セイバーは大きく飛び上がりアダム達のもとへ着地した。小太郎も同じように飛び上がり、また藤丸は駆け出し、2B達のもとへと駆けつける。アダム達三人は、まるで何事もなかったかのように落ち着いた表情で佇んでいる。それは狂ったように拳を振るっていたイヴも同様だ。

 アダムは──イヴは──セイバーは、語る。

「これが、私達の()()()()()()……」

「オマエ達が信じる人間は、どうかな……?」

「さあ、彼らを探し給え。彼らの目的、住処、正体こそが、諸君(ヨルハ)の戦いの終わりであり、諸君(カルデア)の旅の終着点なのだから──」

「ッ、逃がさない!」

 小太郎は鎖鎌を振るい、遠心力をつけて投擲する。攻撃ではなく、相手に巻きつき拘束するための投擲。鎖鎌は真っ直ぐ三人のもとへ迫っていくが、巻きつくすんでのところで三人は光になって消えていき、鎖鎌は背後のガラスにぶつかり、こつん、と音を立てただけだった。

「クッ、逃げられた……!」

 奥歯を噛み締める小太郎。それは皆同じようで、ヨルハの二人も目元こそ見えないがその口角は引きつっていた。

 一方、状況を静観していたダ・ヴィンチが通信をかけてきた。四人が戦っている間に、ダ・ヴィンチはカルデアのスタッフを動員し得た情報の解析を行っていたのだ。

「……なにか、分かった?」

『多少だがね。あのアダムとイヴを名乗る機械生命体の目的も、鏖殺のセイバーを名乗る男の正体も不明。真名の手がかりには欠ける。だが、あの死体達──』

 ダ・ヴィンチが示したのは、何体も並ぶエイリアンの死体。そばにいた2Bは恐る恐る、死体に触れる。死体はミイラ状態だった。全身がカラッと乾いており、剥き出しの歯は酷くくすんでいる。眼窩がぽっかりと空いているのは、ミイラ化の過程で眼球が消滅してしまったためだろう。人体の中で眼球ほど水分を含んだ部位はそう無い。

「エイリアン達が……既に滅んでいた……」

『その通りだ、2B。とすると、君達の基地(バンカー)が探知したエイリアン信号というのは、この空間が発していた彼らの救援信号ということなのだろう。被造物による反逆を受け信号を発信した。それが今まで感知されなかったのは、地下空洞といえど分厚い地表を電波が通れなかったからだろうね。そうしているうちに、彼らは……というのが、大まかなあらすじだろう。……だが』

 と、ダ・ヴィンチは言葉を濁した。

『あのアダムとイヴという機械生命体……砂漠の機械生命体コロニーで出会った個体と同一のものだろうが、今回はなぜか彼らからサーヴァント反応が確認された』

「何だって……!?」

 藤丸は思わず声を荒げる。あれが英霊の力? 否、であれば砂漠で戦った時と同じ技を使ってきたことに説明がつかない。そこで、藤丸は思い出した。もう一体、サーヴァント反応を確認した機械生命体がいたはずだ。

「……ボーヴォワール」

『そう。遊園地の機械生命体、アルターエゴ、真名をシモーヌ・ド・ボーヴォワール。共通点があるとは思わないかい?』

「共通点……?」

『これはそこでふんぞり返っているホームズの受け売りなのだがね。おそらく彼らは……”自我の覚醒”と同時に、サーヴァントをその身に宿している。いわばサーヴァントとしての自認だ。自らの名と霊基を、知性を得て初めて認識する。そう考えると……ボーヴォワールは確かにシモーヌ・ド・ボーヴォワールなのだろう。そしてアダムとイヴは、文字通りアダムとイヴなのかもしれない。彼らはそれが宿った、擬似サーヴァントというわけだ』

「それは、孔明やイシュタルみたいな?」

『その通り。どちらかと言うと、依代の自我を維持している孔明──エルメロイ二世にこそ近いと言えるね。これもホームズの推測だが……エルメロイ二世にとっての孔明の霊基が”力の源流たるもう一人の自分”とするならば、機械生命体達の霊基はおそらくほとんど影響力がなく、”自我を持つ機械生命体としての格”でしかないのかもしれない』

「……名前のなかった機械生命体が、名を名乗るようになった……」

『そういうことだ。仮にそこらの機械生命体が自我に目覚めたとして、君の名前を名乗ったとする。するとその機械生命体は、”藤丸立香”の霊基を持つ擬似サーヴァントになる。そういう理屈さ』

「そんなわけがないッ!」

 ごおっ、と怒号とともに圧が藤丸を襲う。その主は、拳を強く握りしめた9Sだった。

「機械生命体に、意思なんてない! 奴らが名前を持つなんて、サーヴァントとやらを宿すなんて、あるはずがないんだッ!」

『お言葉だが、では君はパスカルのことはどう思っているんだい? 彼にも僅かながらのサーヴァント反応が──』

「あいつも同じだ! 温和に振る舞っておいて、裏ではきっと僕達を──」

「9S!」

 藤丸は叫んだ。9Sの口がすぼみ、言葉が途切れる。藤丸は決して暴力的な発言をした9Sを怒るのではなく、彼の怒りを鎮めるように、静かに語った。

「よく考えてみるんだ。もしパスカルが本当にアンドロイドをハメようとしてるなら、村を作った理由は何だ?」

「それは、きっと罠に誘い込んで──」

「9S。確かに機械生命体は敵だ。けど、機械生命体を倒すことばかり考えて、頭が固くなってるんじゃないのか」

 9Sは黙り込み、歯軋りをする。彼の行動原理は半ば思考停止的でもあった。機械生命体を絶対悪とし、不戦の意思さえ無視する。それが意図的であれ無意識であれ、9Sの思想はそんな性悪論に支配されていた。

 かつて、古代中国の儒家・孟子と荀子はそれぞれこう唱えた。「人は皆善人である」。「人は皆悪人である」。そんな矛盾する思想が現れてしまったら、果たしてどちらが真なのだろうか?

「ッ……分かりました。どうあれ、僕達は敵対する機械生命体を破壊するだけです。……2B、ひとまずバンカーに戻って報告しよう」

「……ああ」

 一旦は落ち着きを見せる9S。四人はその場での調査や言い合いを切り上げ、陽の光の当たる場所へ戻ろうとした。ここにいても、もう意味はない。エイリアン達はとっくに死んでしまっているのだから。

 最後尾から9Sの背中を見つめる2B。その背中は微かに震え、強張っているようにも見える。……かつて2Bは9Sに「感情を持つことは禁止されている」と語った。9Sはそのことを覚えていないかもしれない。だが9Sの語る性悪論を聞き、そして性悪論を語る9Sに最も憐憫を感じていたのは、そんな2Bに他ならないのであった。

 ぎり────。2Bの口の奥で、鈍い音が響いた。

 

 レジスタンスキャンプに戻った後、カルデア組とヨルハ組は一旦別れた。ヨルハの二人は”転送装置”なるものを使ってバンカーへ報告に戻った。どうも義体(ボディ)を地上に残し自我データのみを別所の義体に転送することで擬似的なテレポーテーションとしているらしい。先程も、自動販売機のような機械に二人が入っていってから数時間出てきていない。おそらく”上”にいるのだろう。

 ……というわけで、藤丸達はレジスタンスキャンプで休憩をとっていた。ご丁寧にも、メンテナンス班のエリアを休憩用に貸してくれた。負傷したアンドロイドが横になるための簡易ベッドがいくつも置いてあり、藤丸達はそこに腰掛けている。キャンプの奥の方にも休憩場所はあるが、座って十分に休みやすいところを、ということで柔らかいベッドを貸してもらえたようだった。

「──よし、……よし。了解、じゃあそっちも休んでていいよ」

『そうだね。少しシフトを入れ替えるとしよう』

 そう言ってダ・ヴィンチは通信を切る。藤丸はベッドに手をついて、大きく背を伸ばす。

 天井代わりに張られた布を見つめる。陽の光が僅かに透け、風でたなびいている。……そういえば、まだ一回も暗くなっていない。随分長い一日だ、と藤丸は大きなため息をつく。それを聞いて、隣のベッドで休んでいた小太郎が吹き出す。うるさいやい、と小太郎に言い、藤丸はそっぽを向いてしまった。

 すると、その”そっぽ”に、ある女の影が現れた。整った赤い長髪、柔らかな表情。ここにいるのなら彼女もアンドロイドなのだろう。女は水の入った紙コップを藤丸に差し出す。

「どうぞ、真水。アンドロイドの冷却水用なんだけど、君でも飲めると思うわ」

「ああ……どうも」

 藤丸は女からコップを受け取ると、ぐびっと水を喉に流し込む。……真水というだけあって、水道水なんかよりずっと美味しく感じる。そんな藤丸の隣に女は腰掛け、顔を見つめてくる。

「……ごめんなさい、人間にあったのは随分久しぶりで」

「ああ、月にいるんでしたっけ」

「彼らのためにも、私達が戦わなきゃいけない。それが私達の使命なの」

「使命、か……」

 アンドロイド達は、こんなにも個性がある。冷徹を偽っている2Bはもちろん、9Sやアネモネ、この女まで。そんな彼女達と、あの場所で見たエイリアン達の死体。藤丸には、機械生命体達とアンドロイド達が被って見えた。どちらも身を捧げ、創造主のために戦っている。違うことといえば、知能と、外見と、機械生命体は既に創造主を滅ぼしてしまった、ということだけだ。……彼女らアンドロイドも機械生命体と同じ反逆を辿るのか。創造主に文字通り身を捧げる彼女達の”意志”とは、一体何なのか……。

 などと考えていると、2B達が──入っていった自動販売機とは別の、黒い転送装置から出てきた。それを見て、隣に座っていた女が立ち上がる。

「ああ、二人とも! 人間さんはこっちよ!」

 人間さん、という呼称がどこか引っかかりながらも、藤丸達も立ち上がり二人の元へ向かう。これといって深刻な任務を振られたようには見えないが、9Sは2Bと異なりどこか面倒くさそうに見える。

「次は?」

「パスカルです。あの知的機械生命体を監視しろという命令でした」

「監視ね……」

 その言葉がどうも気に入らなかったが、機械生命体は彼らにとって宿敵であるため、いくら知性を得て武装解除した機械生命体達の集落といえど油断はできないのだろう。こればかりは仕方のないことだと思う。

 パスカルの村は、確か廃墟都市を森方面に抜けた先に近道があったはずだ。四人はそこへ向かった……。

 

 こん、こん、こん。鉄屑でできた小屋の扉を9Sがノックする。

「あのう……」

 9Sが自信なさげな声を出す。相手が機械生命体ということもあって、まだやりづらいのだろうか。しばらくすると、扉を開けてパスカルが緑色に光る目を覗かせた。

「ああ、9Sさんに、皆さん。どうぞ、狭いですけど」

「お、お邪魔しまーす……」

 中に入ると、そこは本当に狭いただのワンルームだった。大きめの家のお風呂場くらいの大きさしかない。部屋の隅には、角に合わせるように本が積み立てられている。食事も睡眠も排泄も必要としない機械生命体にとっては、自分がただ居れる場所とちょっとの嗜好品置き場さえあればいいのだろう。だからといって家自体必要でない、とはならないのだろう。雨風に晒されれば、全身が錆びてしまう。

 四人が小屋の中で落ち着くと、パスカルは話を始めた。

「先日の機械生命体の暴走は大変でしたね……」

 彼が言うのは、小太郎が宝具で吹き飛ばしたあの大型機械生命体のことだろう。続いて、2Bが口を開く。

「幾つか、あなたに聞きたいことがある」

「はい。私に回答できることでしたら何なりと」

 パスカルは快く了解する。嫌そうな様子は一切見せない。だが2Bのその口調は、藤丸には取り調べ、あるいは尋問のようにさえ見えてしまったのだ。

 ……まず。パスカル達の不戦について。彼らは人間の寿命とは異なる時間尺度のもと、何百年も戦い何体もの仲間を失ってきた。それがもう嫌で逃げ出したのか、と藤丸は思った。だがパスカルはそうではなく、「仲間の死に慣れていく自分」こそが恐ろしいのだと語った。だから、もう戦わないのだ、と。

 ……続いて、エイリアン──彼らの創造主について。しかしパスカルでさえ、エイリアンのことはよく知らないと言う。前線に立っていた数百年の間エイリアン達からのメッセージはなく、パスカル達は独立して戦っていたそうだ。同時に、エイリアンからの「戦え」という指令がなくなったことも、自分達が平和主義に目覚めた要因の一つでもある、と語った。

 ……最後に、この村以外の知的機械生命体について。パスカルはその例として、藤丸達が遊園地で倒した歌姫──ボーヴォワールがそうであると言う。あれが歌姫、と気味悪がる9Sをよそに、パスカルは言葉を続ける。

「あー……あとは、森の国にもいるのですが……」

 森の国、と2Bが問う。

「ええ。この近くに広い森があるのですが、そこに機械生命体達が集まって”国”を作っているのです。とても排他的なグループで、我々では近づくこともできません……」

 つまりは鎖国状態にある、ということだ。しかし驚いた。共通の思想に則り機械生命体達が村を形成したこと自体も驚くべきことだが、もはや村単位さえ超えて国規模のコミュニティさえ作ってしまうとは。つい前までは単なる機械人形だと藤丸は思っていたが、その認識の変化は凄まじいものだった。

 2Bは、その場所を尋ねる。曰く、森の国は廃墟都市の北東、商業施設廃墟を抜けた先にあると言うが……。

「──ああっ!」

 と、突然パスカルが大声を上げた。端で話を聞いていた藤丸や9S、目の前で話をしていた2Bさえも突然の大声に震える。

「びっくりしたぁ、どうしたんだよ!」

「森の国で思い出しました! 森の国へ行くのであれば、是非会ってほしい方と、お願いしたいことがあるのです! シアン? シアン!」

 パスカルは名前らしきものを叫びなが小屋から出た。何だ何だと藤丸達も後を追ってみると、広場に降りたパスカルのもとに一体の機械生命体がいるのがみえた。青色のリボンをつけ、まるでパスカルに縋り付くように跪いている。

 藤丸達も広場に降り、二体のもとへ近づいてみると、パスカルのものではないあのリボンの機械生命体のものらしき泣き声が聞こえてきた。

「パスカル、その人は……?」

「紹介します、シアンと言います。 ……シアン、この方々が森の国方面へ向かうとのことなので、あの話を」

「は、はい……少し前から妹の──ルージュの行方が分からないのです……!」

「森の国の方へ向かったという門番の目撃証言がありますが、先ほども話したように我々ではとても近づけないのです。なので、皆さんにお願いできないかと……」

「お願いします! この通りです!」

 シアンと呼ばれた機械生命体は転ぶように跪き、藤丸達に土下座をして頼み込む。……機械生命体に、土下座を理解して実行する知能さえあるとは……。

「そ、そんな、頭を上げてください!」

 機械生命体嫌いのはずの9Sだが、慌ててシアンの肩に手を添え、立ち上がるよう促す。シアンは立ち上がりながらも、涙を拭うように目元を擦る。

「えっと……その子、ルージュちゃんの特徴は……?」

「私よりも二倍くらい大きい体で、大きな桃色のリボンをつけています……。どうか、どうかお願いします……!」

 弱々しいシアンの懇願を聞き、9Sは困ったように藤丸達を見回す。2Bは小さくため息をつき、任務には影響しない探すなら探せ、とでも言いたいような感じだ。9Sは藤丸とも目を合わせる。

「……主殿、どうしますか?」

 ……これまでの旅で藤丸が知ったのは、機械生命体にはヨルハ達アンドロイドでさえ想像を絶するような知性を持つということだ。アダムやイヴのような狂気もあれば、ボーヴォワールのような堕落したもの、この村の住人のような心優しいものまで三者三様。藤丸には、シアンの訴えが単なる言葉の羅列にも、藤丸達を騙す虚言にも聞こえなかった。真に迫ったその言葉には、確かに心がこもっていたのだ。

 ……ならば、やるべきことは一つしかあるまい。




果たしていつ連載を終えられることやら……
まだ起承転結で言う「起」のさらに「起」なので、先は長そうですね
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